勇者、家族と居る。(2)
重い空気に包まれた馬車は、家に辿り着くまで、行きよりも長い時間がかかったように感じた。
馬車を降りると、出る前には東の方に見えていた太陽も、西に傾きかけていた。その方に目を向けると、嫌でも、遥か西で未だに続く戦いのことが頭に浮かんだ。
「ねぇねぇ、お母様! 俺御者の人と話してくる! 」
フェルダが元気そうにヒティネへ伝えたかと思ったら、すぐに御者の方へと走っていった。
ヒティネもそれについて行く。
「では、私たちは家に戻ろうか。アレイ殿、今日は世話になった」
「いえいえ、お力になれたようで光栄です。明日も、今日と同じような時間に、セタン様をお迎えに上がりましょうか? 」
「いや、明日からはうちの商会の店舗の方に来てもらおう。その方が移動が楽になるだろう。セタンもそれでいいか? 」
「はい。大丈夫です」
家にある、店舗へ移動できる魔道具を使い、移動時間を短縮しようという考えだろう。
「アレイ殿は、ルー商会の店舗の場所はお分かりかな? 」
「もちろんです。御者も知っていることでしょう。では、明日は今日よりも少し遅く、お迎えにあがります」
「分かった。そのつもりでいよう」
「では、また明日、お会いいたしましょう」
そう言うと、フェルダとヒティネ、御者の会話の輪の中へと入っていった。
俺とアルタムは家に戻る。たった半日空けただけなのに、久しく感じてしまうのは、今日の経験が初めてのことばかりで、その分濃密だったからだろう。
扉を開けると、家のメイドが出迎えて、アルタムが持っている、貴族の証が入ったケースを受け取った。
「おかえりなさいませ、旦那様、セタン様。奥様と、フェルダ様はどちらに? 」
「外で、王国の方々と話している。どうやら、フェルダの持つ物理魔法と同じ魔法を操る方がいたようで、色々とアドバイスを貰っているのだろう」
「左様でございますか。皆様がいらっしゃらない間に、主に旦那様とセタン様宛に、大量の書簡が届いております。ひとまず、旦那様の執務室へと運んでおります」
「そうか。分かった。夕食の後、今日この家で働く者全てを集めなさい。セタンについて、伝えておかなくてはならないことがある」
これは、俺が伯爵になったことや、王宮に通うことについての発表だろう。
本当にこれまでの生活から一変してしまう。
「かしこまりました。伝えておきます」
「今日は本当に疲れた。まさかこんなにも王国のお偉いさん方と話す日が訪れるとは思わなんだ。夕食まで少し休ませてもらおう。セタンも疲れたろう。少し休みなさい」
ずっと、俺や家族のために気を張ってくれていたのだろう。ようやく落ち着ける場所に戻ってきたからか、アルタムが少しやつれて見えた。
「ごめんなさい。僕が勇者になったばっかりに」
「何を言う、セタン」
アルタムが腰を屈めて、俺に向き合う。顔を見ると真剣そのものだった。
「俺は、自分の息子が勇者に選ばれたことを、この上なく誇りに思っている。自慢の息子だ。勇者の親を名乗れるのは、世界にたった二人、俺とヒティネだけだ。そして、勇者と兄弟なのは、フェルダだけなんだ。前世でどれだけの徳を積めば、こんな人生を授かれるのか。俺たち家族は、セタンが勇者に選ばれて、本当に幸せなんだ」
「お父様......」
「それに、家族に迷惑をかけるなんて言うことは、それは当たり前の話だ。俺がここに、たくさんの人を呼ぶように、ヒティネが洋服を買いすぎるように、フェルダがいたずらややんちゃをするように、みんな家族に迷惑をかけて、みんなが許しあっていくのが家族なんだ。セタンが、勇者になったことで被る迷惑も、俺たちは必ず許していく。だから、セタンは俺たちを信じて甘えなさい。昨日も言ったが、俺たちにとって、セタンはセタンだ。勇者としての責任が怖いだとか、魔王達と戦うのが怖いだとか、何でも話しなさい。勇者の役目は、残念ながら、誰も代わってやれない。だけど俺たちは、誰よりも分かってやれる。家族だからな......。と、この話は昨日にもしてしまったかな」
俺は、アルタムの話を聞いている間に、またしても泣いてしまっていた。
まだ話していない、魔王、魔族への恐怖を分かってくれて、迷惑をかけてもいいと言ってくれて、支えようとしてくれていることが分かって泣いてしまった。頼もしかった。
前世まで含めれば三十を超えたおっさんが、連日泣いてしまって恥ずかしいと思ってしまう反面、それでもいいかと、諦めた。
「ただいまー......ってなんであなたもセタンも、それにメイド達まで泣いてるの? 」
俺の知らぬ間に、涙が伝染してしまったらしい。
「いや、そのなんだ。親子愛というか、家族愛を確かめあっていたんだ」
「何よそれー......私とフェルダも混ぜてもらわないと困るわ! 」
「そうだよ父様! 俺も立派なセタンのお兄さんなんだから! 」
ヒティネによって、俺とアルタム、フェルダが抱き寄せられた。
「アルタムと、フェルダ、私も居るからね。怖がらなくて大丈夫よ。あなたが世界を守ってくれるなら、私たちがあなたを守るわ......」
「そうだぞ! 俺たちでセタンを守ってやる! 」
暖かく、少し湿り気を帯びた俺たち家族の塊は、ひとしきり抱き合った後、夕食に呼びに来たメイドの声で解けて、一つのテーブルを囲んだ。
夕食の後、使用人たちが一斉に集められ、アルタムから、俺が爵位を与えられたこと、明日から王宮に通うことなど、今日の出来事が伝えられた。皆それぞれが驚き、そして決意に満ちた顔つきで、熱心にアルタムの話を聞いていた。
結局言っていた休憩を取れなかったアルタムだったが、帰宅した時のやつれた様子はどこかへ行ってしまったように見えた。
その夜、久しぶりに家族みんなで寝ようということになって、寝室の大きめのベッドで、少し窮屈になりながら、家族みんなで並んで寝た。
ヒティネが、寝る前に、俺が勇者に選ばれて誇らしかったと教えてくれて、フェルダもそれに同調した。やっぱりみんな同じ気持ちだったと分かってみんなで笑った。
疲れていたのと、緊張が少し溶けたこともあって、フェルダが寝息を立て始めてから、全員が深く寝入るまで、そう時間はかからなかった。
翌朝、メイドが起こしに来るまで四人で寝こけていた。
ちょっとアルタム贔屓が過ぎるかなーとも思いつつ、個人的に好きなキャラなんで許してやってください!




