第四章 更なる力を求めて④
第四章 更なる力を求めて④
俺はアリスとチェルシーが二人で作る良く手がかけられた朝食を食べながら、みんなの顔を見る。
みんなはいつもと変わらぬ様子を見せていたが、心なしか顔つきが前よりも引き締まったように感じられた。
新たな力を手に入れた自信が、何げない時に見せる顔つきにも影響を与えているのかもしれない。
そんな風に考えた俺は、なら、今日こそはみんなと共に第四階層の迷宮に緒戦したいと思った。
俺も力を付けたし、アリスやチェルシーの魔法も確実に上達しているはずだから、前よりは苦労せずに第四階層に出てくるモンスターを打ち倒せるはずだ。
第四階層の攻略に乗り出さない理由はどこにもない。
なので、俺もみんなが朝食を食べ終えて部室でくつろぎ始めると、凛然とした表情を浮かべながら声を上げる。
「みんな、今日は第四階層の迷宮に出て来るモンスターを倒しに行かないか。俺も第五階層の迷宮に潜るのは飽きちまったし」
内心では痺れを切らしていた俺はみんなの顔を見回しながらそう言った。
「そろそろ、そう言い出す頃だと思っていたよ。ま、みんなが構わないと言うのなら、僕も止める言葉は持たないな」
ハンスはいつも通り、ちゃんと理解を示してくれる。
「そうだな。俺もたまには戦わないと腕が鈍っちまうし、別に構わないぜ」
カイルは今までは持っていなかった肉厚なナイフを布で磨きながら、言葉を続ける。
「ま、第四階層に入ったら、食料系のモンスターも狩りたいところだな。俺が習った肉の切り分けの技術はみんなにも見せてやりてぇし」
カイルはナイフに息を吹きかけながら言った。
「アタシもできれば第四階層に出て来るゴールデン・ボアを狩りたいな。ゴールデン・ボアの肉はとんでもなく美味しいって言うから」
そう言って、チェルシーは生き生きとした顔をする。
「私は習得した魔法を試せれば、それで良いかな。町にいる時とは違って、迷宮の中ならどんなに威力のある魔法でも思う存分、使えるし」
アリスもその魔法で俺たちを巻き込まないでくれるなよ。
「なら、ここは思い切って中ボスクラスの敵と戦ってみよう。リッチとかゴーレムはまだ誰にも倒されてないからな」
俺は逸るものを感じながら言葉を続ける。
「そいつらを倒すことができればパーティーの冒険者ランキングもまた十位以内に戻るかもしれないし」
俺の言葉にはハンスは渋い顔をした。
「ランキングはもう気にしなくても良いと思うんだけどな。今の僕たちはランキングが上がることで得られるメリットなんて、必要としてないし」
対抗心を煽りたくないせいか、ランキング自体にはあまり優遇的な措置は取られていのだ。重要なのは、あくまで普通の冒険者ランクになる。
ま、ランキングは他のパーティーとの実力の差を計る良い目安にはなるけど。
「そうか」
今の俺たちは十分すぎるほど、充実した生活をしている。お金にも全く困ってないし、ランキングを必死になって上げる必要性は皆無だ。
「ま、ランキングだって悪いことばかりじゃねぇ。ランキングが良い意味での向上心に繋がっているのは確かだからな」
カイルが俺をフォローするように言葉を続ける。
「でも、それに振り回されるのはまずいんじゃねぇのか」
カイルの言うことは一理あった。
「カイルの言う通りだね。ランキングを気にするなとまでは言わないけど、ランキングを上げるのに躍起になるのは良くないよ」
アリスの言葉は俺の心に突き刺さる。俺も躍起になってしまっている部分はあると思ったからだ。
「もちろん、ディン君ならそれくらいのことは分かってると思うけどね。でも、最近のディン君はちょっと焦っているように見えるよ」
アリスは新しく買ったティーカップに口を付けながら言った。
「ま、良くも悪くも、ディンもこの学院の生徒としての意識が染みついてきたってことじゃないの」
チェルシーは眇めるような目で俺を見る。
「現に最近のディンは色々なことに気を遣うようになったからね。振る舞い方なんかも普通の学生らしくなってきたし」
チェルシーの言うことに反論はできなかった。こんな制服を着て学院の空気をいつも吸っていれば、そりゃ学生らしくなるだろう。
それでも、まだ浮いて見えるような、俺の適応力が疑われるし。
「そうだな」
俺が真剣な顔で頷くと、ハンスも柔らかく笑いながら口を開く。
「まあ、いつまでも自由気ままな冒険者、気取りでいられるのも困るけど、だからといって身も心も学院の生徒になりきってしまうのはどうかと思うよ」
ハンスの言葉には俺も改めて考えさせられた。
「つまり、前にハンスが言っていたような平行の取れた見方が必要になるってことだな」
俺の口にした言葉にハンスも我が意を得たりと言った感じで笑った。
「そういうことだ。ま、その辺のことがちゃんと理解できているなら、僕が心配することは何もない。とにかく、今日はディン君の言う通り、第四階層の迷宮に潜ることにしよう」
ハンスは俺の心を汲み取るように言うと、更に口を開く。
「戦いから離れてしまっていた今の僕たちの気を引き締めるには、中ボスクラスのモンスターと戦うのも必要なことかもしれないし」
ハンスのリーダーシップを感じさせる言葉にみんなも頷いた。
「リッチやゴーレムなら相手にとって不足はないよ。アタシも張り切って色々な魔法を試しちゃうよー」
チェルシーは肩をグルグルと回した。
「リッチは色々な魔法も使ってくるって言うからね。私も魔法使いとして、リッチには絶対に負けられないな」
アリスなら負けないと俺も言い切れる。
「ゴーレムも強敵だぜ。ゴーレムの体はアダマンタイトでできってるって言うし、オリハルコンの剣でもダメージを与えられるどうか」
その話は俺も聞いていたし、それが事実なら、ゴーレムの体の強靱さはサイクロプスの比じゃないな。
「でも、本に出て来るようなゴーレムは必ず弱手を持っているからね。本物のゴーレムでもそれを見つけられれば問題なく勝てるよ」
チェルシーは完全無欠なゴーレムなんていないと言いたいんだな。
まあ、本当にゴーレムが無敵のモンスターなら、アルカンデュラに変わってゴーレムがゲートを守護しているはずだからな。
なら、ゴーレムには致命的な弱点があると言うことだ。
「ま、その二匹のモンスターは僕たちの身につけた力を試すには良い相手になるだろうし、アルカンデュラを倒したいと思うのなら負けてはいられないな」
ハンスがそう言うと、俺たちはノンビリするのを止めて、各々の武器を手にしながら【ラグドール】の部室を出た。
《第四章④ 終了》




