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第三章 新しい舞台②

 第三章 新しい舞台②


 俺たちは冒険者の館に行くと、第四階層に出て来るゴブリン・リーダーを倒す仕事を引き受けた。


 コブリン・リーダーに率いられているゴブリンたちは全員、毒のナイフを使ってくるので、その辺は厄介だと言う。


 しかも、現れるのは決まって通路。


 なので、どうしても乱戦になってしまうので、みんなも苦戦を強いられているようだ。


 しかも、ゴブリン・リーダーは倒しても、すぐにまた別の奴が現れるみたいだからな。だから、キリがない。

 

 ちなみに第四階層でもリザードマンやオーガは普通に現れるけど、奴らはかなり良い武器を所持しているらしい。


 だから、第五界層に出て来る奴らよりも手強いと言う。

 

 ただ、倒せばその武器を回収できるので、それを鍛冶場で鍛え直して貰えば、かなり強い武器ができる。

 

 希にアダマンタイト製の武器を落としてくれるリザードマンがいることも報告されているみたいだからな。

 

 俺たちは冒険者の館で公開されていた情報に一通り目を通してから、地下広間の転移の魔方陣を使って町に行く。


 相変わらずのっぺりとした無機質な建物が多い町を歩いていると、その途中で学院の生徒たちの姿を見かけた。

 

 今のところ、町の人間に襲われた生徒はいないって言うから、そんなに警戒する必要はないだろう。


 余程のことがない限り、あのガナートス王が治めている町の人間が敵に回ることなどないはずだからな。


 俺たちは町の中を歩いて行き、迷宮の入り口にまで来た。


 そこには警備隊の腕章を付けている生徒たちがいた。聞くに彼らが働きかけをするのは学院の生徒たちだけだと言う。

 

 さすがに町の人間が迷宮を入ることを止めるようなことはしないらしい。

 

 俺たちは警備隊に許可証を見せて、迷宮へと続く階段を上がっていく。すると、第五階層と同じように横幅の広い通路に出た。

 

 通路の壁の色は第五階層と異なっている。なので、迷宮に漂っている空気も、前よりも痛く感じられた。

 

 でも、光石は壁に嵌めこまれているので明かりを失う心配はない。

 

「さてと。第四階層の迷宮に足を踏み入れるのは初めてだけど、いつも通りの行動を心懸ければ問題は起こらないはずだ」


 ハンスは弓を手にしながら、みんなにそう言い聞かせる。みんなも無理な気負いのない自然な顔をしていた。


 俺も一週間の休日のおかげで、心を良い状態に保つことができるようになっていたし。


「ああ。他の連中だって、それなりの活躍はできているんだ。なら、俺たちに同じことができないってことはないだろう」


 俺は手に汗握る物を感じながら言った。


「そうだぜ。しかも、俺たちは新しい魔法を覚えたんだ。パーティーの総合力は前より上がってるはずだし、負ける気はしねぇな」


 そう強気に言うとカイルはアリスやチェルシーを横目にした。


「そうそう。アタシも早くモンスターとの戦いで魔法を使ってみたいし、さっきからウズウズしているよ」


 チェルシーの使う付与魔法は見てみたいよな。俺も炎の属性が付与された剣でモンスターを斬り付けてみたいし。


「私も同じだね。この一週間、私も遊んでいたわけじゃないし、アムネイアス様から教えて貰った魔法はちゃんと役立てて見せないと」


 アリスは掌に炎の塊を作って見せた。


「ああ。今までは僕の回復魔法もほとんど出番はなかったけど、これからは違う」


 ハンスは力強く言葉を続ける。


「アムネイアス様には随分と色んな回復魔法を教えて貰ったし、みんなも怪我をした時はこの僕がいるということを忘れないでくれ」


 ハンスの声は自信に満ち溢れていた。


 確かに第五階層では怪我をしたこともなかったからな。なので、俺もハンスの回復魔法を目にしたことは一度もない。

 

