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第四章 命懸けの戦い③

 第四章 命懸けの戦い③


 俺たちは三方向を校舎に囲まれた中庭にいた。


 中庭には誰が集めたのかは知らないが、たくさんの生徒たちがいて、校舎の窓からも生徒たちが顔を出していた。

 彼らの視線は中庭にいる俺とラダックに注がれている。まさか、中庭がこんな大舞台になってしまうとは思わなかった。

 

 俺は平気でギャラリーを背負って立っているラダックを睨み付ける。

 その汗一つ掻いてない顔を見るに、ラダックもこの勝負には相当な自信があるのだろう。

 

 でも、この学院で五本の指に入る剣の使い手に打ち勝てれば俺も今後の自信に繋がる。

 何にせよ、負けたら失うものが多すぎるし、正念場だな。

 

 俺はラダックと対峙すると、腰の鞘からサーベルを引き抜く。

 

 容赦することなく殺すことができるモンスターと戦う時とは違い、俺の心には隠しきれない躊躇いがあった。

 

 これがカタギの人間、しかも、子供に剣を向けると言うことか。

 

「さてと、勝負の方法は簡単だ。どちらかが負けを認めれば良い。一応、医療班の奴も呼んであるから、怪我をしても死ぬことはないだろう」


 ラダックも抜き身のサーベルを構えた。

 

 幾ら死ぬことはないと言っても、あんな肉厚なサーベルで斬り付けられたら腕が切り落とされるぞ。

 

「分かった」


 俺はいつでも斬りかかれるように腕の筋肉を撓めた。

 

「なら、話はここまでだ。集まってくれたギャラリーの興奮が冷めない内に、とっとと決着を付けようぜ」


 ラダックの言葉に俺も顎を引く。それから、自分の感覚を研ぎ澄ました。

 

「望むところだ」


 俺が受けて立つように言うと、ラダックはいきなり地面を蹴り、サーベルを振り上げて斬りかかってきた。

 

 巨漢に似合わぬスピードだが、対応できないほどのものじゃない。

 

 俺は腕力には自信がありそうなラダックの動揺を誘うために、敢えて真っ向からサーベルの一撃を受けとめて見せた。

 ガキンという金属がぶつかる音と共に腕にかなりの衝撃が伝わって来る。普通のオーガよりもパワーがある一撃だった。

 

 さすがに自信を漲らせていただけのことはある。

 

 だが、力負けするほどのものでもないし、石の床を粉々に砕いたオーガ・ロードの一撃に比べれば、たいしたことはない。

 

 俺はギリギリと鍔迫り合いを続けると、相手の体勢を崩すように体を引く。ラダックが前につんのめると、俺はすかさず剣を一閃させた。

 その一撃はラダックの腕に迫ったが、ラダックは無理に体を捻って避けた。ただの力自慢なら、腕を深々と切り裂かれて、痛みにのたうち回っていたはずだ。

 

 これがSランクの冒険者か。

 

「やるじゃねぇか。たいした剣の使い手だが、その程度の攻撃じゃ俺を打ち負かすことはできないぜ」


 ラダックも今の立ち合いで俺の技量は見抜けたことだろう。だから、顔から冷や汗のようなものを垂らしているのだ。

 

「言ってろ」


 俺が吐き捨てるように言うと、ラダックは傾きかけた体勢を立て直して、息も吐かせぬ連撃を俺に叩きつけてくる。

 牛すら真っ二つになるようなサーベルの刃があらゆる方向から迫る。だが、俺はその畳みかけるような攻撃を冷静に捌いていく。

 

 ただ力任せに斬りかかれば当たるというものではない。

 

 剣には力だけでなく技が必要。

 

 そして、その技はしっかりとした師がいないとなかなか身につけられないものだ。

 

 おそらく、我流で強くなったと思われるラダックの攻撃にはこれといった技がなく、洗練さも欠けていた。

 

 俺は反撃とばかりにラダックが叩きつけるサーベルの刃の合間を縫うようにして、銀影を見せる斬撃を繰り出した。

 

 ラダックは何とかそれを受けとめたが衝撃を殺しきれずにグッと唸った。

 が、すぐに暴れるように体を動かすと、俺の剣を弾き飛ばした。それから、再び雪崩を打つような斬撃を叩き込んでくる。

 

 先ほどよりも更に荒々しい斬撃だ。

 

 俺もラダックが強いことは素直に認めよう。

 

 だが、所詮は日常的に剣の腕を磨くことなどなかった学生だ。それでは小さい頃から剣の稽古に励んでいた俺と互角に渡り合うことなどできない。

 

 俺は銀の流線を見せる突きを何度も繰り出す。小回りの効かないサーベルでは受けとめにくい攻撃だろう。

 

 それに対し、ラダックも負けまいと、その突きをサーベルで必死にはたき落とした。が、その動きにも限界が生じる。

 

 俺はサーベルを振り抜いて隙ができたラダックの横腹を切りつけてやろうとしたが、その瞬間、腕に鈍い痛みが走る。

 良く見れば俺の腕には細い針のような物が突き刺さっているではないか。途端に、腕の感覚がなくなっていく。

 

 この針には神経を麻痺させる毒が塗ってあるみたいだな。俺たちの周りにいるたくさんの生徒に紛れて誰かが吹き矢でも使ったのだろう。

 

「毒針を使うなんて汚いぞ、ラダック」


 俺は利き腕がダランと垂れ下がるのを感じながら言った。

 

「さーて、俺には何のことだか分からねぇな。まっ、戦いにはアクシデントは付きものってもんだぜ」


 ラダックは素知らぬ顔をすると、チャンスとばかりに猛烈な勢いでサーベルを叩き付けてきた。

 

