表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/32

勇者、役割を知る。(3)

 宰相によって語られたのは、前世の世界を知る俺にとってほとんど物語の世界で、実際に自分が暮らすすぐ隣で起きていることとは、どうしても思えなかった。


───────────


 王国より、はるか西のとある小国で起きた出来事だった。ここは、魔王が巣食う根城から馬車で三日程の距離がある。

 神による勇者の誕生を告げる声を聞けていたら、彼らが最も魔王と近い距離で、その声を聞いていたはずだった。


 一、二年ほど前、隣の国が魔王とその配下によって滅ぼされ、文字通りの魔の手が、差し迫っていた。人々の活動範囲は次第に狭まっていき、小国の端の集落などは、濃密な魔物の波に飲み込まれ始めている。

 小国は、選択を迫られた。辺境に住む国民を、避難民として都に迎え入れるか否か。


 小国は迎え入れる選択をした。


 人々で溢れかえった都では、さらに強固な砦を築き、魔王による侵攻を食い止めようと必死だった。

 他国への救援を依頼し、各地の貴族たちに惜しまず金を払って、失われた土地で賄うはずだった食料を捻出した。また、腕の立つ冒険者を雇って数々の魔物を撃破し、何とか国を存続させ、ゆくゆくは土地を取り返そうと希望を持った。国民は団結し、戦った。

 しかし、その希望は、一人の魔族によって断たれた。


 その魔族曰く、よくやった、人間ども。褒めて遣わす。

 魔族曰く、手間が省けた。


 魔族曰く、一箇所に集まっていると、絶やすのが楽で良い。



 その魔族が小国にやって来て、三日後。隣の国へ、ボロボロの姿の青年がただ一人、早馬を駈けてきた。

 青年は、隣の国の者に自分の国、小国の結末を語った。


 蹂躙された、と。

 たった一日で小国は消滅した。魔族が引き連れてきた大量の魔物が都に流れ込み、魔族の放った大規模魔法によって、城もろとも都は壊滅。次第に人々の声は細くなり、人の呻き声さえも聞こえなくなった。聞こえるのは、魔物が放つ音だけだった。


 逃げ延びた青年は、後日、隣国の兵士によって、離れた森で処刑された。隣国は、彼の存在を怖がった。


 一、二年ほど前にも、小国にたった一人、逃げ延びた人がいたそうだ。

 その者が、小国に滅亡をもたらしたカナリアだったのだ。



──────────


 この話を聞いたあと、気が滅入ってしまった俺たちの様子を見て、宰相はこの場を切り上げる方向へと舵を切った。


「これが、今の、魔王の根城との最前線となってしまった国から伝えられてきた話です。どうか、街の国民にはご内密に」

「ええ、もちろん」

「もっと、地理的な部分も混じえたさらに詳しい話も用意していましたが、今日はお疲れでしょう。また後日、お話することに致します」

「はい。そうしていただけると助かります」

「話は大きく変わりますが、最後に、セタン様への教育を担当する者の一人をご紹介させていただきます。アレイ」

「は」


 宰相が名前を呼ぶと、昨日から何かと教えてくれていた使いの人が返事をした。


「これはアレイ。私の愚息でございます」

「息子さんですか? 」


 ヒティネが驚きの声をあげた。

 しかし、親子で横に並んでいると、似ているような気もしなくはない。


「はい。宰相ハンセンの息子、アレイと申します。以前は父の下で、宰相の手伝いをしておりましたが、勅命を仰せつかり、この度セタン様の教育係と、専属の使いとして任につきました。微力ながら、セタン様に尽くして参ります」

「これには、幼少期より王宮での振る舞いをしつけています。また、宰相の手伝いをする中で、様々な情報にも触れております。セタン様、それにご家族様も、気軽にお聞きください」

「よろしくお願いします」


 宰相の息子が使いとしてあてがわれるとは。勇者という存在の重要性を、嫌でも分からされる。


「では、今日のところはこの辺りで。またお会い致しましょう」

「はい、ありがとうございました」

「あぁ、そうそう。セタン様はいつ頃から、王宮に来られますか? 」

「どうする? セタン」

「明日からで。できるだけ早く、力をつけたいのです」

「そうですか。よい心がけです。では明日、また馬車でお迎えにあがらせます」

「助かります」

「今日は大変、お疲れ様でした」


 宰相に見送られて、俺たちは部屋を後にした。

 家族の雰囲気は、宰相の話を聞いてからずっと重い。救いがあるとするならば、フェルダが先程の話を、十分に理解していないということだろうか。今も、アレイが抱えるケースをそわそわしながら見ている。


 帰りの馬車では、アレイとフェルダがよく話すだけで、行きの快活さは失われていた。

 俺は、宰相の話を思い出していた。


 宰相の話を聞いて、俺は昨日抱いたものとは別の恐怖を感じていた。昨日は、世界を背負うという、得体の知れないものからの恐怖だった。

 しかし今、俺の頭を支配しているのは、もっとリアルな、生々しい恐怖だ。街を、たった一撃の魔法で壊滅させる化け物と、俺は戦わなければならないらしい。そして、そいつらを倒すための旅へ、十年もしないうちに出なければならない。

 初めに聞いた時、十年は長いと感じた。十年あれば、人は変われると思ったからだ。

 しかし今は違う。十年の歳月で、そんな化け物をどうこう出来る気がしない。

 いや、十年どころか、魔王の侵攻の程度によっては、もっと早くに戦うのかもしれない。


 前世を含めた全ての記憶で、一番の恐怖が植え付けられた。

 今回は、少し暗い話になりましたね......

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