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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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16/32

勇者、変わった日常の初日。

 今日の天気は、いつにも増して晴れやかだった。空気が澄んだように感じられて、肺いっぱいに深呼吸をする。

 こういう日こそ、何かを始めるにはうってつけだと思った。

 伸びをすると、昨日の夜に残っていた疲れが、すっきり取れていて、こういう所で子どもの体の回復力に驚かされる。


 ヒティネとフェルダ、俺がぞろぞろと寝室から出て、顔を洗って朝食の席に向かった。

 すると、もう起きていたアルタムが難しそうな顔で書簡とにらめっこをしていた。


「おはよう。よく眠れたか? 」

「はい。見ての通りすっかり元気です」

「それは何よりだ」

「あなたは今日も早いのね」

「あぁ。これはもう癖だな。仕事の日はどうしても早くに目が覚める」


 アルタムはそう言っては居るが、あまり遅くまで寝ているところを見たことがない。

 あっても、夜遅くまで取引先や、友人などと夜遅くまで酒を飲みかわしていた次の日くらいだ。


「あなたの持っているその書簡は? 」

「昨日のうちに届いていた。ざっと見積もって、今ここにある数の十倍はまだ執務室に押し込んである。それにまだ確認はしていないが、商会の方にも届いているだろうな」


 アルタムの周りには、十程の書簡が仕分けされて置かれているのが見える。


「何が書いてあるの? 」

「俺宛もありますか!? 」

「いいや、ほとんどが俺とセタン宛だ。中身のほとんどが、仲良くしましょう、みたいな友誼を申し立てる内容みたいだが、中には、昨日宰相様が言っておられた、協賛を希望する旨が書かれた物もあるみたいだ」

「あらまぁ、随分と皆さん耳が早いのね」

「ああ。つくづく商人と貴族らしい。今日はこれと、商会にある分、あとはきっと今日も来るだろう新しい書簡の仕分けで手一杯だろうな」

「私も手伝いましょうか? 」

「いいや、この手の仕事は、お前がやるといちいち感動して、全部の金を受け取ってしまいかねん。優しいのはお前の長所だが、こういうのは向かん」

「あらやだ優しいだなんて......」


 うちの両親は、朝から相当仲がよろしい。


「あぁでも、一応これらはセタンにも宛てられたものだ。どうする? 読みたいか? 」

「いや、出来ればお父様にお任せしたいです。僕が読んでもあんまり分からないと思うので」


 これは心からの本音だ。内容は理解できても、差出人のことが分からなければ、裏に隠された思惑までは看破出来ない。

 前世では、ウェブの検索欄に相手方の情報を打ち込むだけで、大まかな素性が調査出来たが、この世界ではそうもいかない。

 長年の仕事で培われた、アルタムの人脈を前にしては、手助けをするのも難しいだろう。


「じゃあ俺が父様を手伝うよ! 」


 フェルダがはっと思い出したかのように提案してきた。


「いや、フェルダにはまだ早いんじゃないか? 」


 アルタムが、不意をつかれたように答える。


「だって、今日からセタンは勇者になるために王宮で頑張るんでしょ? だったら俺も、商人になるために頑張りたいです! 」


 フェルダにとって、昨日、王宮で見た光景が起爆剤となったのだろうか。御者との話か。兄としての競争心か。

 とにかくやる気に満ちている面持ちだった。


「僕もそれ、いいと思います。お兄様は字も読めますし、何よりお兄様も別の場所で頑張っているんだと思うと、僕も頑張れます」

「おっ! セタンがいいこと言った! 」


 それに、今後商人として生きていくつもりのフェルダにとって、書面で腹の探り合いをする経験は、きっとどこかで活きるだろう。


「それじゃあ私も一緒にやるわね? フェルダのお手伝いさんで! 」


 ヒティネがウキウキで乗っかってきた。

 浮かべている表情には、息子たちが高めあおうとしているのが微笑ましく、何より嬉しいと書いてある。


「そうだな。フェルダもやる気があるなら、そろそろ人の真意を見抜こうとする訓練をし始めてもいいのかもしれない。でもまずは、スラスラと書いてある内容を読み解かないとな。母さんに色々と聞きながら、手を貸してくれ」

