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第二章 第四階層で待つ者⑥

 第二章 第四階層で待つ者⑥


 どれくらい時間が経ったのか分からないが、俺は目を擦りながら昼寝をしていた寝袋から這い出る。


 立ち上がって部室の中を見回すと、そこにはアリスとチェルシーしかいなかった。

 

 ハンスとカイルはどこに行ったのだろう。


 そう思いながら、水時計を見ると時刻は三時を指し示していた。夜ではないというのに三時間半も眠ってしまったのか。


 でも、睡眠を取ったせいか体の怠さは消えていた。


「あ、やっと起きたね、ディン。こんな昼間から何時間も眠れるなんて、疲れが溜まってたのかな?」


 チェルシーはクッキーを口の中に放り込みながら声を上げる。


「ああ。昼寝なんて久しぶりにしたよ。ここのところ神経を張り詰めていたから、昼寝なんてする心の余裕はなかったし」


 寝ているところを見られるのは恥ずかしいという意識も働いていたように思える。


 それだけに堂々と昼寝ができたことは、みんなへの信頼が高まったことを証明しているように思えた。

 

「そうなんだ。それでね、アタシとアリスはこれから第四階層の町に行こうと思ってるの。何か良い物が売ってるかもしれないから」


 チェルシーはクッキーをボリボリと噛み砕く。


「そうか。昨日、大通りにある店を見た感じじゃ、校舎にある商業ギルドの店の方が良い物を売っているように思えたけど」


 もっもと、隅々まで見たわけじゃないからな。


 ただ、校舎にある店は学院の人間が何を必要としているか良く知っているので、それを考慮した上で品物を揃えている。

 

 それに対し、町の店は学院の人間のニーズに応えるように、品物を揃えているわけではないのだ。

 

 町の店で欲しい物があまりないように思えたのはそのためだろう。

 

「しかも、西館の店なら半額で買えるんだぞ」


 それを忘れてはいけない。


「だけど、もう少しちゃんと見てみなきゃ分からないじゃない。ひょっとしたら、掘り出し物とか見つかるかもしれないよ」


 チェルシーはクッキーの皿を空にするとそう言った。


「掘り出し物ねぇ」


 俺は首を傾げた。


「まあ、私たちは主に夕食の材料を買いたいだけなんだけどね」


 アリスは半眼で笑いながら言葉を続ける。


「昨日は見たこともないような食材を売っている店もあったし、私もそれを使った夕食をみんなに振る舞いたいって思ったんだ」


 アリスはそう零した。


 ま、俺はどうしたって、武器や防具、既にできあがっている食べ物なんかを見てしまうからな。

 

 未調理の食材などには意識を向けていない。

 

「そうそう。これからはアタシも料理を作るんだから、食材くらいはちゃんと目利きできるようにならないと」


 チェルシーはやる気を滲ませた。


「だから、ディンも暇なら、アタシたちと一緒に町に行かない?」


 チェルシーは軽い口調でそう誘ってきた。


「ま、そういうことなら付き合ってやるよ。女の子、二人であの町を歩かせるのは少し不安があるからな」


 魔界の人間たちが必ずしも俺たちに対して友好的だとは限らない。


 町を歩いたのは大通りだけだし、一歩、人目の付きにくい路地に入ったりすれば、どんな危険な人間が潜んでいるか分からないからな。

 

 そういうところ地上の王都と変わらないだろう。

 

「その辺は大丈夫だと思うんだけどなぁ」


 チェルシーは徐に腰に下げている短刀を抜いた。


「もしもの話だ。もちろん、俺だって二人の実力なら、誰かに襲われても難なく撃退できるとは信じているよ」


 アリスの魔法は剣の力を遙かに凌いでるからな。チェルシーだって、そこら人間に負けるとは思えない。


「だけど、敵がモンスターじゃない人間だってことを考えて見ろよ。殺さず、傷つけずに無力化するなんて芸当は無理な話だろう」


 どんな理由があれ、人を殺してしまったらその罪を一生、背負っていかなければならない。モンスターを相手にするのとは違うのだ。


 俺だって、あのラダックを必要以上に傷つけてしまった時は罪悪感に苛まれたからな。あんな思いは二人にはして貰いたくない。


「そうだね。アタシも人殺しにはなりたくないよ」


 チェルシーも異論なく頷いた。


「だったら、初めから襲われるような隙を作らないようにすれば良い。そういう心掛けをしていればトラブルも未然に防げるってもんだ」


 そのために俺がいる。


「ディンも良く考えてるんだね。さすが、長旅もしてきた冒険者だよ。アタシたちのような学生とは気配り違うね」


 チェルシーはそう持ち上げたが、気配りとはまた違う気がするんだよな。強いていうなら、旅に必要なのは何があっても切り抜けるという覚悟だろう。


「ああ。お前らが思っている以上に旅は神経を使うぞ。ちょっとした油断が死を招きかねないし、それはある意味、モンスターと戦うことよりも怖い」


 見える敵が相手なら戦うのは難しくない。でも、敵が大自然だったりしたら、とても戦うことはできないだろう。


「そっか。そこまで分かってるなら、ディンも迷宮の地図の作成くらいは一人でできるかもしれないね」


 チェルシーの言った通り、俺は今やAランクの冒険者だ。一人で迷宮に潜ることも可能だ。


「残念ながらそういう作業はあまり得意じゃないんだ」


 地図の作成ならハンスの出番だろう。ハンスは迷宮の構造を頭に叩き込むのが得意なようだからな。


 ま、人間、得手不得手があるってことだ。

 

「じゃあ、あまり遅くならない内に町に行こうよ。私たちが夕食を作る頃にはハンスもカイルも部室に戻ってると思うから」


 アリスがそう促すように言うと、俺も一応、剣を腰に下げて部室を出た。


《第二章⑥ 終了》



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