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第四章 魔剣に取り込まれし者①

 第四章 魔剣に取り込まれし者①

 

 俺はリードと一緒にいつもより豪勢な朝食を食べていた。貯めてあるパーティーの活動資金は七百万ルビィもある。

 

 部室棟の部室を手に入れ、その部室に置いておく物を買い揃えてもまだ余ると思う。もしお金に余裕があるなら、武器も買い代えたい。

 

 特にリードの使い込んだナイフは切れ味がだいぶ鈍っているみたいなので、新しい物に買い代えてやりたい。

 

 イルザのバスターソードも耐久度がだいぶ下がっているからな。

 

 耐久度という面では比類なき安心感を与えてくれるアダマンタイト製の物に代えてやれば、ドラゴンの肉すら叩き斬ってくれるだろう。

 

 良く見ていないので分からないが、セティの細剣もこれから強敵と戦っていくためにはもっと良い物に代える必要があるかもしれない。

 

 そうなると七百万ルビィでも足りないだろうな。

 

 まあ、お金なんてものは使い出せば本当にキリがないし、後悔のないように計画的に使うことにしよう。

 

 俺は頭の中で部室に置いておきたい物を考えながら、ゴールデンボアの肉を使った串焼きを食べた。

 

 この串焼き一本、五百ルビィもするのだ。地上の王都で買った串焼きなんて、一本六十ルビィしかしなかったのに。

 

 でも、味とボリュームはこちらの方が上だから、それも仕方がない。ま、朝から肉をガッツリ食べれば頭も回るようになるってもんだ。

 

 リードもケチャップとマスタードをたっぷりかけたビックサイズのソーセージを何本も食べているからな。

 

 フライドポテトも皿に山盛りになっているし、その横にはコルクを抜いたスパークリング・ワインのボトルもある。

 

 それを見た俺も朝食にこんなにお金をかけるのは今日だけにしておこうと決める。毎日、こんな朝食を食べたらお金も尽きるし、贅沢にも慣れてしまう。

 

 そうなれば身持ちを崩すだけだ。

 

 そんなことを考えていると、部屋にジャハナックが入ってきた。その目はいつになくギラギラと輝いている。

 

「おい、お前ら。何で朝からそんなに良いもんを食ってるんだよ。はっきり言ってずるいし、俺にも分けろ」


 ジャハナッグはパリッと割れるソーセージを見ながら言った。


「別に構わないけど」


 俺は肉汁の滴る串焼きを手にしながら返事をする。


「その様子だと、お前らガナートス王から依頼された仕事をこなして五百万ルビィを手に入れたようだな」


 ジャハナッグはベッドの上に降り立つとそう言った。


「まあな」


 俺はどこか不自然な表情を拵えながら言った。


「となると。やっぱりディンは凄いな。お前がいるだけで何の活動もしてなかった連中が百万ルビィ越えの仕事をやり遂げられたんだから」


 ジャハナッグの称賛には俺も心が嬉しくなった。


「いや、盗賊ギルドの壊滅は俺がいなくても何とかなったんじゃないのか。あいつら迷宮に出て来るリザードマンよりも弱かったし」


 だからこそ、自分がしてしまったことに後悔の念を感じているのだ。


 もし、盗賊ギルドの連中が死に物狂いで倒さなければならない連中だったら、俺もあそこまで悩みはしなかっただろう。

 

