私の10年を返していただきます ①
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
リリーフィアが会場へ入ると、わっと歓声が響き渡たった。彼女が思っている以上に王宮勤めの件や《グロリオサ》の授与式の噂は広まっていたらしい。
敬慕の視線がまとわりつき緊張が走るが、それを表情に出す彼女ではなかった。余裕そうに微笑み、その視線一つ一つに答えていく。
人集りが僅かに引いた時、人をかけ分けた先にご満悦そうなカインの姿が目に入ってきた。
(私の功績を我がもの面で自慢しているのでしょうね)
呆れ半分、声をかけてこなければ始まらない復讐に開始のゴングを鳴らそう。
リリーフィアはふと目を伏せ、緊張しているフリをする。弱い弱いリリーフィア・ドルファン伯爵令嬢を彼の脳裏に過ぎらせ、彼の劣等感を誘き寄せるのだ。
周囲の視線が再びこちらへ集まった時
「リリーフィア!」
カインがリリーフィアの名前を呼んだ。
予想通りの行動に思わず頬が緩む。
貴方のそうして欲しいという欲を引き立たせる淑女とはまた違う朗らかな笑みを浮かべ、リリーフィアはカインの元へ歩いて行った。
カツン……カツン……と、余裕を持って、焦らず。今日でカイン・アーマルド侯爵令息の婚約者という、首に突きつけられたナイフを折ることができるが、悟られてはならない。
しかし、悟られない自信がある。
「お久しぶりです、アーマルド様」
リリーフィアはカインの前で立ち止まると、綺麗なカーテシーで頭を下げた。
頭を上げ、自然と上目遣いになるよう目を合わせる。
王宮勤めが内定し、《グロリオサ》の授与候補者となっているリリーフィアがこうも愛らしげに下手に出ているのだ。全て計算のうちである行動のお陰で、こちらが"アーマルド様"と他人行儀なのは、彼の中で気にならない事になっている事だろう。
面前である為、触れたくとも触れられないカインの右手が滑稽にも、微かに震えている。
ここまで来れば妥協点だが、少し彼で遊んでみたくなった。
リリーフィアはカインの友人であるサイラス・エバンス伯爵令息にそっと目配せをし、微笑んで見せた。
「エバンス様もお久しぶりです。最後にお会いしたのは2ヶ月前でしょうか。お変わりないようで安心致しましたわ」
「ドルファン嬢も……お綺麗に、なられて」
「ふふふ……ありがとう存じます」
照れくさそうに頬を染めるサイラスの隣、余裕そうなカインの顔色が曇っていく。こうも分かりやすい人だったかと、リリーフィアは不思議に思った。
すると予想通り
「綺麗だ」
カインは何を思ったかたどたどしく言葉を並べ、不器用な笑顔を浮かべている。あんなに体裁だけを気にし、面前では鳥作った笑顔を欠かさない方がと、面白くなってしまったリリーフィアは思わず笑みを零した。
「そうでしょうか……ありがとう存じます」
傍から見れば婚約者同士の仲睦まじい雰囲気に気を使ったのか、サイラスは用事を付けてカインの側から離れて行った。
サイラスが隣を離れると、カインは意気揚々と会えなかった時にどれ程自分が努力したのかを語り始めた。
心のそこからどうでもいいと、リリーフィアは乾いた笑みを浮かべながら相づちを打つ。
こんな時、王妃から教わった適当な流し言葉を覚えておいてよかったと、切にこの時間が早く終わるよう願った。
ひと通り話し終えたのか、カインは自慢げに紙切れを手渡してきた。
「壇上に上がることがあるだろうが、その時の言葉を用意しておいた。リリーフィアは昔から緊張すると馬鹿になるから、これを読み上げるといい」
何を言っているのかと、耳を疑う。
紙切れを広げ、その文を読んで、こちら側の耳が正しかったのだと安堵するが、より一層目の前の人間が何を言っているのか理解出来なくなった。
「これ、ーーー」
リリーフィアが紙切れを返そうと口を開くと、それに被る様にアナウンスの甲高いマイク音が響く。
「では出席者全員揃いましたので《グロリオサ》の授与式に入ります」
自然と緊張感が走る。
周囲の視線が集まってくるのが分かるが、怖がる事はない。前を向く事をもう知っている。
ドクン……ドクン……と、心臓が深く大きく鳴る。
「《グロリオサ》を授与されるのは……リリーフィア・ドルファン伯爵令嬢!」
歓声が遠くの方から聞こえてくる。
これを目標としていた訳では無いが、改めてあの目まぐるしがった日々に目に見えて合格印を貰ったような気分だ。
人差し指で伝ってくる涙を拭い、歪む視界の中で壇上を必死に追った。
「リリーフィア・ドルファン伯爵令嬢とその婚約者カイン・アーマルド侯爵令息は壇上へ!」
カインの名を出されてふと、我に返る。
婚約者によって花束が渡すと決まっているが、彼は婚約者とは言えないのではないか、と。
少しでも知らされていれば良かったが、噂も届いてこず、完全に予想外の出来事だ。父にエスコートを頼もうかと辺りを見渡すが、いや、と思い留まる。
これはいいきっかけなのではないだろうか。
リリーフィアはカインの差し出した手を無視し、壇上へ真っ直ぐ進み始めた。周囲の視線が痛くなるが、注目を浴びれば浴びる程、この後が有利に進むのだと思えば、演劇舞台の壇上に立っているような気分だ。
今日、漸く、長く苦しんで来た10年に終止符を打てる。
リリーフィアは壇上へ続く見えない赤いカーペットの上を歩き続けた。
あと数話で完結予定です。
次話は短編の内容をリリーフィア目線で見る
お話です。
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