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プロローグ

 プロローグ


 アルカンデュラを倒した数日後、レイシアを失った悲しみも癒えた俺たちはオリヴィエの頼みを正式に引き受けることにした。


 結果、俺たち一人一人がリーダーとなって、学院にいる不活発の冒険者に対して指導と育成をしていくことになった。

 

 手探りの毎日がまた始まるのかと思うと、ちょっと心配にもなったが、学院のためを思えば乗り越えて見せるしかないだろう。

 

 ちなみにオリヴィエの頼みを引き受けた対価として、俺たち全員は学院の寮の部屋を与えられた。

 

 これで一人、伸び伸びとプライベートな生活を満喫することができる。と思ったら、俺に宛がわれた部屋にはルームメイトがいた。

 

 オリヴィエはどうしても嫌なら、ルームメイトを別の部屋に移動させても良いと言ってくれた。

 

 が、俺もさすがにそこまでして貰うわけにはいかないと思い、仕方なくルームメイトと一緒の部屋で我慢することにした。

 

 そのルームメイトというのがリード・リーゼンベルドというお調子者の男子だったので、しつこいくらい話しかけられた。

 

 でも、三日もすればそれも慣れたので、今はこうしてトランプのポーカーに興じている。しかも、相手はリードだけでなく悪竜ジャハナッグもいた。

 

 ジャハナッグは悪神ゼラムナートの命令で俺を監視している…。らしいのだが、今は俺のペットのような存在に成り下がっていた。

 

 しょっちゅう、俺の部屋に来ては買い置きのお菓子を食い散らしていくからな。しかも、俺のベッドで丸くなって寝ていることもある。

 

 こういうところはフィズを思い出す。

 

 だが、フィズもここまで明け透けな態度は見せたりはしなかったし、俺とは適度な距離を保っていた。

 

 なのに、ジャハナッグにはそういう遠慮みたいなものが全くないのだ。

 

 ま、この辺も慣れてしまえばリードと大差はない。

 

 でも、ハンスたちにルームメイトはいないというのだから貧乏くじを引かされているような気もしてしまう。

 

 ちなみに現在の俺はハンスたちとは距離を置いている。ハンスたちの顔を見ると、また彼らを頼りたくなってしまうからだ。

 

 だから、次にハンスたちと会うのは自力でパーティーを結成できた時だと俺も決めていた。

 

「ったく、今日もつまらねぇ毎日だったよな。パーティーを組んでる連中はもう第三階層の町の中に入ってるって言うのに、俺たちは今日もポーカーかよ」


 リードはポテトチップスを食べながら、手札のカードと睨めっこをしている。


 そんなリードは茶髪にタレ目をしているごく普通の男子生徒だ。性格の方もアクの強さは感じさせないし。

 

 それに高等部の一年生だったので、俺もあまり気を遣わなくてすんだ。

 

「そんなことを言ってもしょうがないだろ。リードも町に行きたかったら、どこかのパーティーに入れて貰えば良いのに」


 俺はもう何度目かになるリードの言葉を聞いて、辟易した。


「そうしたいさ。でも、俺にはたいした実力はねぇし、賭ポーカーでイカサマをしたせいでトップギルドの連中には睨まれてる」


 俺との勝負で使ってきたイカサマは簡単に見破ってやったけどな。ま、トランプではイカサマもテクニックの内だ。


「そんな奴を入れてくれるようなお人好しのパーティーなんてありはしないさ」


 リードは肩を竦める。


 現にリードは迷宮での仕事は何もしていない。パーティーにも入っていないので、冒険者ランクの適応も受けられない。


 つまり、迷宮に入ること自体ができないのだ。


 俺もこういう奴が生活保護のお金を支給して貰ってのうのうと暮らしていることには、少し複雑さを感じてしまうが。

 

