071話:ジャンケンの決着と装備の仕立て
五人の獣人メイド娘たちが円陣を組み、目にも止まらぬ高速ジャンケンを繰り広げている。
その光景を唖然とした表情で見ていたら、一人円陣から外れていたポロンがオレの姿に気付いて駆け寄ってきた。
「旦那様ぁ~ 私、負けてしまいました~。残念です……」
「あ……いや…… うん……残念だったね…… で、コレはナニ?」
「え? なにって……旦那様からお教えいただいたジャンケンですよ?」
嘘つけ! と叫びたかった気持ちをグっと堪える。
いやだってさ! あんなメチャ速いジャンケンなんて見たことないよ?
いや、流石にオレが本気モードで見たらスローに見えるけどさ?
しかもナカナカ「あいこ」ばかりで決着がつかない。
「今はルトとアニルが協調体制ですね。ソルムとメキナがなんとかその状況を崩そうとしてますが……あ、アーシャムがそろそろ動きだしそうな気配です!」
……うん、ゴメン。ポロンがナニ言ってるのか全然解んない……。
協調体制? 状況を崩す? 動きだす?
なんかオレの知らない壮絶なハイパージャンケンバトルが、あの円陣の中で繰り広げられているんですか⁈
あの円陣の中心はさながら未知の小宇宙なんですか⁈
と、思ったその時!
「「「「「じゃんけんポン!」」」」」
「あっ! アーシャムの動きに合わせてアニルが協調を解いてルトを蹴落とした!」
スマン、スローモーションで見てても全然わかりません。
わかったのはルトがグーで負けたことだけです……。
「ああん! アニルったら相変わらず切り返しが上手いわね~」
「ヘっヘヘ~♪ 悪いなルト。勝負の世界は非情なんだ。恨むなよ?」
「きっちり私の動きを読んでましたね。流石はアニルですぅ~」
「あらら。もう一回長引けばわたくしとソルムのカウンターでアニルとアーシャムの二人を一網打尽の予定でしたのに」
「アーシャムの動きが一歩早かったね。でも強敵のルトを落とせたのは大きいわ」
「ざ~んねん…… あ! 旦那様!」
オレに気付いたルトが駆け寄ってくる。
「私も負けてしまいました~ 無念ですわ」
「ざ、残念だったね……」
もうそんなことくらいしか言えず、オレは無意識にルトの頭を撫でていた。
つか、ジャンケンでカウンターってなんだよ⁈
「ああ! ルトだけずるい! 旦那様ぁ~ 最初に負けた私も慰めて下さいまし~」
気付けばオレはポロンとルトの頭を無表情で撫でていた……。
二人とも御満悦の様子で尻尾が左右にブンブンと揺れている。
……ナンだコレ?
「ルトもポロンも、負けたのになんかいい思いしてないか?」
「旦那様はお優し過ぎますわ」
「このまま負けて頭を撫でてもらうのもありかも……」
「むうう……心揺れるですぅ~」
なんか勝ち残ってる四人から思いもよらない言葉が聞こえるが、ここは聞き流しておこう……。
で、このジャンケンは一体何事かとリコナに問う。
獣人族はその名の通り、獣の能力を色濃く備えた亜人種だ。
はるか昔はその身体能力を高く買われ、優秀な傭兵として他の亜人種の国々から名声を集めていた。
しかしその能力の高さゆえ、いつしか畏怖や嫌悪の対象として映るようになり、特に獣人兵に手酷く被害を受けた多くの人族の国が一斉に非難の声を掲げるようになった。
……武力で勝てなきゃ世論で迫害ってか?