「怪我を気にせずに戦えるって言うのは頼もしいよな。でも、死んじまったら、さすがにどうにもならねぇだろうが」


 カイルは槍の穂先を通路の向こう側に向けた。


「そうだね。あのアムネイアス様でも死者を生き返らせるのは無理みたいだし、死ぬことだけは絶対に避けた方が良いよ」


 チェルシーの言葉には俺も残念なものを感じる。まあ、避けるも何も死んでしまったら、人間なんて本当に終わりだ。


「結局、死者を生き返らせられるのは、神だけなんだよね。その神を全く頼れないって言うのは人間としては辛いところだけど」


 アリスはもどかしそうに言った。


 でも、俺は神を頼れないのではなく、頼ろうとしないだけなのではないかとアリスに言いたくなった。

 

 要するに、僕となればサンクナートやゼラムナートからの恩恵は少しではあるが受けられるのだ。

 

 ただ、アリスたちは、それを嫌っているだけで。

 

「だとすると、これからも今までと同じように慎重に戦わざるを得ないってことだな。やっぱり、何も変わらないじゃないか」


 俺はそう不満を垂れた。


 つまるところ、どんなに大きな力を身につけようと、迷宮で楽ができると言うことはないのだ。

 

 それが厳しい現実ってわけだな。

 

