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第二章 新しいパーティーの結成⑥

 第二章 新しいパーティーの結成⑥


 俺たちは第四階層の迷宮に潜っていた。今のところはモンスターも出てこないし、歩いている通路は静かなものだった。


 でも、何が出てきても良いように警戒はしている。


 まあ、いざ、モンスターと戦うことになっても俺一人の力で何とかなるだろう。もちろん、セティたちの方にモンスターが殺到したら守りきれるものではないが。

 

 やっぱり、みんなの命を預かるというのは精神的にしんどいものがあるよな。リーダーのハンスもいつもこんな気持ちだったのだろうか。

 

 今なら、ハンスが俺にリーダーの座を何度も譲ろうとしたのが分かる気がするし。でも、弱音ばかりを口にしてはいられない。

 

 もう俺たちのパーティーは動き出しているんだから。

 

 俺が先頭に立ちながら歩いていると、沈黙に耐えきれなくなったのかリードが陽気に口を開く。


「やっぱ、迷宮の中にいると緊張するな。俺なんて迷宮には本当に久しぶりに足を踏み入れたから、胸のバクバクが止まらないぜ」


 リードは二本のナイフを手にしていた。


 戦いに慣れていない人間ほど、安心感を求めて常に武器を手にしていたがるとハンスも言っていた。

 

 リードはその典型的な例だな。

 

「アタシも何だか、肌がピリピリしてるのよね。ていうか、リードは迷宮に潜ったことがあるの?」


 セティは胡乱な目でリードを見た。


「あるさ。もう、かなり昔のことになるが、大きなギルドに所属していたこともあったからな」


 それは俺も聞いていた。


「もっとも、ポーカーでイカサマをやったせいで、すぐに追い出されたが」


 リードは少し緊張感が解れたように笑った。


「ふーん」


 セティは何か言いたそうな顔をする。


「でも、私たちだって似たようなものだよね。ここ三ヶ月間、一度も迷宮の中に潜ったことがなかったし」


 カロリーヌは腰に棘のある金属製の鞭を下げていた。あれで叩かれたら、人間の皮膚なんて簡単に引き裂かれてしまうだろうな。


「ああ。とはいえ、私はモンスターなど恐れはしない。ただ、剣の腕を磨きたいがためにモンスターの命を奪うのはどうしても抵抗があってね」


 まあ、超然としているイルザも一応、女の子だからな。


「だから、今まではずっと修練場で剣の鍛錬をしていたよ」


 イルザはあのギュネウスとも日常的に剣を交えていたのだろうか。


「ま、時間をかければ迷宮の空気にも慣れるさ。もっとも、慣れたからと言って緊張感を失ってしまうのは良くないけど」


 俺はみんなを勇気づけるように言った。


「そうか。でも、ディンがいれば大丈夫だよな。ディンはSランクの冒険者だし、どんなモンスターでも一人で倒せるんだろ?」


 リードが縋るように問い掛けた。


「でも、みんなを庇いきれる自信はないからな。だからこそ、みんなにも自分の身を守るくらいの戦いはして貰わなきゃならない」


 でないと、みんなの実力を見るという目的も果たせないし。


「アタシも足手まといになるつもりはないわよ」


 セティは気丈な声を上げる。


「ディンの結成するパーティーのメンバーになると決めた時から、命を賭けて戦う覚悟はしてあったし」


 セティは芯の通った目で言った。


 こういうところを見せられると、セティも意外としっかりした心を持っているんだなと思ってしまう。

 