この世界の人族もあんま変わらないな…………おっと、話を戻そう。
その影響で獣人族は今でも大半の人族からは疎まれた存在となっている。
しかし当の獣人族は今はとても平和的で、比較的人族の少ない南大陸に獣人族の多くが集まり、五〇〇年ほど前に獣人の国「ガルシオン獣王国」を建国。
大半の獣人族はそこで平和に暮らしている。
そしてその他の獣人たちは、獣人メイドたちのようにドワーフ族やエルフ族などの亜人種が治める国で暮らしているのだ。
まぁ人族も全部が全部獣人嫌いってわけではないのだが、今のフォーランドの世では、こういう風潮が支配的らしい。
とまぁ、獣人族にまつわる世間的なお話は以上。
で、何故にこのようなハイパージャンケンバトルになったのかというと、もうこれは一重に、ジャンケンそのものが獣人の本能を全開にかき立てる勝負方法だからとしか言いようがないそうだ。
特に複数での勝負となると、瞬時の判断力と駆け引きが要求され、尚且つ、この三すくみの勝敗という判断基準が高度な戦略を生む。
示し合わせることはないが、その時の流れで協力体制を敷いたり、ギリギリのタイミングで先出しして揺動したりと、ほんの数回の勝負でこの獣人娘たちはジャンケンをここまで高度な勝負へと昇華させてしまったのだ。
なるほどねぇ……。
人一倍勘が鋭く、濃密且つ高速思考下での駆け引きの上手さも相まって、ジャンケンってのは彼女たちの闘争本能にガッチリとマッチしてしまったわけだ……。
もう少しお気楽且つ公平にって感じで提案したんだけど、まさかこんなことになるとは……獣人族の本能、恐るべし!
正直ちょっと侮ってたわ……。
でも確かにこれなら、今回の旅に同行させても申し分ない気がするね。
誰が勝ち残っても、頼もしい存在になってくれそうだ。
「さぁ~てと…… ポロンに続いてルトも脱落して、いい感じに体も温まってきたな!」
「ここからは手加減無しの本気でいかせてもらいますわ」
「ふふ……流石にこの人数になると協調するのもリスク高いですし、ここからは個人の能力が勝敗を分けそうね」
「では改めて、ジャンケン再開ぃ~」
「「「「じゃ~んけ~ん――」」」」
あ……今まで本気じゃなかったんだ……。
またもの凄い速さのジャンケンが目の前で繰り広げられてます……。
その後、完全に勝負がついたのは意外にも早く三〇分後だった。
まぁそれでもジャンケンとしては長過ぎだけど……。
その間に解説役をしてくれたルトとポロン曰く、人数が減れば駆け引きより運と判断力に比重が傾くので、自然と勝敗も早くなるのだそうだ。
もうオレは「へぇ~、はぁ~、ふぅ~ん」としか言いようがありませんでした。
「やりました! 旦那様! 私が同行させていただきますね♪」
最後まで勝ち残った狼耳系獣人のソルムが、チョキを掲げながらその大きな体をピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねさせ、それに伴ってボリューム満点な二つの膨らみもばるんばるんと跳ね上がる。
うん、ソルムはメイドの中で一番の長身で巨乳だったりする。
ふへへ、こりゃ採寸が楽しみですなぁ~。
なんてスケベ心を精神力で抑えつつ、勝ったソルムや負けたみんなも平等に頭を撫でてあげて健闘を称えた。
とりあえず今度からメイドたちの間で何か決め事をする時は、ジャンケンを使うのは禁止にしようと思う次第です……。
「――――はい、採寸終わりっと……」
「「「「「「「「「「ありがとうございます♪ 旦那様♪」」」」」」」」」」
作業部屋に屋敷のメイド全員の黄色い声が上がる。
うん、結局メイド一〇人、全員の採寸をした次第です。
いやね、個人的にメイドって言えば、やっぱりあの白と黒でフリルもヒラヒラの、あのメイド服なワケですよ?
まぁ真性のメイドマニアからすれば、それもさに非ずって感じなんだろうけど……。
和服割烹着も味があるっちゃあるんだけど、これでメイドと言われてもね?
と言う事で、このお屋敷の使用人たちにはオレの趣味に付き合ってもらおうと思い、メイド服の新調を行おうと思った次第だ。
流石に今から全員分ってワケにはいかないので、これは旅行中の暇つぶしとして、少しづつ作業を進めて行こうと思う。
執事には燕尾服。
料理人たちには白のコックコートを。
庭師にも動き易くて丈夫な、ツナギのような作業着や帽子なんかを作ってあげよう。
警備の連中には……うん、イギリスの近衛兵が着るような、格式漂う制服がいいな!
