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ハチロクと少女  作者: 咲舞佳
16/20

16話 洗車

この作品はフィクションです。


実際の情報とは違う場合がありますのでご注意ください。

休日の午前中、寒くも暑くなく心地よい暖かさの中で仁美はハチロクを洗車していた。

まさに洗車日和だ。

物心ついたころから父和仁の洗車をよく手伝ったものだ。


この時期なら素手で全く問題なく水を使える。

これが冬場なら素手でやろうものならしもやけ、あかぎれは覚悟しなくてはならない。


花も恥じらう乙女がそんな手を荒れさせるわけにはいかない。

といっても、冬場はゴム手袋を使うのだが。


しかし、ゴム手袋だけでも手が冷たいどころか痛みすら感じるので、ゴム手袋の下に軍手をする。

作業が多少やりづらくなるが、厚みがあり網目の荒い軍手が水の冷たさと手汗による蒸れを防いでくれるのだ。


逆に、夏は炎天下の中の作業になるので熱射病の心配もあり洗車といえど大変な作業と言える。

そんな心配も手間もないこの時期の洗車は車好きのカーライフにとって一番よい季節なのだ。


洗車というと水をかけてシャンプーで洗うだけ、と考えている人もいるかもしれない。

そうでなくても、ガソリンスタンドなどの洗車機にかけるだけという人もいるだろう。


しかし、洗車は手間のかかるとても重要な作業なのだ。

特に、ハチロクのような古い車にとっては。


まず、仁美が行うハチロクの洗車作業の流れを説明すると以下の通りになる。


1.水で泥を落とす

2.シャンプーで汚れを落とす

3.水滴をふき取る

4.専用ケミカルで水垢を落とす

5.ワックスをかける

6.ワックスをふき取る

7.ウィンドウに撥水材を塗る

8.ウィンドウに塗った撥水材をふき取る


と、このように8工程は必要となるのだ。

確かにガソリンスタンドの洗車機ならシャンプーやワックス、撥水をそれこそ車から降りずにできるだろう。


最後にふき取りだけで、人が行うのは1工程で済む。

しかし、ハチロクなど古い車両は可能な限り人の手で行ったほうが良いのだ。


まず、塗装やウィンドウモールなどかなり痛んでいるので、下手をすると剥げてしまう。

また、洗車時こそがボディ外観をチェックするよい機会なのだ。


手で磨くことで隅々までチェックでき、傷や錆、塗装の劣化の個所をそれこそ洗い出すことができる。


これだけ古い車になると気づかないうちに普段は見ていないところに錆が出ていたりするのだ。

これらをこまめに対策してやることが、古い車を長く乗るためのコツの一つと言えるだろう。


仁美は機嫌よく鼻歌を口ずさみながらホースを引っ張ってくる。


「どんなときもー、どんなときもー♪」


相変わらず曲のチョイスが90年代J-POPだ。


ホースは母の佳澄が家庭菜園用に用意したロールで巻きとるタイプで、20mの長さがあり先端にはガンタイプのノズルがついている。

これだけの長さがあれば車のどの方向からでも水をかけることが可能だ。


もちろん、庭用の外付け水道も設置してあるのでそこにつないである。

母佳澄と父和仁が家を建てるときに考えて設置したものだ。


佳澄は家庭菜園のために庭に二か所水道を設置している。

仁美の恰好は和仁が使っていたつなぎに長靴、髪は邪魔にならないように後ろにまとめてローポニーテールに、といったスタイルだ。


つなぎは和仁が作業していた姿を思い出し、引っ張り出してきた。

父のハチロクに作業着と、思い出に包まれて上機嫌になっているようだった。


たまに父和仁が本当に死んでしまったのだと悲しくなることもあるが、楽しかった記憶を思い出しては微笑んでしまう仁美だった。


ハチロクに全体的に水をかけ、砂や泥を落としてやる。

昨今は黄砂も降り積もるので念入りに水をかけて落としてやる。


これをせずにいきなりシャンプーなどでこすってしまうと塗装に傷をつけてしまう。

高圧洗浄機を使ってもよいが、ハチロクなど古い車は先の洗車機と同様に古くなったところを痛めてしまうので要注意だ。


しっかり水で汚れを流したところでシャンプーを行う。

車用の取っ手のついたスポンジでバケツにカーシャンプーを入れてしっかり泡立てる。


シャンプーは走行中についた泥汚れ、脂分の汚れやワックスを落とすために行う。

最近はシャンプーとワックスが同時に行えるシャンプーワックスもあるが、残った汚れで傷つく可能性を考えると別々にやったほうが良い。


「ふんふんふーん♪」


と、機嫌よく鼻に泡をつけながらハチロクを洗う仁美。

遥や後輩の里美がいればケータイにて写真を撮られているところだ。


隅々までハチロクを泡まみれにした仁美は満足気な様子でホースから水をかけていく。

しっかり泡を落とした後で、ウエスにて拭きあげる。


ウエスは布製のではなく、化学繊維でできた吸水性の良いものだ。

さらにコツとしては二枚重ねにするとより水滴を残さずにふき取れる。


ゴム手袋&軍手とウエス二枚重ねも父和仁がやっていたちょっとした工夫だ。

ウエスで吹き上げながらハチロクの隅々を確認していく仁美。


あ、こんなところに錆が出てきてる。ここも、あそこも。

ここは塗装にひびが。


吹き上げながら錆やらひびやらチェックしていく。

洗車が終われば補修するのだ。


水滴を一粒残らず吹き上げれば次は水垢の除去だ。

これは専用のケミカルを使用する。


こまめに洗車していれば水垢はそれほど問題にはならないのだが、父和仁が亡くなってから洗車しておらず、さらにはハチロクなどの古い車は塗装が劣化し艶がなくなり水垢が残りやすくなっているのだ。


