15話 ハチロク初通学
誤記修正しました、
仁美は休日や大学の授業の合間を見ては家の周りでハチロクの操作の練習をしていた。
もちろん遥も一緒だ。
本当は大学の通学にハチロクを使いたいのだが、まだ操作がおぼつかず周囲の流れについていけそうにない。
とにかく、スムーズに運転できるまではと練習を頑張る仁美だった。
桜もとうに舞い散り、すっかり新緑の季節となったころハチロクの操作に慣れ街乗りにも出れるようになってきた。
もちろん遥も同伴だ。
まだ、操作が完ぺきではない仁美のために周囲の確認を一緒になって行う。
遥にとっては仁美と二人っきりのデートに他ならない。
うきうきで仁美に付き合うのだった。
大学生となれば男性へその興味は移るかと思われたが、手のかかる仁美が可愛くて仕方ないようだ。
そして街乗りも十分慣れてきた仁美は遥にお願いして、大学へハチロクで通学することにした。
初めての車通学だ。
しかし、慣れてきたといってもまだ半クラッチを使用していてヒールアンドトゥやエンジン回転数を合わせて走るなどといった技術はない。
家から車で20Kmほどのところに大学はある。
公共の交通機関を使うなら近くの駅まで自転車で行き、電車に乗って県庁所在地の駅まで行き、そこからバスとなる。
大学は山の上にあり、総合大学であるため敷地が広大で農学部用の実験農場や酪農も行われているほどだ。
市街地から大学のゲートまでちょっとしたワインディングになっており、ゲート内からは大学の私有地となっている。
そこから各学部の棟まで車で行けるようになっている。
各学部ごとに駐車場があるので、それこそ全学生が車で来ても大丈夫ではないかというほど駐車場があった。
しかし、時間が遅くなってから来るとそれだけ遠くの駐車場に停めなくてはならいのだが。
さらにそれだけ広大な敷地のため、大学内に環状道路があるほどだ。
1周2Kmもあり、もちろん信号もある。
大学の敷地といい、環状道路や信号といい、全国有数の広さをもつ大学なのだ。
良くも悪くも自由な環境で、県内で一番事故率が高いのが大学環状道路だという話もある。
ゲートは東と西にあり、遥たちは東からのゲートを通ってきている。
昔はゲートも素通りできたらしいが、いまでは守衛さんが立ち学生証を見せなければ入ることができない。
一般の人は守衛所にて手続きが必要だ。
今日の授業は2限目からなので、朝の渋滞とは無縁だ。
仁美の運転では朝の渋滞は心もとない。
本人もよく分かっており、遥とも都合があう日を選んで本日となったわけだ。
朝、遥が仁美の家まで来て出発だ。
近所なので仁美がハチロクで迎えに行かずとも歩いてこれる。
仁美の母佳澄が初のハチロク通学ということで見送りに出ている。
「遥ちゃん、仁美の事よろしくね」
「はい、任せてください。何かあって傷ものになっても責任取ります!」
「責任取るってどういうこと!?ハチロクのことだよね!?」
遥の言葉にすぐさま突っ込む仁美。
佳澄はふふふっと笑っている。
そもそも遥との付き合いも長いため遥も余所行きの態度ではなく通常運転だ。
ハチロクに二人して乗り込み佳澄に一声かける。
「それじゃあ、ママ。行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
仁美は外向きには”うちの母”と呼ぶが家や遥の前ではママと呼んでいる。
そういえば、と仁美は父和仁との会話を思い出していた。
「仁美はいつまでパパと呼ぶんだい?いい加減お父さんって呼ぶようにしないと」
「えー?だってパパはパパだもん」
「もういい年なんだから、パパじゃなくてお父さんって呼ぶようにしないと、大人になってから恥ずかしいよ?」
「外では”お父さん”って呼んでるから大丈夫!」
「何で外ではちゃんと”お父さん”って呼んでるのに、家では”パパ”なの?」
「だってパパはパパだもん」
「おっと、話が最初に戻ったね」
「ほんとだ」
二人は笑いあった。
それは仁美と父和仁の他愛のない思い出だ。
しかし、忘れることのない胸の中にずっと残るであろう暖かい記憶。
仁美は思考を現実に戻し、ハチロクを発進させた。
季節的にはドライブにぴったりな暖かさ、過ごしやすさでハチロクの窓を開けて走った。
適当なBGMをかけながら遥とたわいない話をするが、オーディオはMDだったりする。
