第一章 ホワイト・ナイツの面子①
第一章 ホワイト・ナイツの面子①
俺たちは朝の廊下を歩きながら、校舎の西館の三階にあるという生徒会室まで足を運ぶ。
そして、辿り着いた生徒会室の扉は院長室のような立派な物ではなかった。なので、俺も少しだけ緊張が和らぐのを感じた。
俺たちはハンスを先頭にして、生徒会室の中に足を踏み入れる。
そこは綺麗で整然とした部屋になっていた。
長机は三つあり、それが会議でもするようにUの字に組み合わさっている。普通の本棚やガラス戸で中が透けて見える金属製の棚もある。
他には焜炉などがあった。
目に付くのはそれくらいだろうか。
綺麗と言うよりは、不必要な物は置いていないといった印象を受ける。
俺は一番、奥にいる珍しい青色の髪の男子生徒を見る。その顔立ちは端正で貴公子、然としていた。
その上、普通の生徒とは一線を画す空気も発していたので、この男子生徒が生徒会長に違いないと俺も察する。
一方、左側の長机には眼鏡をかけたブルネットの髪の女子生徒がいる。
ブルネットの髪はふんわりと肩の辺りまでウェーブしていたし、眼鏡越しでも女子生徒の切れ長の目は鋭く見えた。
しかも、その表情は能面のようで、何とも冷たい雰囲気を漂わせている。
そんなブルネットの髪の女子生徒と向かい合う形で、白い肌と白金色の髪を腰まで伸ばした女子生徒がいた。
その女子生徒は何とも美しく、俺も思わず見惚れてしまいそうになった。
しかも、その女子生徒の肩にはケープが羽織られていた。アリスが迷宮に潜る時に羽織っているケープと同じ物だ。
なので、白金の髪の女子生徒は魔法使いに違いないと俺は推測する。
そして、その女子生徒の隣には栗色の髪をした男子生徒がいて、腕を組みながら生意気そうな顔で俺たちを睨め付けていた。
あの顔を見るに何か俺たちに恨みでもあるのだろうか。
そんなわけで、生徒会室にいたのは四人。
その四人は一度、見たら忘れられないような何とも個性的な外見をしていた。
「良く来てくれたな、【ラグドール】のみんな。君たちの活躍は俺も聞いていたし、こうして面と向かって話せるのは嬉しいよ」
流れるような声で言ったのは青い髪の男子生徒だ。
「はあ」
俺は気が抜けたような返事をする。
「君が地上からやって来た冒険者のディン君か。俺は高等部の生徒会長をしているエリオルド・エスタールだ、よろしく」
青い髪の男子生徒、いや、エリオルド会長は柔らかな物腰で言った。
この辺の気質はハンスに通じるものがあるな。ただ、エリオルド会長は物語に出て来る主人公のようなオーラがある。
どちらかと言えばハンスの立ち位置は脇役だからな。本人もそのことを自覚しているのか、自分の役割に徹しようとしているし。
「こちらこそ」
俺は言葉、少なめに言った。さすがに怖がることはないが、それでも生徒会長を前にして緊張は隠しきれない。
「そんなに緊張した顔をしなくても大丈夫だよ。俺たち生徒会は君を取って食うようなことはしないから」
エリオルド会長は悠々と笑った。
「分かってるよ」
何となく人間として器の違いのようなものを感じさせられた俺は仏頂面をしてしまった。
「なら良いんだ」
そう言うと、エリオルド会長は一転して真剣な顔をする。
「とにかく、君たちをここに呼んだのは他でもない。君たちが第四階層に足を踏み入れる際にはギルド、【ホワイト・ナイツ】のメンバーも同行させて欲しいからだ」
エリオルド会長はそう切り出した。
「それは…」
俺は判断に困った。
「もちろん、手柄を横取りしようなどという思惑はない」
エリオルド会長は真摯さを感じさせる声で言葉を続ける。
「ただ、【ホワイト・ナイツ】は学院の生徒たちの安全を守る要。できる限り、迷宮の攻略では最前線に立たなければならない」
エリオルド会長は俺の顔に視線を固定したまま言った。
「だからこそ、誰よりも先に第四階層がどういう場所なのか把握しておく必要があるんだ」
エリオルド会長の言葉は力強かった。
まあ、何があるか分からない第四階層への立ち入りは、生徒会の指示があるまでなるべく控えるようにと、昨日のパーティーの最後に生徒会役員が言っていたからな。
