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第二章 第四階層で待つ者⑦

 第二章 第四階層で待つ者⑦


 俺たちは地下広間に来ていた。


 そこにはたくさんの生徒たちがいて、冒険者の館の中と同じように立ったまま談笑をしていた。

 

 昨日までは何とも殺風景だった地下広間が随分と賑やかになっているのを見て、俺も何だか無性にワクワクしてしまった。


 ちなみに地下広間の上の倉庫は綺麗に片付けられていた。しかも、階段の前には警備隊の腕章を付けた生徒たちがいたのだ。


 彼らは転移の魔方陣を使って、町へ行くことにも冒険者ランクのルールを適用していた。


 なので、地下広間に入るには、格パーティーやギルドは規定の人数を揃えなければならない。

 

 ま、冒険者ランクがAのパーティーである俺たちには関係の無いことだけどな。俺たちはもう一人でどこにでも入れるんだから。


 俺たちは特に問題もなく光りが灯っている魔方陣の中に入る。


 すると、まだ記憶に新しい神殿の中へと転移する。

 

 一方、神殿の中にもやはりたくさんの生徒たちがいたが、彼らは少し戸惑ったような表情を浮かべていた。

 

「何だか、この町も賑やかになりそうだね。学院の生徒がこんなにたくさん押しかけてるんだから」


 神殿の外に出ると、チェルシーはどこか感慨深そうな顔で言った。


「でも、それだけに町の人とトラブルにならないか心配だよ。一部の心ない生徒のせいで、私たちまで町の人に悪感情を持たれたらたまらないし」


 アリスも十把一絡げに考えて貰いたくはないってことだな。


「だけど、魔界にあった町がここにあるのは、ある意味、学院の人間であるアタシたちのためかもしれないんだよ」


 チェルシーと同じことは俺も考えていた。


「じゃなきゃ、町一つを丸ごと迷宮の中に押し込むなんてことはしないだろうし」


 ラムセス自身がガナートス王にこの町を治めることを頼んだのだ。この町を裏で支配しているのはあくまでラムセスと言うことになる。


「その町を利用しないのは、損をしてるってことだな。俺はラムセスの思惑に乗せられているようで良い気はしないが」


 とはいえ、俺も利用できるものは何だって利用するつもりだ。小さいことに拘っていられる余裕はない。


「私も同じだよ。でも、アムネイアス様もいるこの町には、私も色々とお世話になるだろうから、勝手のようなものはちゃんと知っておかないと」


 アリスは建設的に言った。


「そうだね。なら、アタシも魔法を習おうかな」


 チェルシーは目力を強くしながら言葉を続ける。


「魔法は苦手だったし、学院が地上にあった時は授業もろくに聞いてなかったけど。でも、この状況じゃ、苦手だからなんて言っていられないし」


 チェルシーは頭の後ろで手を組んだ。でも、その話が確かなら、チェルシーも魔法を使う素養はあるんだな。


「だったら、付与魔法が良いんじゃないかな。攻撃魔法と回復魔法は私とハンスの二人でカバーできるから」


 アリスだけでなく、ハンスも必要とあらば、アムネイアスに魔法を学ぶ気でいることは昨日の夜に言っていた。


「付与魔法なんてちょっと地味だよ」


 チェルシーが不満そうな顔をする。


「でも、馬鹿にはできない魔法だよ。チェルシーみたいにパーティーの援護に回るメンバーなら、打って付けの魔法だし」


 付与魔法も使い方、しだいでは戦況を大きく変えられると爺さんも言っていたからな。


「そっか。なら、付与魔法を覚えれば、みんなの戦いをただ突っ立って見ているだけってこともなくなるんだね」


 チェルシーは目を輝かせる。


「うん。それに付与魔法は何となくだけどチェルシーの気質にも合ってると思うんだ」


 アリスだけでなく、俺もそう思う。ま、俺は魔法のことには詳しくないし、本当に何となくだけど。


