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第四章 更なる力を求めて⑥

 第四章 更なる力を求めて⑥


 その夜、俺とハンスとカイルは汗や汚れを洗い落とすために一緒に浴場へと足を運ぶことにする。


 そして、辿り着いた更衣室で服を脱ぐと、俺たちは裸で浴場へと入り、大きな風呂のお湯に浸かった。

 

 運が良いことに、風呂には俺たち以外の生徒はいなかったので、人目を気にすることなく伸び伸びすることができた。

 

 カイルも誰かに聞かれる心配がないためか、大きな声で話し始める。

 

「そう言えば、こうして三人で風呂に入るのは初めてだよな。ま、裸の付き合いって言うのもたまには悪くないぜ」


 カイルは顔を洗いながら言った。


 ちなみに石けんは浴場には置かれていないので、自分たちで持ってくるしかない。

 

 でも、石けんは値が張るんだよな。なので、西館の校舎にある店で石けんを半額で買えたのは助かった。

 

「そうだな。僕は眼鏡が曇るからお風呂に入るのはあまり好きじゃないんだ。眼鏡がないと、一メートル先も見えなくなるからね」


 ハンスは風呂の中に入りながらも眼鏡をかけていた。でも、眼鏡のレンズは曇ってしまっている。


 ま、ハンスの眼鏡のフレームは特殊な合金できているというので、水に濡れてもそう簡単には錆びたりはしないらしいが。


「だから、そういう時はしょっちゅう何かにぶつかったりするんだよ。爪先を壁にぶつけて、骨折したこともあるし、あれは苦い記憶だ」


 ハンスは眼鏡を外すと、定まらない視線で俺の顔を見た。


「そっか。俺の家にも風呂はあったけど、こんなに大きくはなかったからな。手足を思いっきり伸ばせるだけでもありがたいよ」


 俺の家では風呂を沸かすのも一苦労だったのだ。なので、夏場でも毎日、風呂に入ることなどできなかった。


 田舎の村では風呂は贅沢なものと思われていたんだよな。


「でも、俺はどっちかって言うと学院の浴場より、王都の大通りにあった大衆浴場の方が好きだったんだよな」


 カイルは首の後ろの髪を撫でつける。


「大衆浴場の風呂は、今、俺たちが入ってる風呂よりももっと大きいし、子供から大人まで色んな奴がいたからな」


 賑やかな風呂だったと言うことか。


 一度で良いから、大きな風呂の中で思う存分、泳いでみたいよな。学院の風呂では泳ぐことは禁止されているし。

 

