勇者、社交会に出る。(4)
社交会からの帰り道、馬車には何故か王家が顔を連ねていた。
「私、セタン様とフェルダ様と一緒に帰りたいですわ! 」
と、フィンがわがままを言ったらしく、もう半分乗り慣れたギリルさんの運転で、王宮へ向かっていた。
王族をあまり待たせてもいけないので、結局少女へはアレイや、宰相からお礼がなされるという。
それにしても、治癒魔法をああいう形で見ることになるとは思わなかった。何を隠そう、治癒魔法を見るのはあれが初めてだったのだ。
「ごめんなさいね、わざわざ遠回りをさせてしまって......」
「いえいえ、遠回りと言っても少しの距離ですから」
「それにしても、セタン様とお兄様、かっこよかったですわ! 誰よりも早くあの子に向かって行ったんですもの! 」
「そうねぇ。セタン君、それにクリス。偉かったわね! 」
「王になる人間として、当たり前のことをしただけです! きっとセタンも、同じ気持ちだろ? 」
クリスが照れるように答えた。
しかしクリスの問いかけに、俺はまだ答えを見つけられていない。
「は、はい。多分そうだと思います」
「セタン! 敬語やめろって! 仲良くなれないだろ! さっきの挨拶だって......」
いやいや、王妃様の目の前なんですけど。
「そうだぜ? セタン。クリスが可哀想だろ?
なークリス」
「おいっ! フェルダ! なんだその口の利き方は! 申し訳ありません、クリス様、それにフリウ様も」
アルタムが慌ててフェルダを叱る。アルタムの一喝に、フェルダは泣く直前だ。
「いいんですのよ、アルタムさん。前にこの子たち、『初めて同い年くらいの友達が出来たー! 』ってすっごく喜んでたの。それに、ここは馬車の中だから、誰にも聞かれてないわ。子どもたちの好きにさせてあげて」
「......フリウ様が、そう仰るのなら......」
フェルダが、涙を目尻に溜めながらも笑顔を取り戻す。切り替えが早い。
そしてクリスは、フリウに必死に抗議をしていた。
その後は、馬車の中に会話が溢れた。
俺たち子どもで、そしてヒティネとフリウで。特に女性陣は、街で流行りのファッションや、スイーツなんかの話で大盛り上がりしていた。ちょくちょく、ヒティネが俺の方に視線を送っているのを、俺は気付かないふりした。
アルタムはと言うと、主にフェルダの言動にひやひやしている。
「そういえば! セタンの剣術凄かったなー! 的を真っ二つって! あの後どんな訓練してるんだ? 」
クリスが勢いよくこちらを振り向いた。
そう。まだ俺は、的を斬ったことに関して、家族に言えていなかった。
「なにそれ! セタン、剣使ったの? 」
「う、うん。試し斬りで」
「あれ? 言ってなかったのか? いやー凄かったよな、鉄剣で丸太ぐらいの木の的を真っ二つって......」
「クリス。そろそろ着くから降りる準備をしておきなさい。そういえばフェルダくん。また、お城にお昼ご飯食べに来てあげてね」
「はーい! 美味しかったので、また行きます! 」
フリウが察してくれたのか、上手い具合に話を切った。それにしても、フェルダは上手く釣られてくれた。
そしてフリウの言う通り、馬車は間もなく止まって、彼女らが降りると、再び店舗へ向けて、馬車は走り出す。
しかし、ヒティネやアルタムは、試し斬りの話を話題に挙げなかった。俺はこれを優しさだと思った。有難かった。
色々な話題に包まれながら、馬車は進んでいく。
こうして、俺の社交会デビューは、少しトラブルもあったが無事、その幕を閉じた。
そして翌朝。
慣れない訓練の後、買い物に社交会と、全く休みのない一週間を終えて、また訓練へと戻る日がやってきた。いくら、回復しやすい子どもの体とはいえ、多少の疲れはまだ残っている。
重い腰を上げながら、朝食を食べ終えていざ店舗へ転移......人数が足りない。
今日はアルタムしか店舗へ行かないようだ。
「今日はお父様だけなのですか? お母様とお兄様は......」
「今日は、以前陛下と話していた、財務を司る貴族様との商談があるんだ。だから今日は、ヒティネもフェルダも家で留守番。商談の内容は、国との取引で補填、と言われたその内容を決めに、な」
言われてみれば、今日のアルタムはいつもより少し気合いが入った服装をしている気がする。赤いネクタイをしているし。
「納得です。頑張ってください」
「もちろんさ。これは、ルー商会の今後を左右する大切な商談だ。気合を入れて行ってくるよ」
店舗に着くと窓の外には、俺を迎えに来た馬車とは別に、こちらもまた立派な、アルタムを迎えに来たであろう馬車が停まっていた。
「帰りは遅くなるかもしれない。もしセタンが先に帰ったら、ヒティネに伝えてくれ」
「分かりました」
「じゃあ今日は、一緒に行こうか」
アルタムはそう言うと、手を差し伸べてきた。
この精神年齢で、親と手を繋いでの出発はなかなかに恥ずかしいが、悪い気がしないでもなかった。
外に出ると、アレイが馬車から出て待ってくれていた。
「おはようございます、セタン様、アルタム様。今日も大変仲がよろしい様子で」
「おはようアレイ」
「アレイさんおはようございます」
「今日アルタム様は、商談のご予定がございましたね」
「あぁ、だから今晩は書簡の精査を休みにしよう」
「承知しました。ご成功をお祈り申し上げております」
「ありがとう。セタンも、頑張りなさい」
「はい、お父様! 行ってらっしゃい! 」
俺とアレイは、アルタムを見送って、馬車に乗り込んだ。
「昨日はお疲れ様でした、セタン様」
「いえ、上手くできたかは分かりませんが、新鮮で楽しかったです」
「きっとまた、ああいった機会は訪れます。主催者側でも、参加者としても」
「あぁ......でも、ひっきりなしにっていうのも困りますね」
「そこはご安心を。招待者様にお渡ししたお土産に、参加への感謝と、頻繁には社交会に参加出来ないという旨を記したメッセージカードを同封しております。勇者という立場上、招待を断っても、ご不快には思われないでしょう」
「そんな所まで......助かります」
大した準備もしていない癖に、自分の社交会に必死で、そこまで気が回らなかった。
アレイ。すごい。有能。
アレイの有能っぷりに感動していると、いつの間にか王宮に着いていた。
いつもアレイに連れて行ってもらっているが、もうそろそろ、一人でも教室にたどり着ける......と思う。
いつものように、アレイと雑談しながら教室の扉を開けると、そこには見慣れない人影があった。
「お待ちしておりました、セタン様! 」
そう言ってこちらを振り返ったのは、昨日の、回復魔法を使った少女だった。
「私、スカレと言います! 今日からどうぞよろしくお願いします! 」
俺は突然の出来事と、予想外の再開に、ただただ驚くばかりだった。
「スカレ」という名前、実は初出じゃありません。
気になる方は、これまでのお話をチェック!!




