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第四章 更なる力を求めて③

 第四章 更なる力を求めて③

 

 俺は行く手を阻むリザードマンたちを打ち倒しながら迷宮に潜っていた。


 もう第五階層で普通に出て来るモンスターでは力を磨けるような相手にはならないな。相手になるとしたら、やっぱり中ボスクラスのモンスターだけだろう。


 まあ、リザードマン・ロードもオーガ・ロードも今のところは現れていないが。


 それだけに新たに現れたサイクロプスには興味が沸いた。

 

 まあ、サイクロプスは一人で戦うには危険すぎるモンスターだと思う。が、なるべく強敵と戦いたいと思っている俺には良い相手になるかもしれない。

 

 モリエールはもうサイクロプスと戦っているのだろうか。

 

 俺は心ここにあらずと言った感じで通路を突き進む。すると、八匹ものオークに囲まれている三人の生徒たちを見かけた。


 俺は取り囲まれている生徒たちを見て神経を集中させると、躊躇うことなくすぐさま加勢に入る。


 一陣の風となって駆け抜ける俺は、足音すら掻き消されるようなスピードで背後からオークに斬りかかった。

 綺麗な弧を描いた斬撃はオークの体を斜めからバッサリと切断する。


 オリハルコンの剣の切れ味は鈍ると言うことを知らない。

 

 そして、不意打ちを食らったことに気付いた他のオークたちは奇声を上げながら、慌てて俺に襲いかかってきた。

 

 が、俺は清流の如き動きで、オークが繰り出してくる剣や槍の一撃を避けると、二匹目のオークの首を鮮やかに跳ね飛ばす。

 

 三匹目のオークは瞬きをしている内に、まるで空間そのものが切り裂かれているような斬撃をまともに受け、胴を二つに断ち割られて倒れた。

 

 あっという間に三匹のオーガが屠られたのを見て、背中を向けないように陣形を組んでいた生徒たちがポカンとした顔をする。

 

 その顔には恐怖よりも、驚きの感情が塗り込められていた。

 

 一方、俺の登場に翻弄されていたオークたちも、取り囲んでいた三人の生徒たちより俺の方を脅威と見て取ったのか、一斉に武器を振り上げる。

 それから、闇雲な動きで俺に襲いかかってきた。

 

 だが、どんな動きで迫ろうと俺が攻撃の手が緩めることはない。俺は滑るような動きを見せて、オークの集団の真っ直中に入り込む。

 それから、剣の刃がまるで意思を持ったように伸びる斬撃を放つ。その生き物のような軌跡を見せる斬撃は一度に三匹のオークの体を深々と切り裂いた。

 

 一匹目のオークは心臓まで刃が届いたのか胸から大量の血を吹き上がらせて倒れ、二匹目のオークは首の頸動脈を切り裂かれて血を吐き出しながら、崩れ落ちた。

 

 三匹目のオークは肩を切り裂かれて、武器を持ち上げられなくなり、それを目の当たりにしたオークたちは瞠目したような顔をする。

 

 我ながら、たいした一撃だと思う。

 

 そして、俺の超絶したような斬撃を見たオークたちはあまりにも実力が違いすぎることを悟ったのか、逃走に移ろうとした。

 

 が、俺はそれを許さずに背を向けようとしたオークの腰の骨を、唸りを上げるような斬撃で切断した。それから、あろうことか武器を投げ捨ててでも逃げようとしたオークの背中に容赦なく剣を突き刺す。

 

 逃げるモンスターを仕留めるのはあまり良い気分がしないが、アリスを悲しませたシェリーの一件もあるからな。

 

 下手な情けはかけられない。

 

 そして、最後のオークは必死になって逃げようとしたが、足を縺れさせて転んでしまう。

 

 俺はそんなオークの前に仁王立ちすると剣を振り上げたが、オークが涙すら流しているのを見て、剣を引く。

 

 非情には徹しきれなかったのだ。

 