「なら、自業自得だと思って諦めるしかないな」


 俺は手札を二枚チェンジした。それから、回ってきた手札を見て、ほくそ笑みたくなったが何とか堪えた。


 ポーカーフェイスは苦手じゃない。


「そういうお前は何で第三階層の町に行かないんだよ。お前はSランクのパーティーの冒険者だし、一人でも転移の魔方陣には入れるだろ」


 リードは当然の如き疑問をぶつけてくる。


 新しいパーティーを作ることになった俺だが、前のパーティーの冒険者ランクの適応はちゃんと受けているのだ。

 

 その点はオリヴィエも保証してくれたからな。ま、俺やハンスたちは別にパーティーを解散したわけじゃないし。

 

 リードにもその辺の説明はしっかりとしてある。

 

「新しい階層じゃ何が待ち構えているか分からない。だから、一人でノコノコ行く気にはなれなかっただけさ」


 ハンスたちがいれば話も違ったんだろうけど。


「でも、そんな俺の代わりに、みんなが我先にと新しい階層に足を踏み入れてくれる。おかげで何もしなくても新しい階層のことが分かるんだから、大助かりだよ」


 本当に助かっているのだ。


 第五階層や第四階層を制覇できたのも、他のパーティーやギルドが、様々な情報を集めてくれたおかげだからな。

 

 目には見えない形で、力になってくれた連中はたくさんいるのだ。

 

「競争心のようなものに煽られないのが、お前の良いところかもしれないな。正直、本業の冒険者としての貫禄を感じるぜ」


 リードはニカッと笑った。


「そっか。何にせよ、俺は誰の力を借りても迷宮を制覇したい。そのためには余計な欲は掻かない方が良いんだよ」


 ただ、迷宮から脱出したいのではない。迷宮を制覇した上で地上に戻りたいのだ。


 でなければ、どんなに恨まれようと、あのパーティーの日にラムセスの甘言に乗って地上に戻っていた。

 

「それもそうだな」


 リードは納得したように頷くと口を開く。


「とにかく、ディンは新しいパーティーを結成しようとしてるんだろ。その中には俺も入れて貰いたいね」


 リードは少し皮肉っぽく言った。


「別に構わないよ。リードの二本のナイフさばきはかなりのものと見たからな。ポーカーでイカサマを止めるって言うんなら、入れてやるさ」


 ナイフを使った戦いならリードもチェルシー以上の活躍ができそうだ。


「そいつはありがたい」


 リードが笑うと、ジャハナッグが鋭い牙を見せながら声を上げる。


「おい、俺の手札はスリーカードだぞ。くだらない話をしてないで、さっさとお前らの手札をオープンにしろよ」


 ジャハナッグはそう急かしてきた。くだらないとはあんまりなない言い草だが。


「俺はツーペアだ」


 リードは投げやりに言った。


「俺はフラッシュだよ。この勝負は俺の勝ちだな」


 俺はニヤリと笑った。


 ま、賭けているのは厚切りのポテトチップスなので、勝っても、そこまで嬉しいわけじゃないが。

 

「ディンってポーカーも強いんだな。やっぱり、勇者シュルナーグの血筋は伊達じゃないってことか」


 リードは俺の肩をバシバシと叩いた。


「爺さんの血とポーカーの腕前は関係ないさ」


 俺は肩の痛みに顔をしかめる。


「そういや、遙か昔のことだがシュルナーグっていう竜神がいたな。ディロンとかいう冒険者に倒されたって聞いたが」


 ジャハナッグはぼやくように言った。


「ディロン・ディルオールは俺の爺さんの本名だよ」


 俺の心臓の鼓動も早くなる。


 その言葉を聞いたジャハナッグは元々、鋭かった目を更に鋭くさせた。だが、リードはそんなことには気付かない。

 

