プロローグ
プロローグ
俺は迷宮を制覇しようとしている冒険者のパーティー、【ラグドール】の一員だ。
二日前には第五階層のゲートを守っていた竜王ガンティアラスも倒した。これでゲートを潜り第四階層に足を踏み入れることができる。
果たして第四階層はどんなところになっているのか、否応なしに期待は高まった。
ちなみに現在、俺のいるサンクフォード学院は迷宮の最下層にある。
半年くらい前、学院はラムセスという邪神すら召喚できる魔導師の手によって迷宮の最下層に飛ばされてしまったのだ。
かくいう俺もラムセスの不興を買って、迷宮の最下層へと飛ばされたクチだ。
だから、地上にあるサンクリウム王国の王都に戻るためにも、最下層から迷宮を攻略していかなければならない。
迷宮はサンクリウム王国の王都の真下にあるからな。
そんな中、最初の大ボスとも言える竜王ガンティアラスを倒せたのは大きな前進と言えるだろう。
だが、まだまだ先は長いし、迷宮の中は強敵がひしめいている。なので、いつまでも浮かれてはいられない。
俺は元々は普通のお遊びサークルだったという【ラグドール】の部室でマーガリンを塗ったパンを食べる。
目の前にある皿には焼きたてのベーコンとサラダがあるし、手元には芳醇な香りを放つコーヒーの入ったマグカップが置かれていた。
朝食としては悪くない内容だ。
ただ、朝なのに、太陽の光を浴びられないのはちょっと残念だ。迷宮の最下層である窓の外は闇に包まれているからな。
そんな俺の周りにはブレザーにネクタイ、下はチェックのズボンとスカートという学院の制服を着た四人の生徒たちがいる。
初めに紹介するのは眼鏡がトレードマークで、【ラグドール】の頼れるリーダーでもあるハンス・ハーヴェイだ。
ハンスは知的な顔をしていて、性格も柔和だ。
モンスターとの戦いでは見事な弓の腕前を見せてくれるので、俺も安心して背中を任せることができる。
続いて、収まりの悪い銀髪に、自己主張するようなシルバーのアクセサリーを幾つも制服に付けているカイル・カークランド。
本人は学院一の槍の使い手だと言っているが、その言葉を裏切ることなく卓越した槍さばきを見せてくれる。
言葉遣いが悪いのが玉に瑕だが、性格の方は決して悪くない。
更に続いて紹介するのは、透けるような白い肌と腰まで伸ばした金髪が麗しい女の子、アリス・アルヴェール。
アリスは何とも優しそうな性格をしていて、細やかな気配りもできる美少女だ。
ちなみに、俺がこの学院がある迷宮の最下層に飛ばされた時、初めて顔を合わせたのもアリスだ。
アリスは右も左も分からない俺にも親切にしてくれたし、本当に優しい人間なのは間違いないだろう。
そんなアリスではあるが、モンスターには恐ろしい威力を誇る魔法を容赦なく放つ。その時のアリスの目はかなり怖い。
最後は一人だけ高等部ではない、中等部の生徒のチェルシー・チェンバースだ。
チェルシーは小柄な体で小動物を思わせる外見をしている。赤い髪もリボンを使ってツインテールにしているので、それがまた可愛らしい。
ただ、チェルシーも戦いの方はあまり得意とはしていない。なので、いつもみんなの援護に徹しているのだ。
でも、チェルシーは狩ったモンスターの肉を切り分ける技術なども持っているので、パーティーのメンバーとしては欠かせない。
そんなチェルシーの性格はお調子者といった感じだ。
ま、俺と一緒に冒険している奴らの紹介はこんなところだろう。
そして、当の俺はサンクフォード学院の生徒ではない駆け出しの冒険者、ディン・ディルオールだ。
このサンクリウム王国の王都には迷宮を制覇するためにやって来た。
俺の爺さんは世界一の冒険者、または勇者などと言われていたからな。そんな爺さんを越えるような人間になるために俺も冒険者としての道を選んだのだ。
なのに、着いたばかりの王都で運悪くラムセスと出会い、迷宮の最下層に飛ばされてしまった。
ま、過ぎたことを言ってもしょうがないし、気持ちを切り替えて最下層からこの迷宮を制覇してやろうじゃないか。
もちろん、地上に戻れた暁にはラムセスにはたっぷりと礼をしてやるけどな。
「さてと、朝食も食べ終わったことだし、そろそろ生徒会室に行こう。生徒会の連中はみんな時間にうるさいし、約束の時間に遅れるのは絶対に避けたい」
