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第二章 第四階層で待つ者④

 第二章 第四階層で待つ者④

 

 俺たちはガナートス王の屋敷と同じくらいの大きさを持つ建物の前にいた。ここが神殿らしいのだが、やはり外観には飾り気がない。

 

 ただ、入り口の横には太い柱が何本も建っていたので、何とか神殿のような雰囲気を残していた。

 

 が、神殿の前に人通りはなく、その中からも人の気配は伝わってこなかった。見るからに寂れている神殿だな。

 

「ここがアムネイアスの言っていた神殿か。少しは荘厳な空気は漂わせているが、地上の王都で善神サンクナートを奉っていた神殿とは比べるべくもないな」


 モリエールはこの神殿を軽んじるような言葉を口にする。


「こんな神殿で奉られている神はろくなもんじゃない」


 モリエールそう決めつけた。


「しょうがねぇだろ。そもそも、魔界に住んでいた奴らが真っ当な神を奉ること自体、おかしなことなんだから」


 カイルの言う通り、サンクナートを奉る神殿と比べるのは酷だ。


「そうだな。この神殿は前に図書室の本で見たことがある邪教の神殿に似ている。おそらく、邪悪な神を奉るために建てられた神殿なんだろう」


 ハンスの言葉か確かなら、邪悪な神とはヘルガウストのことだろうか。


「そんな神殿に僕たちの助けとなる転移の魔方陣があるってわけかい?何とも不安な話ではないか」


 モリエールは鼻で笑った。


「ま、アムネイアスが俺たちを謀ることはないだろうし、もし、危険があるなら前もって言ってくれたはずだから、入っても大丈夫だろう」


 俺はみんなに自分の楽観を感じさせるように言った。


「そう思いたいけど、アタシはどうにもあの女が信用できないんだよね。性格もオリヴィエに似てるし」


 チェルシーはそう言ったが、俺はアムネイアスを心から信じても良いと思っている。人間を見る目に自信がないわけではないからな。


「信用できるかどうかは、長く付き合っていけば分かるわよ」


 レイシアは言葉を差し挟む。


「そもそも、賢王と言われるガナートス王が相談役として自分の傍にいさせているんだから、ウルベリウス院長と同じくらい信用するに足る人物なのは確かなはずよ」


 レイシアの言葉には素直に頷ける。


 ガナートス王は豪快な人物ではあるが、馬鹿ではない。自分の傍に置く人物はよく熟慮しているはずだ。

 

「魔法使いとしての格もウルベリウス院長よりアムネイアスの方が断然、上だし」


 ウルベリウス院長は賢人として有名になったのだ。


 魔法の力だけなら、ウルベリウス院長より優れた人物はそれほど多くないとは言え、確実にいるだろう。

 

「私は教わる立場だし、信用するしかないけどね。まあ、アムネイアス様も私たちに全てを語ってくれたわけじゃないみたいだけど」


 アリスの疑念と同じものは俺も感じていた。


「とにかく、いつまでも立ち話をしていても仕方がないし、さっさと神殿の中に入ろう。そうすれば学院に戻れるかどうかは、はっきりするはずだ」


 俺がそう言うと、みんなは互いに顔を見合わせる。それから、ズカズカとした足取りで神殿の中に入る俺の後に続いた。


 それから、俺は柱が一直線に建ち並ぶ回廊のような通路を歩いて行く。そして、一際、大きな空間へと辿り着いた。


 俺は部屋なのか広間なのか良く分からない場所を見て眉根を寄せる。


 現に、この場所には何も物が置かれておらずガランとしていたからな。神を奉るのに必要な祭壇もないし。


 ただ、肌がピキピキするような空気は漂っている。

 

「ふむ、大きな魔方陣だな。だが、これと対になる魔方陣は学院にはなかったはずだ。本当に僕たちは学院とこの町を自由に行き来できるようになるのかね」


 モリエールの視線の先には、床に描かれた大きな魔方陣があった。


「さあ」


 チェルシーがそう答えておどけたようなポーズを取った。


 それを受け、レイシアがすぐさま魔方陣の前に歩み寄る。それから、しゃがみ込んで魔方陣の中に描かれているものを覗き込み始めた。

 

「魔界の人間の魔力じゃ起動できないようになっているわね。この魔方陣を起動させるには地上の人間の魔力が必要よ」


 レイシアは魔方陣の性質をすぐに読み解く。さすが、学院でも一、二位を争う魔法の使い手か。


「なら、さっさと起動させてくれ」


 俺は急くように言った。


 それを受け、レイシアは魔方陣の白い線に手を触れる。すると、魔方陣を描く線が、まるで水が流れ込むようにして光り始めた。

 

 おそらく、魔方陣に魔力を注ぎ込んでいるのだろう。

 

「これでよし、と」


 魔方陣を描く線が全て光ると、レイシアは額の汗を服の袖で拭った。


「では、さっそく誰かこの中に入ってみてくれたまえ。僕は安全が保証されるまでここに留まる…っお」


 最後まで言わせず、カイルはモリエールの背中を足で蹴飛ばした。


 すると、不意を突かれたモリエールは魔方陣の中に飛び込んでしまう。と、同時にモリエールの姿は光りの粒子となって消えた。

 

「消えちゃったね、モリエール」


 チェルシーがニヤニヤと笑った。


 その悪戯めいた顔を見るに、良い気味だとでも思っているのだろう。だが、俺たちもこの中に入らなければならないことに変わりはない。

 

 俺たちはしばしその場に呆けたように立ち尽くしたが、カイルが口火を切るように声を上げる。


「じゃあ、俺たちも中に入ろうぜ。モリエールが何か危ない目に遭っているとも限らないからな」


 そう言うとカイルは躊躇いなく魔方陣の中に入る。すると、その姿はモリエールの時と同じように消えた。


 それを見た俺も魔方陣の中に足を踏み入れる。


 すると、すぐさま視界が塗り変わり、気が付けば俺は先ほどいた場所とは雰囲気が異なる場所にいた。

 