「そうなのか」


「ああ。でも、俺は今回の仕事で人を殺しちまったんだ。それも殺さずに無力化できたような学院の生徒を」


 俺はジャハナッグにはそのことを正直に話した。


「そうか。ま、そういうことはあんまり気にしない方が良いぜ。冒険者を本気で続けていくなら、人を殺さなきゃならなくなることもたくさんあるし」


 ジャハナッグはありきたりな言葉を返してくる。これには俺も少しがっかりしてしまった。


「それは分かってるんだけど、俺が人を殺した時はまったくその覚悟ができていなかったんだ。だから、かなりショックを受けたよ」


 俺が盗賊ギルドの首領を殺したのは完全な不注意だったし。


「でも、朝から、そんなにでかい肉の串焼きを食べているところを見ると、もう立ち直ったんだろ?」


 ジャハナッグは大きく舌なめずりをした。


「まあね。ガルバンテス先生のおかげで、暗い気持ちを引きずらなくて済んだよ」


 ガルバンテス先生があそこにいてくれたことには救いを感じる。


「それは良いことだが、お前が学院の生徒を殺したって話が広まれば、白い目で見られるのは避けられないだろうな」


 ジャハナッグの目が急に険しくなった。


「それは理解している」


「だと思うが、問題なのはそれだけじゃない。今まではどんなに風紀が乱れても、学院の生徒同士が殺し合うことなんてなかった」


 ジャハナッグは滔々と言葉を続ける。


「でも、お前がそれをやったことで、みんなも悪い影響を受けちまうかもしれないな」


 俺が学院の生徒を殺したことは必ず知れ渡るだろう。隠せるようなことではないことは分かっている。


「それも理解しているよ。だからこそ、俺は二度と同じ失敗を繰り返さないようにしなきゃならないんだ」


 俺は握り拳を作ると力強く言葉を続ける。


「次も人を殺してしまうようなら、俺に続くような人間が現れかねないからな」


 それだけはあってはならないことだ。


「そう心懸けるしかないよな」


 ジャハナッグは哀愁を漂わせるような顔で言うと、更に口を開く。


「ま、ゼラムナート様なら人を殺す生徒が現れたとしても、仕方がないで済ませちまうんだろうけど」


 ジャハナッグもゼラムナートのやり方には不満を持っているようだった。


「仕方がないで済ませて良い人殺しなんてあるのかな」


 俺はボソリと呟いた。


「ないな。ま、そこら辺はやっぱり人間の心の持ち方にかかってくる。人殺しが駄目だと分かっているなら、口じゃなくて行動で示すべきだ」


 ジャハナッグの正論すぎる言葉に、俺も何も良い返せなくなった。


「難しいな」


 俺はそう声を絞り出した。


「だろうな。俺も今の学院を見ているとこのままで良いのか、って思う時があるし、じわじわと生徒たちの心が腐敗していくのを感じるよ」


 ジャハナッグは危機感を覗かせる。


「でも、その腐敗を生みだすのに一役、買っているのがお前やゼラムナートなんじゃないか。自分たちのことを棚上げするなよ」


 俺の言葉にジャハナッグは道化染みた笑みを浮かべた。


「そりゃそうだ」


 ジャハナッグは一本取られたとでも言いたそうに笑った。


「ジャハナッグもディンが人を殺したことについては、あれこれ言わないでくれよ。また、昨日みたいにどんよりした顔されたら困るし」


 そうフォローするような言葉を差し挟んだのはリードだった。


「俺はディンと毎日、顔を突き合わせなきゃならないルームメイトなんだから、この部屋に辛気くさい空気が漂うのはご免だぜ」


 リードはソーセージをパリッと齧りながら言った。


「そうだな。ま、過ぎたことを蒸し返してグチグチ言うのは俺の柄じゃないし、そのことについてはもう何も言わないことにしてやる」


 ジャハナッグは切り替えの早さを見せながら言葉を続ける。


「とにかく、そこにあるソーセージを食わせて貰うぜ。塩っ気があって旨そうだ」


 そう言うと、ジャハナッグはソーセージを口の中に放り込んでパリパリと音を立てると何とも幸せそうな顔をした。


「ディン、起きてるー」


 そう言って入り口のドアを開けたのはセティだった。


「セティたちか。今日も朝から来てくれるなんて、気合いが入ってるな。ま、そうでなきゃ俺も困るけど」


 俺はセティたちが今日も何の遠慮もなしに部屋に入ってくるのを見て、苦笑した。


「アタシたちだって心配してるんだからね」


 セティは両手を腰に当てながら声を大きくする。