「私はお金と刺激が欲しいだけだから、覚悟なんてないけどね。ま、面倒くさがりのセティがやる気を出してるなら、私もやらないわけにはいかないよ」


 カロリーヌも触発されたように言った。


「そうだな。私も殺しは嫌いだが、自分の剣の腕がどこまで通じるか試したいという気持ちはある」


 イルザはバスターソードの柄に手をかける。


「なら、綺麗事ばかり言っていないで、モンスターの体も叩き斬ってやるさ」


 イルザは剣気を放つように言った。


 そんな話をしていると、リザードマンたちが現れた。その数、五匹で、きちんと武器と防具を身につけている。


 ハンスたちなら問題なく倒せる相手だが、セティたちではどうか。


「このリザードマンたちはみんなにとっては、けっこう手強い敵になるはずだ。だから無理をせずに戦ってくれ」


 俺は顔の表情を引き締めながら言葉を続ける。


「声をかけてくれれば、すぐに俺が助けに行くから」


 俺がそう言うと、みんなも声は出さずに頷いた。それから、リザードマンたちが一斉に俺たちへと襲いかかって来る。


 それを受け、俺はとりあえず出鼻を挫いてやろうと、一番前のリザードマンに身を躍らせるようにして斬りかかった。


 そのリザードマンは皮の盾を使って俺の斬撃を防ごうとした。


 が、俺の旋風のような斬撃は皮の盾を切断して、そのままリザードマンの胸をかっさばいた。

 

 そのリザードマンは血飛沫を上げながら崩れ落ちる。

 

 すると、今度は他のリザードマンが鋭く槍を突き出してきた、が、俺は体を斜めに捌いて槍の穂先を避けると強烈な振り下ろしをお見舞いする。

 

 その一撃は槍を引き戻せないリザードマンの頭を叩き割った。

 

 残りのリザードマンは俺の横を通り過ぎて、後ろにいたセティたちに襲いかかる。それは的確な判断だと言えた。

 

「フッ、この私のバスターソードの一撃をそんな動きで受けとめきれるかな」


 イルザはそう言うと、肉厚なバスターソードを振り下ろした。


 その轟雷のような一撃はリザードマンの剣を木の枝のように叩き折って、残った体を一刀両断にした。

 

 そのリザードマンは脳天から股間までを二つに分けられて倒れる。

 

「さすがイルザだね。私も負けていられないし、このリザードマンたちは炎でバーベキューしてやるんだから」


 カロリーヌは斧を振り下ろそうとした、リザードマンの腕に鞭を叩きつける。すると、リザードマンの腕の鱗が破れて、血が噴き出した。

 

 その痛みに耐えかねたのかリザードマンは斧を落としてしまう。


 すると、カロリーヌの掌から紅蓮の炎を生まれ、それは斧を落としたリザードマンに放たれた。

 

 その炎はまるで生き物のようにリザードマンの体を包み込む。

 

 そして、轟々とした炎はリザードマンの体を焼き尽くした。アリスの魔法とは違って、その炎には粘り着くような勢いがある。


「最後の一匹はアタシの獲物よ。串刺しにしてあげるから掛かってきなさいよ」


 セティは速やかな動きで、リザードマンに接近すると細剣を突き出した。細剣の切っ先は目にも映らないような早さで、リザードマンの脇腹を貫く。


 が、リザードマンも負けてはおらず、かぎ爪でセティの体を切り裂こうとした。


 が、セティは慌てることなく剣を引き抜くと、リザードマンの喉に銀の煌めきを見せる一撃をお見舞いする。

 

 リザードマンはかぎ爪を振り下ろしきれずに喉を貫かれて後ろへと倒れた。


「面倒くさいなんていう暇もないくらいの雑魚だったわね。つーか、アタシもけっこうやれるじゃない」


 セティが自信を付けてくれたのは俺としても嬉しいところだな。


「ああ。私も一撃でリザードマンを屠って見せたからな。これも日々、欠かさずに鍛錬を続けてきた成果だよ」


 イルザは自負を込めて言った。


「私は炎の魔法の威力を制御するのに少し手間取っちゃったけどね。でも、鞭さばきの方はたいしたもんだったでしょ?」


 カロリーヌの鞭は正確にリザードマンの腕を打ち据えたからな。あれには一瞬、俺も目を奪われた。


「で、結局、俺の出番はなしかよ。みんなが戦ってるのに一人で突っ立ったままなんて、格好悪すぎたぜ」


 リードはきまり悪そうな顔をした。


「そう思うなら、このリザードマンたちの武器は持って帰ってくれ。それも大事な仕事だからな」


 俺がそう言うと、リードは頬をボリボリと掻きながら頷く。


「おう」


 リードは微妙な表情で笑った。


 その後、俺たちは息を整えるとまた歩き始める。


 デュラハンのいる部屋はここから近いところにあるので、あと五分も歩けば辿り着けるはずだ。

 

