第一章 ホワイト・ナイツの面子⑤
第一章 ホワイト・ナイツの面子⑤
俺たち【ラグドール】の面々はレイシアとモリエールの二人と別れると、ようやく解放されたように部室へと戻ってきた。
ちなみにドレイクを倒した報酬は全く貰っていない。なので、無駄足のようなものも感じてしまった。
何もしていないとはいえ、一応、同行してやったんだから、報酬の二割くらいはくれても良さそうなものだ。
ま、そんな配慮をレイシアとモリエールの二人に求めるのは無理な話というものなんだろうが。
ただ、チェルシーは俺たちにとって唯一の戦利品とも言えるドレイクの肉を持ち帰った。
肉質を見るに、焼いて食べればけっこう美味しいかもしれないとチェルシーも言っていたからな。
いずれにせよ、レイシアとモリエールの二人が頼もしい戦力だと言うことははっきりと分かった。
未知の領域である第四階層に足を踏み入れるのに、二人が一緒にいてくれれば心強い。
とはいえ、あの二人に協調性のようなものは皆無だから、下手したら足を引っ張られることになるかもしれない。
ま、みんなを上手く束ねるのはリーダーであるハンスの仕事だ。なら、俺は戦いにだけ集中すれば良い。
「なーんか、あの二人のせいで、ちっとも話せなかったよね。アリスなんて、ずっと思い詰めたような顔で黙ってたし」
チェルシーは椅子に座ると軽く伸びをした。
俺たちは戦ってはいないのだが、どうにも疲れてしまった。やはり、あの二人といるのはそれだけ気を遣うと言うことなのだろう。
「アリスは、何か気にしているのか?」
俺は何とはなしに尋ねる。あの二人の言葉がアリスの心を傷つけていたとするなら、看過はできない。
「そんなことはないよ。ただ、私ってどんなに頑張っても成績ではレイシアに勝てたことがないから、ちょっと萎縮しちゃって」
アリスは小さく笑みを零した。
「へー、アリスもそんなことを気にするんだ」
チェルシーの言葉はちょっと失礼に聞こえるな。
「うん。親からは何でお前はいつも二番なんだ、って怒られてたから。だから、私もレイシアのことはライバル視してたんだ」
アリスの親は厳しいのだろうか。
あと、【ラグドール】のメンバーに貴族の親はいないと聞いている。つまり、みんなモリエールの馬鹿にする平民だと言うことだ。
「そっか。アリスにとってレイシアは目の上のたん瘤だったんだね」
チェルシーの言葉にアリスは影のある顔をする。
「そこまでは思ってないけど、やっぱり、追い越せない悔しさはあったかな。ま、レイシアは私には勝てて当然だと思ってたみたいだけど」
レイシアは本当に自信に溢れていたからな。あの自信を打ち崩せるような人間はそうはいないだろう。
「その辺の感覚は俺には分からねぇな。とにかく、ああいう曲者も束ねていかなきゃならないエリオルド会長には何だか同情しちまうぜ」
カイルが嘆息する。不良を装っているカイルに曲者と言われたら、あの二人も怒るかもしれないな。
「僕もあの二人のような人間がいるパーティーで、リーダーを務められる自信はない。それだけに、会長の統率力には感心させられるよ」
でも、人を束ねるという点ではハンスとエリオルド会長にそこまでの差はないように思えるんだけどな。
要は主役になれるか、脇役になってしまうかの違いだと思う。
「アタシだったら、あの二人とこの部室で暮らしていくなんて絶対に嫌だね。もっとも、あの二人は悠々自適な寮で暮らしているみたいだけど」
チェルシーは少し羨ましそうに言った。それから、アリスが精彩を欠く顔で椅子から立ち上がる。
「とにかく、紅茶を入れるね。私も何だか疲れちゃったし、紅茶を飲んだらベッドで横になりたいから」
アリスが気怠そうな動きで、長机の上にあるポットを掴んだ。
迷宮に行く前に飲んだアリスの紅茶は僅かに味が落ちていたからな。それだけに今のアリスの体長はちょっと心配だ。
「そうか。何にせよ、明日は第四階層に行かなければならないし、しっかりと疲れは取っておいてくれ」
ハンスはアリスだけでなく、俺たちにもそう言い聞かせた。
「じゃあ、アタシは夕食にはちょっと早いけど、持ち帰ったドレイクの肉を調理してみようかな」
チェルシーは弾むような声で言葉を続ける。
「アタシも料理のスキルを向上させようって思ってたし、たまにはでき合いのものじゃなくて、手作りの夕食とか食べたいから」
チェルシーは意外な言葉を口にした。
「そりゃ良いな。この部室で手作りの夕食が食えるなら、こんなに嬉しいことはねぇし」
カイルが溌剌と笑う。
「でしょ。ガンティアラスとの戦いで、アタシも今のままの自分じゃ駄目だって分かったからね」
チェルシーはギュッと握り拳を作りながら言葉を続ける。
「だから、自分を高めるような努力はしていかなきゃならないって思ったんだ」
その意気やよし、と言ったところだけど、チェルシーのことだから、その努力が途中で嫌になる可能性はある。
気持ち一つではなかなか自分は変えられないものだ。
「それは良い心がけだな。なら、僕ももっとたくさんの魔法を使えるようになろうかな。僕だってガンティアラスとの戦いでは力不足を感じたし」
ハンスは眼鏡のフレームを摘みながら言った。
「俺は逆にガンティアラスとの戦いで自信が付いたけどな。でも、ハンスたちが上を目指すって言うなら、俺も精進し続けるしかねぇな」
カイルも向上心を見せるように言った。
「もう、成績なんて意味はなくなっちゃったけど、やっぱり、私はレイシアには負けたくないよ」
そう言うと、アリスはお湯を沸かすため、焜炉に火を付ける。
「だったら、少しずつでも良いから、できることを広げていこう。俺も今の自分の力に胡座を掻くつもりはないからな」
そう言うと、俺はアリスの紅茶が運ばれてくるのを待った。
《第一章⑤ 終了》




