第四章 更なる力を求めて②
第四章 更なる力を求めて②
俺は一人で冒険者の館にいた。
今日もソロで迷宮に潜ろうとしていたからだ。でも、その前に簡単な仕事も引き受けようと思った。
明確な目的をもって戦いに挑むというのも、今の俺には必要なことだと思えたからだ。
ま、一定期間、仕事をしないと冒険者ランクが下がるというのも大きな理由の一つではあるけれど。
そんなことを考えながら、俺は仕事を依頼する紙が貼り出されている掲示板の前に行く。すると、一人で何やら難しい顔をしているモリエールと出会った。
「ディンではないか。こうして会えるのは久しぶりだな。ここ最近、君たち【ラグドール】の話を聞かないが何かあったのかね」
モリエールの態度は相変わらず尊大だった。でも、腹が立つようなことはなく、俺もどこか懐かしさを感じてしまった。
「パーティーのみんなが、それぞれやるべきことを見つけたんだよ。だから、パーティーの活動は休止している」
パーティーの冒険者ランキングも十八位まで下がったからな。ハンスのまだ挽回できるという言葉は信じたいところだけど。
「なるほど。それで君は何をしているんだ?」
モリエールの口調には棘があった。でも、その棘は俺に向けられているものではないようにも感じられたけど。
「俺はソロで迷宮に潜っている。リザードマンとかオーガを相手に自分を鍛え上げているんだよ」
一人でも、第五階層の迷宮に出て来るリザードマンやオーガの一団なら倒しきることができるからな。
確実に強くなっているという実感はあった。
「そういうモリエールこそ、一人で何をしてるんだ?」
モリエールの横顔には影があったが。
「ふん、あのオリヴィエがあろうことかこの僕を【ホワイト・ナイツ】の第一パーティーから外したのだよ。何という、屈辱」
モリエールは拳を震わせた。
「何かやったのか?」
でなければ、そんなことにはならないだろう。
「僕はただアルカンデュラ戦で、オリヴィエの撤退の命令を聞かなかっただけだ。でも、あともう少しで、アルカンデュラの首は取れたのだ」
モリエールは憤激を感じさせる顔で、更に口を開く。
「それをあの目狐め」
モリエールは憎々しそうに言った。
「でも、首を取ってもアルカンデュラは再生するらしいぞ」
俺はポツリと言った。
「なに!」
モリエールの表情が引き攣る。こいつはそんなことも知らなかったのか。
「俺もオリヴィエのことは好きになれそうにないが、それでも撤退の判断は正しかったと思うけどな」
「では、君は僕の判断が間違っていたと言うのだな」
モリエールは怒りの矛先を俺に向ける。
「そこまでは言わないよ。ただ、一人で突っ走れば、必ず命を落とすってことだ。オリヴィエもお前には頭を冷やせと言いたかったんじゃないのか」
ま、オリヴィエの真意はろくに話したことがない俺には、あまり想像できないが。
「知った風な口を。ならば、この僕と勝負したまえ」
モリエールは高らかに言いながら俺の顔に指を突きつけた。そのいきなりすぎる言葉に俺も口を半開きにした。
「はあ」
俺は呆気にとられた顔をする。
「君はあのラダックを倒したそうじゃないか」
思い出したくもないラダックの名前がここで出て来るとは。
「なら、この僕と中庭で決闘したまえ。そうすれば、この僕が君よりも優れた剣の使い手だと言うことが証明される」
モリエールの顕示欲になぜ俺が付き合わなければならない。
「君に勝った暁には、オリヴィエも僕を第一パーティーに戻すしかなくなるだろうよ」
モリエールはフフン鼻を高くして笑った。
「悪いが、そんな勝負はお断りだ。俺は自分を抑えきれなくて、ラダックを殺しかけたんだ。あんな思いは二度としたくない」
ラダックと戦った時はどうしても退けない理由があった。でも、今度は違う。今のモリエールと戦っても、俺が得るものは何もないのだ。
「ふん、臆病風に吹かれたか」
モリエールは侮蔑するような視線を向けてくる。
「何とでも言え」
俺は吐き捨てるように言った。
「なら、僕はサイクロプスの討伐の仕事でも引き受けることにしよう。何としてでも僕個人の評価を高めなければ」
サイクロプスは第五階層のミノタウロスがいた部屋に住み着き始めたらしい。かなりの強敵みたいなので、進んで戦う者は今のところいないと言う。
転移の魔方陣を使えば、町に行くのに無理して第五階層を通らなくて良いからな。
食料系のモンスターを狩ったり、モンスターの所持する武器を手に入れたりする場合でも、危険を冒してまでサイクロプスと戦う必要性は全くないし。
ちなみに冒険者の館には個人の冒険者ランキングもちゃんと存在しているようなのだが、それは非公開になっている。
冒険者の館の運営側だけが、それを知ることができるらしい。だから、パーティーの冒険者ランキングもその要素に左右されると言うのだ。
「一つ目の巨人、サイクロプスと一人で戦うって言うのか。そりゃ危険すぎるぞ」
俺も相手がリザードマンやオーガだから、ソロで戦えるのだ。でも、相手が中ボスクラスのモンスターなら、やっぱり仲間の手助けが必要だ。
その辺の見極めができなくなるほど、俺も自分の力を過信しているわけではない。
「君の指図は受けん。僕の力なら、サイクロプスくらい一人でも討伐できる。現に僕の冒険者ランクなら、この仕事は問題なく引き受けられるからな」
モリエールは完全に平静さを失っていた。ハンスでなくても、これは危険な兆候だと言いたくなるだろう。
「なら、勝手にしろ」
俺は馬鹿に付ける薬はないと思いながら言った。それを聞いたモリエールも軽く舌打ちして、俺の前から去って行く。
俺は心配してやる義理も義務もないのだが、今のモリエールは一人にはしておけないなと思ってしまった。
《第四章② 終了》