 そして、俺たちは特にモンスターと出会うことなく、デュラハンのいる部屋に足を踏み入れる。


 そこには立派とも言える鎧が仁王立ちしていて、かなりの威圧感を放っていた。


「こいつがデュラハンか。想像していたよりも、大きな体をしているし、剣の攻撃力もかなりのもと見た」


 デュラハンの体は人間では絶対に身に付けられないような大きさの鎧でできている。しかも、数々の本で読んだ通り、頭部は存在しなかった。


 そして、その手には二メートルを超える剣が握られている。死霊系のモンスターはやっぱり不気味だな。


「ディンとリードはデュラハンとは戦わないでくれないか。ここは私たち【ハッピー・レンジャー】の力を見せたい」


 イルザは涼やかな声で言った。


「そうね。アタシもまだ体力が有り余ってるし。ま、さっきみたいにディンに活躍されたら、アタシたちの出番もなくなるし、ここは任せてよ」


 セティも面倒くさがりな割りには好戦的なんだよな。


「うん。今度は手加減なんてしないで、思いっきり凄い威力の魔法をぶつけてやるんだから」


 カロリーヌは掌にメラメラと音を立てる大きな炎の球を作り出した。


「そういうことなら、俺はここで見てることにするぜ。俺の実力は無理してまで披露するもんじゃないからな」


 リードは両手が拾い集めた武器で塞がっていたので首を竦めた。


 そして、俺たちがそんな話をしているとデュラハンがガシャガシャという音を立てながらこっちに向かってくる。


「俺も今回の戦いは三人に譲る。だから、思う存分、力を出し切ってくれ。ただし、危ないと思った、俺もすぐに加勢するからな」


 俺がそう言うと、カロリーヌは「私たちを甘く見ないでよ」と叫んで特大の炎の球をデュラハンに放った。


 それは真っ正面からデュラハンにぶつかると大爆発する。業火に包まれたデュラハンの体は吹き飛ばされた。

 

 それを受け、イルザは追い打ちをかけるように走り出す。超重量のバスターソードを持っていても、なかなかのスピードを見せてくれるな。

 

 デュラハンが炎を掻き消して立ち上がると、イルザは大剛の如き一撃をデュラハンの体に叩きつけた。

 

「私の一撃、特と味わうが良い」


 イルザの放った一撃はデュラハンの鎧を陥没させる。

 

 が、デュラハンも負けてはおらず、反撃に打って出るように大剣をイルザに叩きつけた。だが、イルザはその一撃を真っ向から受けとめて見せる。

 

「まだまだだな。この程度の攻撃では私に地を舐めさせることはできんよ」


 そう口にするイルザは驚くことに、バスターソードに両手を添えて、デュラハンの大剣を受けとめていた。


 たいした剛力だな。

 

 一方、セティは刀身が光り輝いている細剣でデュラハンに突きかかった。細剣の切っ先が触れるとデュラハンの鎧が溶ける。

 

 あの輝きを見るに、セティは光属性を剣に付与しているのだろう。だから、闇属性のデュラハンの鎧が溶けたのだ。

 

 デュラハンの鎧は金属ではなく魔法の力で編み出されたものらしいし、それなら同じ魔法の力は十分、効く。

 

「アタシ、面倒なことは嫌いだからさっさとカタを付けさせて貰うわよ。学院に戻ったら、痒い頭も洗いたいし」


 そう言うと、セティは畳みかけるようにデュラハンに突きを浴びせた。その突きは無数の奇跡を生み、まるで流れ星のように見えた。

 

 デュラハンの体に幾つも穴が空く。

 

 もちろん、イルザも負けておらず、バスターソードを軽々と振り上げて、それをデュラハンの体に叩きつける。

 

 デュラハンの体が大きく陥没した。

 