強制力はないとは言え、その注意喚起を無視してまで、第四階層に足を踏み入れようとする命知らずの輩はそうはいまい。
「なるほど」
一応、理由としては筋が通っている。
「ま、【ホワイト・ナイツ】のメンバーを同行させるべきだと強く主張したのは、俺ではなくオリヴィエ君なんだけどね」
エリオルド会長は済ました顔をしているブルネットの髪の女子生徒を横目にする。
「私は生徒会、副会長のオリヴィエ・エルフールです。ギルド、【ホワイト・ナイツ】では副団長を務めています」
そう自己紹介したオリヴィエの声は滑らかだった。
「あなたたちさえ良ければ、【ホワイト・ナイツ】でも指折りの冒険者であるレイシアとモリエールの二人を同行させてください」
オリヴィエの視線が向かい側に座っている二人の生徒に注がれる。
「この二人なら、決してあなたたちの足手まといにはなりません」
オリヴィエはそう言い切った。
すると、みんなから視線を投げかけられた二人の生徒はタイミングを合わせたかのように椅子から立ち上がった。
「私はレイシア・レメティス。この学院の生徒の中では一、二位を争うほどの魔法の使い手だと自負しているわ」
レイシアは白金色の髪を優雅な仕草で掻き上げた。サラサラと流れる髪はお世辞抜きで美しく思える。
「もちろん、学院ではいつも主席だったし、全てにおいてそこにいるアリスよりも上よ」
レイシアの言葉にアリスは困り笑いをした。
「僕はモリエール・ルヴァンニ。君たちのような平民ではなく、名門の貴族のルヴァンニ家の子息だ」
モリエールは何とも嫌味な声で言葉を続ける。
「知っているとは思うが、僕の父上は王宮で宰相も務めている。それを熟慮した上で口の利き方には気を付けてくれたまえ」
あいにくと、この国の宰相なんて俺は知らない。とにかく、身分を嵩に掛けるこいつの態度は好きになれないな。
「ああ」
俺は気後れしたような返事をする。
「二人とも個性は強いが、腕は確かだ。何かあれば私情は抜きにして、必ず君たちの助けになってくれるだろう」
エリオルド会長はそうお墨付きをする。
「もし、問題がないようなら、レイシアとモリエールの二人を同行させてくれ」
俺はレイシアとモリエールの顔を見て、目を眇めた。
「その見返りとして、西館にある商業ギルドの店なら、どんな物でも半額で君たちに売るようにさせるから」
エリオルド会長の言葉にチェルシーが喜々とした顔を見せた。
生徒会が西館の生徒たちに影響力を行使できるのは、やっぱりサンクナートの後ろ盾のおかげかな。
「どうする、ハンス?」
俺はリーダーであるハンスの指示を仰ぐ。
「無理に断るような話でもないから、ここはエリオルド会長の言葉を信じて了承しよう。第四階層に何があるのかはまだ分からないし、戦力は多い方が良い」
ハンスは冷静に言った。
「そうか。ハンスがそう言うなら、エリオルド会長の提案は受け入れるしかないな」
俺はカイルやアリスの顔も見ながら言った。
「ありがとう。君たちなら、そう言ってくれると思っていた。やはり、君たちは他の生徒たちとは違うな」
エリオルド会長はそう持ち上げるように言うと言葉を続ける。
「君たちのような人材は俺も生徒会に欲しいと思っているよ」
エリオルド会長は相好を崩した。
「それと話は変わるが、生徒会としてはディン君をサンクフォード学院の名誉生徒にしたいんだが、どうだろう」
エリオルド会長は声色を変えて、そう切り出す。
「名誉生徒だって?」
俺は上擦った声を上げた。
「ああ。君はこの学院のために大きな働きをしてくれたし、いつまでも部外者にしておくのは心苦しい」
エリオルド会長はもっともらしいことを言った。
「別にそれでも構わないんだけどな」
こんな状況で学院の生徒になれても嬉しさはない。
「まあ、そう言わないでくれ。とにかく、ちゃんと制服も支給するから、君の体のサイズを教えて貰いたいな」
そう茶目っ気を感じさせるように言って、エリオルド会長は話を締め括った。
《第一章① 終了》




