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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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勇者、社交会に出る。(1)

 今日の朝は、社交会にやってくる貴族や商人の確認から始まった。

 よくぞ一週間で、ここまで準備が出来たものだと感心してしまう程の招待者の数だった。

 そして、招待者名簿の名前の中にはしっかりと、クリス、フィン、フリウ王女の名前が連ねられていた。

 場所を貸してくれた宰相家の顔に、泥を塗ることがないように、時間が無い中できる限り招待者の名前と、大まかな特徴を把握していく。


 その確認作業は、朝食、昼食の間も続き、社交会に向けた準備の最中にももつれ込んだ。

 俺が資料とにらめっこをしている間、メイドに着替えさせてもらっている横で、ヒティネはアルタムとフェルダに衣装のポイントを熱弁している。もちろん俺はそれに目もくれない。


 慌ただしく準備をしていると、自然と時間は早く過ぎていく。

 気が付けばもう、出発しなければならない時刻になってしまっていた。急いで商会へ移動すると、やはり馬車はもう来ていた。


 王に召喚され、初めて王宮へ出向いた日以来の顔ぶれで、馬車に乗り込む。もちろんそこにはアレイもいた。


「セタン様、良くお似合いでございます」


 アレイが俺を見るなり言ってきた。こういうことがサラッと言えるのだから、アレイはモテるのだろうなぁ。


 初めて王宮に立ち入った日と違うのは、王国からの馬車よりも揺れてしまうのと、皆とアレイの距離が近いことだろう。俺が、まだ名簿を眺めていても、横でアレイを含めた雑談が展開されている。

 あの日から、まだ一週間程しか経っていないのだが、随分と前のことのような気すらする。


 気が付くと、宰相邸はもう間近に迫っていたらしい。馬車の窓から外を伺うと、広い敷地の外側に石壁が張り巡らされていて、ここからでは全容を把握できないが、少なくとも敷地内に何棟か建物が確認できる。本物の豪邸が見えた。

 我が家も、人に誇れるくらいには立派な家だと思っていたが、国の中枢で、王に近しい程の力を振るう本物の貴族となると、その規模は桁違いらしい。これが、「贅を尽くす」ということなのか。


 当然のように駐在している門番。彼らが守護する立派な正門をくぐり抜けると、これも当然のように、敷地内には道が敷かれていて、周りには庭園と言って然るべき、整えられた自然が見られた。


「まずは、本館へご案内致しますね。両親がご挨拶したいようで」

「分かりました」


 王宮に通って、慣れていたように感じていたが、やはり初めて入る大貴族の邸に、少し緊張してしまっていた。


 馬車を下ろされて、メイドが並んで出迎えてくれる道の真ん中を、アレイに連れられて歩く。

 アルタムとヒティネは堂々としているが、フェルダは慣れていなくて、心なしかヒティネにひっつきながらついて行く。俺も出来れば誰かにひっつきたい。


 本邸の、やはり大きな扉が開かれると、吊るされた巨大なシャンデリアにまず目が行った。


「いらっしゃいませ、セタン様、並びにご家族様。ご無沙汰しております」


 聞き覚えのある声のする方へ目を向けると、モノクルの宰相、ハンセンと、初めて見る女性が立っていた。


「今日は、セタン様初の社交会を、我が家で行なっていただけるとのことで、大変光栄でございます。私も、妻のデトラも喜んでおります」

「ハンセンの妻、デトラでございます。神から勇者の地位を授けられたセタン様のお姿を拝見出来、大変光栄です。それに、息子のアレイまでお世話になっているみたいで......」


 宰相の横に立っていた女性は、ハンセンの妻、そしてアレイの母親のようだった。

 アレイの見た目は二十代中盤。そこまで大きな息子がいる女性にはとても見えない、若々しい女性だ。しかし、ただ若いという訳ではなく、醸し出す気品と、堂々とした立ち姿に、やはり大貴族の妻なのだとも思わせる。


「いえいえ、アレイさんには僕が、お世話になりっぱなしで」

「それに、我々家族共々、アレイ殿にはお世話になっていますから」


 俺の謙遜に、アルタムが被せる。いやほんと、アレイにはお世話になりっぱなしだ。


「ご紹介が遅れました、この度勇者に選ばれました、息子のセタンと、その父、アルタム。妻のヒティネに、セタンの兄の、フェルダです。この度は、貴重なお時間と場所をお貸しいただき、誠にありがとうございます」

「これはこれは、ご丁寧に。それにしてもセタン様、たった一週間で、少し雰囲気が変わられたように見える。教育と、訓練、真面目に励んでおられるようで安心しました」

「いえいえ、本当にまだまだです」


 というか、俺はまだ訓練で、走ることしかしていない。


「それにしても、ご立派なシャンデリアですね」


 入ってくるといやでも目に入る、存在感抜群のシャンデリアに触れる。前世でも見たことの無い迫力に、正直突っ込まざるを得なかった。


「これはセタン様、ご慧眼ですな。貴族たるもの、そうした目配りは必ず活きます。アレイの話を、よく聞いてくださっているようだ」


 アレイから教えてもらった覚えは無いが、ここは乗っておこう。


「これは、私が治める領地で名のあるガラス職人に、大金をはたいて作らせたものです。これと同じものが、領地の本邸にも備えてあります」

「領地の......本邸ですか......? 」

「ええ、こちらは、王都での仕事が多いために作った別邸でして、本邸はまた別に、領地に構えております」


 これと同じシャンデリアと、それを付けられる本邸がもう一つ......?

 お金持ちのスケール感が、俺の想像と違いすぎる。


「今日は、本邸に住んでいる息子、アレイの兄に当たる者も、参列させていただく予定です。後でご挨拶させますので、どうかお見知り置き下さい」


 アレイは、弟だったのか。


「では、社交会の本格的な準備と参りましょう。とは言いましても、装飾や料理などはこちらで済ませておりますので、セタン様。参列される皆様への挨拶や、社交会の中での立ち居振る舞いについて、アレイと再度ご確認ください。ご家族様は、是非セタン様のお付き添いを」

「はい。何から何までありがとうございます」

「いえいえ、お礼には及びません。本当にこれは、名誉なことですから。では私どもは一度失礼します。何かありましたらメイドか、アレイにお申し付けください」


 そう言うと宰相は、邸の奥へと歩いていった。


「もしよろしかったら、先に迎賓館をご覧になりますか? 立ち位置などについてもご確認させて頂きたいので......」


 そう言うアレイに連れられて、迎賓館に向かった。


 やってきた迎賓館の広さは、大きめの体育館くらいだった。しかし、外装も内装も、体育館とはかけ離れ、貴族が舞踏会でも開いていそうな会場だった。実際開いているのかもしれない。

 そこで、招待者名簿と照らし合わせながら、招待客がどのテーブルに座るかの確認をしたり、俺が挨拶をする時の場所や、その際の動きなどを決めたりした。

 その時にアレイから、挨拶が書かれた紙を貰った。


「そこそこ長めに書かせて頂きましたが、その分この紙を見ながらお話いただいて構いません」


 と、言って貰えたのが救いか。

 一度本邸に戻って羽を休めていると、メイドたちが少し慌ただしくなり始めた。思っていたよりも時間が経っていたようで、もう間もなく、社交会が始まろうとしているらしかった。

 豪邸に行ってみたいなーと思いました。

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