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第三章 新しい舞台④

 第三章 新しい舞台④


 俺たちは冒険者の館に行き、ゴブリン・リーダーを倒した報酬を貰う。すると、パーティーの冒険者ランキングも十二位に上がった。


 もっと、たくさん仕事をやり遂げれば、ランキングではまた十位以内に入ることも可能だろう。


 とはいえ、リーダーのハンスにその気がないのだから困りものだ。ハンスはあくまで無理をしないというスタンスを守り続けるつもりなのだろう。

 

 それは悪くないのだが、俺は何だかやきもきしてしまった。

 

 俺も誰かを追い越すことは好きだが、誰かに追い越されることは嫌いなのだ。ま、俺に限らず人間なんてそんなものだろう。

 

 小さな拘りは捨て、互いの力を認め合うなんてことは、実際にはなかなかできないもんだからな。

 

 何にせよ、リーダーの座を明け渡そうとしたハンスを押し止めたのは俺なのだ。だったら、俺もハンスを信頼して、とことんついていくしかない。

 

 ただ、もっと色んなモンスターと戦って自分の力を試したい、もっと迷宮の未知なる部分に足を踏み入れてみたい…。


 という衝動は嫌でも沸き上がってくる。その衝動は、冒険心という言葉で置き換えることもできるだろう。

 

 まあ、そういう心を忘れないからこそ、俺も自分のことを本業の冒険者だと言い張ることができるのだが。

 

 でも、こんな上品なブレザーの制服を着ていると身も心も学生になってしまいそうで何だか怖かった。

 

 その後、部室に戻ると俺はアリスの入れた紅茶を飲みながらゆっくりする。が、紅茶を飲み終える前に部室の扉が勢い良く開いた。


「失礼するけど、ディンはいるかしら?」


 部室の扉を開けた女子生徒は、白金色の髪を優美に棚引かせながらそう言った。


「レイシアじゃないか、久しぶりだな。今日も綺麗な髪をしているけど、そんなに怖い顔をしてどうしたんだ?」


 俺はレイシアの白金色の髪に見とれながら言った。


「どうしたんだ、じゃないわよ。こっちから顔を見せ来なきゃ、あなたはずっと私のことを無視するつもりだったんでしょ」


 レイシアはズカズカと部室の中に入ってくると、俺の顔に指を突きつけた。


「無視するつもりなんてないよ。ただ、俺の方からレイシアに会いに行くような用事がなかっただけで」


 俺は弁解した。


「私とデートする約束を忘れたって言うの?それとも、私の方が痺れを切らしてやって来るのを待っていたのかしら」


 レイシアは怖い顔で笑いながら言葉を続ける。


「だとしたら、良い度胸じゃないの」


 レイシアは白い項に掛かっていた髪を見せ付けるような仕草で掻き上げた。


「俺にそんな心理的な駆け引きは無理だよ。現にレイシアがここに来るまでデートの約束なんてすっかり忘れてたから」


 俺は弱々しく言った。


 女の子とのデートの約束を忘れるなんて男として情けないにも程があるな。でも、それくらい俺の関心事は第四階層の迷宮に向いていたのだ。

 

「でしょうね。とにかく、私は今からあなたとデートをしたいの。本当はもっと早く誘いたかったんだけど、私もギルドの仕事で忙しくて」


「デートねぇ」


「何なのよ、その馬鹿にしたような顔は。ひょっとして、この私とのデートに何か不満でもあるわけ?」


 レイシアの目が吊り上がった。


「別にないけど」


 俺はボソリと言った。


 これ以上、余計なことを言うとレイシアの怒りが爆発しそうだな。それは怖いし、ここは控えめな態度を見せた方が賢明だ。

 

「なら、さっさと立ち上がって行くわよ。デートの場所は第四階層の町なんだから、ちゃんとエスコートしてよね」


「でも、俺はあの町のことをあまり良く知らないからな。デートの場所としては何となく不安も感じるし、エスコートなんてとてもできないよ」


 そもそも、エスコートなんて気取ったことは貴族のやることだからな。はっきり言って、俺の柄じゃない。


「だったら、あなたは私の後をただついてくれば良いのよ」


 レイシアは肩を竦めると、ポケットから折り畳まれた紙を取り出す。


「まあ、私だってあの町のことを良く知ってるわけじゃないけど、ギルドのメンバーが作成してくれた詳細な地図があるから安心はしているわ」


 レイシアは俺の前で紙を広げて見せた。


 その紙には町の構造が事細かに描かれていて、どんな場所がお勧めのスポットなのかも記されていた。

 

「そっか。なら、行こう」


 地図を見た俺は不安が払拭されたような顔で言った。


「最初から素直にそう言えば良いのよ。ホント、あなたって女心に鈍感よね。そんなことじゃ、いつか自分を大切に思ってくれる女の子を泣かせることになるわよ」


「君が泣くって言うのか?」


 俺は胡乱な目をする。レイシアが泣いているところはちょっと想像できないな。


「なんで私が泣かなきゃならないのよ。私にとって、今のあなたの立ち位置はボーイフレンド以下!」


 レイシアはキンキンした声で言葉を続ける。


「あなたを本当に大切に思えるかどうかは、これからのあなたの言動と行動にかかっていると言っても良いわね」


 レイシアは居丈高に言った。でも、その頬は紅潮している。


「そうかい」


 俺は面窶れしたような顔で言った。


 すると、俺たちの遣り取りを微笑ましそうに見ていたハンスが読んでいた新聞から顔を上げて口を挟む。

 

「町に行くなら、安いやつで良いからワインを一本、買ってきてくれないかな。僕も友達からあの町のワインはなかなか美味しいって聞いたんだ」


 ハンスもワインには目がないな。


「分かったよ」


 断るような頼みじゃない。


「それと、今日の夜は宴会を開くんだから、あんまり遅くならずに帰ってきてくれよ。宴会の席ではディン君が買ってきてくれたワインも振る舞いたいからね」


 そう言うと、ハンスは満足した顔で、また新聞に視線を落とした。


「今日の宴会じゃ、アタシとアリスの料理もあるってことを忘れないでよ。もう豪華な食材も買ってあるんだから」


 チェルシーの言葉に俺の宴会への期待も高まった。が、アリスは俯いたまま何だが暗い顔をしている。


 またレイシアに劣等感を感じているのだろうか。


 まあ、俺も女って生き物は呆れるほど嫉妬深いって聞いてるけど、いつもは優しいアリスもそうなのかな。

 

「とにかく、行ってくるから」


 そう言って、俺はレイシアと共に部室を出ると、その足で転移の魔方陣がある地下広間へと向かった。


《第三章④ 終了》



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