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第四章 命懸けの戦い⑥

 第四章 命懸けの高い⑥

 

 俺はガンティアラスから押し寄せてくる鬼気迫るようなプレッシャーで体がビリビリと震える。

 

 気を抜けばガチガチに体が固まって動けなくなりそうだ。だが、そうならないように勇気を振り絞って剣を構える。

 

 ガンティアラスの力は未知数だし、どんな攻撃を仕掛けてくるのかは、しっかりと見極める必要があるな。

 

 ただ、この部屋は横幅は広いものの、天井はドラゴンが飛び回れるほど高くはないので、その辺は助かりそうだ。

 

 そんなことを考えていると、ガンティアラスは後ろ足をバネのようにしならせて、大きくジャンプしてきた。

 

 十メートルはあった間合いが一瞬にして消失する。そのあまりの早さに俺の背筋にも寒いものが走る。

 

 そして、俺の頭上から鋭利なナイフのような爪が凄まじい早さで振り下ろされた。俺はほとんど無意識の内に後ろへと跳躍していた。

 俺が今までいた場所をまるで空間ごと切り裂くような爪が通り過ぎる。実際、風は切り裂かれていて、薙ぐような音が聞こえて来たからな。

 

 俺はぞっとしたような青い顔でガンティアラスの大木すら切断できそうな爪を見る。

 

 すると、ガンティアラスは動きを滞らせることなく、俺の方へと自らの巨体を誇るように肉薄してくる。

 それを見て、俺も逃げ出したくなるような衝動を必死に堪えた。

 

「この程度の攻撃で恐れを感じているようではこの私とは到底、戦えぬぞ。さあ、この私を打ち倒したシュルナーグと同じ力を見せてくれ」


 ガンティアラスは俺に向かってそう高らかに言うと、更に鋭さを増した爪による攻撃を繰り出してくる。

 

 俺は連続で繰り出される爪の攻撃を軽やかなステップで避け続ける。爪は四方八方から俺を切り裂こうと迫った。

 もし、一瞬でも動きに綻びを生じさせれば死神の鎌のように命を刈り取られる。

 

 だが、この熾烈、極まりない攻撃をいつまでも避け続けるのはさすがに無理があるだろう。反撃の糸口を見つけ出さなければ。

 

「僕たちを無視するとは良い度胸だ。勇者シュルナーグの子孫でなくても、戦えるところを見せてやる」


 俺の窮地を見かねたのかハンスが援護するように矢を放った。

 だが、その矢はガンティアラスの鱗に突き刺さることができず、まるで木の枝のように弾かれる。

 

 普通の矢の攻撃力では全くダメージを与えられないらしいな。

 

 もっとも、オリハルコンの矢は五本しかないし、使うに相応しい瞬間が訪れるまでは放つことはできないのだろう。

 

 だが、普通の矢でもガンティアラスの気をほんの僅かだが逸らすことができた。振り下ろされる爪が空中で静止する。

 

 俺はその隙を見逃すことなく、死線を越えるような動きでガンティアラスの懐に飛び込むと、剣を一閃させた。

 その一撃はガンティアラスの胸板を浅くではあるが切り裂いた。

 血が霧のように舞うのを見て、俺もやはりオリハルコンの武器ならガンティアラスにも通用すると判断する。

 

 この剣を作ってくれたボルブさんには感謝だ。

 

「俺を侮るなよ、ガンティアラス。この命、今までお前が殺してきた奴らと同じようには奪えはしないぞ」


 俺は気迫の籠もった声で言った。

 

 が、俺が自分の攻撃が通じたことを喜んだ瞬間、俺の動きを凌駕する早さでガンティアラスの爪が振り下ろされた。

 さすがの俺もその一撃を避けることはできず咄嗟に盾を構える。すると、盾はガンティアラスの爪によって三つに断ち割られた。

 

 鍛え直して貰ったばかりの鋼の盾が木製の板のように断ち割られるなんて、何という切れ味だ。

 

 もし、こんな爪による攻撃を食らったら、俺の体なんてあっという間に挽肉になってしまうだろう。

 

「くっ」


 俺は低く呻いた。

 

 すると、今まで戦いに入り込めなかったカイルがガンティアラスの側面から槍の穂先を突き出そうとする。

 

