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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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勇者、剣の重さを知る。

 アレイと共に、訓練場に近づくにつれて、剣のぶつかり合う甲高い音や、砂を蹴る足音、男たちの勇ましげな叫び声などが聞こえてくる。

 コロシアムのような形をした訓練場を目の前にして、前世でも感じたことの無い、物々しく、緊張感に満ちた雰囲気が、肌に突き刺さる。


 ゴツゴツと、無機質な石壁に囲まれた通路を伝って中に入る。出口で、一気に開けて、暗かった視界がパッと明るくなった。

 目の前には、騎士団の男たちが、自分の武に磨きをかけようと欲する姿がそこにあった。

 皆が皆、ものすごい剣幕で、それぞれが剣を交えている。よもや火花さえ飛び散りかねない力強さだ。


「一旦やめぇ! 」


 声がした方向を見ると、そこには騎士団長がいた。彼もまた、剣を剥き身で持っている。きっとつい先程まで、剣を振るっていたのだろう。しかし、誰よりも早くそれに気づき、騎士団全員に聞こえる指示を出していた。

 騎士団長から目を離すと、既に戦闘の音は鳴り止んで、こちらへ体を向け、両手を後ろに組んでいる騎士たちがいた。

 その騎士たちの間を縫って、団長がこちらへと近づいてくる。


 この一連の動きで、この国の騎士団が他国から恐れられる理由が分かった気がした。

 平時から、この気迫で訓練を行い、完璧に統制されている集団が、組織戦闘において遅れをとるとは考えづらい。


 団長が俺の横に立つ。昨日は、テーブル越しに座っていて分かりづらかった、圧迫感。横にいるだけでたじろいでしまいそうだ。


「今朝伝えた通り、本日から勇者のセタン殿が訓練に参加される。皆も聞いた、神の声で認められた、本物の勇者様だ」


 騎士がざわめく。希望を持った眼差しがこちらに向けられた。

 しかし、これまでと違ったのは、その中に疑念が紛れていたこと。

 実際に戦いを積み重ねてきた猛者たちは、目の前にいる幼児が世界を救ってくれるという楽観をそう易々と受け入れないのだろう。


「ただ、いくら勇者とはいえまだ五歳になったばかり。剣もまともに握ったことがないと聞いている」


 さらに、疑いの視線が色濃くなった。


「この成り立ての勇者を、本物の勇者たらしめるのは我々である! 日々戦いの腕を磨き、血反吐を吐きながらもこれまで鍛錬を続けてきたこのエウィン王国、騎士団である! 」


 団長の一言で、騎士たちの目の色が変わった。


「きっとこの子どもがこの地を旅立つ頃には、ここにいる皆を切り伏せる実力を手にしていることだろう。もちろん私も含めてだ。しかし、それに甘んじてはいけない! 我々が強くあればあるだけ、この勇者は自分の実力に疑いを持たない。ここにいる我々で、勇者を、本物の勇者にして見せるのだ! 」


 団長の咆哮に、騎士たちが応える。男たちの野太い雄叫びが、訓練場の中いっぱいに響き渡った。この光景を目にして、団長の言葉を聞いて、闘志を駆り立てられない人などいるのだろうか。

 しかし、忘れてはいけない。この団長は、言葉の中でしれっと俺へのハードルを上げていた。

 訓練場の観覧席には、耳を抑えるフィンと、目を輝かせていそうなクリスの姿が見える。

 今、自分の中に湧き上がる武者震いの中に、別の震えが混じっているのを感じた。


「自分の使命を理解したものから訓練へ戻れ! 」


 団長の号令がかかり、即座に騎士たちは訓練に戻った。心なしか、先程よりもさらに強い気迫を感じる。


「来てそうそうすまなかった。セタン殿を訓練の士気向上の発破にさせてもらった」


 団長の、訓練場での立ち居振る舞いを見て、昨日からの印象ががらりと変わった。

 宰相や、アレイは、彼のことを寡黙と言う。

 しかし、俺は団長を、ただ強いと思った。

 そして、団長自身もそうあろうとしているのだろうとも思った。

 彼は強く、しかもそれは並大抵なものではない。またその強さは、弛まぬ努力によって積み上げられた証なのだろう。


「い、いえ。僕もやる気が出ました。これからどうぞよろしくお願いします」


 差し出した手を握る団長の手は鉄のように硬く、手のひらにはマメがあるのが分かった。

 俺もこの先十年、剣を振るっていればこの手に近づけるのだろうかと考えずにはいられなかった。


「こうして話していても、強くはならない。さっさと訓練にはいろう」


 そういうと、ついてこいとでも言いたげに俺に目配せをして、スタスタと歩いていく。

 大股で歩く団長の速度に合わせるだけで手一杯だ。


 団長について行くと、着いたのは武器庫だった。

 鉄剣や木刀、弓や槍など、多種多様な武器が所狭しと並べられている。


「まずはセタン殿の太刀筋を見てみたい」


 そう言って見せられたのは、鉄で出来た大人用の片手剣だった。

 全長は、俺の身長ほどで1m近くある。


「奥に的がある」


 通された部屋には、木の柱のような物が等間隔で立てられていた。

 そこには、数々の傷が刻み込まれていて、日常から訓練が行われていることが分かる。


「ではこれを」


 渡された鉄剣を構えてみる。持てない重さではないが、自分の身長ほどの剣は重心を上手く取れず、死ぬほど持ちづらい。


「人差し指を鍔に掛けなさい。剣先は左下に落とす」


 団長に言われた通りにする。

 すると、不思議と剣が安定した。なんだか剣や、体すらも軽くなった気がする。


「いけ! 」


 俺は団長の合図で、的に斬りかかった。

 木の柱の元ネタはペルです。

 参考にできる画像はなかったので、ディテールを書き込めなかったのが悔しい。

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