私の10年を返していただきます ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
壇上へ着くと、今まで行ってきた数々の事が読み上げられた。何となく気恥しい気分になりながらも、凛と背筋を伸ばす。
そして、グロリオサの花を模した王冠は学園長によって頭上へと乗せられ、正式に、リリーフィアの名は《グロリオサ》を授与された者として刻まれた。
初めて生徒会のメンバーとして壇上へ上がったあと頃より、胸を張れていると、リリーフィアは綺麗なカーテシーで頭を下げる。
頭を上げると、こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
誇らしげに響いてくる大きな足音。
背筋を凍らすその音とは裏腹に、香ってくる甘い香り。
「おめでとう。リリーフィア」
カインはご満悦そうに笑顔を浮かべながら、花束を抱え、こちらへ歩いてきた。リリーフィアの栄光を我が物顔で、リリーフィアへ向けられている敬慕の視線が自分に向いているかのような顔付きにふつふつと胸の奥で何かが音を立てる。
(そうよね……私はずっと、腹が立っていたんだ)
許せないという感情が薪になって奮い立たせる。
期待いっぱいに花束を差し出しているカインを無視し、リリーフィアは学園長にマイクを借りた。お礼の言葉を述べるのかと、学園長も快くマイクを手渡すと、リリーフィアは卒業生、在校生および保護者に顔を向け、大きく息を吸う。
そして清々しい笑顔で
「皆様がご存知でないようなので、この場を借りて宣言致します。私、ドルファン伯爵家が娘、リリーフィア・ドルファンとここにいるカイン・アーマルド侯爵令息は本日を以って婚約を破棄することを宣言致します」
一切悔いのない声とズレるように、壇上の下からは歓喜でない声が聞こえ、会場を揺らした。
唖然と、花束を抱えた腕を下げれないでいるカインを見てリリーフィアは微笑むと
「なのでその花束はアーマルド様からは頂くことが出来ません」
再び視線を前へ移した。
すると、隣から烈火の如く怒り狂った声を上げたカインが中央へ走って来た。驚嘆、羞恥、憤怒……その全ては彼の顔を真っ赤に染め上げており、これではせっかく作ってきた紳士の顔が台無しだ。
「婚約破棄など俺は聞いてないぞ!」
(でしょうね、話していないもの。しかし、貴方は言っていたわよね?)
以前はこの顔を前にした時、目を背けていたが、もう逃げないと誓った。怖いものこそしっかり見て観察しなければ勝ち筋はないと、今なら冷静に分かる。
リリーフィアは学園長へマイクを返すと、顔を真っ赤にしている彼を真っ直ぐに見た。カインがその視線に1歩引き下がり、僅かに怯んだ隙を狙うように
「アーマルド様は入学以前から、お前の考えている事なんて俺は全て予想できる。だから態々報告してくるな……そう仰っていたでありませんか?」
不思議そうに片手を頬へ当てると、首を傾げた。
「予想……出来ておられたのですよね?」
カインから呆気に取られる様な、疑心の感情がひしひしと伝わってくる。それもそのはずだ。
カインはあの頃の弱く、取り繕った婚約者の顔しか知らない。
従わせてきたあの頃の弱い弱いリリーフィア・ドルファンしか。
次はゆうに予想できる。
自尊心の塊である貴方は……
「俺はそんな事言っていない!それにだ!お前がこうして振る舞えるのは俺のお陰だろう!?そんなお前が俺に意見?ふざけるんじゃない!」
理性を捨て、本当の顔を曝け出した。
「あんなにも馬鹿で未熟だったお前を俺が導いたんだ!俺の奴隷のクセして歯向かうのはやめろ!」
カインの怒り狂った声が会場に響き渡った。
今まで築いていた好青年であり、紳士的な彼が裏目に出たのだろう。周囲は先程とは違うどよめきで埋まり、軽蔑する視線はカインを刺した。
「いつもそうでした。あなたは何か気に入らないことがあれば罵り、嘘をつき、私を従わせようと致しましたね」
リリーフィアはおもむろにカインの方へ歩き、彼の前で立ち止まると、自信のなさなど微塵も感じさせない堂々した立ち振る舞いで丁寧に言葉を並べた。
(怯むな。怯えるな。それこそ、彼の思い通りに事が進んでしまう)
「もう私はあなたの意見に左右されたくありません」
その凛々しくも力強い姿に、誰もが目を奪われた。これが《グロリオサ》を授与される者の風格なのだ、と。
「しかし……あなたの意見に従っていた過去は間違いではありません」
「なんだよ、認めるのか?なら俺のお陰だろ!」
「それは、あなたに捨てられると思っていたからです。どんなに矛盾していても、従わないただの私は捨てられ、だから浮気されるのだと」
「う、浮気……?浮気だと!?嘘をつくなよ、この阿婆擦れ!」
何とも白々しい嘘だ。一周回って面白くなってきたリリーフィアはクスッと笑みを零した。
カインは冷や汗をかきながら不器用に笑うと
「ハッタリもいい加減にしろ!寂しかった腹いせだとして、やりすぎじゃないか!?それに証拠はあるのか?ないだろう!?今謝れば許してやる。さぁ、頭を下げるんだ」
リリーフィアの手首を力強く掴んだ。鈍い痛みがリリーフィアを襲い、昔の記憶を引き戻してくるが、不自然でない様に瞬きをする。
何度も大丈夫だと、自分に言い聞かせ、再び淑女の面を付け直した。
心のどこかでは彼が少しでも更生したのかと、信じたい気持ちがあった。だから面前の前で宣言するのに罪悪感を覚えたし、密かに終わらせようとも考えた。しかしもう、そんな感情を抱く必要はないのだろう。
「暴力で解決しようとする癖……相変わらずですのね」
淡い期待がリリーフィアの中で粉々に崩れ落ちる音がする。リリーフィアが彼に抱いていた期待の全てを諦めた、その時……大広間へすごい形相をした中年男性が現れた。
あと2話で完結予定です。
次話は諸々の悪事がバレるお話です。
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