さらにケミカルを使用してもかなりごしごしこすらなければならない。

女の子の細腕では大変な作業だ。


仁美は父和仁が昔手作業していたときに喚いていたのを思い出してくすっと笑う。


「パパの右手がー!腱鞘炎がぶり返したー!」


中二病みたいに右手を抑えるので、仁美はそれを見て心配するよりもあきれたものだった。

そこで仁美は秘密兵器を投入する。


「おーびたるさんだー」


ドラ●もんにしては可愛すぎる声で電動工具を取り出した。

完全なる独り言だが、仁美のテンションはそれほどに高い。


オービタルサンダーとは本来なら紙やすりをセットして研磨する工具だが、和仁はこのオービタルサンダーに雑巾をセットしてその雑巾にケミカルを塗り付け使用していたのだ。

水垢除去のケミカルだが、研磨剤とワックスが入っている。


和仁は多くの工具をそろえていたが、エアー工具は使わずすべて電動工具だった。

エアー工具はコンプレッサーを使用しなくてはならず、音が近所迷惑と考えていたからだ。


それでも電動工具を使用してもそれなりに音はするのだが、コンプレッサーはエアを使うたびにエア圧をためるために動作してしまい電動工具より音が大きいので、どうせ音がでるなら必要最小限で、というのが和仁の考えだった。


電動工具用の外部コンセントももちろん設置してある。

和仁が車の作業をするために必須とした部分だ。

ロール巻きの電源コードを引っ張りオービタルサンダーを接続する。


雑巾をセットして水垢除去剤を塗りたくる。

ブィーン!という音と振動をさせて木材にカンナをかけるようにボディーを磨き水垢を除去していく。


手作業で磨くより楽とはいえ、それなりに重量のあるオービタルサンダーを車全体にかけていくのは女性の力ではかなり重労働だ。


しかし、どんどんきれいになっていくハチロクにやりがいもひとしおだ。

ルーフ部分はオービタルサンダーを持ちながらだとさすがに全体に手が回らないので、アルミ製の足場台を使用する。


脚立ではなく、両側に小さなはしごと1M程度の足場がついた台形のものだ。

手で洗車するならハチロクなどの低い車には必要ないが、ミニバンなどのルーフを洗うときはかなり便利なアイテムである。

慣れている人ならタイヤに足をかけてルーフを洗ったりする。


電源コードがボディを傷つけないように気を付ける。

仁美は全体的にケミカルでこすり上げ、ふーっと息をはく。

水垢は除去されたが研磨剤入りケミカルがついたままなので、これをウエスで拭き上げていく。


古い塗装ながらもぴかぴかになっていくハチロクを見て仁美も顔を綻ばせていく。

全体的に拭き上げてから今度はワックスをかけていく。


さきほどの水垢取りのケミカルもワックスが入っているが、今使うワックスは高耐久の本番ワックスだ。


ワックスの値段もピンキリだが、性能もさることながら耐久性の違いも大きい。

1月しか持たないワックスの3倍の値段で3か月持つワックスが買えるなら、手間を考えると後者のほうが良い。


ワックスは塗るだけなので手作業で行っていく。

ここでも父和仁のことを思い出す。


両手で雑巾を持ちながら、


「ワックスかける、ワックスとる!」


とか言っていたのだが、小さいころの仁美ははてなマークを浮かべたものだ。

その後知ったのだが何かの映画のセリフみたいだった。


思い出しながらふふっ、と笑いながらワックスを塗る。


「ワックスを塗ったらしばらく置いてから拭き上げなきゃいけないから、ワックスかけてすぐとっちゃったらだめじゃない」


仁美は笑いながら過去の父和仁に突っ込みを入れる。

本当にハチロクといれば父和仁の思い出に事欠かない。


それこそまだ一緒にいるみたいに。

それが良いことか悪いことか今の仁美には分からなかったがさみしくはなかった。


ワックスを全体的に塗り、乾くまでにウィンドウに撥水材を塗りこんでいく。

撥水材を塗る塗らないは好みがわかれる。


撥水した水玉がいっぱい窓につくほうが見にくいという人もいるからだが、その場合でも油膜はとっておかなければならない。


油膜とは読んで字のごとく油の膜もことで、これをふき取らずにいると夜の雨の日にギラギラして非常に視界が悪くなる。


専用の油膜とり剤もあるのだが、撥水材を塗るときも油膜を除去できるので油膜をこそぎ落とすように塗り込む。


フロントガラス、運転席、リヤクォーターガラス、リヤガラス、助手席側クォーターガラスに助手席と一周回って塗ったところで乾くのを待つ間、ボディの乾いたワックスをふき取る。