BGMも和仁の趣味で90年代JPOPや洋楽だ。
というより、和仁が当時学生のときに聞いてたものをそのまま使っていたのだ。
なので、仁美は90年代の楽曲に妙に詳しい。
遥も仁美のハチロクの運転の練習でよく聞いていて何の曲だかわからないが、いろいろ耳に残っている。
たまに「記憶の中でー、ずっと二人はー♪」とか口ずさんで、これ何の曲だっけ?と考えることがある遥だった。
大学への道は市街地を抜けて山のほうに向かっていく行程となっている。
最近では街中での運転も練習していて、周りの車の流れにもきちんと乗れる。
半クラッチで変速ショックはあるものの、初めての運転のときのようなぎっこんばったんといった動きではない。
街中でそんな運転をしうようものなら、他の車から危険な車とみなされ距離をとられてしまうことだろう。
そして、街中を走れば振り返る人や指をさす人、そこまででなくともよく視線を感じる仁美だった。
それどころか並走していたり、信号待ちで停止していても周りの車からじろじろ見られたりしていた。
確かにハチロクを見ることは昨今珍しくなったが、それに合わせて容姿に優れた女子大生が二人で乗ってるのだ。
女子大生の二人乗りハチロクというのは世界中探してもこの車だけであろう。
周囲の人の目を引いてやまなかった。
仁美は父和仁と乗っているときも少なからず視線を感じていたが、当時はパパのハチロクすごいでしょ!ぐらいに思っていたが、今は当時以上の視線を感じ居心地の悪さを感じている。
遥はとうにその視線になれ、うちの仁美は可愛いでしょう!と鼻高々な面持ちだ。
別に仁美は遥のうちの子ではないのだが。
それでもこのハチロクにはサンバイザーがついていないので、仁美はモノトーンなキャップを、遥はキャスケットをかぶってはいるのだが、雰囲気からして人の目を引いてしまっているのだ。
そのまま街中を抜け、大学へのワインディングに差し掛かる。
この道も朝一や夕方が学生によって一番車通りが多い(バイクも多い)が、2限目に合わせてきたこの時間帯なら空いているのだ。
ハチロクに限らずその手の車にのる学生ならちょっと飛ばしてみようかとなる道ではあるのだが、今の仁美は普通に走るだけで精一杯でそんな気は起きないのだった。
ゲートで二人の学生証を提示し、大学構内へ入る。
手前に工学部があり、教育側は奥側にある。
「ほんとに工学部の駐車場でいいの?教育学部まで送っていくよ?」
仁美が遥に問いかける。
「ううん。大丈夫。敷地内歩けば5分だから」
各学部に駐車場があるので、そうでなくても教育学部の棟近くまで送っていくという仁美にやんわりと断る遥。
工学部の駐車場に入ると、工学部の学生が何人も歩いておりこちらを指さしたり珍しそうに見ている。
「おいみろよ、ハチロクだ!」
「ハチロクなんて今までいたっけ?」
「誰が乗ってるんだ?」
「女が二人で乗ってんぞ!?」
「しかもかわいい・・・」
がやがやとしているのが仁美たちからもみてとれたが、少し恥ずかしそうにする仁美に対し周囲に鋭い視線を向ける遥。
ここが工学部ね、仁美を狙う輩かいないかチェックしないと!という目論見でついてきていた遥だった。
若者の車離れが進んだとはいえ、ハチロクは漫画やゲームで知っている人は多い。
主に男の子だが、ここは男子が多い工学部だ。
街中以上に視線を集めた。
仁美の通う工学部とはいえ、学科はいくつかありさらに他の学年も学生も多いので見知らぬ人が多い。
そのまま空いている駐車場に駐車してハチロクから降りる仁美に声がかかった。
「水島さん?」
仁美が振り返ると同じ学科の福山敦がそこにいた。
「福山君?おはよう」
「おはよう。そのハチロク、水島さんの?もしかして買ったの!?」
仁美が挨拶をすると、返事もそこそこにハチロクに食いついてきた。
「え、ええ。でも買ったのではなくて亡くなった父が乗ってた車なの」
はたから見ると落ち着いた様子に見える仁美であり、ハチロクの話ならテンションを上げることが多いのだが、今回はそうではなかった。
それを助手席側で聞いていた遥がぴくっと反応する。
入学式から教習所、そしてハチロクの練習でそれこそ周6くらいのペースで仁美に会っていたが遥から父和仁の話をしたことはなかった。
意識して話題にしないようにしていたのだ。
この男、いらぬことを!と射殺さんばかりに福山を見る。