 後退するデュラハンだったが、すぐに態勢を立て直すと、執拗に接近してくるセティに大剣を何度も振り下ろす。

 

 だが、セティはしなやかな動きで、大剣による攻撃をことごとくかわした。

 

「そんな攻撃じゃ、アタシの体は捉えられないわよ」


 そう言い切るセティの目は猫のようだった。


 イルザも標的になっているセティの前に立つと、デュラハンの大剣を真っ向から受けとめて見せる。

 

「力勝負なら、私の出番だ。さあ、もっと力を練り込んで斬りかかってくるが良い」


 イルザは胆力を見せるように言った。


 その隙にセティは軽やかな動きで、残映を生み出す突きを繰り出した。セティもイルザもピッタリと息が合っている。

 

 さすが、一緒のパーティーにいただけのことはあるか。

 

 そして、カロリーヌが「行くよ!」と叫び、再び特大の火球を放つと、すぐさまセティとイルザはデュラハンと距離を置くように後ろへと跳躍した。

 

 すると、特大の火球がデュラハンの体と激突し、空間が撓んだように見える大爆発が起きる。

 

 凄まじい爆風が部屋の中を荒れ狂った。

 

 そして、爆炎の中から現れたデュラハンはボロボロになっていて、完全に満身創痍の状態に陥っていた。

 

「ふー、すっきりした。やっぱり、炎系の魔法は使うとストレスが発散できるよね」


 カロリーヌは元気の良い笑みを浮かべた。


 一方、デュラハンは大きなダメージを負いながらも大剣を手にセティたちの方に前進してくる。

 

 が、その動きは滑らかさに欠けていた。

 

 それを受け、イルザは止めを刺すためにバスターソードを高々と振り上げると、裂帛の気合いを見せるようにデュラハンの体に剣を叩きつけようとする。

 

「まあ、なかなか楽しめたよ。ただ、私を相手にするには、君は力不足だったな」


 そう言い放たれるのと同時に繰り出された斬撃は、デュラハンの体を叩き割ってスクラップのようにバラバラに分解した。

 

 結果、デュラハンは壊れた人形のようになり、沈黙する。

 

 そして、力尽きたデュラハンの体は黒い粒子となって分解されていき、最後には初めから何もいなかったかのように消えた。

 

「みんなやるじゃないか。というか、それだけの力を持っていながら、どうして不活発な状態に陥っていたんだ」


 俺は目をまん丸にしながら言った。


「アタシは面倒くさいことは嫌いだから」


 セティはだらけたようなポーズを取りながら言った。


「私は迷宮で戦うよりも、手芸部でお洒落な服を作ったりする方が好きなんだよね。もちろん、魔法を使うのも嫌いじゃないけど」


 カロリーヌは掌に小さな炎の球を作り出しながら言った。


「繰り返すようだが、私は剣を振るうのは好きだが殺しは嫌いなんだ」


 イルザは真っ直ぐな目で言葉を続ける。


「だから、自分を強くするためだけに、モンスターと戦っている連中を見ると、どうしても苦いものを感じてしまってね」


 イルザも女の子らしく潔癖なところがあるみたいだな。


「あのガルバンテス先生も剣の力は誰かを守るためにあると言っていた。私もその考え方に影響されたのかもしれないな」


 イルザは自嘲するように笑った。


「っていうか、この中で一番、頼りないのって俺だろ。俺、ディンのパーティーに入るのを考え直しても良いかな」


 リードが焦りを感じさせるように言った。


「もう遅い。貸してやった金を三倍にして返すまで、お前がこのパーティーから抜けるのは許さないからな」


 俺は強い口調で言った。


 もう、パーティーとしての登録はしてしまったのだ。今更、抜けることを許してなんてやれるものか。

 

 それを聞いたリードは項垂れたが、俺は気遣ったりはしなかった。


 ここは心を鬼にしないとな。


 その後、俺たちはモンスターと戦うことなく無事に学院に戻り、七十五万ルビィの報酬を手に入れたのだった。


《第二章⑥ 終了》



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