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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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勇者、社交会に出る。(2)

 朱色の閉じられた幕の向こう側から、人々のざわめきの声が聞こえる。

 舞台袖にいる、宰相家のメイドと目があった。間もなく目の前の幕が上がる。

 招待者名簿にあった名前の数は、おおよそ百。使用人を合わせるとそれ以上の視線を、これから一気に浴びることになる。

 胸ポケットにしまってある、アレイが書いてくれた挨拶文だけが、今の心の拠り所だ。


─チリン


 開幕の合図の鐘が鳴り、ゆっくりと幕が上がり始めた。頭上と左右の正面から照明で照らされている。光のせいで、体の前側だけが温かく、逆に背中は冷たく感じた。


「只今より、勇者セタン様による社交会を始めさせて頂きます。社交会の開催にあたり、セタン様より皆様へ、ご挨拶がございます」


 淀みのない進行。司会はアレイが務めてくれていた。

 その声に応えるように、参加者の視線が一斉にこちらへ向けられる。

 礼をして、胸元から挨拶文を取り出す。その手は少し震えていた。


「皆様、この度は私の初の社交会にお越し頂きありがとうございます。皆様ご存知の通り、先日、神から勇者としての使命を賜り、翌日にはマクル陛下から勇者の号、そして伯爵位を拝命いたしました。この国で生を受けたものとして、大変光栄に......」


 声が震えている気がする。手は少し震えている。皆に見えているのだろうか。

 持っている紙には文字が並べられている。緊張で今俺が何を言っているのかよく分からない。

 ただただ早く終わって欲しいと願った。


「......を結びといたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます」


 やっと終わった。紙を胸元に戻して、礼をする。下を向いていて見えなかったが、前から拍手が聞こえてきた。何とかこなすことはできたらしい。

 頭を上げると、視線は自然と家族の方へ向いた。ヒティネとアルタムの手元には、ハンカチが握られていて、それで目元を拭っている。

 そうか。あのハンカチ、持ってきてくれていたのか。

 フェルダは──肉を頬張っていた。


「只今より、セタン様が皆様のお席へ、ご挨拶に回られます。時間の関係上、少なくはなってしまいますが、しばしのご歓談をお楽しみください」


 アレイの進行の声で、俺は舞台袖に捌ける。

 会場全体に明かりがついた。

 この後の挨拶回りでは、貴族との挨拶にはアレイが、商人との挨拶にはアルタムが付いてくれることになっている。

 俺が一人で乗り切らなくてはいけない仕事はこれで終わった。


「お疲れ様です、セタン様。大変立派なご挨拶でした」

「ありがとうございます、アレイさん。アレイさんが書いてくれたカンペのおかげです。それよりも緊張してしまって、手の震えとか見えませんでしたか? 」

「私からは微かに。ですが皆様には気づかれていないでしょう。ご立派でした」


 そう言いながら、アレイは水を差し出してきた。本当に気遣い上手なイケメンだ。


「では、皆様へご挨拶に参りましょう。後、言い忘れておりましたが、もしセタン様のお気に入りの女性からアプローチされた時は、野暮はいたしませんので……」


 アレイが、少し悪戯っぽく囁いてきた。

 これは、俺の緊張を解す為のジョークなのだろうか......。

 俺は予想だにしないカミングアウトに、苦笑いで返すしかなかった。


 挨拶回り、初めのテーブルは、クリスとフィン、フラウが座る席だった。


「ご無沙汰しています。王妃様、王子様、王女様」

「おめでとう、セタン君。立派な挨拶だったわ。......あと、いつも二人と昼食を食べてくれてありがとう。二人とも、とっても喜んでいるのよ」


 後半は、小声で耳元で話された。一応公には、俺と、クリス、フィンが会ったのは叙爵の後の会食が最後ということになっている。

 王族が、新たに叙爵された新米貴族とそう頻繁に会っていては、要らぬ詮索をされかねない。それにしては、俺が敬語で話しかけてきた事に、苛立ちの表情を見せるクリスが横にいる。


「セタン様、かっこよかったですわ! 」


 目をキラキラさせるフィン。


「あぁ、立派だったとは思うよ! 」


 対照的に、イライラしながら話すクリス。


「仕方がないだろ? これは公式な場所なんだから、タメ口なんてきけないって」


 クリスを小声で諌める。


「では、次の方も居られますので一旦失礼致します」


 アレイが締めてくれて、俺たちは次のテーブルへ向かった。クリスはまだぶつぶつと文句を言っているようだった。


「ハンセン様、先程ぶりです。改めて、こんなに立派な会場を貸してくださって、本当にありがとうございます」


 次のテーブルには、さっきも会った宰相達が座っていた。しかし一人、初めて見る顔もいた。


「初めまして、勇者セタン様。私、アレルと申します。そこの愚弟の兄でして......。本来は、別邸へお越しいただく前には到着する予定だったのですが、思いのほか遅れてしまい」

「いえいえ! アレイさんのお兄さんですね。ハンセン様から、お話は伺っています」

「そうでしたか。それにしてもセタン様の教育係に、アレイが。ご迷惑をお掛けしていませんか? 」

「いえいえ! 本当に助かってばかりです」

「ごめん兄さん、そろそろ次へ」

「ああ、そうだな。セタン様、これからも一家共々よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 その後も、続々と挨拶回りは続いた。急ごしらえの知識だったこともあり、何人かには的はずれなことを言ってしまった気もするが、そんな時にも、アレイが上手く立ち回ってくれた。

 また、本当に求婚の方向へ話を持っていこうとする貴族もいて驚いたが、どの子もみな同世代で、幼すぎて考えるまでもなかった。それを察したアレイが退けてくれた。

 貴族への挨拶回りが終わり、商人へと移ると、予定通りアルタムが付いてくれた。

 来てくれていた商人の中には、アルタムの顔なじみもいて


「いやーセタンくんがまさか勇者になるな。昔から色々なことを聞いてくるから、てっきり学者にでもなるのかと思ったよ」


 などと、初めて聞く話もあったが、貴族の相手をするよりも、いくらか気軽だった。

 しかし、中にはもちろん初めて会う商人の人もいて、


「うちのスアレを、嫁になんていかがでしょう? 」


 などと、直接的に申し込んできた商人には、アルタム共々顔を引き攣らせた。


 色々とあったが、無事挨拶回りを終えて、つかの間の休息に、家族の座る席へ向かった。

 フェルダが、クレープを頬張っているのを見て、俺も食べたいと思った。

 セタンの挨拶シーンを書きながら、私は学校でやった発表会を思い出していました。

 ノスタルジーを感じる......。

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