 すると、オークはすぐに立ち上がると見苦しさを感じさせる動きで逃げていった。その背中を見ながら、俺もまだまだ甘いなと思う。

 

 あのオークがまた人を襲うことなく、魔界に帰ってくれれば俺としても救われるんだけど。

 

「あ、ありがとうございました。あなたが助けに入ってくれなかったら、きっと僕たちは殺されていました」


 三人の生徒たちは俺の傍までやって来ると揃って頭を下げる。ちなみに三人とも中等部の制服を着ていた。


「じゃあ、駆けつけるのが間に合って良かったよ」


 たぶん、次は助けられないぞ。


「あなたは確か、あの竜王ガンティアラスを倒したディンさんですよね。噂に違わぬ凄い戦い振りでした」


 三人の内の一人で、一番前にいた男子生徒が感激しているような顔で言った。


「そうか」


 こういう反応をされると俺も困るんだよな。


 他人から称賛されるのは嫌いじゃないけど、それに応えようと躍起にならなければならないところには重荷を感じるし。

 

 ま、だからこそリーダーハンスのような余裕が大事になるんだけど。

 

「あなたのような冒険者がいると、僕たちももっと強くならなきゃ、って思えます。あなたに会えて本当に良かった」


 男子生徒は瞳を潤ませながら言った。これには、俺もいささかオーバーすぎるだろうと思わずにはいられなかったが。


「でも、これからはもっと気を付けて迷宮に潜るんだぞ。強くなりたい気持ちは分かるけど、それで命を落としたら意味がないし、焦りは禁物だ」


 俺もそれだけはしっかりと言い聞かせておく。当の俺もハンスには何度も同じような言葉で窘められたからな。


「さすが、ディンさんです。他の生徒たちとは言葉の響きが違いますし、やっぱり本業の冒険者だけのことはありますね」


 男子生徒は俺を煽てるように言った。


「あんまり持ち上げないでくれ」


 そう言うと、俺は小恥ずかしそうに頬をボリボリと掻く。

 それから、もう大丈夫だと言い張る三人の生徒たちと別れると、俺はまた戦いを求めるように迷宮の中を歩き出す。

 

 その途中で、サイクロプスを倒しに行ったモリエールがどうなったのか心配になる。やっぱり、お節介かもしれないが様子を見に行った方が良いかもしれない。


 他人を見下して憚らないモリエールだが、ひょっとしたらさっきの三人のように助けを求めているかもしれないからな。


 そう思った俺はポケットから地図を取り出すと、最短距離でかつてミノタウロスと戦った部屋へと向かった。


 すると、そこには案の定、モリエールがいて折れた剣を手に、片膝を付いていた。


 その前には金属製のハンマーを手にした三メートルを超える背丈を持つ一つ目の巨人が立っている。

 

 それは、俺が読んだ本でも出て来たことがあるサイクロプスだった。オーガ・ロードも屈強そうな体を見せていたが、サイクロプスはそれ以上だな。

 

 その力は押して計るべきだろう。

 

 そして、それを怠ったモリエールは動けずにいる。このままだとモリエールは殺されてしまうだろう。

 

 やはり様子を見に来て良かった。

 