「だから、思いも寄らない奴と仲良くなったりできたものさ。大衆浴場はみんなの触れ合いの場だったんだ」


 カイルは得意げに言った。


「へー」


 田舎者の俺じゃ、ここよりも大きい風呂なんて、ちょっとイメージできないな。でも、カイルの話だと何だか楽しそうだ。


「更に風呂に入った後のフルーツジュースがまた旨いんだよ。だから、俺は夏場なんか、毎日、大衆浴場に行ってたぜ」


 カイルは懐かしむような声で言った。大衆浴場ではフルーツジュースなんて言う粋な物が出て来るのか。


 確かに風呂上がりにそんな物が飲めたら最高だろうな。


「それは良いな」


 俺も風呂から出た後は冷たい麦茶を良く飲んだものだ。その時の麦茶の味はまた格別だったからな。


 思い出すだけで、何だか喉が渇いてくる。


「だろ。俺も生きて地上の王都に戻れたら、真っ先に大衆浴場に足を運んで、フルーツジュースをガブ飲みしてやるぜ」


 カイルは湯の中に自分の顔を沈ませた。


「学院の浴場でも、飲み物を冷やせるようなところがあると良いんだけどな。ま、さすがにそれは高望みか」


 俺がぼやくように言うと、眼鏡をかけ直したハンスが口を開く。


「まあ、僕は王都と来れば大衆浴場より、大図書館の方を思い出すかな。あそこには読みたい本がたくさんあったからね」


 ハンスの言葉に俺はふと疑問を覚える。


「でも、ハンスが部室で本を読んでるところって、あまり見たことがないんだけど」


 新聞を読んでいるところはしょっちゅう見ているが。


「僕は図書室にある本は、ほとんど読破してしまったんだよ。中等部から高等部一年生までの四年間の間にね」


 ハンスは自慢する風でもなく言った。


「そうなのか」


 フィオナからは図書室には五千冊以上の本があるって聞いていたけど。


「ああ。ハンスはこの学院で最も図書室の本を借りた生徒として、全校生徒の前で表彰されたこともあるんだぜ」


 カイルがハンスの白い肩に手を乗せながら言った。


「そりゃ凄いな」


 ま、何となく納得できるけど。


「しかも、一度、読んだ本の内容は絶対に忘れねぇって言うんだから、たいした頭脳を持ってるよ」


 それが本当なら、ハンスは天才だな。


 でも、本ばかり読んでたから、分厚いレンズの眼鏡をかけなければならなくなるほど、視力を悪くしたのだろう。

 

 本を読みすぎるというのも考え物だな。

 

「ま、今はアムネイアス様のところで魔法を教えて貰った帰りに、第四階層の町にある本屋に足を運んでいるんだけどね」


 俺もその本屋には行ってみたいな。


「何か良い本はあったのか?」


 もしあったら、フィオナに報告してあげたい。


「そこそこね。ま、もう少し時間の余裕ができたら本をまとめ買いして、部室の本棚に並べておくよ」


 ハンスが自腹で買ってくれるなら、こんなにありがたいことはない。


「なら、俺も読ませて貰おうかな。俺も本を読むのは好きだから」


 とはいえ、目は悪くしないように気を付けないとな。


 視力を回復させる魔法は俺も聞いたことがないし、自分には絶対に似合わないと思える眼鏡はかけたくない。

 

「そうしてくれ」


 ハンスはまた曇ってきた眼鏡のレンズを拭いた。


「ところで、【ラグドール】って地上にいた頃は、どんな活動をしていたんだ」


 俺は今まで気になっていた疑問をハンスにぶつけてみた。


「【ラグドール】はお遊びサークルだから、遊んでいたに決まってるじゃないか。ま、主に遊んでいたのはテーブルトークのゲームだけどね」


 テーブルトークのゲームなら俺もやったことがある。爺さんが、大きな町でテーブルトークのゲームのセットを買ってくれたから。


 だから、村の子供たちと一緒に、ボードが擦り切れるまで遊んだ。


「へー」


 サンクリウム王国にもあったのか、なんて言ったら失礼だろうな。


「地上にいた時はテーブルトークのゲームがすげー流行ってたんだぜ。王都にはその手のグッズを売っている店がたくさんあったし」


 カイルはゲームとか好きそうだな。


「でも、あまりにも流行りすぎたから、テーブルトークのゲームは学院の中で遊ぶのを禁止されたんだよ。それからは、僕たちもトランプしかやってないけど」


 ハンスは本当に残念そうに言った。


 でも、テーブルトークのゲームは紙とダイスがあればできるからな。俺もテーブルトークのゲームを良く自作したもんだ。


「それに、今の僕たちは本当にテーブルトークのゲームそのものみたいな生き方をしているんだ」


 ハンスは目を擦りながら言葉を続ける。


「だから、今更、テーブルトークのゲームで遊ぶ気になんてならないさ」


 だよな、剣と魔法の力に、迷宮という舞台。果ては、冒険者ギルドの代わりになるような施設もある。


 まさにゲームの世界そのものと言って良いだろう。


「ま、テーブルトークのゲームで使っていたダイスや駒、ボードなんかは部室の隣にある倉庫に閉まってあるから、興味があったら見てくれ」


 ハンスの言う倉庫は、色んなパーティーやギルドが使っている。なので、【ラグドール】専用の倉庫というわけではない。


「分かったよ」


 俄然、興味が沸いてきた。


「ま、こんな状況を作り出したラムセスも案外、テーブルトークかどうかは知らねぇがゲームみたいなもんを嗜んでいたのかもしれねぇな」


 カイルの推測は当たっている気がする。


「今の状況はあまりにもゲームそのものだし、ゲームについての知識が全くない奴に整えられた舞台とは思えねぇ」


 その言葉には同意するしかないな。


「そうだな」


 もっとも、ゲームと呼んでしまうにはあまりにも大きな危険を孕んでいるけどな。


 その後、俺たちはテーブルトークのゲームの話に花を咲かせた。ゲームの話で夢中になれるのはやっぱり子供、故か。


 とはいえ、アリスやチェルシーもテーブルトークのゲームが好きだったという話には俺も意外なものを感じてしまったけど。


 ま、そこは都会か。


 田舎にいる人間の常識が通用するところじゃない。

 

