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第三章 新しい舞台③

 第三章 新しい舞台③


 俺たちの力が第四階層のモンスターにも通じることは分かった。が、それでも油断は全くできない。


 でも、他の生徒たちもこの第四階層でしっかりと戦えているのだから、俺たちも変に怯えずに自信を持とう。


 そんなことを考えていると、今度は二匹の何とも屈強な体付きをしたオーガと出会した。

 

 オーガは二本の金棒を持っている奴と、槍と斧が合体した大型の武器、ハルバードを肩に背負うようにして持っている奴がいた。

 

 しかも、体には鎖帷子、頭には無骨な兜を被っている。攻撃力も防御力も共に高そうだし、侮ると痛い目に遭いそうだな。

 

「今度はオーガか。かなりの重装備だし、あの武器から繰り出される攻撃力は相当なのものだと見て良いだろう」


 ハンスは背中の矢筒から矢を引き抜く。すると、オーガたちは俺たちに話す暇など与えずに猛然と肉薄してくる。


「来るぞ!」


 そう叫ぶと、俺は剣を構えたまま、いつでも強力な一撃が放てるように腕の筋肉を撓める。


 すると、ハルバードを持ったオーガが俺に旋風のような斬撃を繰り出してくる。その大木すら切断できそうな斬撃を俺は身を低くして、やり過ごした。

 

 その際、ハンスの矢も飛来したが、オーガの着ている鎖帷子に弾かれる。それを受け、ハンスもすぐに額を狙って矢を放ったが兜に弾かれてしまった。

 

 このオーガたちに矢は通用しない。

 

 そう思った瞬間、今度は俺の横合いからもう一匹のオーガが現れ、俺に連続して金棒を叩きつけてくる。

 

 俺も何とかその金棒は避けられた。

 

 が、すぐに斜め後ろからハルバードを持ったオーガが俺を挟み撃ちするように斬撃を繰り出してきた。

 

 俺はその息の合った攻撃を巧みな動きで避けたが、二匹のオーガは追撃をかけるように、熾烈極まりない攻撃を俺に浴びせてきた。

 

 俺は二人のオーガの連携から繰り出される間断のない攻撃に押されるままになる。

 

「さすがに第五界層のオーガより手強いな。オーガの体重が乗ったハルバードの斬撃なんて受けとめきれないぞ」


 さすがの俺も頬から冷や汗を垂らしながら言った。


 でも、すぐに助けに入るようにカイルが卓越した動きで、ハルバードを持ったオーガの真横から槍の穂先を突き出した。

 

 すると、槍の穂先に触れたオーガの体がバチッと光る。周囲に思わず目を閉じてしまうような光りが走った。

 

「今の俺たちにはチェルシーの付与魔法がある。例え相手がどんな武器を持っていても押し負ける気はしないぜ」


 そう息を巻くカイルの突きを食らったオーガは大きく仰け反って、ガクンと膝を突いた。


 が、リザードマンのように、簡単には絶命はせずに立ち上がってハルバードを振り上げようとする。

 

 さすがオーガはタフな体をしているな。


 そんなオーガにカイルは連続して残像すら生み出す突きを放った。

 

 オーガの体が何度もバチッと光って、ついにハルバードを持っていたオーガは体から白煙を立ち上らせながら前のめりに倒れた。

 

 ようやく倒れてくれたか。

 

「よし、真っ向から挑んで打ち勝ってやったぜ」


 カイルはガッツポーズを取った。


 一方、俺は金棒を振るうオーガの攻撃を避けながらも、自分の剣に再び炎の属性が宿ったのを見て取ると反撃に移る。

 

 二本の金棒を風のような動きで避けると、火の粉を舞い散らす剣をオーガに叩きつける。その斬撃はオーガの胸を切り裂くと、その傷口から炎を吹き上がらせた。

 

 たまらずオーガは後退したが、俺は炎を纏った斬撃を何度も浴びせる。オーガはその攻撃を振り払いきれずに猛火に包まれた。

 

 それから、炎は貪り食うようにして、オーガの体を激しく焼く。結果、オーガは火柱になって、膝を折り曲げたまま絶命した。

 