「大丈夫か、モリエール」


 俺はサイクロプスを視線で牽制しながら、モリエールの傍に駆け寄った。


「なぜ、君がここにいる?」


 モリエールは顔を上げると、まるで亡霊でも見たような顔をした。


「ちょっと様子を見に来たんだよ。とにかく、その折れた剣じゃもう戦えないし、サイクロプスの相手は俺がするから下がっていろ」


 俺はモリエールを庇うように剣を構える。サイクロプスは余裕のためか、ハンマーを手にしたまま動かなかった。


「すまない。あれだけでかい口を叩いておきながら、この様だ。君の忠告は素直に聞いておくべきだったよ」


 モリエールは儚げな顔で言った。


「なら、これからは人の意見にも耳を傾けてくれ」


 俺は責めるような言葉は口にせずに更に口を開く。


「お前は口先だけじゃなく、ちゃんと実力のある人間なんだから、こんなところで死んでくれるな」


 モリエールが死ぬことは学院にとって大きな損失になることは間違いないのだ。


「そう言ってくれると助かるよ。どうやら、君は僕が思っていた以上に、大きな器を持った冒険者だったようだな」


 そう弱々しく言って、モリエールが戦いの邪魔にならないように後退すると、俺は剣の切っ先を不気味な笑みを浮かべるサイクロプスに突きつけた。


 すると、サイクロプスは腕の筋肉を大きく隆起させながら、ハンマーを振り上げた。それから、床を力強く蹴って俺に肉薄してくる。


 俺はサイクロプスの接近を泰然とした表情で待ち構える。そんな俺にサイクロプスは自らの豪腕を見せ付けるようなハンマーの一撃を叩きつけた。


 空を押し潰すようなハンマーが俺の脳天から迫る。


 俺はそのハンマーを避けることなく、剣を両手で掲げながらガキンッと受けとめて見せた。


 その瞬間、腕の骨がへし折れそうなほどの衝撃が襲いかかる。


 俺はその衝撃に耐えきれずに、片膝を突いた。


 いつもなら、確実に避けていたはずの攻撃をなぜ敢えて受けとめたのか。


 それは強いて言うなら礼儀だった。サイクロプスがその気になれば、俺が駆け寄る前にモリエールは殺せたはずなのだ。


 だが、サイクロプスはそれをしようとはせず、その上、俺とモリエールの話が終わるまで攻撃を仕掛けて来なかった。


 だから、その借りは返さなくてはならないと思ったのだ。


 俺は腕の筋肉が悲鳴を上げそうなほど力を振り絞ると、ハンマーを雷撃のように弾き返す。それから、ここからは心置きなく戦えるなと思いながら剣を一閃させた。


 その一撃はサイクロプスの腕に血が吹くような切り傷をつける。それを見た俺は更に足を踏み込んで、サイクロプスに斬りかかった。


 が、サイクロプスは俺の力の籠もった剣の一撃を、造作もなく金属でできたハンマーの柄で受けとめて見せる。

 それから、暴風を纏ったような横殴りの一撃で俺に加えてきた。

 

 さすがにこれは受けとめられないと思った俺は、バックステップでその一撃を避ける。サイクロプスと力勝負をしたら、絶対に負けるな。


 ま、戦いにおいて最も重要なのはパワーではなくスピードだと相場は決まっているが。


 俺は電光石火とも言える動きで、再び繰り出されたハンマーの一撃を避けると、サイクロプスの懐に張り込む。


 そして、全力を出し切ったような斬撃を連続して浴びせた。その斬撃はサイクロプスの胸に大きな裂傷を幾つも付ける。


 これにはサイクロプスも後退りしたが、すぐに力で押し返そうと、何度もハンマーを振り下ろしてきた。


 これには俺も防戦一方になる。


 サイクロプスが必死の形相で繰り出す攻撃は、擦るだけで骨が粉砕されそうな勢いだったからな。


 なので、俺も動き方を間違わないように避ける。

 

 そして、自分の攻撃がことごとく避けられたサイクロプスは業を煮やしたのか、一旦、攻撃の手を止めて大きく息を吸い込む。

 それから、俺を寄せ付けないようにしつつ、あらゆる角度から乱舞するようにハンマーを叩きつけてきた。

 

 息も吐かせぬ連撃が繰り出される。

 

 それに対し、俺もその連撃を見切ったように避け続ける。すると、ほんの僅かだがサイクロプスの持つハンマーが鈍った動きを見せる。


 さすがにスタミナが切れ始めたみたいだな。


 その隙を突くように俺はすかさず疾風迅雷の如き動きで剣を振り下ろした。その振り下ろしは、サイクロプスの腕を筋肉の繊維ごと切断する。

 

 サイクロプスは激痛に顔を歪めながら、ハンマーをゴロンと床に落とした。

 