「学院一の槍の使い手の俺を忘れて貰っちゃ困るぜ、ガンティアラス。俺だって、絶対に生きて地上に帰るって心に決めてるんだからよ」


 そう豪語するカイルの槍の穂先は回避できない早さでガンティアラスの足に突き刺さろうとしていた。

 

 が、その瞬間、ガンティアラスの体が竜巻のように回転した。

 

 石柱すら薙ぎ倒せそうな尻尾の一撃がカイルの真横から迫る。もし、食らったら、骨が砕けかねないぞ。


 それを受け、カイルは反射的な動きで攻撃を中断すると、その暴風を纏った一撃を後ろに飛んで避けようとした。

 だが、完全には避けきれずに吹き飛ばされる。そのまま受け身も取れずにカイルはゴロゴロと床を転がってしまった。


「甘いわ!この私に勝てぬ者が、この迷宮を支配する邪神ヘルガウストに勝てると思うか!」


 ガンティアラスはそう吠えると、躍動するような動きで立ち上がれないカイルに追撃をかけようとする。

 

 そして、カイルが上半身を持ち上げた時にはガンティアラスの大きな足がカイルの体を踏み潰そう迫っていた。

 

 その瞬間、ガンティアラスの足の太股にハンスの放った矢が突き刺さった。ハンスの奴、オリハルコンの矢を使ったな。

 

 それを見たカイルもすかさず横へと転がる。ガンティアラスの足は石の床を踏みつけ、大きく陥没させただけで終わった。

 

「助かったぜ、ハンス。こういう時はやっぱりチームワークだよな。力を合わせることを知らないドラゴンには真似できないぜ」


 九死に一生を得たカイルは笑った。

 

 一方、ガンティアラスは刺さっていた矢を無造作に引き抜く。まだまだダメージと呼べるような傷じゃないな。

 

 それから、動きを止めたガンティアラスにアリスが特大の火球を放った。

 その火球はガンティアラスにぶつかると空間が爆ぜ割れたかのように大爆発する。肌が焼けそうな熱を帯びた風が部屋の中を吹き荒れた。

 

 ガンティアラスのいた場所もまるで意思を持ったような炎が猛り狂っている。

 

 が、全てを焼き尽くすマグマのような炎の中から無傷のガンティアラスが現れた。あれほどの炎を食らっても火傷一つないというのか。

 

「さすが魔法への耐性に優れたドラゴンだね。炎の魔法じゃ、全くダメージが与えられないみたい」


 それならばと思ったのか、アリスはバチバチと青白い火花を散らせて、激しくスパークする光りの球を放った。

 それは神がかり的な早さでガンティアラスに激突する。

 何もないはずの空間がグニャリと歪み、空間そのものに亀裂が走ったように見えた瞬間、凄まじいという言葉すら生温い大爆発が起きた。

 

 目が潰れそうになるほどの青白い光りが乱舞する。

 

 そして、その途轍もない爆発の衝撃波は俺たちにも容赦なく襲いかかり、俺も危うく吹き飛ばされるところだった。

 

 まともに食らったガンティアラスも、さすがにただではすまないはずだ。

 

 が、光りと白煙の中から現れたガンティアラスはまたしても無傷だった。体からうっすらと煙が立ち上っているが堪えた様子は全くない。

 

「魔法の力ではどう足掻いても、この私を倒すことは叶わぬぞ。私を打ち倒したければ、お前たちに与えたオリハルコンの武器を使うが良い」


 ガンティアラスは敵である俺たちにそう忠告する。

 

 何にせよ、魔法による攻撃が全く効かないドラゴンの体の強靱さには恐れ入るし、ガンティアラスの言う通り、オリハルコンの武器で倒すしかないか。

 

 俺は恐れを勇気に変え、小細工は一切、使わず剣で斬りかかろうとする。

 

「勝負だ!」


 俺がそう叫ぶと、ガンティアラスは口から炎を吐いた。地獄から呼び出したような業火が津波のように押し寄せてくる。

 あんな炎に飲み込まれたら一溜まりもない。そう思ったが、炎は逃げる暇もない早さで迫ってくる。

 

 そして、俺が炎の波にさらわれそうになった瞬間、俺の体が光りの膜のようなものに包まれた。

 それからすぐに俺は死を約束するような炎とぶつかったが、肌が焼けるような熱さは全く感じなかった。

 

