第一章 ホワイト・ナイツの面子②
第一章 ホワイト・ナイツの面子②
生徒会室を出た俺たちは部室へと戻ってくる。
なぜか、レイシアとモリエールも一緒だったので、俺も居心地の悪いものを感じた。
もっとも、そんな感情を表に出すわけにはいかない。この二人はエリオルド会長に認められて、ここにいるのだ。
なら、俺たちもこの二人をぞんざいに扱うわけにはいかない。もし、そんなことをすれば、エリオルド会長の面目を潰すことにもなるからな。
ただ、そう思っても、この二人には全く好感が抱けないのも事実だった。
ちなみに、俺の制服は明日にはタダで支給してくれるという。これで学院の生徒の仲間入りかと思うと、俺も複雑な感情が込み上げてくる。
ただ、正式に学院の生徒になれば、色々としがらみのようなものが生まれてしまう気がするのだ。
学院の規則を押しつけられるのはご免だぞ。
まあ、何にせよ、名誉生徒なんていう肩書きはちょっとダサいよな。
「ここが君たちのホームってわけか。少しは綺麗にしてあるようだか、それでも見窄らしさは拭えんね」
モリエールはせせら笑うように言った。
「だったら、何でお前はここに来てるんだよ」
カイルがジト目で言った。
「なに、ただの好奇心さ。ホームにどんなものが置いてあるかで、パーティーやギルドの質は自ずと押し計れるからな」
モリエールは部室の中をグルリと見回す。その動きがいちいち芝居がかっていて、俺も腹が立った。
「だから、君たちが僕たちと共に行動するに相応しい人間かどうかを確認して置くことにしたんだ」
尊大にも程がある言い草だな。
「どこまで上から目線なんだよ、お前は」
カイルがげんなりしたように言った。
「ま、このホームは及第点と言ったところだ。それと、そこの君。紅茶を入れてくれるのは嬉しいが、安物の茶葉は使わないでくれよ」
モリエールがポットに茶葉を入れようとしたアリスに向かって、そう言い放つ。
「僕は常に高級な茶葉で入れた紅茶しか口に合わなくてね」
モリエールがニヤッと笑った。
この言い草にはカイルも堪忍袋の緒が切れたのか、こめかみの辺りの血管をビキビキと浮き上がらせる。
「厚かましい野郎だな。お前みたいな奴がメンバーにいたら【ホワイト・ナイツ】の信頼も地に落ちるんじゃねぇのか」
カイルの言葉にモリエールは涼しい顔で笑う。
「面白い冗談だな。名門貴族の子息であるこのモリエール・ルヴァンニがいれば、信頼は高まることはあっても、損なわれると言うことはないというのに」
モリエールは嵩高に言った。
「…」
それを受け、カイルも押し黙る。
これまでの言動ではっきりと分かったことだが、モリエールの性格は天然だ。人の感情の動きを計算して、言葉を発しているわけではない。
ただ、自分に正直なだけだ。
なら、俺たちが何を言っても無駄だということになるし、誰かモリエールを厳しく窘められる人間はこの学院にはいないのか。
「モリエール、お前、周りの人間から嫌われてるだろ?」
カイルに助け船を出したのは俺だ。
「い、いきなり何を言い出すかのかね」
モリエールは顔表情を引き攣らせた。
「はぐらかさずに答えろよ。下手な言い訳は俺には通用しないし、そこまででかい態度を取れるなら、正直に答えられるはずだろ?」
俺は有無を言わせぬ口調で言った。
「ふ、ふん。僕は孤高の人間なんだ。だから、周りにいる連中のように必要以上に他者と馴れ合うようなことはしないのだよ」
何とも苦しい強がりだな。
「つまり友達はいないってわけだな。なら、これを期に自分の態度を改めて、俺たちと良い関係を築けるように努力したらどうだ?」
まあ、エリオルド会長がモリエールを俺たちに同行させた言うことは、信頼できる要素はちゃんとあるということなのだろうが。
とにかく、エリオルド会長の人選に間違いはないと思いたいな。
「お断りだ。取って付けたような友情など僕には必要ない。それに僕には卓越した剣を扱う技術があるからな。君たちに同行するのに、それ以上、必要な物があるとは思えんね」
そう言い張るモリエールは明らかに動揺していた。
「物は良いようだな」
そう言って、せせら笑ったのはカイルだ。
「その辺にしておきなさいよ。子供みたいな程度の低い言い合いをして、恥ずかしいとは思わないの、あなたたち?」
レイシアがモリエールの慌て振りを見かねたのか、そう言葉を差し挟んだ。なので、俺も意地悪な追及は止めることにする。
「そうだな」
俺は言い返すことができずに苦笑した。
「ま、性格の方はともかくモリエールも口先だけの人間じゃないし、もちろん、この私も実力の方は本物よ。そうよね、万年二位のアリス・アルヴェールさん」
レイシアがアリスに対して当て擦るように言った。
「そうだね。さすがの私もレイシアには適わないよ」
アリスは苦笑いをしている。