「何とか勝てたな。やっぱり、付与魔法の力はたいしたものだし、チェルシーも体の方は大丈夫か」


 俺は案じるようにチェルシーの方を見た。


「リザードマン戦と合わせて、計四回も魔法を使ったから、正直、かなりしんどいね。でも、こんなところでへこたれたりはしないよ」


 ルーシーは気丈に言ったが、やはり顔色は優れない。


「そうだね。魔法そのものは比較的、簡単に覚えられるけど、魔法を使うために必要な魔力は自分を鍛えて増やすしかないし」


 アリスも意識して自分を鍛えてきたのだろうか。


「それには自分を追い込むように魔力を消費する必要があるよ」


 アリスはサラリと言った。


「疲れるのを恐れて魔法を使わなかったら、何も変わらねぇってわけだ。なら、へばるのもしょうがねぇよな、チェルシー」


 カイルは光が失われていく槍の穂先を見ながら言った。


「魔法も根っこの部分は運動と変わらないってことだね。アタシもアリスの言葉はちゃんと実感することができたよ」


 チェルシーはどこか眩い顔で言った。


「とにかく、気を緩めずに行こう。第四階層のモンスターはけっこう手強いし、戻るための体力も考慮した上で戦わないと」


 そう仕切り直すように言うと、ハンスはまた歩き始める。さすがにハンスもオーガの武器を持ち帰れとは俺たちには言わなかった。


 それから、しばらくは静かな時間が続いた。でも、何が出て来るのか分からない緊張感から解放されたわけではない。

 

 俺ももしさっきのオーガよりも強敵が現れたらと思うと少しぞっとした。

 

 そして、十分ほど歩いたところで、いきなりゴブリンたちが十匹以上も通路の奥からぞろぞろと姿を現した。

 

 ゴブリンたちは小鬼の顔でヘラヘラと笑っていたので、何とも言えない生理的な気持ち悪さも感じる。

 

 とにかく、こいつらは明らかに徒党を組んでいるゴブリンだ。

 

 その上、ゴブリンたちは揃ってえび茶色のナイフを持っている。ゴブリンたち全員が毒のナイフを持って襲いかかってくると言う話は本当だったか。


 更に、普通のコブリンたちの一番、後ろには頭部を守る兜と、全身を覆い隠すような鎧を着込んだゴブリンがいた。


 それは矢が入り込む隙がない完璧な防備だった。


 あの鎧姿のゴブリンが、ゴブリン・リーダーと見て間違いないだろう。


「ターゲットが現れてくれたみたいだな。しかも、この数のゴブリンと通路で戦うのは骨が折れそうだ。毒のナイフも持ってるし」


 俺は一分の隙もなく剣を構えながら言った。


「心配はいらないよ、ディン君。このゴブリンたちはアムネイアス様から伝授して貰った魔法で一気に倒してあげるから」


 そう言って、アリスは前に進み出る。


「はっきり言って、塵も残さないよ」


 アリスは豪胆に宣言した。


「そいつは面白いな。なら、無理に戦わなきゃならない相手でもないだろうし、やって貰おうかな。良いだろ、ハンス?」


 俺がそう言うとリーダーのハンスもコクリと頷く。


 それを受け、アリスは俺たちの先頭に立つと、空気を撫でるように掌を翳す。その掌からは白光が放たれていて、強い光を嫌うゴブリンは後ずさりした。

 

 それから、ゴブリンたちがまごついていると、アリスは直視できないほど眩い光に包まれた掌を前に突き出して、カッと目を見開く。


 すると、掌から一直線に強烈な白い光りが放たれた。

 

 まるで太い光線だ。


 それから、その光線は全てを飲み込むようにして直進し、ゴブリンたちの姿を消し飛ばしながら、その後方へと一気に走り抜けた。

 

 そして、大爆発。

 

 その凄まじい衝撃に、俺も倒れて尻餅をつきそうになった。足下もまるで地震でも起きたかのように揺れ動いたし。

 

 この魔法は通路で使うにはちょっと威力がありすぎるな。

 

「あれだけのゴブリンが跡形もなく、消し飛んじまうなんて。確かに今までのアリスの魔法とはレベルが違うな」


 俺はゴブリンたちがいた場所を見て、喉を震わせた。

 

 そこは床や壁がごっそりと消失するように削り取られていたのだ。あの光りの直撃を受けたゴブリンの体など一溜まりもあるまい。

 

 ゴブリン・リーダーの鎧もまるで意味を成さなかったな。

 

「ああ。チェルシーの付与魔法にも驚かされたが、アリスの魔法はもっと凄いぜ。でも、本当に凄いのは、こんな魔法を伝授したアムネイアスってことになるよな」


 カイルもゴブリンたちが一匹残らず消滅したのを確認し、感嘆するように言った。


「でも、威力に見合うだけの魔力は消耗させられるよ。この魔法はそう何度も使えるものじゃないね」


 アリスは肩で息をしながら言った。つまりさっきの光線は必殺技と言っても良い魔法だったってことだな。


「そっか。なら、ゴブリン・リーダーも仕留められたことだし、学院に戻ろう。チェルシーも武器を持つ手が辛くなっているようだから」


 ハンスはチェルシーのいる方に視線を滑らせる。


「そうだよ。みんなも感心してないで、持つのを手伝ってよ」


 チェルシーは俺たちの顔を見て、泣き付くように言った。


《第三章③ 終了》




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