それに気づかない福山はそのまま会話を続ける。
「へー、そうなんだー。女の子でハチロクなんてすごいね!」
素直な感想ではあるが、福山はそれほど仁美と親しいわけでもなく仁美の父がつい数か月前に亡くなったことを知らない。
「う、うん。そうかな」
「そうだよ!俺、車あれ乗ってるんだ」
福山が指をさした先を見ると、そこには180SXがとまっていた。
「俺自動車部で、先輩に譲ってもらったんだ!」
「そ、そうなんだ」
テンション高く話す福山に、仁美はついていけてないようだ。
福山としても同じ学科の高嶺の花である仁美に、話かけるきっかけができそれが趣味の車であるということで興奮しているようだ。
それを見た遥は強引に話に割り込む。
「仁美!ちょっと購買に用があるからつきあって!まだ時間大丈夫でしょう?」
「あ、うん。分かった。ごめんね福山君。友達と用があるから」
そこでやっと遥のようすに気づいた福山はトーンダウンする。
「あ、ああ。友達がいたのに引き留めてごめん。」
「ううん、こっちこそごめんね。じゃあ、この後の授業でね」
「また、ハチロクの話聞かせてね!」
福山とまたあとで、と別れた仁美は遥とともに購買へ向かう。
「仁美、大丈夫?」
遥が心配そうに仁美に尋ねる。
「え、何が?全然大丈夫だよ?」
「ならいいんだけど」
仁美は大好きだった父を亡くしてまだ何か月と経っておらず、最近は免許にハチロクの練習にと目の前に打ち込むことで父のことを考えないようにしていることを遥は知っていた。
とにかく、楽しいこと、夢中になれることを仁美と一緒にこれからもやっていこうと心に誓う遥だった。
Appendix
日産180SX。
先のお話でシルエイティの話がありましたが、S13シルビアの兄弟車でハチロク、スプリンタートレノと同じリトラ(リトラクタブルヘッドライト)の車ですね。
90年代でリトラで身近な車と言えば、ハチロク(トレノ)、MR2(SW20)、180SXでしたね。
MR2のお話はまた機会があればするとして、180SXとシルビアの関係性がハチロクと同じ感じなんですよね。
それもシルエイティのお話のとき少し触れましたが、兄弟車でトランクとハッチバックであるというお話ですね。
そしてトランクとハッチバックの剛性の違いのお話で分かりやすい例があります。
新車ならまだしも、20年も30年も経つと鉄でできたボディといえやれてくるんですよ。
金属疲労で強度が落ちてくるんですね。
すると、ハッチバックで剛性の落ちるワンエイティはジャッキアップするとドアが閉まらなくなるんですよ。
ジャッキアップするだけでボディがゆがむってことですね。
もちろんジャッキを戻すと大丈夫なんですけどね。
金属疲労でよりボディがたわんじゃうってことなんですよ。
これがトランク、ノッチバックであるシルビアやハチロクにはないんですよ。
車の荷重をサスペンションでタイヤを押し付けてグリップ力を発揮するわけですが、その押し付ける力が剛性が弱いと逃げてしまうんですね。
その逆もあって路面からの入力も逃げてしまう、言い換えれば受け止めきれずその受け止めきれていない力が挙動の差を生むわけです。
挙動のレスポンスと言いますか。
最適なサスセッティングとは荷重で押さえつける力と路面から反発する力が拮抗することでベストなグリップ力となるわけで、そこのロスが挙動差になって現れるわけです。
分かりやすく言うと、剛性が高いほうがすばやい挙動ができる、といった感じで大丈夫だと思います。
もちろんサスペンションが固かったりあっていなかったりすると、がたがた、がったんがったん跳ねるだけの車になったりしますから、走るステージ、サスペンション、タイヤのグリップ力など総合的に見てやる必要があるとは思うんですけどね。
まあ、何度か書いてますがサーキットをコンマ1秒削るような走り方をしないのであれば、そこまで気にするものでもないんですが。
ボディ補強は奥が深いです。
と、いうほど私も詳しくないんですけどね。
私のハチロクもたいしてボディ補強してませんし。
ただ、先に書いた通りトランクとハッチバックは分かりやすい例があったのでご紹介させていただきました。
機会があるごとにいろんな車をご紹介できればと思います。
よろしければそのあたりも楽しみにして次回以降も当作品をよろしくお願い致します。




