3754年目には
「父さん、行かないで! お願い!」
多分4、5歳くらいの小さな男の子が、俺の足にすがり付いている。父さんということは俺の息子だろうか。
その俺はなぜだか分からないが、空中にある目の前の水色の丸に無理矢理にでも向かっている。
「早く行きなさい、別れが辛くなるだけだろう。リキオウともなる人間が、息子に涙を見せるんじゃない」
近くにいる男性にそう言われる。そうかこいつは、やはり息子だったのか。足元で泣き始めた男の子に目を向ける。
リキオウっていうのが俺の名前なのか?
それにしても、この男は誰だろうか。年齢は、低く見積もっても、35歳で上は50歳くらい。
長老が来ていたような緑色のローブを羽織って、空中の丸に開いた手を向けている。恐らく彼の魔法なのだろう。
「そうですね、長老。じゃあな、元気にしてるんだそ」
長老? この人が若かりしころの長老なのだろうか?
そう言うと、男の子の頭をそっと撫でて、足から放す。
何故だろう。自分がしていることなのに、他人がやっていることみたいだ。
そのまま丸の中に歩いていく。別にそっちにいきたい訳じゃないのにも関わらず。
俺の後ろでは、男の子が先程にもまして泣き叫んでいる。きっと誰かが押さえているのだろう。バタバタと音がする。
くっそ。涙がでてきた。なんでだ。なんでだよ!!
「!!!」
あぁ、夢だ……
「何で……俺泣いてんだ……」
起き上がってみると、その世界は涙でぼやけていた。
目を擦ってみると、ぼやけはなくなるが、しばらくすると涙が戻ってくる。
「訳わかんねぇよっ、、なんでっなんでっ」
泣いて泣いて泣いた。夢のせいで一気に現実に引き戻された感じがしたからだ。たくさんの人の顔や、想いが涙と共に溢れてきて止まらなかった。
寝転がったまま目を開けると、木目しかない天井が、大切な人たちの顔に見えてきてしまってきた。
親は今どうしているだろうか。泣いているかな。怒っているかな。きっと両方だな。
学校では授業どころじゃなくなっているんだろう。先生はびっくりしてるかな。いじめがあったんじゃないかって思ってるかもしれない。
屋上のネットとか壊しちゃったしなぁ。怒られることだらけだ。悪い子だな、俺。
俺、この世界でどこに向かって、何を目指して行くんだろう。この世界の不適合者とも言える俺はどうしたらいいんだろう。
涙が出なくなるまで泣いたなんて言う人がいるけれど、涙が出なくなることなんてなかった。
涙がかれるより先に疲れてしまって、そのまま目を閉じた。
だが、不思議に寝付けない。
たくさんの疑問が浮かんできて、寝るどころじゃなくなってしまった。
リキオウってなんだ? 今のは誰かの記憶か? はたまた、ただの変な夢か? さっきのは長老の若かった頃なのか? 足にしがみついていたのは誰だ? 円の中に入って何をしようとしていた?
そもそもなんで俺がこの世界に来た?
なぜ俺のステータスは変なんだ?
なんで騎士にならなくちゃいけない?
アクリはこの世界では一体どんなやつだ?
この世界の地名が星や星座、神話の神であるのはどうしてだろう? 国名がギリシャに限りなく近いのは? どんな繋がりが存在した? もしくは、今でも繋がりはあるのか?
俺は一体なんだ? ここはどこだ?
考えれば考えるほどに疑問が浮かんできて、頭が冴えて行ってしまう。
さらに、何一つとして答えがでないのは、この上ないくらいに気分が悪い。しかも、中には答えが存在しているものがあるはずだ。
どうにも落ち着かなくなって、窓の外を眺めると向こうの世界とは全く違う夜空が見えて、これもまた変な気分になる。今まで何気なく見上げていた空も、急に惑星が増えたり、星の数や星座の形が少しずつでも変われば、塵も積もって、ここまで変わってくるものなのか……。
「うわっ! びっくりしたぁ‥‥‥! 俺の心臓止める気か!」
家の前のベンチらしきものに、長老が座っている。
この際、長老に聞けるものはすべて聞いてしまおうか? よし、それがいい。このまま悩み続けたくないし、無理にでも寝てしまえば、きっと疑問の半分は頭から抜け落ちてしまうだろう。
いやでも、ちょっとばかり眠くなってきてしまったな。……メモができそうなものがあればいいんだけど……紙はあるけど、使っていい物なのかが分からない。ステータスにはメモ機能があるのかもしれないが、今は全く読めないから変にステータス内を探れない。設定変更しちゃったらまずいからな。
よし、もういいや。聞きに行こう。それでもって、すっきりした状態で寝よう。
ドアを開けると、この家に来た時とは違って、綺麗に片付いた部屋が広がっていた。ソファではアクリがタオルのようなものを掛けて眠っている。こっちの世界は向こうに比べて寒くはないが、夜なので、今は少しばかり肌寒い。
外に出ると、寒さが増すが身を縮こませるほどでもない。もう一度空を見ると、部屋の中から見る夜空より全然広い空が広がっている。若干、空が近いかもしれないが、これは季節的なものだろう。さらに、向こうの世界より空気が綺麗なのだろうか。なんだか、景色も何もかもが澄んでいるように感じられる。
小さな木造家屋のいくつかから弱い光が漏れてくる以外に人工的な光はないが、月光が明るく、外を目的地に向かって歩くくらい若い俺にはどうってことはない。
長老に近づいて声を掛けようとすると、先に声を掛けられた。やばいな、このじいさん。
「お主、変な夢を見たんじゃろう」
俺が思っているより、この人やばいのかもしれない……!!