 ここは大広間だな。

 

「いきなり、人の背中を押すなんて酷いではないか。はっきり言って、心臓が止まりかけたぞ」


 モリエールがカイルに向かって口角泡を飛ばす勢いで言った。


「お前には良い薬だ」


 カイルは涼しい顔をする。


 すると、光り輝く魔方陣から、ハンスたちが現れる。そして、全員、揃うと俺たちは互いに胸を撫で下ろすような顔をした。

 

「ここはどこなんだ?神殿じゃないようだけど、厳粛な空気が漂っているし、こんな場所が学院にあったかな」


 ハンスは辺りを見回しながら言った。


「ここは学院の地下にある封印の間じゃないの。噂では封印の間は、かつてラムセスが邪神ヘルガウストを呼び出す際に使った場所だと言われているわ」


 レイシアの言葉にチェルシーもすぐに反応する。


「その話ならアタシも聞いたことがある。サンクフォード学院の七不思議だよね」


 チェルシーが弾んだ声で言った。


「七不思議だって?」


 俺の学校にも七不思議はあったけど、どれも嘘ばっかりだった。


「うん。元々、地下の広間は色んなことに使われてたって聞いてる。でも、ヘルガウストの一件があってからは誰も使えないように入り口を封印したんだって」


 チェルシーの説明を聞き、俺もこれだけの広間を使えなくするのは勿体ないなと思った。


「今じゃ、その広間がどこにあるのかも分からないって話だよ。ま、だから七不思議の一つとして数えられてるんだけど」


 でも、ウルベリウス院長なら、この部屋の存在も知っているはずだ。


「とにかく、ここには五つの魔方陣がある。つまり、これと対になる形で、迷宮の中に転移の魔方陣があると言うことだな」


 ハンスの言う通り、広間にはそれほど大きくない五つの魔方陣が床に描かれている。


 その内の一つで、俺たちが現れた場所にあった魔方陣には光りが灯っていた。反対に他の魔方陣には光りは灯っていない。

 

「その一つはこうして起動していると」


 カイルが足で光る魔方陣の線を擦る。でも、光が消えたり、弱まったりすることはなかった。


「この魔方陣は誰が作成したのかな。学院の人間じゃないラムセスがここまで入り込んで魔方陣を作成するのは難しいと思うけど」


 俺はそう疑問を持つ。


 誰も知らない間にラムセスが学院の中を出入りしているとは、どうしても考えられないのだ。

 

「まさか自然にできあがったものってことはないよな」


 ラムセスは何もないところから光りの魔方陣を描き上げ、俺を迷宮の最下層に飛ばした。であれば、俺が口にしたことなど些細な疑問かもしれない。


 そんな俺の疑問に対し、ハンスが顎に手を這わせる。


「おそらく、この学院に入り込んでいるラムセスの使い魔が作成したんじゃないかな」


 ハンスは確信はないのか、迷いのある口調で言葉を続ける。


「ラムセスも運動館で開かれたパーティーの時、学院にいる使い魔から詳細な報告を受けていたようなことを言ってたし」


 ラムセスの使い魔を見た者はいるのだろうか。


「そうか。まあ、使い魔にこんな緻密な魔方陣が描けるのかは疑問だけど」


 俺の言葉にレイシアが人差し指を立てる。


「使い魔だからって、安易に猫やコウモリをイメージするのは間違っているわよ。ラムセスほどの魔法使いなら、人間を操って手足のように動かすことも可能なはずだから」


 レイシアの言葉に俺は背中が寒くなった。


 つまり、普通に話している相手が既にラムセスに操られている可能性もあると言うことなのだから。

 

 下手したら、いきなりナイフで刺されるなんてこともあり得るし、学院のどこに敵がいるか分からない。

 

「なるほど」


 人間にも気を付けなければならないと言うことはオリハルコンの原石の時に痛いほど思い知らされていたが、それでもレイシアの言葉にはより深い恐怖を感じた。


「何にせよ、この調子で魔方陣を起動させていけば良いんだろ。そすれば学院にいるみんなが助かるし」


 カイルは話を仕切り直すように言った。


「ああ。誰もがこの転移の魔方陣を使うようになれば、僕たちよりも先に迷宮を攻略してくれる生徒も現れるかもしれない」


 ハンスはそれでも良いと思っているのだろう。


「だと、良いんだがね」


 モリエールは含みのある声で言うと、肩を竦めた。


「とにかく、ここから出ようよ。じゃなきゃ、本当に学院に戻って来れたのかどうか分からないし」


 チェルシーの言うことはもっともだったので、俺たちは喋るのを止めると五つの魔方陣に背を向けて広間から出た。


 幸いにも広間の入り口の扉はすんなり開けることができたし。


 そして、階段を上がっていくと、学院の校舎、特有の琥珀色の壁が見える部屋に来る。その部屋には色々な物が置かれていて、倉庫のようになっていた。


 倉庫に地下の広間へと続く階段が隠されていたんだな。


 そして、倉庫から出ると、そこは紛れもなく学院の校舎だった。制服を着た生徒たちが俺の目の前を通り過ぎて行ったからな。


 これにはほっとさせられる。


 その後、学院に戻って来れたことを確認すると、モリエールとレイシアの二人は第四階層で見聞きしたことを報告するために生徒会室に行くという。


 一方、俺たちは【ラグドール】の部室に戻ることにする。


 俺もどっと疲れてしまったからな。部室に戻ったらアリスの入れる美味しい紅茶が飲みたいところだ。

 

《第二章④ 終了》



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