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第二章 第四階層で待つ者①

 第二章 第四階層で待つ者①


 俺は朝になると、頭の中が冴え渡るようなものを感じながら目を覚ます。昨日はぐっすり眠れたし、気分の方は悪くなかった。


 体も特に痛いところはないし、怠さも感じない。なので、朝のコンディションとしては良好な方だろう。


 でも、昨日の夜のことを思い出すと、たちまち恥ずかしくなった。でも、すぐにその恥ずかしさを頭から追い出す。


 今日は迷宮の第四階層に足を踏み入れる日なんだし、気合いを入れないと。


 俺は第四階層がどんなところなのか想像してみる。すると、たちまち緊張して掌が汗ばんでくるのを感じた。


 もし、ドラゴンのようなモンスターが普通に何匹も現れたりしたらと思うと、心胆が寒からしめられるからな。


 もっとも、迷宮に出現するモンスターの強さは良く考えられているようだし、第四階層になったらすぐに太刀打ちできなくなるということはないだろう。


 とはいえ、第四階層は第五界層よりも制覇が難しくなっているのは間違いない。ゲートを守る大ボスもガンティアラスより手強い可能性が高いからな。

 

 とにかく、今の俺に必要なのは度胸だ。昨日のレイシアやモリエールの強気さを少しでも良いから分けて貰いたいくらいだし。


 俺は寝袋から這い出ると、校内新聞を広げながら朝食を食べているハンスを見つつ椅子に座る。


 すると、アリスがまるで金持ちの屋敷にいる給仕のような動きで、俺の前にベーコンと目玉焼きの入った皿を置いた。

 

 もちろん、湯気の漂うコーヒーも。

 

 起きるだけで朝食が運ばれてくるのは嬉しいけど、俺も何か手伝えることを見つけた方が良いかもしれないな。

 

 同じ仲間であるアリスを使用人のように使うのは抵抗があるし。

 

 昨日、言ったできることを広げるという言葉はみんなだけでなく、自分にも当て嵌めなければならないことなのだろう。

 

 ちなみにカイルとチェルシーはまだベッドで寝ている。二人とも緊張感とは無縁な寝顔を見せていた。

 

「おはよう、ディン君。良く眠っていたようだけど、体長の方はどうかな。悪いところがあったら隠さずに言ってくれよ」


 ハンスは新聞から視線を外すとそう言った。


「大丈夫だ。ちゃんと疲れは取れているし、迷宮に入っても普通に戦えるよ。良い意味での緊張も感じているからな」


 俺はコーヒーに口を付けた。相変わらずアリスの入れるコーヒーは旨い。アリスなら喫茶店も開けそうだな。


「それを聞いて安心した。今日はあのレイシアとモリエールの二人が同行するんだ」


 ハンスは新聞を畳みながら言葉を続ける。


「ぴったりと息を合わせろとまでは言わないけど、互いに足を引っ張るようなことは止めてくれよ」


 ハンスは新聞を長机の上に置くと、苦笑した。


「そんなことをするほど子供じゃない。いや、子供だけど、意地の張り合いに時と場所を選ぶ分別くらいはあるよ」


 俺は大人びたことを言っていた。分別というものが何か、ろくに知りもしないくせに。


「そうだな。君には無用の心配だったか。僕も第四階層に足を踏み入れるのが怖くないと言ったら嘘になるし、少し神経質になりすぎているのかもしれない」


 ハンスは眼鏡を外すと、それをポケットから取り出した布で拭いた。ハンスが眼鏡を外す時は大抵、不安になっている時だと俺もチェルシーから聞いていた。


 まあ、ハンスが不安を顔に出さないようにするのはリーダーだからだろう。リーダーが動じる様子を見せてしまったら、不安は一気にみんなにも広がるからな。


 ハンスはそれを良く知っているのだ。


「未知の領域に足を踏み入れるんだ、それくらいがちょうど良いのさ」


 俺はハンスの気を楽にさせるように言った。


「だな。ま、今度もディン君の活躍には期待してるよ。リーダーは僕だけど、何だかんだ言ってみんなが心の支えにしているのは君なんだ。それには応えてくれ」


 みんなから期待を寄せられる重圧はハンスだけのものではない。ハンスの荷は軽くしてあげないとな。


「分かった」


 俺は鷹揚に頷いた。


「パンも焼けたよ、ディン君」


 アリスがきつね色に焼かれたパンを運んできた。香ばしいパンの匂いが俺の食欲をより一層そそる。


「ありがとう。いつもアリスに朝食を作らせちゃってるけど、俺もパンくらい自分で焼けるようにならないとな」


 焜炉の使い方が分からないわけではないからな。まあ、パンを焦がさないで上手く焼けるかどうかはやってみなきゃ分からないけど。


「気にしなくて良いよ。私も料理を作るのは嫌いじゃないし、みんなが美味しそうな顔で食べてくれるのを見るのは嬉しいから」


 アリスは頬を緩ませた。


「そっか」


 俺はアリスの言葉に料理を作ることへの愛着を感じた。


「でも、チェルシーが本気で料理を作る気になってるからね。もう少ししたら私も朝食を作らなくて済むようになるかもしれない」


 アリスはまだ寝ているチェルシーに目を向けた。


「それにはチェルシーも朝は誰よりも早く起きれるようにならないとな。でなきゃ、朝食の用意はできない」


 アリスはみんなより、十五分は早い時間に起きるようにしているみたいだからな。それを起きる時間にはムラがあるチェルシーが真似できるかどうか。


「そうだね。料理はただ美味しく作るだけじゃ駄目なんだよ。時間とか手間とか色々なことを考えなきゃならないし」


 そう言われると、俺も料理を作ることの難しさを考えさせられるな。


 ベーコンくらいなら誰にだって簡単に焼けるだろうと軽く考えていたけど、そんな甘いもんじゃなさそうだ。

 

「一朝一夕にはいかないというわけだな」


 剣術の修行と同じだ。


「うん。ま、突き詰めてしまえば料理は心なんだけどね。食べてくれる人を喜ばせたいって気持ちが最高の調味料になるから」


 アリスの言葉に俺は目から鱗が落ちるような顔をする。


「良いことを言うな」


 俺は感心した。


 アリスの心が籠もっているから、こういう普通の朝食も特別に美味しく感じられるんだろうな。

 

「読んだ本の受け売りだけどね」


 アリスはシレッとした顔で言うと言葉を続ける。


「実際、いつもそんな心持ちで料理が作れるわけじゃないし。でも、そういう時に作った料理はやっぱり微妙に味が落ちてるよ」


 アリスは苦笑しつつ、俺の隣に座って自分で焼いたパンにジャムを塗り始めた。


《第二章① 終了》



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