「じゃあ、アタシも本気でアリスと一緒にアムネイアスのところに行って、魔法を習うことにするよ。当分は忙しくなることもなさそうだしね」


 余った時間は有効に使う必要があるな。


「それが良いよ。チェルシーはアムネイアス様にあんまり良い印象を持ってないみたいだけど、魔法を習い始めれば、それも変わるんじゃないかな」


 アリスはアムネイアスに全幅の信頼を寄せているようだ。


「だと良いけど」


 チェルシーは上を見ながらぼやいた。


「ま、二人とも無理はするなよ。それと、ちょっと危ないところに足を踏み入れたい、っていう時は遠慮なく俺に声をかけてくれよな」


 二人のために俺ができることはそれくらいだ。


「うん」


 アリスは実に良い顔で頷いた。


 その後、俺たちは神殿を後にして大通りにやって来ると、魔界の穴から運ばれてくると言う様々な食材を見て回った。


 俺の目にはあまり美味しそうには見えなかった食材も、店の人間に言わせれば栄養価が高くて食べて損はない物なのだそうだ。


 それから、俺は総菜の店で売っていた鳥の串焼きを食べる。地上の王都で食べた串焼きとは違って、味付けは濃かった。


 でも、不味くはない。

 

 むしろ、一度、食べたら癖になるような味だった。食べ物の旨さはどんな町でも変わらないみたいだな。

 

 そして、俺たちはなるべく美味しそうな食材を買うと、少しだけ町の中を散策する。

 

 大通りから一歩、外れた通りには歓楽街があって、粗野な店構えの酒場や遊技場などがあった。

 

 それらの店をちょっと覗いてみると、そこには魔界の人間たちがたくさんいた。

 

 さすがにこういう店は賑やかだな。

 

 とはいえ、俺たちが気軽に入れるような店ではないことは確かだ。

 

 現に俺たちの顔を見たら、店にいた人間の何人かはあからさまに嫌な顔をしたし。

 

 俺たちは変な人間に絡まれない内に歓楽街を出ると、広場などにも足を運んだ。広場には駆け回る子供たちの姿もあったので、俺も和やかな気持ちになれた。

 

「なかなか良い町だな。少なくとも、この町がここにあることに悪意は感じられない」


 俺は広場にあった池の水を見ながら言った。


「そうだね。私も迷宮では二つの意思を感じるの」


 アリスは真剣な顔で言葉を続ける。


「一つは学院の人間を本気で苦しめようとする明確な悪意で、もう一つは私たちを試して、人として成長させようとする意思なんだけど」


 アリスの言葉には俺も考えさせられる。


「それはあるな。俺たちの置かれている状況、全てが、ラムセスの悪意だけで成り立っているとはどうしても思えないし」


 パーティーの日にラムセスと言葉を交わしとことで、余計にそう思えるようになった。


「だよね。アタシたちをただ苦しめたいなら他に幾らでも遣りようはあるし」


 チェルシーは店で買った蒸しパンを食べながら言った。


「ひょっとしたら、その二つの意思の違いは、アムネイアスが言っていた破滅的な何かと関係があるかもしれないな」


 俺はその言葉が耳にこびりついて離れないのだ。


「そうだね。もちろん、ラムセスの背後には邪神ヘルガウストがいるんだろうけど、私はその後ろにもっと恐ろしい存在が潜んでいるような気がしてならないの」


 邪神ヘルガウストを思いのままに動かせる存在など限られている。


「ぞっとしない話だな」


 そう言って、俺は広場で遊び回る子供たちを見る。この子供たちに危険が及ぶようなことはないと思いたいけど。


「だよね。まあ、この先、どんな敵が待ち構えているにせよ、アタシたちは少しずつ前に進むしかないんだろうけど」

 チェルシーは蒸しパンを食べ終えると、疲れた顔で嘆息した。


《第二章⑦ 終了》



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