 とにかく、俺は自作したテーブルトークのゲームのストーリーをハンスとカイルに熱く語った。


 けど、楽しい時間は長くは続かなかった。

 

「おい、お前ら。いつまでもノンビリしてないで、さっさと風呂から出やがれ。もうすぐ女たちが入る時間だぞ」


 雷鳴が轟くような声が、浴場に響き渡った。


 でも、俺たち以外の人の姿は見えなかったので、俺はぎょっとしたように辺りを見回してしまった。

 

「てめぇはジャハナッグじゃねぇか」


 カイルが恫喝するような声を上げた。その視線の先にはかつてのフィズを彷彿とさせる手乗りサイズの漆黒のドラゴンがいた。


 俺もそのドラゴンの顔には見覚えがあった。


「そうだが、何か文句でもあるのか。って、お前らはあのフィズを倒した【ラグドール】の奴らじゃないか」


 ドラゴン、いや、悪竜ジャハナッグの声に驚きが混じる。


「お前らのおかげで、あの生意気なフィズの顔を見なくても済むようになったことには、俺も感謝してるんだぜ」


 ジャハナッグは大きく笑みを広げた。


「お前に感謝なんてされても嬉しくねぇ」


 カイルは唇をヘの字に曲げる。俺もこんな奴にフィズのことをあれこれ口にして欲しくはなかった。


「まあ、そう言うなよ。とにかく、俺が仕切っている店で働いてる女たちが早く風呂に入りたがってるんだ」


 ジャハナッグは刺々しさが抜けた声で、言葉を続ける。


「女たちと裸の付き合いをしたいって言うなら、ここにいても構わないが、そうじゃないならさっさと風呂から出ろ」


 ジャハナッグの言葉には俺も顔に血が上った。


「学院の女子たちを使って、卑猥な商売をしてるって話を聞いたけど本当だったみたいだな、ジャハナッグ」


 ハンスは睨め付けるような目で言った。


「俺はドラゴンだ。人間の女たちがやることになんて、これっぽっちも興味はないし、全ては悪神ゼラムナート様の命令さ」


 ジャハナッグは責任を擦り付けるように言葉を続ける。


「それに卑猥な商売って言うなら、そいつはクシャトリエルの専売特許だ。俺はただ歌って踊れる店を仕切ってるだけだし、言いがかりなら止めて貰いたいね」


 ジャハナッグはおどけたように首を竦めた。


「そうかい。じゃあ、僕たちも風呂から出ることにしよう。女子たちに裸を見られるのはさすがに恥ずかしいし」


 ハンスは眼鏡のレンズを何度も拭くと、立ち上がった。


「そうだな。さっさと部室に戻って、菓子でも食おう。その前に食堂でジンジャーエールを飲むのも良いかもな」


 そう言ってカイルも立ち上がる。


「ジンジャーエールなら俺も飲みたいし、どうせ食堂に行くならフライドポテトなんかも食べようかな」


 そう言うと俺は少しのぼせたような顔をしているハンスとカイルと共に風呂から出ると、更衣室で服を着替えた。

 

 そして、更衣室の外に出るとそこには七人くらいの女子たちがいて、俺たちを見ると恥ずかしそうな顔をした。

 

 俺たちの入ったお湯の中に、この女子たちは浸かるのか。それを考えると、何だか変な気持ちになるけど。

 

 その後、俺たちは食堂に足を運ぶと、冷たく、そして、爽快感のあるジンジャーエールで渇いた喉を潤したのだった。

 

《第四章⑥ 終了 第五章に続く》




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