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エピローグ③

 エピローグ③

 

 次の日、俺は朝、起きるとどこか清々しい気分で身を起こす。

 

 すると、すぐに昨日のラムセスの言葉が頭に木霊したが、それでも陰鬱な気分になることはなかった。

 

 俺はみんながまだ寝ているのを見て、少し風に当たろうと思い部室の窓を開けて外を見る。

 

 当たり前だが窓の外に空はないし、太陽の光も差し込んではこない。全てを包み込むような暗闇と月や星々のような光石の光りが見えるだけだ。

 

 正直、今すぐにでも地上の王都に戻りたいという気持ちはある。

 

 でも、それ以上にここにいるかけがえのない仲間たちの力になりたいという気持ちの方が強いのだ。

 

 だから、昨日の決断には全く後悔がなかった。

 

 もっとも、より過酷な現実を突きつけられればどうなるか分からない。

 

 何かの拍子にポッキリと心が折れてしまった時、俺も自分の愚かさを呪うことになるかもしれないからな。

 

 でも、それが今じゃないことは確かだ。

 

 俺はガンティアラスを倒したことでよほど自信が付いたのか、まるで大空を漂う雲のような気持ちで学院の校舎を眺めた。

 

 すると、背後に人の気配を感じる。

 

「おはよう、ディン君。今日は早く起きられたね」


 アリスは俺の傍らに立つと、にっこり笑った。


「いつまでも二日酔いを続けるわけにはいかないだろ。俺の父親は飲んだくれだったし、ああはなりたくない」


 勇者と呼ばれた爺さんの血を受け継いでいるのに、父さんはなんであんなろくでなしなんだろうな。


 ま、父さんがあんなだったから、爺さんも俺には厳しくしたんだろうけど。


「そっか」


 アリスは項にかかる髪を掻き上げると、そっと目を伏せた。


「そういうアリスの方こそ、今日は珍しく冴えない顔をしているな。まだ何か心配ごとがあるのか?」


 悩みなら幾らでも聞くぞ。


「心配なことがあるとしたら、それはディン君の心だよ。昨日の選択を後悔してるんじゃないかと思って」


 アリスは不安げに俺の横顔を覗き込んだ。


「後悔はない」


 俺はそう断言した。


「でも、私たちに気を遣って、あんなことを言っちゃったんでしょ。もし、私たちの存在が重荷になっているのならはっきり言って欲しいな」


 幾らアリスでも、そんな風に受け取られるのは心外だ。


「重荷だなんて思ったことはないよ」


 俺は誤解のないように、力の籠もった声で言葉を続ける。


「そもそもガンティアラスを倒せたのは俺一人の力じゃない。みんなの力が一つに合わさったからだ」


 俺一人で勝てるような相手ではなかったのは間違いない。


「そのみんなと一緒に地上に戻りたいと思ったら駄目なのか?」


 俺はキリッとした目でアリスを見た。


「ううん、そんなことないよ。そう言ってくれるのはとっても嬉しい。だから、これからも一緒に頑張ろうね」


 アリスは俺の手を取った。


「ああ」


 俺はアリスに掌を握られて、途端に恥ずかしくなった。


「二人とも青春してるなぁ」


 アリスとは反対側の位置から現れたのはハンスだった。起きたばかりのせいか、オールバックの髪型は崩れている。


「起きていたのか、ハンス。盗み聞きするなんて、人が悪いぞ」


 ま、目くじら立てることじゃない。


「そうだな。でも、ディン君の本音が聞けたのは良かったよ。僕だって、ディン君には重荷を背負わせてるんじゃないかって、ずっと心苦しく思ってたからね」


 ハンスも水臭いな。


「だから、重荷だなんて思ったことはないって」


 みんなしつこいぞ。


「そっか。なら、先は長いだろうけど、一緒に戦っていこう。何なら、僕のリーダーとしての座を明け渡しても良いけど」


 ハンスは真顔で言った。冗談から出た言葉でないことは目を見れば分かる。


「それは止めてくれ。ハンスがリーダーだからこそ、俺も安心して戦えるんだから」


 ハンスは俺たちパーティーにとっての大黒柱なのだ。その代わりなんて誰にも務まりはしない。


「分かったよ」


 ハンスはズレかけていた眼鏡を戻すと苦笑した。


「お前ら、朝から何、真剣な顔で話をしてるんだよ。大事な話だったら俺にもちゃんと聞かせろよな」


 カイルが大きな欠伸をしながらベッドから立ち上がった。


「そうだよ。アタシも小恥ずかしくなるような話が聞こえて来るもんだから、すっかり目が覚めちゃったよ」


 情報収集が得意なチェルシーが俺たちの話に聞き耳を立てないということはないだろうな。


「相変わらずだな、二人とも」


 俺はカイルとチェルシーの息の合ったような言葉を聞いて、微笑ましくなった。


 すると、カイルもチェルシーもニヤッと笑う。言葉にしなくても、ちゃんと気持ちは通じているのだ。

 

「さてと、それで今日はどうするんだ、ハンス。やっぱり、第四階層に最初に行くのは俺たちじゃなきゃならねぇだろう」


 カイルが気を取り直したようにハンスに尋ねる。


 昨日の夜まで情報収集をしてくれたチェルシーによると、まだ第四階層に足を踏み入れたパーティーはいないらしい。

 

 みんな、まだ用心はしていると言うことだ。

 

「ああ。そうなんだけどギルド、【ホワイト・ナイツ】の連中が昨日から僕たちに何やら対抗意識を燃やしていてね」


 ハンスはやれやれと言いたげな顔をしがら言葉を続ける。


「第四階層には僕たちと一緒に行きたいって言うんだよ。だから、僕も【ホワイト・ナイツ】の副団長のオリヴィエ・エルフールへの返事には困っていたんだ」


 また俺の知らない人間の名前が出てきた。


「副団長のオリヴィエって言ったら、第一パーティーの実質的なリーダーじゃねぇか。しかも、エリオルド会長以上のやり手だって聞いてるぞ」


 カイルが顔の表情を凍り付かせた。


「影の生徒会長って言われてるオリヴィエは敵に回したくないよ。あの女、いつも冷たい目をしてて凄く怖いんだから」


 チェルシーは大袈裟な身振りで肩を抱いた。


「ああ。ま、とりあえず朝食を食べたら、生徒会室に行こう。オリヴィエとはそこで話すことになっているし、その場にはちゃんとエリオルド会長もいてくれるはずだから」


 そう言うと、ハンスは最後にもう一度、俺の方を見る。まるで俺の言葉を待っているかのように。


「そうだな。何にせよ、新しい冒険の始まりだし、みんな張り切って行こう!」


 俺の威勢の良い言葉にみんなも「オーッ」と叫んで拳を天に突き上げる。それは俺とみんなの心が本当に一つになった瞬間でもあった。


 こうして、俺とみんなの地上を目指す大冒険はまだまだ続くことになったのだった。

 

 《エピローグ③ 終了》《第一部 竜王ガンティアラスとの戦い 完》





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