「そういうことだ」


 ハンスは俺の肩に手を乗せながら言葉を続ける。


「みんなだって痛い思いはしたくないだろうし、それなら、幾ら回復魔法があっても怪我はしないに越したことはないってことさ」


 ハンスは少しキザな笑みを浮かべると、気を取り直すように口を開く。


「ちょっとした怪我が死を招く可能性は、依然として残ってるからね」


 即効性のある毒なんかを食らうと、治療の魔法をかけられる前に死ぬこともあり得るからな。回復魔法があることは用心を怠る理由にはならない。


「そっか。そんな言葉を聞かされると、俺も本当に神にでも祈りたくなるよ」


 俺は溜息を吐きながら気弱な声で言った。それから、誰もが思い描くような神様って本当にいないのかなと思う。


「でも、今のところは神には頼れないし、下手したら、その神が敵に回るかもしれない可能性があるってことは肝に銘じておいた方が良いよ」


 ハンスの言葉は俺の心に重くのし掛かった。


「なら、今は邪神ヘルガウスト以外の神たちと戦うことにならねぇように祈るしかねぇな。もっとも、俺たちに祈る神はいねぇが」


 カイルは胸にある十字架のアクセサリーを握る。それを見た俺も、お守りくらい持って見るかなと心の中で呟く。


「だよなぁ」


 俺はそうぼやくことしかできなかった。信じる神を持とうとしないのは、損をしているように思えなくもない。


「ああ。特に学院の生徒たちの後ろ盾となっているサンクナートやゼラムナートと敵対するようなことはしないようにしないと」


 ハンスは深慮するように言葉を続ける。


「そうなったら、学院の生徒たちをも敵に回しかねないし」


 あくまで矢面に立とうとしないサンクナートとゼラムナートなら、学院の生徒たちを駒みたいに使って来ることはあり得る。


 少なくとも、自分の持っている力を出し控えるサンクナートとゼラムナートは信じるに値する神とは思えないな。


「難しいね」


 チェルシーは壁に取り付けられている光石を見ながら呟いた。


「うん。私の両親も善神サンクナートを熱心に信仰してたからね。二人が今のサンクナートを見ればきっと落胆すると思う」


 アリスは神は姿形が見えない方が良いと言いたいのだろうか。


「ま、俺たちが立っているのはラムセスが作り上げた舞台なんだ」


 カイルは洒脱を感じさせるように言葉を続ける。


「だったら、何もかもが上手くいくなんてことは絶対にないだろうし、そこのところは覚悟しておこうぜ」


 カイルの言う通り、この先、どんな障害が用意されているか分かったものではないし、油断は禁物だ。


 そんな話をしていると、通路の向こう側から人型のモンスターが現れる。それは第五界層でも何度も出できたリザードマンだった。


 その数五匹。


 だが、そのリザードマンたちはみな盾を手にし、がっちりとした鎧も身につけていた。


 それを見た俺は手こずりそうだなと思った。


「リザードマンか。明らかに第五階層で出て来た奴らよりも装備が充実しているし、はっきり言って、手強そうだ」


 ハンスは弓を構えながら言った。


「大丈夫だ。俺たちにはオリハルコンの武器があるし、装備だけを充実させたモンスターなんかに負けやしない」


 俺はそう言い切った。


「そうだぜ。俺たちだって、確実に強くなってるんだ。それをこいつら相手に確かめてやろうじゃねぇか」


 カイルは血気を感じさせるように言った。


「そうそう。アタシの力を見せるには格好の相手だね」


 チェルシーは獲物を見つけた鷲のように笑う。


「私はみんなの戦いを見させて貰うよ。アムネイアス様から教わった魔法は威力が強すぎて、みんなが戦っている時に使うのはちょっと危ないから」


 そう言って、アリスは後退した。


「よし、行くぞ!」


 そう叫ぶと、俺は鞘から剣を引き抜き、足を前に踏み出す。


 すると、リザードマンたちは武器を振り上げながら、怒濤の如き勢いで俺たちのいる方に迫って来る。


 俺たちの出方を窺いもしないところに底の浅さを感じる。やっぱり、何を身につけていても所詮、リザードマンはリザードマンか。


 俺はハンスの援護を信頼しながら、先陣を切って俺に襲いかかってきたリザードマンを待ち受ける。


 そのリザードマンは岩をも砕くような大剣を振り下ろしてきたが、俺は素早い身のこなしでかわした。

 

 確かに武器は良いものだが、それを扱うリザードマンの腕がまるでたいしたことがない。宝の持ち腐れも良いところだな。

 

 俺は大きな隙を見せたリザードマンに向かって剣を一閃する。そのリザードマンは盾を持ち上げたがあいにくと反応が遅すぎる。

 

 俺の剣はリザードマンの首をいとも容易く跳ね飛ばした。

 

 その結果に、俺は軽く落胆する。少しは楽しませて貰えると思ったんだけど、見かけ倒しも良いところだった。

 

 でも、オリハルコンの剣の切れ味はやっぱり抜群だったな。

 

 ガンティアラスと戦った時は、あまり切れ味を実感できなかったが、相手が普通のモンスターとなると鉄の剣とは手に伝わって来る感触がまるで違う。

 

 これは一生、使い続けられる武器だ。

 

 そんなことを考えていると、今度は他のリザードマンが敵意の籠もった目で槍の穂先を突き出してくる。

 

 仲間のカタキを取ろうってわけか。

 

 ちなみにそのリザードマンが持つ槍の柄は前のように木製ではなく金属だった。なので、柄を切断するような芸当はできない。

 

 俺は槍の穂先を身を捌いて避ける。すると、ハンスの放った矢が、槍を持ったリザードマンの腕の関節に突き刺さった。

 

 ハンスの狙いには寸分の狂いもない。

 

 俺は槍を落としそうになったリザードマンに剣を振り下ろす。

 

 その一撃は革の鎧を易々と切り裂き、リザードマンの心臓にまで鋭い刃を届かせた。槍を持ったリザードマンは血を吹き上がらせながら崩れ落ちる。

 

 革ではなく、金属の鎧だったら、オリハルコンの剣の一撃も止められたかもしれないな。

 

 もっとも、金属の鎧だったら、動きがだいぶ鈍くなっていただろうが。やっぱり、大事なのは装備ではなく、中身だ。

 

 俺が次のリザードマンを仕留めにかかると、オリハルコンの剣が赤色に輝く。


「炎の属性を付与したから、それでリザードマンを斬り付けてみて。きっと凄い攻撃力を発揮できると思うよ」


 チェルシーがそう言ったので、俺はそのまま次のリザードマンに斬りかかった。そのリザードマンは盾で俺の剣を真っ向から受けとめて見せた。


 が、その瞬間、俺の剣を受けとめた盾が勢い良く燃え上がる。その炎はリザードマンの腕を包み込むと、蛇のように触手を伸ばして急速に燃え広がった。


 それを受け、慌てて火を消そうとしたリザードマンだったが、その額にハンスの放った矢が狙い通りに突き刺さる。


 そのリザードマンは呆気なく床に倒れ伏した。


「付与魔法もけっこう凄いじゃねぇか。チェルシー、今度は俺の槍に雷の属性を付与させてみてくれよ」


 カイルはヒューと口笛を吹くと、チェルシーに向かって声を飛ばした。



「分かった」


 チェルシーがそう言うと、すぐにカイルの手にしている槍の穂先がバチバチとスパークし始める。


 それを見たカイルは金属の鎧に身を包み込んだリザードマンに青白く光る槍の穂先を突き出した。


 すると、その穂先は金属の鎧を貫いて、リザードマンの体に刺し傷を負わせる。

 

