二つの世界
「なっ、なんで知ってるんですか!!」
敬語なんて使うなとアクリには言われたが、俺は出会ったばかりのご老人にタメ口聞くなんてことは無理だ。しばらくはこのままでいかせてもらおう。
「お主のような年頃の人間が、夜更けに外に出てきたなんぞ言えば、変な夢でもみたんじゃろう。そいで、気になることが浮かんできもんじゃから、わしのとこに来たんじゃろ?」
目線を空から俺に向けて語る。キリッという効果音が付きそうなほど輝いた顔をしている。いくつなんだろう、この人。
「ご、ご名答です。いくつか教えてほしいことがあったので……」
「いいじゃろう。ほい、座れ」
長老がもぞもぞと動く。厚手のローブを着ているからか、動きがぎこちない。ベンチの端により座るスペースを開けてくれたので、遠慮なく座る。
「んで,ワシに聞きたいことはなんじゃ。さっき説明しとくべきだったことも、説明しなければならんことがあるんでな」
「──この世界と俺のいた世界のつながりって何ですか? この国がギリシアで、地名もギリシア神話を由来とする星の名前だなんて、こんなのは偶然じゃ片付けられないです」
寝る前にこの世界の日本語版の地図を見せてもらったが、王都はゼウスといい、その周りにある直轄都市はヘラ・ハデス・ポセイドン・デメテル。ほかにもギリシア神話を由来とする神様の名前。つまりは星の名前ばかりだった。───神であっても星の名前でないものもあるから一概には言えないが
「残念なことにワシもよくわからん。そのことに関してはワシもつい最近知ったくらいじゃ。ただ、残っている資料から過去になにかしらのつながりがあったのは確かなようじゃな」
「資料!? それってどこにあるんですか? 俺も見れますか?」
「ワシの書斎にもいくつか残っているが、解読しなくては読めんぞ。さきほども言ったように、ワシも気が付かなかったくらいじゃし、まだすべて解読しきれてないぞ」
その資料がいつから長老の手元にあるのかは分からないが、解読しなければいけないものであるならば、この世界の言語を理解していない手前、効率的ではない。
その時長老が、ふと思い出したように言った。
「より正確なものを見たいのなら王都図書院じゃな。ただ、お主は資格がないからみれんな。そこに入れるの者は数少ないしのぉ……アクリなら入れるかもしれんが」
そうなのかと心の中で落胆する。
資料は残っているが、解読しなければ読めない。正確なものもあるが、見ることはできない。申し訳ないが、こればかりはアクリが読むのでは意味がない。
「どうしたら俺がそこに入れるようになりますか?」
「難しいのぉ。王国軍の幹部や上層貴族。要は王族じゃな。あとは王国認定プレイヤー。学園の許可をもらった王都学院の優特生も入れたかの」
分からない単語が多すぎる。ただ、聞く限りではかなり難しそうな条件だ。幹部やら王族やら王国認定やら。可能性が一番高いのは王都学院の優特生だな。きっとアクリもそれだろう。
「お主、可能性が高いのは王都学院の優特生だと思っとるじゃろう」
長老がにやついた顔でこちらを見てくる。その顔には「お前の考えは浅いのぉ。ふぉふぉふぉっ」と書かれいているようだった。
「まぁ、はい。王族は生まれながらのものですし、軍の幹部とか王国認定とか俺のステータスではかなりの時間がかかりそうなので。学院ならそこまで大変といったものでもないかな……と」
「浅い考えよ、それは。ここから王都学院を目指すのであれば、最短でも村大会優勝、区立学園、区大会優勝、都市学院、統一都市大会優勝が必要じゃ。さらに、選りすぐりの生徒が集まるなかで、優特生。ついでに大会に出たいのであれば、学び舎で選出される必要があるしのぉ。特別なことが怒らん限りは、どれだけ優秀な奴でも7・8年はかかるわい」
「えっ!? マジですか……それ。色々考えときます、そのあたりは」
思っていたよりかなり難しくて驚いたが、これを目指すしかない。これが俺の中での当面の目標だろう。当面の目標とはいえど、今の俺では背伸びどころか、思いっきりジャンプしても届かないが。
小さな目標を適宜立て、努力をするしかないな、これは。
「ほかに質問はあるかの?」
「─────リキオウってなんですか?」
溜めにためた後この質問はいかがなものかとも思ったが、気になった。先ほどの夢の鍵となるのは、間違える余地もなく俺だ。その俺のことを明かしておかなければならない。自分だから顔も背格好も分からないけれど、リキオウと言うのは俺のことで確定だと思う。
「なんと。お主それをどこで知ったんじゃ?」
長老に夢の顛末を話した。俺も夢だと気が付いていなかったがために、話しながらおかしいなと思うこともあったが、とにかく記憶する限りを話した。
すると、どこか納得したような顔で長老がうなずいた。
「リキオウというのは位の名前じゃ。力の王と書いて力王。この国で一番強いとされる人間に与えられる位じゃな」
それでは俺の名前はリキオウではなかったということになる。名前が分かっていたら、比較的すぐにその人物を探し当てられたかもしれないけど、位だけじゃ厳しいかもしれないな。
「力王ってのは魔法でも剣でも強い人間よ。他にも突出した能力の持ち主で魔法の王で魔王。剣の王で剣王なんて位もある」
若干分かりづらいが、力王は自転車で言うオールラウンダーみたいなものか。それで、魔王と剣王はクライマーやスプリンターのことになるのか。
ってか魔王って! ラスボス臭しかしねぇじゃねぇかよ。
さっきまで、自分の存在意義に悩んで泣きまくっていたのなんか嘘みたいなくらい気分が楽になっていた。
人に話すのってこんなに楽なのか。
要らん現実まで見せられたが、このタイミングでよかったかもしれない。あれだけ絶望した後だとすんなり入ってきてくれる。
「他にはあるかの? わしゃあ、もう眠いんじゃが」
大きく伸びをするとともに、あくびをする。隣でそんなことされると、こちらまで眠くなってしまう。
「俺はこの世界で何をすればいいんですか。──何になればいいんですか?」