 アリスの張ってくれたバリアが間一髪のところで炎から俺の身を守ってくれたのだ。もし、バリアが効かなかったら、今頃、黒焦げになっていただろう。

 

 でも、炎への対策は事前にみんなと話し合っていたので、俺も必要以上に動揺することはなかった。

 

「ディン君、バリアを張ったから、これで炎ももう大丈夫だよ。幾らドラゴンでも私の魔法を馬鹿にさせはしないんだから」


 アリスの声を聞いた俺は心の中で感謝する。

 

 そして、炎を恐れる必要がなくなった俺はガンティアラスのいる方へと駆け出す。ガンティアラスはそれでも何度も炎を吐いてきたが、俺には通じなかった。

 

 俺は何者も寄せ付けないような炎の壁を突き破り、ガンティアラスに斬りかかる。だが、ガンティアラスは素早い身のこなしで俺の斬撃を避けた。

 

 俺は息も吐かせぬ斬撃をガンティアラスに幾度となく浴びせたが、ことごとく見切られたように避けられてしまった。

 

 この巨体でここまでの俊敏性を見せるとは。

 

「どうした。そのような焦りに身を任せた攻撃では私の体は捉えられぬぞ。お前の力はその程度のものなのか」


 そう言うと、ガンティアラスは再び爪による烈火の如き攻撃を俺の体にお見舞いしようとする。

 が、勢い良く振り上げたガンティアラスの掌に矢が突き刺さった。矢は掌を完全に貫通している。

 

「僕たちを簡単に打ち負かせるとは思わないことだ、ガンティアラス。仲間との絆から生み出される戦い方を見せてやる」


 ハンスがそう言うと、ガンティアラスは掌から矢を引き抜いた。だが、ガンティアラスの死角からはカイルが忍び寄っていて、着実に距離を縮めていた。

 

「負けられねぇ!」


 カイルは叫び声を上げながら裂帛の気合いで、ガンティアラスの足に槍の穂先を突き刺そうとする。

 

 その瞬間、ガンティアラスの体が旋回した。先ほどと同じように尻尾による横殴りの一撃がカイルに襲いかかる。

 

 だが、カイルも同じ攻撃は食わないとばかりに、即座にしゃがみ込んで尻尾の一撃をやり過ごした。

 それから、反撃するように今度こそ槍の穂先をガンティアラスの足に突き刺す。これにはさすがのガンティアラスも痛みに表情を歪ませた。

 

「さすがに効いたみたいだな。だが、まだまだこれからだぜ。人間の底力ってやつを見せてやるよ」


 カイルはそう言って笑ったが、ガンティアラスはすぐさま体を激しく揺り動かした。

 

 カイルもその動きには抗うことができずに振り回される。なので、すぐに槍を引き抜いてガンティアラスと距離を取る。

 

 ガンティアラスは痛みに顔をしかめながらも衰えぬ勢いで、カイルへと接近する。そして、悪夢のような動きでカイルに爪を振り下ろした。

 

 カイルはそのあまりのスピードに棒立ちするしかなかった。が、その腕にハンスの放った矢が絶妙のタイミングで突き刺さった。

 

 ガンティアラスの爪はカイルの肩を掠めただけに留まる。

 

 それを受け、カイルは好機だと思ったのか、ガンティアラスの腕の下をかいくぐると、神風を纏ったような一撃をお見舞いする。

 その一撃はガンティアラスの逞しい胸板に突き刺さった。カイルは捨て身の動きで、何度もガンティアラスの胸に槍の穂先を突き刺す。

 

 これにはたまらずガンティアラスも後ろへと後退してカイルとの間合いを取った。

 

「この私にここまでの傷を負わせるとは…。さすが、私が見込んだ者たちだけのことはあったか」


 ガンティアラスはそう賛辞を口にすると、カイルに向かって炎を吐いた。が、すぐにカイルの体もバリアに包まれる。

 

 カイルは逃げることなく真っ正面から炎に突っ込んだ。そして、炎の中から躍り出ると、守りをかなぐり捨てたような動きで槍を突き出そうとする。


 その動きに合わせるように俺も一瀉千里の如き早さで、後ろからガンティアラスとの間合いを詰めていた。

 

 俺とカイルはガンティアラスを挟撃する。

 

