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第二章 第四階層で待つ者②

 第二章 第四階層で待つ者②


 朝食を食べ終え、九時五十分になると俺たちは迷宮の入り口へと向かう。


 十時に【ホワイト・ナイツ】のレイシアとモリエールの二人とそこで待ち合わせをしていたからだ。

 

 二人が時間にうるさいとは聞いていなかったが、それでも待ち合わせ時間に遅れるわけにはいかないだろう。

 

 遅れたら、どんな文句を言われるか分からないからな。

 

 そして、いざ、迷宮の入り口に足を運ぶと、そこには気怠そうな顔をしているレイシアとモリエールの二人が立っていた。

 

 二人は俺たちの姿を確認すると、顔の表情を引き締める。

 

「逃げることなく来たことは褒めてやろう。その顔を見るに、怖じ気づいているわけでもなさそうだからな」


 モリエールは腕を組みながら尊大に言った。


「当たり前だろ。俺たちはガンティアラスを倒してるんだぞ。ちょっとやそっとのことで怖じ気づくわけがないだろうが」


 カイルが負けまいと言い返した。


「それが君たちの自信の源というわけか。ま、僕はそんな自信がなくても、こと戦いで平常心を失ったりすることはないがね」


 モリエールは口の端を吊り上げる。


「私もよ。例え、自分の首を撥ねられる時でも、私は私の誇りにかけて、取り乱したりしない自信があるわ」


 レイシアは気丈さを見せながら言葉を続ける。


「あなたたちも一つの功績にいつまでもしがみつくのは止めた方が良いわよ。そういうしがみつきはいつか通用しなくなるから」


 ガンティアラスを倒したんだから、どんな敵が現れても平気だ、みたいな自信の持ち方は危ういと言いたいんだな。


「分かってるよ。二人とも相変わらず手厳しいことを言うな」


 俺はボリボリと頬を掻く。


「足を引っ張られるのはご免だと言いたいだけさ。少なくとも、僕は君たちの力をまだ信用したわけじゃないからな」


 モリエールの言葉にカイルも挑むように笑う。


「だったら、俺たちの戦いぶりも見せてやるよ。そうすれば、そんなでかい口も叩けなくなるだろうぜ」


 確かに俺たちの戦いを見て貰えば、モリエールの態度も変わるかもしれない。


「それは楽しみだ」


 モリエールも一歩も退かない。


「まあまあ、僕たちは啀み合いをするためにここに集まったわけじゃないんだから、売り言葉に買い言葉の応酬はそれくらいにしておこう」


 カイルとモリエールの二人を嗜めたのはハンスだ。こういう時にハンスがいてくれると、やっぱり助かるな。


「そうだな。ならば、さっさと第四階層に行こうではないか。ゲートの先に何があるかワクワクしていないと言ったら嘘になるからな」


 モリエールはまるで自分がリーダーみたいな調子で言うと、俺たちに迷宮の中に入るよう促した。


 その後、俺たちはゲートを目指して迷宮の中を歩き続ける。


 その間、モンスターも現れたが、奴らは俺たちを見ると、ことごとく尻尾を巻いて逃げてしまった。

 

 ゴブリンなんて、俺の顔を見たら面白いくらい顔を引き攣らせていたからな。

 

 強敵だったミノタウロスのようなモンスターたちと、そのボスだったガンティアラスを倒した俺たちの人相がモンスターたちの間で広く知れ渡っているのは間違いないだろう。

 

 そのしわ寄せが、他の生徒たちに向かわなきゃ良いけど。

 

 俺たちはわざわざ追いかけて仕留める気にもなれず、逃げるだけのモンスターたちを無視してゲートのある部屋を目指した。

 

 そして、酷く懐かしさを感じさせるゲートの前にやって来た。ここに来るとフィズの死に顔を思い出してしまう。

 

 なので、忘れかけていた心の痛みを感じた。

 

「ここがガンティアラスの守っていたゲートか。こうして見ると、なかなか威圧感があるではないか」


 モリエールは少し怯えた顔で言った。


「引き返すなら今の内だぜ」


 カイルは背後からモリエールの肩を掴む。すると、モリエールの体がビクッと震えた。


「誰に向かって物を言っているのかね。この僕が門一つ見ただけで恐れを成すわけがなかろう。あんまりからかわないでくれたまえ」


 モリエールは慌てた口調で言った。


「じゃあ、さっさと行こうよ。たぶん、この先のモンスターはアタシたちを見ても逃げてはくれないと思うよ」


 チェルシーの言葉に俺も心を引き締める。それから、開かれたままになっている鉄格子の扉を潜ると、その奥にあった階段を上った。


「ここは町か」


 俺は呆けたような顔をする。


 階段を上った先にあったのは、天井がそれほど高くなく、壁をくり貫いたような建物がずらりと並んでいる町だった。

 

 建物の中からは光が漏れているし、道にも外灯のようなものが幾つかあった。なので、夜の町という雰囲気が良く出ている。


 実際には今は夜じゃないけど、ここは迷宮の中だし光石の明かりがなければ真っ暗になってしまう。


 そんな、この町は地下街を彷彿させた。


 俺も地下街のある異国の町には言ったがあるからな。でも、そこで感じられたような賑わいは、ここでは感じられなかった。

 

 空こそないが、良くも悪くも普通の町と言った感じだし。

 

