アルフェラッツ村
「なにが正解、正解、大せいかーいだよ!!」
隣でアクリは俺の言葉を無視してジョギングしながらぴょんぴょんしている。こいつ、雰囲気が暗くなってるからってわざとテンション上げやがって。逆にこっちがつらくなるだろうが!
この世界に来てから全く分からないことばかりだ。分からないというよりかは正直理解が追い付かない。
「よし、到着!」
アクリが立ち止まった。俺もワンテンポ遅れて立ち止まる。
「ふぇ?」
「なに情けない声出してんのー。村に着いたんだよ」
村までは200mほどもあるだろうか。この距離では到底ついたとはいえまい。
「証もない。変な格好してる。知らないやつがいる。こんだけ条件があれば、これ以上近づくと遠距離魔法でズドーンだよ」
さらっと言ったけど! サラッと言ったけど!! ズドーンじゃないから! それ死ぬでしょ! と叫んでやろうかと思ったが、もうすでに喉を消費した感が否めないので、やめておく。
アクリが縮毛矯正をかけたのかと思うくらいのストレートヘアを手ぐしで整えている。その笑った童顔には汗1つかいてない。
俺たちのいるところからはぎりぎり村の門が見える。その奥に広がっている村の規模は先ほど思い描いたものより大きかった。家なのど建造物のつくりは基本木造だ。
歩いて近づいてみると、さらに大きかったのが分かる。社会の教科書の弥生時代とかのイラストで見たような、村を守るための柵と堀が確認できた。柵も思っていたより高い。
「……結構大きいんだな。こんなに大きいと思ってなかった」
「失礼だなぁ。全くぅ……。っとこれでよしっと」
「ん? なにその服?」
気が付けばアクリは服を着替えていた。白い半そでに赤いノースリーブに茶色い半ズボン。首元には紫色のペンダントを付けている。まるで田舎のやんちゃな子供のようだ。
「この村で僕がいつも着てる服なんだ。この世界にも学校はあるし、制服もあるけど、学ランじゃないからね。皆がびっくりしちゃうよ」
「え? 俺はどうしたらいいの? バリバリ学ランなんですけど‥‥‥?なにか着替えたほうがいいのか? でも俺服多分何も持ってないぞ」
そういいながら一応ステータスを確認してみる。
「持ち物」→「装備品」→「日常服」の順で潜っていくがやはり何もない。と、いうか持ち物の欄のときに「すべての持ち物」でフィルタがかかってたのに何も表示されていない時点で持ち物が何もないことは確定だった。
「そっかぁ。君はそもそもよそ者だから驚かれるんだろうけど、変な服きて余計な不安をあおりたくないからなぁ。よしこれ着て」
アクリが僕に向かってステータスから実体化させて服を渡してくる。
「え? ここで着替えろと? いや、別に構わないけど‥‥‥構わなくなくないわ! 公然わいせつ罪だわ!」
「ここで着替えるわけないじゃん! その服を右手でも左手でもいいから2本使ってタッチしてから、『ストレージに収納する』を選んでから、メニュー開いて『持ち物』からその服を着て。一瞬見えるけど気にしない! あ、さっき2本っていうの忘れたね」
あの画面の正式名称メニューっていうんだと思いながら言われた通り渡された服を着る。
紺色の長袖の上に白い半そでで、下も紺色の長ズボン。実際に俺が秋に来てるくらいの服だ。
……つまりダセェ。部活の後輩にも、先輩にも私服のセンスは何とかしろと散々言われてきた俺の着る服だ。この世界では普通なのかもしれないけど、もっとファンタジーっぽいのが良かった。
「これもかけておいて。今はほかのものを首に装備してないから首にかけるだけで、勝手に装備品登録されるから」
アクリが俺にペンダントを渡してくる。アクリが首に付けているのと全く同じものだ。俺はペンダントの金具をいじりながらアクリに聞いた。
「なんでアクリと同じものを付ける必要があるの?」
アクリが村の門の方に歩いて行くようなのでそれについて行く。アクリが門番的なガタイのいい男の人に会釈すると門番は深々とお辞儀してくる。ちらっとこっちを見た。おぉ、こわっ。そんなに変な顔しないでよ。
そういう決まりなのだろうか。それとも、アクリが多少顔の通る人間なのだろうかと聞く暇があったら聞こうと頭の隅にメモする。
「後で詳しいことは説明するけど、このギリシア王国は1つの王都4つの王都直轄都市12と街が54、村が36で構成されてるんだ。村は公式的には『村』なんだけど皆から呼ばれてる通称的なものでは内村と外村って呼ばれてるんだ。それでここは内村のアルフェラッツっていう村なんだ」
「あぁぁ‥‥‥うん。めんどくさそうだな、覚えるの。てか王国かぁ‥‥‥。本当に異世界チックだな。そういえばアルフェラッツって星の名前とかじゃなかったっけ?秋くらいの。そもそもギリシアってギリシャに似てるし」
横を見るとアクリがメニューを操作しながら歩いていた。向こうの世界なら「ながらはやめろ」なんて注意するところだが、郷に入れば郷に従えというし、これが普通のなのかなとスルーする。
「そうそう。よく知ってるね! 僕は向こうに行ったときに何かむこうの言葉にかかわりがあるのかと思って調べて初めて知ったんだよ、その辺やつ。それで、こいつはそれぞれの村の色なんだよね。簡単な身分証明というか、まあそんなもんだよ」
「あぁ。だから、衛兵みたいな人が変な顔しつつも通してくれたんだな。それにしてもなんで関係してるんだろうな。なんか変な感じだよ」
「確かに。ていうかなんで怜雄君は星の名前だとか知ってるの?」
「俺、星座とか星とかっていう宇宙関係のこととか神話とか結構好きなんだよね。でさ、いつだか自由研究で調べて、それを機に色々覚えたってわけ」
アクリが帰ってきたからだろうか。周りがざわざわしている。『楽しい』のざわざわじゃなくて、驚きがでてるように感じる。
ただ、誰もアクリには話しかけない。俺に警戒してるようだった。
「それじゃ、このギリシア王国の都市の名前とかはすぐに覚えられそうだね。どうやら、僕の調べた限りでは神様とか星座とかの名前っぽいんだ」
「そりゃよかった!この世界に来てまで都道府県テストはいやだからな」
アクリが立ち止まった。いつの間にかメニューも閉じている。
目の前にはそこそこ大きめの家が建っている。どうやらここが目的地のようだ。
「よぉぉ。アクリに渡りびとさんよぉぉ」
───謎のおじさん出てきたぁぁぁ!!