ハンスはそう言うと、コップに入ったミルクを一気に飲み干した。
第四階層へは生徒会長のエリオルドが率いるギルド、【ホワイト・ナイツ】の連中と一緒に行くことになりそうなのだ。
その旨を生徒会室で聞かなればならない。
「呼びつけておいて、時間にうるさいって言うのはちょっと業腹なものを感じちゃうよね」
チェルシーはパンの欠片を口に流し込みながら言った。
「時間にルーズな人間に生徒会の役員を務めることなどできないさ。僕は時間にうるさい人間は普通に信頼できるけど」
ハンスはハンカチでミルクの付いた口元を拭う。
「私もハンスと同じかな。小さいことを蔑ろしている人間に大きなことを任せることはできないよ」
アリスは正論を口にする。
「ハンスもアリスも優等生だねぇ。そんなにしっかりしているなら、生徒会に入れば良かったのに」
チェルシーは憤懣とした顔で言った。
「そう言われると困るな」
ハンスは眼鏡のフレームを摘む。
「グチグチ言っててもしょうがねぇだろ、チェルシー。結局、お前は副会長のオリヴィエが気に入らないだけなんだから」
カイルがシルバーのアクセサリーを制服の袖に付けながら言葉を続ける。
「とにかく、俺も生徒会室には一度も入ったことがないから緊張するぜ。ま、エリオルド会長は人格者だから心配はいらねぇと思うが」
カイルの言葉を聞き俺も口を挟む。
「カイルの信頼を勝ち取れる人物が生徒会長なら、俺も余計な不安を掻き立てられなくて済むな」
そう言うと俺は微笑した。
「となると、厄介なのはやっぱりオリヴィエじゃん。あの冷血女に甘いところを見せれば、どんな風に利用されるか分かったもんじゃないよ」
チェルシーは耳のピアスを触った。
「私たちって基本的に駆け引きとか苦手だもんね。人が良いことを売りにした、お気楽パーティーだから」
アリスはテーブルの上を簡単に片付けながら言った。
「でも、いつまでもお気楽パーティーじゃいられないんじゃないのか?」
俺は眼力を強くして言葉を続ける。
「ガンティアラスを倒したことで、俺たちは良くも悪くも学院中の生徒たちから注目されるようになったわけだし」
昨日のパーティーで俺もそのことを実感していた。
「そうだな。気を引き締めなきゃならないのは間違いないだろう。少なくとも、誰もいなくなる時は部室の鍵はちゃんと閉めないと」
ハンスは鍛冶場で作った部室の鍵を俺たち全員に持たせている。二度とオリハルコンの原石を盗まれた時のような失敗はしない。
「オリハルコンの武器を盗まれたら最悪だからな。ったく、警戒するのは迷宮の中にいるモンスターだけにしたいもんだぜ」
カイルは肩を竦めた。
「同感。何で、味方のはずの人間にまで気を付けなきゃならないんだか。見る人間、みんなが泥棒に見えるのは嫌だなぁ」
チェルシーも上を向いてぼやいた。
「だよな」
俺も苦笑した。
「でも、人間、全てに失望したら駄目だよ。悪い人間がいるなら、良い人間だってちゃんといるはずなんだから」
そう口にするアリスの目は澄んでいた。
「アリスの言葉は時々、聖人の言葉のように聞こえるね」
チェルシーはそう揶揄する。
「私は普通の女の子だよ。ただ、いつも前向きでいようと思ってるだけで、特別な心なんて持ってない」
アリスも少しムキになった。
「何にせよ、生徒会にはゴマを擦っておいて損はない。今の学院は実質、生徒会に支配されているようなもんなんだから」
ハンスはそう言い聞かせる。それを受け、アリスもいつになく真剣な眼差しで口を開く。
「そうだよ。生徒会まで信じられなくなったら、この学院は終わりだよ。私は何があってもエリオルド会長を信じるから」
アリスは語気を強める。
「そうだぜ。俺もエリオルド会長はハンスの次に信頼している。あの人に裏切られることはねぇだろうな」
カイルはシルバーのアクセサリーをジャラッと小気味よく鳴らした。
「まあね」
チェルシーも唇を上に向ける。
俺も昨日のパーティーではエリオルド会長の顔は見れなかった。
突如として現れたラムセスのせいで、みんな動揺していたからな。だから、生徒会の人間が俺に接触してくることはなかった。
「なら、管を巻いてないでさっさと生徒会室に行こう。俺もエリオルド会長の顔はこの機会に拝んでおきたいからな」
そう言うと、俺とみんなは緊張した顔で部室を出た。
《プロローグ 終了 第一章に続く》