 その瞬間、槍の穂先の侵入を許したリザードマンの体はバチッと目も眩むような光りに包まれた。

 

 結果、そのリザードマンは糸が切れたように前のめりに倒れる。それから、ビクビクと体を痙攣させた。

 

「やっぱ、属性付きの武器は強いぜ。チェルシーがアムネイアスから付与魔法を教わったのは正解だったな」


 カイルは顔に喜色を浮かべながら言った。


「でしょー」


 チェルシーは照れたように笑った。


 一方、俺は付与魔法の力の凄さを実感しながら、仲間が次々とと殺されて棒立ちするしかない最後のリザードマンとの間合いを詰める。


 俺が大きく剣を振るうと、大量の炎が生じて、それがリザードマンの体に液体のように浴びせられた。

 

 だが、リザードマンもその炎を振り払って、鉄の斧を俺の体に振り下ろそうとする。


 俺は斧の一撃を難なく避けると、良く力を練り込んだ一撃を最後のリザードマンにお見舞いする。


 そのリザードマンは身につけていた金属の鎧を切り裂かれるのと同時に剣から膨れ上がった炎に包み込まれた。

 

 火だるまなったリザードマンは床をのたうち回る。

 

 俺も止めを刺そうとしたが、その必要もなく、もがき苦しんだリザードマンは動かなくなった。

 

 こうして全てのリザードマンが床を舐めることになった。

 

「特に苦労することもなく打ち倒せたな。これもオリハルコンの武器と、チェルシーの付与魔法のおかげか」


 俺は剣から赤い光りがスーッと消えていくのを見ながら言った。


「そうだな。属性の付いた武器があそこまでの威力を発揮するとは僕も思わなかったよ。もちろん、アムネイアスが教えた魔法が、それだけ凄かったってことなんだけど」


 ハンスもアムネイアスから魔法の手解きを受けたはずだ。なら、アムネイアスの使う魔法の質の高さも分かっているに違いない。


 それと、ハンスの矢には属性を付与させることはできないのだろうか。チェルシーもさっきの戦いでは矢に属性を付与させなかったけど。


 まあ、属性を付与させるには適した金属があると俺も聞いたことがある。ひょっとしたら、木製の矢じゃ属性の付与にかかる負荷に耐えられないのかもしれないな。

 

「だよね。初めから属性が付いてる魔法の武器じゃ、あそこまでの効果は得られないし。私も付与魔法の価値を再認識させられたよ」


 そう口にするアリスは今回の戦いでは全く力を見せてくれなかったな。

 

「たった一週間で覚えた魔法にしては上出来ってわけだ」


 俺は感心するように言った。


「ま、チェルシーは器用だからな。真面目にやらせれば、どんな魔法で簡単に習得できるんじゃねぇのか」


 カイルの言葉にチェルシーもテヘヘと笑う。


「でも、魔力不足は如何ともしがたいね。魔法を一回、使う度に自分の体からガクンと力が抜けていくのが分かるし」


 確かに今のチェルシーは疲れた顔をしているな。


「魔力を増やすのは運動して体の筋肉を増やすようなものだからね。すぐにどうにかできるものじゃないよ」


 アリスでさえ、魔力を使いすぎて披露しきってしまうことがけっこうあったからな。チェルシーにあまり大きな魔法を何度も使わせるのは危険だ。


「そういうことだね」


 チェルシーは小さく息を吐きながら頷いた。


「ま、何事も少しずつステップアップしていけば良いさ。早く成長しようとすると、思わぬところで転んだりするからな」


 ハンスは適切なアドバイスをしながら言葉を続ける。


「とにかく、チェルシーは無理のない援護に徹してくれれば良い。その代わりリザードマンたちが使っていた武器を何個か持ってくれ」


 ハンスは倒れているリザードマンたちに目を向ける。


「この武器はけっこう高値で売れそうだからね」


 ハンスがそう言うと、チェルシーは剣や槍などを両手で抱えるようにして持った。それから、俺たちは再び警戒感を高めながら歩き始めた。


《第三章② 終了》




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