 それを見た俺は追い打ちをかけることなく、サイクロプスとの距離を取る。

 

 サイクロプスはどこか不思議そうな顔をしながら、ゆっくりと残った方の手でハンマーを拾い上げた。

 

 その顔には、なぜ俺がわざわざハンマーを拾うのを待ったのか全く分からないと書いてあった。

 

 もちろん、俺もサイクロプスに情けをかけたわけではない。

 

 ただ、俺は強くなるためにモンスターと戦っているのだ。

 

 であれば、自分を追い込まなければならないし、それにはより厳しい戦い方をする必要がある。

 

 だから、久しく見なかった強敵であるサイクロプスには、その力を存分に出し切って貰いたかったのだ。

 そして、一分、一秒でも長く戦い続ける。

 

 そうすれば俺はより多くの経験値を得ることができるだろう。

 

 俺は次の一撃で勝負を決めると思いながら、剣を構える。

 

 サイクロプスも俺の思考を読み取ったのか全く衰えることのない勢いで、ハンマーを振り上げ、襲いかかってきた。

 

 俺はその動きを恐れをなすことなく、待ち構えると、サイクロプスと交錯するように斬撃をお見舞いする。


 結果、サイクロプスの攻撃は身を低くした俺の頭上を掠めただけで終わり、俺の放った強力無比な斬撃はサイクロプスの胴を真っ二つにした。

 

 二つに分かたれたサイクロプスの体はグロテスクな内蔵を飛び出させながら床に倒れる。

 

 俺は内臓を盛大に床にぶちまけ、絶命したサイクロプスの光を失った目を見て、終わったなと息を吐いた。

 

「見事だった」


 モリエールはごく自然な笑みを浮かべながら言った。


「君と剣の勝負なんてしなくて正解だったよ。僕の剣の腕では君に勝つことなど到底、無理な話だった」


 モリエールは殊勝な態度を見せる。その顔には今までのような過剰なまでの自信が、すっかり抜け落ちていた。


 それはモリエールの素顔と言っても良いかもしれない。


「そうか」


 俺はモリエールの言葉に何か悪いものでも食ったのかと言いたくなった。


「君なら、学院一の剣の使い手であるエリオルド会長にも勝てるかもしれんな。いや、君ならもっと大きなことで自分の力を証明してくれることだろう」


 モリエールに言われなくても、俺はそうするつもりだった。


「やけに素直になったな、モリエール。やっぱり、サイクロプスとの戦いは良い薬になったのか?」


 俺は揶揄するように笑った。すると、モリエールは恥じ入るような顔をする。


「ああ。サイクロプスに叩きのめされ上に、君にあれだけの力を見せられたのだ。僕とて頭を冷やさないわけにはいかないだろう」


 確かにこれだけの目にあって、なお自分の軽率さを反省できなかったら、モリエールは本当に救いようのない愚か者だと言うことになる。


 それではそう遠くない日に命を落とすことになるだろう。


「それは良いことだ。今までのお前は傍で見ていると、ハラハラさせられるような危なっかしさがあったからな」


 人間、きっかけさえあれば変われると俺も信じたい。


「そうか。だが、僕もこのままでは終わらんよ。明日からはもっと真剣に剣の腕を磨いて、いつか君のライバルになれるような人間になって見せる」


 モリエールはニヤリと笑った。


「そりゃ楽しみだ」


 そう言って笑い返すと、俺は怪我をしていたモリエールの肩を支えながら、一緒に学院へと戻る。


 その際、俺もモリエールとの友情みたいなものを感じていた。


 もしかしたら、モリエールは本当に俺のライバルと言えるような存在になれるもしれない。今のモリエールの目にはそう思えるだけの輝きがあったからな。

 

 成長するのは自分だけじゃないし、俺もうかうかはしていられないぞ。

 

 ちなみに自分が引き受けていた仕事は、その日の夜にちゃんと完遂しておいた。


《第四章③ 終了》




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