 ガンティアラスもその動きを敏感に察知し、俺たちを吹き飛ばそうと再び旋回して尻尾による攻撃を繰り出してくる。

 俺はその尻尾を紙一重のところで避ける。


 だが、カイルは下から掬い上げるように迫る尻尾を避けきれずに大きく吹き飛ばされ、思いっきり床に叩きつけられた。

 

 俺はカイルが狙われない内にガンティアラスへと斬りかかった。

 

 それに対し、ガンティアラスは絶対に避けることのできない角度から爪による一撃を繰り出してきた。

 

 俺は覚悟を決めて、一か八かの動きを見せる。

 

 俺とガンティアラスの体が際どいタイミングで交錯した。死と生が絡み合うような時間の流れを俺も体感する。

 その瞬間、俺はガンティアラスの動きを凌駕するように迅雷の如き斬撃を放った。その斬撃は見事、ガンティアラスの腕を切断してのけた。

 

「どうだ、ガンティアラス。人間の力も馬鹿にできたもんじゃないだろう」


 俺は頬から汗を流しながらも不敵に笑う。

 

 一歩、間違えば俺の命はなかっただろう。でも、その一歩を制したのは紛れもなく俺の方だった。

 

 それに対し、ガンティアラスは苦悶の表情を浮かべたが、すぐにもう片方の手で俺の体をバラバラに引き裂こうとする。

 

 そんなガンティアラスの眼球にハンスの放った矢が神域にも達したような狙いの正確さで突き刺さった。

 これにはガンティアラスも痛みを堪えきれなくなったのか絶叫した。

 

 そして、追い打ちをかけるように立ち上がっていたカイルが空間に穴を穿つような突きを放った。

 その突きはガンティアラスの足首に突き刺ささる。

 

 それを受け、ガンティアラスも足から力が抜けたように膝を突いた。自らの巨体を支えきれなくなったのだろう。

 

「よくぞ、私をここまで追い詰めた。だが、この命、尽き果てるまで、私が戦いを止めることはないぞ」


 ガンティアラスは厳かな声に俺も戦意が鈍る。

 

 手加減はしないと決めていたのに俺はまだ何とか殺さずにガンティアラスを屈服させることができないか考えていた。

 

 その考えをガンティアラスには見透かされた気がした。

 

 なので、俺は明確な殺意を込めて剣を握る。

 

 ここで手心を加えるようなことをすれば、ガンティアラスの気高き誇りを傷つけることになる。

 

 なら、最後まで全力かつ、ガンティアラスを殺す気で戦うしかない。

 

 俺はガンティアラスの懐に入り込むと、凄絶とした斬撃を繰り出した。

 その斬撃はガンティアラスの胸を五月雨のように何度も切り裂く。夥しい血がガンティアラスの胸から流れ出した。

 

 カイルもガンティアラスの足に執拗に槍を突き刺す。

 

 それでも、ガンティアラスは覇気を失うことなく、俺に向かって爪による攻撃を繰り出してくる。

 が、今までのような鋭さとスピードはない。

 

 それを見て、俺が避けられると安心した瞬間、ガンティアラスはいきなりガバッと口を開けた。

 そして、俺の上半身にかぶり付こうとした。そのあまりの唐突な動きに、さすがの俺も反応しきれない。

 

 だが、その開けられた口の中にオリハルコンのできた最後の矢が飛び込んだ。矢が喉に突き刺さったのかガンティアラスは口から血を吐き出す。

 

 ハンスの矢による援護がなければ、俺の上半身はガンティアラスの胃袋の中に収まっていたはずだ。

 

 危機一髪とはこのことだな。

 

「ディン君、僕が援護できるのはここまでだし、後は頼んだよ」


 ハンスの声に背中を押された俺は止めを刺そうと、ガンティアラスの心臓に剣を突き刺そうとする。

 

 すると、ガンティアラスはまたもや強引に体を回転させて、尻尾で近くにいた俺やカイルを薙ぎ払おうとした。

 が、俺はその尻尾を巧みな動きで避ける。それから、軽業師のようにガンティアラスの尻尾の上に飛び乗った。

 

 ガンティアラスも俺を振り落とそうと必死に暴れたが、俺はそんなガンティアラスの背中に何度も剣を突き刺す。

 ガンティアラスも背中から大量の血を流すと、動きを鈍らせた。

 