ワックスまでかけたハチロクは塗装が古くなっているとはいえつるっつるになった。

その手触りに仁美も顔が綻ぶ。


そして最後にウィンドウを拭き上げていく。

これで雨の日もばっちりだ。


窓をしっかり洗っていない車は雨が降ったとき視界が悪くなり非常に危険だ。

実際に大雨で前方が良く見えず、ブレーキランプに気づくのが遅れ後突してしまったという話も聞くぐらいだ。


窓も拭き終わりふーっと大きく息を吐く仁美だがまだ終わりではない。

洗車は終わったが、洗車時に見つけた傷や錆のケアが残っている。


傷はコンパウンドにて削る。

塗装下まで入った傷は無理だが、塗装表面の傷ならコンパウンドで磨けばよい。


先ほどの水垢除去ケミカルにも研磨剤が入っているので、浅い傷なら一緒に磨けばきれいになるのだが、そうでなければコンパウンドを使う。


和仁は番手を1000番、2000番、3000番ぐらいの順に使っていた。

番手とはサンドペーパーや研磨剤の目の粗さを表している。


番号が大きいほど目の粗さが小さく、仕上がりがつやつやになっていく。

番号が小さいとよりざらざらに仕上がるわけだ。


鏡面仕上げになると9000番とかあるが、ハチロクの古い塗装だとそこまで必要がない。

ドアの下部はチッピングなどで、また鍵の差し込み部周辺はキーホルダーなどで小さな傷がつきやすくよくコンパウンドで磨くのだ。


仁美も和仁のやりようをしっかり覚えていたので同じように磨いていく。

小さな傷が完ぺきとは言えないまでも次々に消えていく。


今度は錆の部分だ。

よくネットで錆だらけのハチロクをレストアする画像や動画があるのを見るが、このハチロクは全然違った。


錆と言っても、チッピングが塗装の下まで行ってしまったり、フェンダーアーチの先端部、塗装が一番薄い部分から錆ていたりする程度で穴が開いたりは全くしていない。


よくトランクのタイヤ保管部も錆で穴が開いているハチロクが多いのだが、父和仁はきっちりと対策していた。

錆をしっかり除去し塗装していたのだ。


ただ、あまり几帳面な性格ではなかったため、若干色が違うのだが。

和仁曰く、


「タイヤ載せれば分からないよね」


ということだった。

ちなみに和仁は常にトランクに2本のタイヤに工具などをいつも載せているので確かに見える部分ではない。


いつトラブルが起きてもいいように必要なものはいつもハチロクに載せていた。

仁美ももちろんそのまま載せて走っている。


仁美は錆対策のため錆転換剤を用意する。

錆止め材ではなく錆転換剤だ。


錆転換剤とは赤さびを黒い錆止め被膜に変化させるものである。

そして塗料薄め液と歯ブラシも用意する


これも和仁のやり方で、ボディの小さな傷からできた錆は歯ブラシと塗料薄め液で油分の汚れを落とす。

塗料薄め液ではなくブレーキクリーナーでも可。

ただ、塗料薄め液のほうが効果が高く2L缶で売っているので単価が安くなるのだ。


本来ならワイヤーブラシで錆をこそぎ落とすのだが、ボディの傷なのでワイヤーブラシだと周囲に傷がつく。


さらに小さな傷なので歯ブラシで磨いた後、錆転換剤を使用する。

これを行うことでワイヤーブラシを使うことなく錆の進行を抑えることができる。


さらに錆転換剤にてしっかり被膜ができればタッチペンで塗装する。

これで錆に関してはばっちり対策完了だ。


ただ、傷の大きさによってはタッチペンの跡が目立つので缶スプレーを使うかどうかは要検討となる。


すべてをやり切った仁美の額にはきらりと汗が光る。

そこにはやり遂げたものだけが可能な表情が浮かんでいた。


ぺっかぺかにしたハチロクに満足気にうなづく仁美だった。








Appendix




うーん、洗車でこれだけ書けるとは思いませんでした。苦笑


前書きにも書いてあります通り、あくまで個人の主観に基づくやり方で実際の情報とは違うかもしれませんのであくまでご参考までにされてください。


これだけ書いておいて自分の車は最近洗車できてないですねー。

近いうちにしっかりと洗いたいと思います。


錆止めはちょびちょびやってるんですけどねー。

きづいたら、あ、ここ錆てる、ここも、あそこもってなってるんですよね。


ちょびちょびやって十数年、ハチロクとしては極上とはいえないまでも上等な部類に入るコンディションなんじゃないかと思います。


まー、歴戦の傷が山ほどついてますけどね。

その話はおいおい作中に書いていければと思います。


作中のモデルの車ですからね。

次回はそろそろヒールアンドトゥができるようにならないとなーと思ってます。


少し小話を挟んで書ければと思ってます。

次回もぜひ楽しみにお待ちください。


よろしくお願い致します。


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