第二章 第四階層で待つ者⑤
第二章 第四階層で待つ者⑤
次の日になると、俺たちはいつものように部室で朝食を食べる。
俺も第四階層に行ったからと言って、すぐには気持ちを一新するようなことはできなかった。
やっぱり、第四階層に生息しているモンスターと戦わないと、本当の意味で気を引き締めることはできそうにないな。
俺たちの力がまたまだ通用するかどうかは、モンスターと戦ってみないと分からないし。
ま、しばらく様子を見れば俺たちよりも先に【ホワイト・ナイツ】の連中がモンスターと戦って、その力を確認してくれるかもしれないが。
そんなことをつらつらと考えていると、一人、朝から姿を消していたチェルシーが部室に飛び込んでくる。
「みんな、冒険者の館で第四階層にあった町の情報が公開されたよ。地下広間にある転移の魔方陣も使われ始めたし」
チェルシーは息を切らせながら言った。それを聞いた俺たちは揃って弾かれたように顔を上げた。
「そうか。これで学院のみんなも次のステージで活躍できるな。僕たちも遅れは取りたくないところだけど」
ハンスは新聞を畳むと、コーヒーに口を付けた。
「けどよ、第一界層でも手を焼いていた奴らが、第二階層なんかに行ったら、死人が増えることにならねぇか」
危惧を滲ませたのはカイルだ。
「それは仕方がないんじゃないの。新しい場所に足を踏み入れるのを怖がってたら、いつまで経っても迷宮の制覇はできないし」
チェルシーの言うことももっともだ。前にみんなが言っていた通り、迷宮の攻略は見極めが重要なのだと思う。
無理をすれば命を落としかねないけど、安全なことばかりしていたら先には進めなくなる。だから、どこまで踏み込んだ行動ができるか、的確に判断しなければならない。
「そうだね。だったら、この学院のみんなが最初に迷宮に挑んだ時みたいに、また慎重かつ地道に攻略していけば良いんじゃないかな」
アリスは堅実なことを言いながら言葉を続ける。
「そうすればどんなモンスターが出て来るのかもある程度、安全を守りながら分かるし、フロアーの地図なんかも無理なく作成できると思うから」
俺が学院に飛ばされて来た時、第一界層の構造を網羅した地図は既にあった。だけど、今度は白紙の地図と向き合わなければならない。
モンスターの生息状況も全く分からないのだから、危険は否応なしに高まるだろう。どう切り抜けるか、冒険者としての器がまた試されそうだな。
「そうだな。階層が移っても、迷宮を攻略するノウハウは簡単には変わらないだろう。なら、第五階層の時みたいに、死人がたくさん出たりすることはないはずだ」
ハンスの言葉通りなら良いんだけど。
「となれば、当面はどのパーティーやギルドも出現するモンスターの情報収集とフロアーの地図作成がメインの活動になる」
そう言って、ハンスはコーヒーを口に流し込んだ。
「で、俺たちはどうするんだ?」
俺はパンを胃に収めると、みんなに向かってそう尋ねていた。
「待つにしても何か行動するにしても、スタンスを明確にしてくれないと、こういう場合じゃ俺はどうして良いのか分からないぞ」
リーダーのハンスはどうするべきだと考えているんだ。
「確かにその通りだな。僕たちも第一界層を攻略する時は、他のパーティーやギルドの活躍の恩恵を大きく受けて冒険をしていた」
ハンスは難しい顔で言葉を続ける。
「だから、何をするべきなのかはある程度、簡単に決められたんだ。でも、今度はある意味、手探りの冒険になる。前とは状況が違うんだ」
ハンスたちも他のパーティーやギルドには随分と助けられたということだろう。
「でも、チンタラしているとすぐに俺たちの冒険者ランキングも下がっちまうぞ。長い間、続いていた膠着状態がようやく打破されたんだから」
カイルは腕を組みながら言った。
「そうだよ。みんな、もの凄くやる気になってるからね。弱小パーティーだった【ラグドール】にできたことなら、俺たちにもできるって感じでね」
チェルシーの言葉には俺も内心、ムッとしていた。
まだ、俺たちのパーティーは正当な評価を受けられてないみたいだな。
でも、他人からの評価なんて期待してはいけないし、俺も名誉みたいなものに執着するのは止めよう。
「そんなに甘いもんじゃないんだけどな。でも、俺たちの活躍がみんなのやる気に火を付けたって言うんなら、それは悪くない」
みんなが頑張る姿を見るのは嫌いじゃないからな。
「そうだね。何度も同じことを言うようだけど、私たちは初心を忘れずに少しずつ迷宮を攻略していこうよ」
アリスは訴えかけるような声で言葉を続ける。
「他のパーティーやギルドの活躍を見て焦ったって、ろくなことにならないし」
アリスの言葉に俺も心を洗われた。
「アリスの言うことが正解みたいだな」
俺は微笑みながら、みんなの顔を見る。
「元々、俺はこの学院の生徒じゃないし、周りを意識して変に気を遣ったり、対抗心を燃やしたりすることに意義は感じない」
もちろん、気を遣うようなことが増えてきたのも事実だけどな。ただ、闇雲に突っ走れるような図太い神経は持ち合わせていない。
今の俺には大切な仲間がいるんだから、無茶は禁物だ。
「そっか。まあ、そういうことなら一週間くらいは様子を見ることにしよう」
ハンスは眼鏡のフレームを指で押し上げながら言葉を続ける。
「【ホワイト・ナイツ】と違って、最前線で戦わなければならない義務なんて僕たちにはないからな」
ハンスがそう言うと、俺たちは納得したように頷いて、各自、自由な時間を満喫することにした。
《第二章⑤ 終了》