「昨日はあんたも人を殺しちゃったでしょ。しかも、その後のあんたはほとんど口を開いてくれなかったし」


 セティは皿にあったフライドポテトを摘むとそう言った。


「そうだよ。私たちも罪の意識はちゃんと感じてるんだよ」


 カロリーヌはジャハナッグの頭に触ろうとしながら言葉を続ける。


「もし、私たちがもうちょっと腕が立つ冒険者だったら、ディンが人を殺すこともなかったって思っちゃうし」


 カロリーヌがジャハナッグの頭に触ると、ジャハナッグは猫のように目を細めた。


「私も昨日は自分の未来を見たような気分になったな。剣を振るい続ければ人を殺さなければならないような機会は必ずやって来る」


 イルザは俺の顔から視線を逸らさずに言葉を紡ぐ。


「その時は私も上手く立ち回れば大丈夫だと気楽に考えていたが、そんな考えは昨日の君を見たら吹き飛んでしまったよ」


 俺が反面教師のような役割を果たしたと言うことか。


「やはり、剣の道は一筋縄ではいかないな」


 イルザは嫌味のない感じで肩を竦めた。


「そうか。みんなには本当に心配をかけてしまったな。でも、もう立ち直っているから変な遠慮はしないでくれ」


 俺は声を張り上げて言った。


「そう。だったら、今日もはりきって活動するわよ。まずは部室棟の部室を明け渡して貰いに行くのよね」


 セティはウキウキした声で言った。


「ああ。お金は十分あるから、のんびりせずにさっさと部室を手に入れてしまおう」


 俺は善は急げたと思いながら言葉を続ける。


「もし、あんな苦労をして金を手に入れたのに先を越されたら、それこそ自分を呪いたくなるからな」


 一足違いなんてことになるのはご免だ。


「だよね。とにかく、部室棟の部室を手に入れたら、焜炉と二段ベッドは必ず置くようにしないと。そうすれば、私とセティはそこで暮らすようにするから」


 カロリーヌも朝になったらコーヒーを入れたりするのだろうか。


「もちろん、それでも構わないよね」


 カロリーヌは上目遣いで俺を見た。


「ああ」


 綺麗に使ってくれれば、俺も反対はしない。


「他にもテーブルや棚と言った物も必要になるだろうな」


 イルザは唇に指を這わせながら言葉を続ける。


「私も調度品に金をかけるような趣味はないが、買うべき物はお金を惜しまず買った方が良いだろう」


 その意見には賛成だ。


「私も部室を優雅なティータイムを楽しめるような空間にしたいからな」


 イルザと同じように、俺だってせっかく手に入れた部室は良い場所にしたい。そのためのお金なら、出し渋るようなことはしないし。


「俺はこれと言った要望はないな。ま、トランプも飽きてきたし、チェス盤なんかを買ってくれると嬉しい気もするが」


 リードはチェスもやるのか。


 なら、もっと早く教えてくれれば良かったのに。

 

 ちなみに俺もチェスは爺さんと良くやった。ま、プロ級の腕前の爺さんに勝てたことは一度もないけど。

 

「チェスなら私もてきるぞ。しかも、かなりの腕前だと自分では思っているし、何なら勝負してみるかな、リード」


 イルザは優艶な笑みを浮かべながら言った。


「別に構わないぜ。もし、俺に勝ったら、一回だけ何でも言うことを聞いてやる。俺だって自分の腕に自信がないわけじゃないからな」


 リードも喜色を浮かべる。二人の勝負は俺も楽しみだな。


「それは面白そうだ」


 イルザは目を伏せてフフッと笑った。


「俺は大きな本棚を置きたいよ。俺は図書室で本を借りて読んでるくらいだから、町で本を買ったら、それを綺麗に並べておきたいし」


 俺が読んだ魔界の人間が書いた本はなかなか面白かったからな。置く場所に困らなくなったら、もっと積極的に買ってみようと思う。


「だとすると、必要な物を全部、揃えたら貯まっている七百万ルビィは綺麗になくなりそうだな」


 イルザは頭の中で計算したのかそう言った。俺は全部、買っても八十万ルビィくらいは残ると計算していたけど。


「ま、ホームを手に入れたことを記念するパーティーは開きたいから、その分のお金くらいは取っておきたいが」


 イルザだけでなく、みんなも宴会を開きたいというなら、俺も自分の財布からお金を出してやっても言い。


「そうだな」


 俺はそう言って笑みを零すと、残っていた串焼きを平らげた。


《第四章① 終了》



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