「へー、そのディロンが今は自分のことをシュルナーグって名乗ってるのか。何か曰わく付きがありそうだな」


 リートが興味深そうに言った。


「ドラゴンを倒した奴は不老不死になれるって話はお前たちも良く聞くだろ。それは、そいつが倒したドラゴンの力を手に入れられるからなんだが」


 ジャハナッグは歯切れの悪い口調で言うと、俺から視線を逸らした。


「どういうことなんだ?」


 俺はジャハナッグを突き刺すような目で見る。何か知っている事実があるなら、隠さずに教えて貰いたい。


「ひょっとしたら、お前の爺さんは人間を辞めているかもしれないぞ」


 ジャハナッグの言葉に、俺はゾクッとした。


「竜神シュルナーグと合一の存在となったから、自分のことをシュルナーグと名乗っているのかもしれないし」


「そんなことは…」


「ないとは言い切れないだろ。大体、それだけの力がなくて、あの魔王アルハザークが倒せるものかよ」


 ジャハナッグの言葉にはすぐには反論できなかった。


「うーん。でも、爺さんはちゃんと歳を取ってたからな」


 爺さんの老いの影はちゃんと俺も見ていたし。


「歳を取っているように見せることなんて幾らでもできるぞ。現に俺だって人間の姿に化けることができるんだから」


「本当なのか?」


 俺はあっけらかんとした顔をする。


「俺はドラゴンと思われているんだが、実は悪魔なんだよ。だから、生き物の持つ枷は何も嵌まっていない」


 ジャハナッグは淡々と言葉を続ける。


「例え体が砕け散るようにして死のうと、悪神ゼラムナート様の力があれば何度でも元通りに復活できるからな」


 それは羨ましい。でも、生き物の枷がない割りには、食い意地が張ってるよな。


「その点、竜王ガンティアラスは本物のドラゴンだったよ。ラムセスの力で延命はされていたようだったが」


 ジャハナッグの言葉に俺の胸が痛んだ。


「そうか」


 俺は下を向いた。


「こうして考えてみると、この迷宮にはけっこう凄い奴らがいるんだよな。俺たちの置かれている状況がそんなに楽しいって言うのかよ」


 リードはむくれたような顔で言った。


「楽しいんじゃないのか。少なくとも俺はそう思っている」


 ジャハナッグならそうだろうな。


「ただ、ゼラムナート様はもっと深い考えを持って、この学院の人間に手出しをしているようなんだ」


 ジャハナッグに言われずとも、神々の行動には何か裏があるに違いないことは俺も感じ取っていた。


 とはいえ、今の俺にはそれがなんなのか、想像も付かないが。


 俺はリードとジャハナッグの分のポテトチップスを自分の皿に移すと、空恐ろしさを感じているような顔をした。


「ま、どのみち今のお前たちは、迷宮を制覇するしかないんだ。誰を敵に回そうと、打ち勝って見せるしかないぜ」


 ジャハナッグは牙を覗かせながら言った。


「分かってる」


「もっとも、お前がゼラムナート様の敵になるって言うなら、俺もお前を食い殺すしかないけどな」


 ジャハナッグの目が遠くなった。


「俺はフィズのような甘ちゃんとは違う。殺すべき相手は、何があっても容赦なく殺す。だからこその悪竜だからな」


 ドラゴンはどうにも頑固なところがあるんだよな。フィズだって無理して俺と戦う必要はなかった気がするし。


「お前が敵に回らないことを祈っているよ」


 人間と同じ知性を持つドラゴンを殺すのは良い気分じゃない。


「そうしてくれ。俺だって進んでお前の敵になりたいわけじゃないからな。お前のことはそれなりに気に入ってるし」


「だから、俺のところに押しかけてくるのか」


 ジャハナッグは歌って踊れるクラブの用心棒をしているが、そっちの仕事はちゃんとやっているのだろうか。


「そんなところだ。ドラゴンに気に入られちまうのも、竜神と合一したシュルナーグの血を受け継いでいるからかもしれないぞ」


 竜神の血が流れているなんてぞっとしない話だ。


「俺に特別な力なんてないさ」


 俺は力なく言うと、リードがイカサマをしないように自分でトランプを切り始めた。


《プロローグ 終了 第一章に続く》




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