「任せて! 」


 フェルダが嬉しそうに応え、横でヒティネもニコニコしている。

 朝食を食べ終えると、結局家族揃って店舗へと移動することになった。


 店舗に着くと、店の前には今日も王宮からの馬車が止まっていた

 商会の従業員が、戸惑いながら聞いてきた。


「おはようございます、旦那様、それに奥様とお子様まで。外に王宮の馬車が停まっていたり、商会宛に大量の書簡が届いていたりと......。これは一体どう言うことですか? 」

「あぁ、二日間も店を空けてしまいすまなかった。詳しくは、セタンを馬車に送り届けた後で説明する」

「か、かしこまりました」


 困惑している従業員を尻目に、アルタムは俺の手を引いて、店舗の外へ歩き出した。当然だとでも言いたげに、フェルダとヒティネも着いてくる。


 店舗の扉を開けると、もう既にアレイが出迎えの準備を済ませていた。


「おはようございます、皆様。今日も皆様お揃いで、仲がよろしいのですね」

「えぇ、我が家の自慢です」

「羨ましい限りです。それと、私に敬語は不要でございます。気軽にお声がけ下さい」

「いやそんな! 宰相様のご子息でしょう? 」

「私は、宰相の息子ではありますが、皆様の前ではセタンの使いですので。お気遣いは無用です」

「分かったアレイ!これからもよろしくな! 」

「ちょっとフェルダ、もう! 」

「えぇフェルダ様、これからよろしくお願い致します」


 アレイの突然の申し出に、フェルダ以外は皆面を食らってしまっていた。


「分かった、アレイ殿。遠慮は控えよう。セタンのこと、よろしく頼んだ」

「はい。微力を尽くします」

「それと、今日セタンが帰ってきたあと、少し時間をとってくれないか? 」

「と、申しますと? 」

「家や商会に、大量の書簡が届いている。商人からのものは、こちらでもある程度処理できそうだが、貴族からのものも相当量あるみたいでな。助言を願いたい」

「そういう事でしたら、セタン様をお送りした後、商会の方へお邪魔させていただいてもよろしいですか? いくらかお力になれると思います」

「おぉ、助かるよ」


 アルタムは上手い具合にアレイへ、約束を取り付けていた。


「では皆様、セタン様をお預かり致します」

「あぁ。セタン。頑張ってくるんだぞ」

「俺も頑張るから、セダンも頑張れよ! 」

「帰ったら、沢山お話を聞かせてね」

「はい! 行ってきます」


 アレイに促されて馬車に乗り込んだ。皆の見送りが力になっているのを感じる。


「昨日の帰りとは、随分と雰囲気が変わられましたね。実に前向きにお見受けします」


 走り始めてから少しして、アレイが尋ねてきた。


「えぇ、昨日帰った後に、みんなに励まされて......」

「そうですか。実は昨日、皆様をお送りした帰りは心配しておりました。今日は来て下さるのかと」

「家族のおかげです」

「本当に良いご家族をお持ちなのですね。それと、セタン様も私に敬語は不要でございます」

「それなんですけど、今から色々と教えてもらう人にタメ口で話すというのは......なんだか慣れなくて」

「左様ですか。慣れない、と。かしこまりました。ではセタン様が旅立たれる頃に、親しくお話できるよう務めて参ります」


 前世でも、今の世界に来てからも、教えを乞う相手に無礼を働くというのは、どこか違和感があった。それを尊重してくれるアレイの距離感は、心地が良かった。


 これから始まる教育に、訓練。一抹の不安と緊張を抱きながらも、前向きな気持ちで、昨日ぶりの王宮を見据えていた。

 今日はフェルダ活躍回でしたねー。

 一人っ子なので兄弟に憧れる今日この頃です。

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