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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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勇者、変わった日常の初日。(2)

 王宮に向かっている途中、アレイから今日の予定について聞かされた。


「本日から、王宮にてお過ごしいただく間、午前中を教育の時間、午後を訓練の時間と分けて行うというのはいかがでしょうか。どちらもコツコツとした地道な努力が必要になってくると思います。出来れば毎日、こなされるのが良いでしょう」

「分かりました。ですがすみません、今日は何時までの予定になるか分からなかったので、昼食を持ってきていなくて......」

「お屋敷にて摂られるご予定でしたか? 」

「いえ、午前で終わるようならそうしようと考えていました。午後まで続くのなら、またその時に考えようかと......」

「でしたら、良ければ王宮でお摂りください」

「え? 王宮でですか? 」

「ええ。残念ながら、昨日程の食事はご用意できかねますが、ある程度のものならご提供が可能です。時間の削減や、午後に訓練なさるという点からも、王宮にて、お食事を摂られることをお勧めいたします。もちろんお代等の心配はご無用です。我が国は、セタン様に協賛しているのですから」

「ありがとうございます。助かります」

「王城へ着きましたら、御者をそのまま商会の方へと向かわせて、セタン様のお食事の件を伝えさせましょう」

「すみません、何から何まで」

「いいえ。ですので、存分にお力を蓄えください」

「はい。頑張ります」


 家族は家で、俺を勇者としてではなく、セタンとして見てくれている。一昨日も昨日も今日も、それは変わらなかった。

 また、一昨日や昨日は、紛れもなく特別な日で、色々なことが起きて、色々なことが変わっていくと決まった。

 そして今日、変わってしまった日常が始まる日。家族と離れて過ごす、勇者になって初めての日。

 アレイが俺を見る目は、紛れもなく勇者を見る目だ。この目は、アルタムの言っていたように、家族と過ごす時間以外ずっと向けられるものなのだろう。

 いつかは慣れるものなのだろうか。

 今はまだ、そしてこれからもしばらくは、勇者の肩書きが重たくて仕方がない。

 セタンとして、ルー商会の次男坊としてしか見てもらえない期間を、もっと楽しんでおけばよかったと、今更になって後悔した。


「何かお気に触るようなことを言ってしまいましたか? 」


 アレイが心配そうにこちらの顔を覗き込む。


「い、いえ、午後の訓練が初めてなので、緊張して......」


 後悔が顔に出ていたのか。必死に誤魔化す。


「大丈夫だと思いますよ。騎士団長様は、性格こそ寡黙でいらっしゃいますが、子どもに無茶な訓練をつけるような方ではありません。セタン様のご様子に適した訓練をされるおつもりだと思います」

「そ、そうですか。それは安心です」


 何とか咄嗟に出た言葉で切り抜けられた。

 そうこうしているうちに、馬車は王城の砦を通り抜けて、昨日ぶりに王宮へと入っていた。


 馬車を下りて、アレイの案内にしたがってついて行くと、たどり着いたのは、昨日宰相、騎士団長と話した部屋だった。


「今日から、こちらのお部屋で勉学に励んでいただきます」

「昨日も来た場所ですね」

「知らない場所で過ごしていただくよりは、ご負担にならないと思いまして」


 こういう気遣いがありがたい。


「ありがとうございます。助かります」


 部屋の中には、教科書なのだろうか、机の上に本が何冊か積んである。また、昨日まではなかった黒板のようなものも備え付けられていて、面接会場の雰囲気は一変、こじんまりとした教室に仕上がっていた。


「机の上にご用意させていただいたのは、簡単な歴史書や、社会情勢にまつわる資料、算術の問題が書かれた書物などです。今後の授業で使用します。重量がありますので、置いていって頂いても構いませんが、もちろん、家にお持ち帰りいただいても構いません」


 そう言うとアレイは、取り出した紙と筆記具を俺の前に置いた。


「まずは手始めに、算術からお教えしたいと思います。計算の訓練をされたことはありますか? 」


 前世でならもちろんやった。文系だったから、大学数学までとは行かないが、小学校から高校までの知識ならまだ何となく覚えている。

 しかしセタンになってからは、計算に触れていない。ただ、商人の家の子ということで、何とか誤魔化せるか......。


「お父様と、商会の人たちに教えて貰って、少し学びました」

「そうですか。さすがルー商会のご子息ですね。手始めに、『算術の書』の初め、加法から進めていきましょう」


 手元にある、『算術の書』と題がうたれた分厚い本を開く。

 一ページ目には、前書きとして算術がいかに生活で役立つかが綴られていた。

 一つページをめくると、一桁足す一桁の、簡単な問題がずらりと並んでいた。


「そちらに書かれている問題、意味はお分かりになりますか? 」

「はい。これくらいなら大丈夫そうです」


 そう答えて、問題に取り組み始めた。

 回答を書く場所に困っていると、アレイが本に直接書き込んでもいいと言ってくれたので、サクサクと解き進める。


「大変素早く問題を解いていかれますね。さすがでございます」


 小学一年生レベルの問題を解いていて褒められるというのは、どうにもむず痒いものがあった。アレイには苦笑いで返す。


 結局、今日想定していた算術の範囲を解き終えて、その後も社会情勢の初歩の部分についても教わった。この国の名前や、ざっくりとした貴族制度などだ。

 知っていたことも多かったが、改めて順序立てて説明してもらえると、さらに理解が深まった。


 あっという間に時間はすぎて、アレイから「もう今日はこの辺りにしましょう」と提案があった。


「お食事ですが、今日は良い天気ですので、中庭の方でお摂りになるのはいかがですか? 」

「はい! ぜひ」


 中庭でランチとは、どこのお貴族様だろうか......と思ったところで、昨日自分自身が貴族になっていたのだと思い出した。


 アレイに連れられて向かった中庭に、数名のメイドと、さらに人影が見えた。

 その人影に、俺は見覚えがあった。

 人影の正体は一体誰なのでしょう...?

 「人影」と打とうとして、ヒトカゲという、とあるほのおタイプが変換されて真顔になりました。

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