069話:使用人の面子
お屋敷生活四日目。
二日後に地図作製の為の移動旅行を開始すべく、今日明日の内に色々と準備を進めておきたいと思ってる次第だ。
で、それは特に問題ないのだけど…………。
「「「「「「むむむむむ~~」」」」」」
朝食を終えたオレが廊下を歩いていると、獣人メイド六人が壮絶な睨み合い合戦をしていた。
なぜにこのような状況になっているのか?
それは昨夜のお風呂上りにまで時間を遡らなければならない――
「え? やっぱり彼女たちから一人はお供を連れたほうがいいって?」
脱衣所で濡れた体をタオルで拭いながら、そうオレが問いただすと、今回の旅に獣人メイドを同行させる提案をしたリコナが深く頷く。
「はい、獣人族は身体能力もさることながら、特にその……なんと申しましょうか? 野生の本能ともいうべき勘のようなものは、我々亜人種の中でもずば抜けて優秀です。聞けば野宿の多くなりそうな旅の御様子ですし、警護役という側面から見ても、やはりお供として一人同行させていただきたいというのが正直なところです」
「でもそれならマークたちがいるしなぁ……」
「そう仰られては何も言い返せませんが……」
野生的勘や各種能力で言えば、神獣に進化したマークたちの方がはるかに優秀なのは間違いない。
なにせ本物の野生動物だった上に知性まで備わっているんだからな。
それにオレの地図レーダーや各種能力もあるし、わざわざ獣人メイドを連れて行くメリットは全く感じないのが正直な感想だ。
だけどリコナは簡単に引き下がらず、同行させるのを諦める様子を見せない。なんでだ?
ここはちゃんと理由を聞いておくか。
「リコナ、べつに叱ったりはしないから、思ってることを正直に話してごらん」
「……はい……」
リコナの話では、当屋敷の使用人全体の面子というものが大きな理由として挙げられた。
みんなの主であるオレが出かける時は、使用人数名を伴っていくのは普通の話なのだ。
それに今回は数日間も家を留守にする旅だ。
そんな大事なことに使用人が誰一人として随伴させてもらえなかったとなれば、それ即ち、役立たずの烙印を押されたことと同意であり、この屋敷の使用人全員の沽券にも関わる。
つまり誰も随伴させなかったら、彼女たちが周りの人たちから笑い者にされてしまう可能性があるってことだ。
なるほどなぁ…… 今までこんな環境にいたことなかったから気付かなかったけど、使用人を従えるってことは、そういう事まで考えなきゃならないんだな……。
オレ一人が笑われるのならオレ自身で解決できる話だけど、オレの配慮不足でみんなが笑い者にされてしまうのは不本意だ。
もう少しこういうのも注意しないといけないね。
屋敷の主としての自覚不足で、みんなに不安を与えて本当に申し訳ない……。
今度時間のある時に、ハルガスにその辺りの心構えってのを色々と教えてもらおう。
リコナの言い分は理解した。
じゃあ今回は獣人メイドから一人、お供として同行をお願いしようかな。
そのことをリコナに伝えると、ようやく彼女の表情も柔らかくなったようだ。
「私の我儘をお聞き入れ下さり、本当にありがとうございます」
「いやいや、こっちの方こそ不安にさせちゃってごめんね。次からはもう少し気を付けるよ。じゃあ誰が同行するかの選出はリコナに任せるから、決まったらオレに知らせてね」
「かしこまりました。では今回は彼女たちの自主性に任せる方向で、私のほうから知らせておきます」
「わかった。じゃあ頼んだよ」
――とまぁ、そんな話があって、今がこんな状況になってるわけだ。
「私が!」
「わたくしですわ!」
「私!」
「あたいだ!」
「私です!」
「私ぃ~!」
みんな眉間にシワを寄せて凄い剣幕で睨み合う。
こりゃ誰も引き下がりそうにないな……。
そう思っていたら、オレの横で大きく溜め息をつくリコナの姿があった。
「ハァ…… 旦那様、申し訳ございません……。選出は彼女たちに任せると言ってしまったばかりにこのような状況に……」
「なんか余計な気苦労かけちゃったね……」
「面目次第もなく……」
とりあえず揉めている理由は解るし、決める手段がないからこうなってるだけだ。
このまま放っておくと喧嘩でも始めかねないな……。
ここはひとつ、あの方法で決めてもらうとしようかね?
「ハイハイ! みんなそこまで!」
「「「「「「旦那様!」」」」」」
獣人メイドたちの睨み合いを止めさせると、そのまま全員を中庭まで連れて行き、そこで皆にジャンケンのルールを教えた。
「なんという公平な勝負方法でしょう!」
「しかも運任せだけではなく、己の判断力と相手との読み合いという点が素晴らしいですわ!」
「たった三つのサインでこのような攻防が……」
「じゃあみんな! これで負けても恨みっこ無しだぞ?」
「旦那様の提案して下さった勝負方法ですから、そんなことはしません!」
「いざ尋常に勝負ぅ~!」
よし、みんなジャンケンでの決着に同意したようだ。
「じゃあ、決まったらリコナに報告よろしく~。オレは色々と準備するから屋敷に戻るよ」
「「「「「「かしこまりました! 旦那様!!」」」」」」
うん、いい返事だ。
「じゃあみんな行きますよ~!」
「「「「「「じゃ~んけ~ん――――」」」」」」
ルトの号令で六人がジャンケンを始めだしたので、オレは直ぐに踵を返して屋敷に向かう。
これで平和的に問題解決だとその時は思っていた……。
そう、オレは彼女たちの本質を大きく見誤っていたのだ……。




