勇者、世界を追う。
セタンは商人を営むルー家の次男として生まれた。父親をアルタム、母親をヒティネという。兄には二つ上のフェルダが居た。
王都の外れにある邸には、馬車が日々行き交い、人の往来は激しかった。土地の制限が厳しい中心街に構えられた店舗で、重役を相手にすることを父が嫌ったからだ。
邸と店舗の間にある微妙な距離感も、異世界設定よろしく、転移の宝玉なるもので結ばれており、移動は楽なようだ。
奔放なフェルダとは正反対に、家にいる時間の長い俺は、気の知れた来客に遊んでもらうことが多かった。両親はもちろん、彼らから与えられた情報は、俺の常識形成に大いに役立ってくれた。
エウィン王国。
この国は、大国とは言えないまでも、長い歴史と伝統を誇り、何よりもその軍事力の高さが評価されている。数に頼らない、圧倒的な質が、近隣諸国を寄せ付けない抑止力になっているそうだ。
ことさら、王家直轄の騎士団は名声高く、王国を取り巻く厄災をことごとく薙ぎ払っているらしい。
そのエウィン王国の王都が、俺が住むこの街だ。ここでは軍事はもちろん、政治や儀式等も盛んに行われている。事実、父が仲介する商品の一部には、教会向けの貴金属を含む祭具や、武器に防具、前世で言うレーションのような携帯食が取引されている。国と取引する専用の部署が設けられ、ルー商会の重要な収入源となっているそうだ。
王家について、あまり嫌な噂を耳にすることはない。むしろ、現国王のマクル帝が敷く治世は、国内治安、経済、法制などの、国家の基盤とも言える分野について、連綿と受け継がれてきた文化を軸としながらも、時には改正し、民に受け入れられる形が作り上げられている。賢王が敷く治世は、前世の社会よりも余程美しく見える。
しかしそれは、戦争をする相手が他国の人間ではなく、魔物や魔族であることが多いからなのかも知れない。
憎悪する対象が人間になりにくく、人々は強固な仲間意識を形成しているのだ。
この世界の人々は、死を身近に感じている。
前世の日本で、野生動物に殺されるかも知れないという危機観念を持っている人は多くない。むしろ死ぬのは、病気か、事故か、寿命か。いずれにしても、外出する時に、「今日死ぬかも知れない」と考える感性は、普通じゃない。
しかし、ここではそれこそが「普通」なのだ。
だから、自衛の術を学び、剣を覚え、魔法の才覚を開花させる。
五歳になると、その子供は教会へ行って、告命を受ける。神からの信託が下り、魔法やその他様々な才能の助言が与えられる。
俺にとってその日は、もう明日に迫っている。
そしておそらく、俺は明日、勇者になる。
初めの方は、どうしても説明が多くなってしまいます。できるだけ、細かく世界を見てほしいので。




