070話:食事の準備とジャンケンの行方
屋敷に戻ったオレは厨房に向かい、料理長や他のコックたちと共に、旅に持って行く食事を作ることにした。
先に色々作って無限収納に入れておけば、野営で食事を作る手間も省けるってなもんだ。
作ると同時に、料理長たちにも色々と料理のテクニックも教えてあげられるので一石二鳥だ。
先ずは大量の米を炊いて、おにぎりをたっぷりと作り込む。
素手で素早くお手軽に食べれる、日本人のソウルフードだ!
是非この国にも布教させたいね。米高いけど……。
あと海苔も欲しいなぁ……。残念ながらなかったけど。
他にサンドイッチやカレー、揚げ物なども作ってどんどんと収納していく。
サンドイッチにはアルグランスで普及しているパンを使用したが、やはり少し固い。
多分イースト菌とかも知らないんだろうな。
イーストの作り方は料理神様の加護の知識にあるので、今度時間のある時に作ろうと思う。
そんなこんなで、お昼を少し過ぎた頃には三人で一五日分の食事、少し余裕をもって一五〇食分の料理を作り終えて全て収納した。
「みんなお疲れ様。お昼ご飯はオレが作ってあげるから少し休憩してていいよ」
「は、はい……大変勉強になりました」
「「旦那様、御教授ありがとうございました」」
ハハハ、料理長とコック二人は流石にヘトヘトだな。
元気が出るような食事ということで、カツ丼を作ってやろう。
醤油が無いので塩でアレンジした塩カツ丼だ。
先日市場で鶏ガラを発見して購入したので、それを煮詰めて煮汁を作る。
それを布でこし、塩を加えて味を調えたら塩ダシの完成だ。
ダシを小さ目のフライパンに入れ、オニール(タマネギ)を加えて火を通す。
オニールが煮えたら、作り置きしてたトンカツを入れて更に煮込む。
トンカツの下側に煮汁が染み込んだら上から溶き卵を入れて蓋をする。
いい感じに卵が半熟になったら御飯を入れた丼にのせて完成!
「はい! 塩カツ丼おまち!」
三人とも凄い勢いで美味しそうに食べてくれる。
「これは美味い! ダシと卵の相性が実にいい!」
「後味もサッパリだし食べ応えも十分!」
「これは元気が湧いてきますね!」
卵の生食に関してだが、やはりこの世界でも日常的ではなかったようだ。
地球でも生で食べるのって日本くらいらしいから、これはある程度予想してた。
オレの場合は錬金術でサルモネラ菌などの雑菌を取り除くことができるが、実は同じような効果を持つ光魔法が存在した。
主に汚れた傷口を綺麗にする際に使用する治癒魔法「浄化」がそれだ。
先日マヨネーズを作る時に生卵を使用したのが驚きだったらしく、その概要をみんなに教えてあげたら、ゼストが「も、もしかたら……」と言い出したので、実際にその魔法を実行させてみたら綺麗に殺菌できていたのだ。
ゼスト自身も、この魔法にこのような応用ができるとは思っていなかったのは言うまでもない。
そのあと料理長が真剣に光魔法の習得を考え出したのは御愛嬌だ。
まぁ気持ちは解らないでもないけどね……。
とりあえず当面の間、オレがいない時に生卵を使う料理を作る時は、必ずゼストを助手として使うように言っておいた。
サルモネラ菌は熱に弱いとはいえ、衛星管理が不十分なファンタジー世界だ。
やはり熱を通した半熟でも殺菌してないと怖いからね。
そんなことを思い出しながら、元気の戻った料理長たちにあとのことを任せ、場所を変えて次の作業に移ろう。
部屋の一室を改装した作業部屋に移動し、先ずは旅の間に着る衣服や装備品を作ろうと思ったその時、肝心なことを思い出す。
「あ、同行するメイドのサイズを測らないと……」
ダイルはタキシードを作る件もあって、事前にサイズを測らせてもらってたけど、同行するメイドのサイズも測っておかないと服が作れん。
あれから三時間以上経ってるし、流石に結果が出てるだろう。
結果を聞きに行ったついでにサイズを測らせてもらうとするか。
オレはそんなことを考えながら、一旦作業部屋を出た。
そう……オレはこの時に気付くべきだったのだ……。
結果が出たらリコナから報告がくるはずだったことを。
そしてその報告がいまだにこなかったことに……。
「……おかしいな~?」
オレは屋敷に獣人メイドたちの姿が全く見えないことに違和感を感じる。
仕方ないので地図で位置を確認しようとそう思った時、リコナの姿が見えたので声をかけた。
「リコナ、同行者の件だけど――」
「旦那様……そのことなんですが……」
え……? ナニ? なんかリコナの顔が少し青ざめてるんですが?
「御報告するより、まずは見ていただいた方が解り易いかと……」
リコナはそう言いながらオレの手を取って、さっきの中庭に連れてゆく。
おいおい、まさかまだ決着ついてないのか? ハハハ……そんなまさかね~――――
「「「「「じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン! じゃんけんポン!」」」」」
――ナニアレ?
オレの目の前で、五人の獣人メイドたちが目にも止まらぬ高速ジャンケンを繰り広げていた……。