「僕も人が住んでいる場所があることを予想してなかったわけじゃないけど、まさか迷宮の中に町があるとはね」


 ハンスは眼鏡のフレームに指を伸ばす。


「地上から迷宮を攻略していた冒険者たちも、迷宮に町があるなんて言う話しはしていなかったから、ちょっと驚きだぜ」


 カイルは町の様子を観察するように首を巡らせている。


「まあ、いきなり町の住人が襲いかかってくるようなことは、さすがにないと思うけど、現時点じゃ誰が敵に回るかは分からないよな」


 俺は不安を滲ませながら言った。


 その視線の先には明らかにモンスターではない人間の姿がちらほらとある。幸いにもその人間たちは武器を手にしてはいなかった。

 

「そうだな。でも、すぐに僕たちの敵に回るような人間が現れる雰囲気じゃなさそうだ。とりあえず、ここがどんな場所なのか、怖がらずに聞いて見よう」


 そう言うと、ハンスは二の足を踏むことなく、道にいる人たちに声をかけようとする。こういう率先した動きを見せてくれるのはさすがリーダーだ。


 ちなみに道にいる人たちは普通の人間ではあり得ない黄色や緑色の肌をしていた。髪の色もまるで染めているようにカラフルだし。

 

 とはいえ、その姿にファッション性は感じられず、むしろ原始的とも言える雰囲気を漂わせていた。

 

「つかぬ事をお聞きしますが、ここはどういう町なんですか?」


 ハンスが水着のような露出度の高い服を着ている女性に声をかけた。すると女性は屈託なく笑う。


「白い肌の人間なんて、初めて見たわね。もしかして、あなたたちは魔界に住んでいた人間じゃないんじゃないの?」


 女性は優艶な声で尋ねてきた。


「その通りです」


 ハンスは神妙な顔をした。


「ふーん。ま、そういうことなら教えてあげても良いわ。と言っても、私の知ってることなんてたかがしれてるけどね」


 女性は品定めでもするような目で俺たちを見ると言葉を続ける。


「元々、この町は魔界にあったの。でも、ある日、町は無理やり形を変えられて、迷宮の中に押し込まれてしまったのよ。半年くらい前にね」


 女性は済ました顔で肩を竦めた。半年前というと、学院が迷宮の最下層に飛ばされた時期と重なるな。


 この町は学院にいる人間のために用意されたものなのかもしれない。


 でも、魔界でも人間が暮らしていたのは驚きだ。まあ、肌の色は俺たちの世界にいる人間とは大きく違うけど。


「形を変えた町を迷宮の中に押し込むなんて凄い力ね。人間の力じゃ、絶対に不可能なことだわ」


 レイシアが興奮したように言った。


 その言葉には同感だが、俺は自分の世界すら持っていたクシャトリエルのような神と会っているからな。

 

 なら、そこまで驚くようなことじゃない。

 

「でも、迷宮の最下層に学院を召喚したラムセスならできそうだ。例え、ラムセスには無理でも、邪神ヘルガウストならできても不思議じゃないし」


 俺はそう分析するように言った。


「そうね」


 レイシアも反論は口にせずに頷いた。


「ちなみに、この町を治めているのは、あなたたちと同じ魔界の人間じゃない白い肌の人間らしいわ。その人間は自分のことを賢王ガナートスと名乗ってるって聞いたわよ」


 女性の言葉に俺も動じたような顔をする。


「賢王ガナートスだと?」


 そう驚きの声を上げたのはモリエールだ。


「ガナートス王なら国王の座を退いて、隠居生活を送っていたはずだぜ。現に今のサンクリウム王国の国王は息子のカルナックだからな」


 カイルは眉を顰めながら言った。


「つまり、ラムセスがガナートス王にこの町を治めるよう、頼んだってことじゃないのか。まあ、その意図は俺には分からないけど」


 俺はこの国の内情には詳しくないんだが、と思いながら自分の意見を口にした。


「なら、ガナートス王に会いに行ってみよう。ガナートス王なら僕たちにとって何か有益なことを聞かせてくれるかもしれないし」


 ハンスの言葉に反対する者はいなかった。


「そうだな。ラムセスが全てのお膳立てをしたと考えると少し危険な気もするが、ここは恐れずに会いに行った方が良いぜ」


 カイルも首肯する。


「でも、元、国王だった人物に会いに行くなんて、ちょっと気後れしちゃうよね。私たちと普通に会ってくれるかな」


 不安を煽るようなことを言ったのはチェルシーだ。


「大丈夫だよ。ガナートス王はとっても心の広い人物だって聞いてるし」


 アリスはフワフワとした笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「それに、ここは王宮じゃない迷宮の中なんだから、臣下のような人に会うのを邪魔されることはないんじゃないかな」


 アリスの言う通り、王宮を取り仕切っているのは臣下の人たちだからな。そこでは全てがガナートス王の思い通りに行くわけではない。


「その通りだ。あのガナートス王なら王宮に出入りしていた僕のことも覚えてくれているはずだし、僕に危害を加えるようなことはしまい」


 モリエールの言葉に少しだけ俺も安心した。


「そう願いたいもんだ」


 俺は皮肉を口にすると、みんなに向かって力強く言葉を続ける。


「ま、飛び込んで見なきゃ分からないこともあるだろうし、ここは思い切ってガナートス王のいるところに行ってみよう」


 俺がそう言うと、みんなは物珍しそうな顔をしながら、元々は魔界にあったという町の中を歩き始めた。


《第二章② 終了》



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