「あなたのそういう謙虚なところ、私は好きよ。ま、腹の底では何を考えているのか分かったもんじゃないけど」
レイシアは砕けたように肩を竦めた。
「そんなことは…」
アリスは下を向いた。その顔には何かに耐えているような感情が浮かんでいる。
「ところで、ディン。あなたって魔王アルハザークの手から世界を守った勇者シュルナーグの孫で間違いないのよね?」
レイシアは俺に綺麗なエメラルド色の瞳を向けてきた。
「ああ」
俺は済ました顔をした。
「なら、子供のドラゴンを装って、学院に入り込んでいたガンティアラスを倒せたのも頷けるわ」
「どうしてそれを?」
俺はギクッとした。
「漏れない情報はないわ。そして、学院の治安を守るギルド、【ホワイト・ナイツ】には常にどんな情報でも入ってくるようになっているのよ」
「そういうことね」
俺は疑問は口にせずに、納得しておいた。
「私、本にもなっている勇者シュルナーグの冒険譚は何度も読んだわ。だから、勇者シュルナーグには憧れてるし、彼が今、何をしているのか気になって」
レイシアは目を輝かせる。
「爺さんなら、旅に出たよ。旅を死に場所にしたいとか言ってたから、今は生きているのかどうかも分からない」
頼り一つ寄こしてはくれないのだ。それには寂しいものを感じる。
けど、爺さんは生きて故郷に帰るつもりはないと決めている人だから、仕方がないとしか言いようがない。
ま、そこは生涯、現役を掲げる冒険者の意地だな。
「歳を取っても一つの場所に落ち着く気はないってわけね。やっぱり、勇者シュルナーグは本で読んだ通りの人物だわ」
レイシアは益々、目を輝かせる。
「でも、そんな勇者シュルナーグの孫であるはずのあなたは何でこんなに平凡な人間に見えるのかしら」
レイシアはワニ目で俺の顔を覗き込んだ。
「ほっとけ」
俺は口をヘの字にした。すると、モリエールが馴れ馴れしく俺の肩に手を乗せる。
「どうやら、君も偉大な人物の血を引いているせいで苦労しているようだな。それなら、僕も君のことだけは認めてあげよう」
モリエールがそう口を挟んだ。こいつに認められても嬉しさはない。
「偉大な血には宿命がある。僕の父上の言葉だ。得てして人は自分に流れている血には逆らえないものさ」
モリエールはそう持論を口にした。
「そうでもないさ。現に爺さん血を引いているはずの俺の父さんは飲んだくれのろくでなしだからな」
もし、父さんがもう少ししっかりしていたら、俺も冒険者になろうなどとは言い出さなかったかもしれない。
家計が苦しくなければ、ここにいるみんなのように今も学校に通っていたはずだからな。
「であれば、君の父上もまた高貴な血の重みに苦悩していると言うことなのだろう。ゆくゆくはルヴァンニ家の当主にならなければならない、この僕のように」
モリエールは歯並びの良い歯を光らせながら笑った。
「俺の父さんはそんな殊勝な性格はしていなかったけど」
父さんが苦悩のようなものを見せたことは俺の記憶ではない。ただ、享楽的に毎日を過ごすだけだ。
「とにかく、ディン。第四階層に行く前に私と一緒に迷宮に潜ってみない?私の実力は見せておきたいし」
そう提案したのはレイシアだ。
「別に構わないけど」
レイシアの力は素直に見てみたいと思える。
「言っておくけど二人っきりよ。これはあなたと私のデートなんだから。余計なお邪魔虫がついていたら興醒めだわ」
レイシアはアリスの方をチラッと見た。
「デートだって?」
俺はドキッとした。
「何か文句でもあるのかしら。この学院一の美少女である私がデートしてあげるって言っているのに」
俺はアリスの方が可愛いと思うんだけどな。
「でも、デートに行く場所が迷宮の中だなんて」
せめて中庭くらいにして欲しい。
「悪いかしら?」
レイシアは猫のような笑い方をした
「悪くはないけど、二人っきりで迷宮に行くのは止めておく。何か危険があった時、二人じゃ対処できないかもしれないから」
俺はそう理屈づける。
「それに君も実力を見せたいなら、ここにいるみんなの前で見せてくれ。もし、みんなが君の実力を認めれば、俺だってデートでも何でも付き合うよ」
俺の言葉にレイシアは目を細めた。
「その通りだ。そういうことなら、僕も連れて行きたまえ。実力を見せたいのは何もレイシアだけではないのだからな」
モリエールの言葉にレイシアは頬を膨らませる。
「ディンって、意外とお堅い性格なのね。まあ、良いわ。それじゃあ、みんなで迷宮に潜りましょう。そこで、私の力、存分に見せつけてあげるわ」
レイシアはごねることなく言った。
「ならば、冒険者の館で討伐の依頼がされているモンスターでも倒そうじゃないか。ドレイクなどお勧めだぞ」
モリエールの意気揚々とした言葉を聞いた俺たちは、話の流れで冒険者の館に行くことになった。
《第一章② 終了》