 俺は止めを刺そうと思ったが、その際、汗で手が滑って剣を落としてしまった。床を転がった剣を見て、俺はしまったと思った。

 

 俺が痛恨の表情を浮かべていると、今まで何もできなかったチェルシーが見せ場を作るように剣に飛びつく。

 それから、剣を拾い上げると、すかさず俺の方に放り投げた。

 

「後もう一息だから頑張って、ディン」


 チェルシーが涙すら浮かべた目で言った。

 

 俺はその剣を上手くキャッチすると、気力を振り絞る。ガンティアラスも意地を見せるように俺を振り落とそうとした。

 

 俺は今度こそ止めを刺そうとガンティアラスの後頭部に飛び乗り、思いっきり剣を振り上げた。

 

「これで終わりだ!」


 俺はあらん限りの力でそう叫ぶと、ガンティアラスの後頭部に剣を突き立てた。グサッと肉と骨を貫通するような生々しい感触が腕に伝わって来る。

 

 そして、脳を貫かれたガンティアラスは「グワー」と断末魔のような声を上げてから、命の糸が切れたかのようにドスンと横に倒れた。

 

 その瞬間、部屋の中が水を打ったようにシーンと静まり返る。俺もあまりの静けさに耳が痛くなった。

 

 終わった…。

 

「僕たちの勝ちみたいだな」


 ハンスは弓を下ろすとほっと息を吐いた。

 

「もう何度も駄目かと思ったが、諦めなくて良かったぜ。ま、諦めてたら、今頃、あの世に行ってたところだが」


 よほど疲れていたのか、カイルはその場に座り込んでしまった。

 

「そうだね。私も今回の戦いで、もっと身を入れて魔法の力を磨かなきゃいけないって思い知らされたよ」


 アリスも蒼白な顔をしている。

 

「みんなと違って、アタシは本当に何の活躍もできなかったけどね。もう二度とこんな悔しい思いをしないためにも、何か他の特技でも身につけようかな」


 チェルシーは頭の後ろで腕を組んで苦笑した。

 

「フィズ…」


 俺はピクリともしなくなったガンティアラスの体を見た。ただ、どうしようもないやるせなさだけが込み上げてくる。

 

 とても勝利を喜ぶ気になどなれない。

 

 すると、奇跡が起きたのかガンティアラスの口がゆっくりと動き始めた。

 

「良くやった、みんな。これで心置きなくおいらも長かった生に幕を引いて、死の眠りにつくことができる」


 ガンティアラス、いや、フィズの口調は穏やかだった。

 

「最後の最後で、命を燃やし尽くすような戦いができて良かったよ。本当にありがとうな、ディン」


 フィズは死相の浮かんだ顔で、子供のような笑みを浮かべた。

 

 すると、その顔からスーッと力が抜けていく。瞼も閉じられてしまい、二度と開くことはなかった。

 

「さよなら、フィズ」


 俺は泣き出したくなるのを堪えながら言った。


 すると、フィズの体は黒い粒子となって消えていく。まるでアンデットと化していたミノタウロスのように。

 

 ひょっとしたら、フィズはもうとっくに死んでいたのかもしれないな。でも、何者かの力によって無理やり生かされていた。

 

 だから、こうして初めから何もいなかったかのように消えていくのだろう。

 

 俺はフィズの死体がそのままにならなくて良かったと思いながら、大粒の涙を零した。

 

 そして、フィズの体が完全に消えてなくなると、眩い光りに包み込まれた小さな鍵が宙へと浮かんでいるのが見えるようになる。

 

 俺はその鍵を手にすると、震える足で門へと近づく。それから、鉄格子の扉の鍵穴に鍵を差し込んで回した。

 

 すると、大きな扉がガラガラと自動的に開いていく。開いた扉の奥は明かりのない濃い闇になっていた。

 

 この先に第四階層があるのかと思うと武者震いがする。

 

「どうする、みんな?」


 俺は涙を拭いながらみんなの顔を見回した。

 

「この先に何が待ち構えているのかはまだ分からない。だから、安全を帰すためにも、ここは一旦、学院に戻ろう」


 リーダーのハンスがそう慎重な意見を言ったので、俺たちは特に反対することなく重い足取りでゲートを後にした。

 

《第四章⑥ 終了》




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