 俺は麻痺していない方の手で剣を握ると、そのサーベルをいなす。だが、片手ではサーベルの力と勢いに負けてしまう。

 

 たちまち俺は防戦一方になり、反撃することすらできなくなってしまった。

 

 俺は息を荒げながら、剣を支えにして膝を突く。利き腕の感覚は全くなくなっていたし、これはさすがにまずい。

 

 一方、それを見たラダックは勝ち誇るように仁王立ちして、サーベルを振り上げた。

 

「散々、でかい口を叩いてくれたが、どうやらここまでのようだな。真っ二つにされない内に、さっさと負けを認めやがれ!」


 ラダックのサーベルの刃が大剛の如き勢いで迫る。

 

 それを受け、俺は意識を切り替える。

 

 ラダックを本当に殺す気で剣を振るうことにしたのだ。毒針なんて使う卑怯な奴の身を案じる必要などない。

 

 俺はサーベルの一撃を瞬時に避けると、切り返すように死の風を纏った突きを何度も放った。その突きはラダックの急所を的確に狙っている。

 

 ラダックもいきなり鋭さを増した俺の攻撃に動揺したのか、後ろへと下がって距離を取ろうとする。

 が、俺はそれを許さず、まるで那由多の如き突きをラダックに浴びせた。ラダックの体のあちらこちらに剣が掠り、血が噴き出す。

 

 ラダックはがむしゃらに俺の突きを叩き落とそうとするが、それも追いつかない。

 

 俺の繰り出す剣の切っ先は、ラダックには無数に分裂しているようにすら見えたはずだ。

 それを完璧に捌ける人間など、この学院の生徒の中にはいないだろう。

 

 ラダックは喉元にまで迫った突きをかろうじて避けると、「ヒッ」と怯えたネズミのような声を上げる。

 

 俺の目から本物の殺気を感じ取ったに違いない。

 

 駆け出しとはいえ、一応、世間の荒波に揉まれてきた冒険者と、半年前までは普通の学生だった人間とでは戦いに対する心構えが違う。

 

 学生に他者を殺してでも自分の身を守るという発想はないだろう。

 

 そして、とうとう俺の繰り出した突きがラダックの腕の肉を深く抉った。ラダックは悲鳴を上げたが、俺の突きのラッシュは留まることを知らない。

 

 俺とラダックの間に血風が吹き荒ぶ。ラダックは腕や足、脇腹などに突きを食らって為す術なく崩れ落ちた。

 

「ま、参った。頼むから殺さないでくれ」


 ラダックは息も絶え絶えにそう懇願する。これ以上、突きをお見舞いしたらラダックは死んでしまうだろう。

 

 そこで、ようやく俺もいつもの平常心を取り戻した。

 それから、血だらけになって倒れているラダックを再び見ると、さすがにやり過ぎたなと心の中で反省する。

 

「じゃあ、俺の勝ちだな。約束通りお前たちが使っている教室を調べさせて貰うぞ。もし、これ以上、難癖をつけるようなら、その首を切り飛ばしてやる」


 俺のドスの効いた言葉にラダックも観念したように項垂れた。

 

「その必要はない。オリハルコンの原石なら、こいつが隠し持っているからな」


 そう言ったのはペドロの頭上にいるフィズだった。その横にはハンスとカイルもいる。

 

「ペドロ!」


 俺がそう声を上げると、ペドロはハンスとカイルに腕を掴まれながら、俺のいる方へと進み出る。

 

「ご免、ディン。オリハルコンの原石を盗んだのは実は僕なんだ。リーダーのラダックの命令だったから逆らえなくて」


 ペドロはポケットからオリハルコンの原石を取り出すと、申し訳なさそうな顔で俺に手渡した。

 

「ペドロは俺たちがオリハルコンの原石を持っていたのを知ってたのか?」


 俺は胡乱な目をした。

 

「僕の取り柄は情報収集が上手いことだけだからね。短期間で冒険者ランキングを上げた【ラグドール】はマークしていたんだ」


 ペドロは微苦笑した。

 

「そうか」


 俺も友達の裏切りに胸が痛んだ。

 

「本当にご免。盗人のような真似をするなんて、どうかしていたよ。でも、そうしないと僕はギルドにいられなかったから」


 ペドロは慚愧の念を滲ませたような顔をする。

 

「こんな奴がリーダーをしているギルドなんて辞めれば良いのに」


 俺はラダックを憎たらしそうに見た。


「そう単純なものじゃないんだよ。この学院でそれなりの生活をしたいと思ったら、やっぱりギルドには所属しなきゃならないし」


 ペドロはラダックを同情するような目で見ながら言葉を続ける。

 

「しかも、僕は学院で苛められていたような生徒だったから、どうしても強い後ろ盾が欲しかったんだ」


 その気持ちは分からなくもないな。ただ、共に生活していく仲間は良く選ぶべきだったと思う。

 

「そうだったのか」


 俺のようにこの学院に来たばかりの人間には分からない苦労があると言うことだろう。

 ペドロを責める気にはなれないな。

 

「でも、今回のことで吹っ切れたよ。僕はギルド、【ファイアー・ブレス】から脱退する。そして、地道な活動をしながら、君みたいな強い冒険者になって見せるんだ」


 そう後顧の憂いなく言うと、ペドロはみんなの視線から逃げるように駆け足で中庭から去って行く。

 その後ろ姿を見て、俺もペドロはもう大丈夫だなと思った。

 

《第四章③ 終了》




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