そんな感じで妄想を膨らませていたら居ても立ってもいられなくなり、結局このあとも屋敷の使用人全員の採寸までしてしまったので、気付けば空もすっかり夕暮れになってしまった。
ちなみに旅に同行することになったソルムだけど……一八三センチという長身もさることながら、九四センチのバストはなかなか圧巻でした……。
とりあえずソルムはそのまま作業部屋に残して、試着してもらいながら色々と衣服や装備品の作成に付き合ってもらった。
「旦那様……これはなんですか?」
錬金術と裁縫スキルの併せ技で作ったゴーグルを、ソルムが不思議そうに見ている。
「それはゴーグルといって、風圧から目を守る物なんだ。つけてごらん」
「凄いです! 綺麗なガラスのおかげで全然視界がぼやけません!」
「マークたちに乗ってる間はかなりの風に当たるから、これで目を保護してね。あとこれも……ソルム、ちょっとしゃがんで」
流石に身長差が三〇センチ近くもあると、長身のソルムにヘルメットを被せるのは困難だ。
前世では一七八センチと、そこそこ長身だったんだけど、今の体は一五五センチと少し小柄なんだよね……。
オレは今出来上がったばかりの鉄製ヘルメットを、膝を曲げたソルムの頭に被せた。
バイク雑誌に乗っていたハーフヘルメットを参考に、鉄を変形させて作った物だ。
中空処理で格子状のフレームも仕込んでいるので、見かけによらず軽くて頑丈な作りにしている。
ちなみにオレとダイルのは普通のデザインだが、ソルムは頭から出ている狼耳があるので、それに合わせて穴を開けて耳が出るようにし、その耳の後ろ側もしっかりとガードする形状にしている。
「変わった感じの兜ですね? それに凄く軽いです」
「これはもし転落した時なんかに備えて頭を守る為の物なんだ。あと服にも鉄で作ったプレートを各所に仕込んでいるから頑丈だよ」
オレは先ほど完成させたばかりのダイル用のライダースーツに視線を送りながら、ソルムに被せたヘルメットの顎紐を締めてやる。
「思ったより重装備な仕立てなのですね……」
「そりゃソルムの体に傷でもついたら大変だからね。準備は怠らないさ」
「旦那様~♪ そこまで私の身を案じて下さるなんて♪ このソルム、感激です♪」
ハハハ、そんな大げさな。
まぁこの屋敷のメイドたちはみんな可愛い子ばかりだし、嫁入り前の体に傷でも付いたら大変だ。
できる限りの準備はしておくよ。
なんて事を思っていたら、背後から凄まじい視線を感じたので振り返ると、他のメイド九人がドアの隙間からトーテムポールよろしく、頭を重ねながら羨ましそうな表情でオレたちの様子を覗いていた。
「「「「「「「「「ソルムだけいいなぁ~~……」」」」」」」」」
ハハハ……こりゃ出発までに、居残り組のメイド全員にも何か作ってあげないとね……。
結局その日の夜、オレは一睡もせずに旅用の装備品だけでなく、メイド全員分のメイド服も完成させた。
デザインはヴィクトリアン風にするかクラシカル風にするか迷ったが、趣味優先でロングスカートのクラシカルにした。
エプロンドレスが可愛いね。
しかもちゃんと獣人娘用に尻尾穴まで仕込んでる快作だ。
勿論パンツも抜かりなく作り上げたことを報告しておこう。
恐らく今までで一番裁縫スキルが炸裂した夜だったかも知れない。
ああ……朝日が眩しいのであ~る……。
高いスタミナのおかげでまだ疲労は感じないが、明日は旅の出発日なので、流石に今夜はちゃんと寝ることにしよう。
ということで、お屋敷生活五日目の開始だ!




