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第四章 命懸けの戦い②

 第四章 命懸けの戦い②

 

 俺たちは部室から出ると、まるで無中力の中にでもいるかのように宙を飛ぶフィズの後ろを付いていく。


 一方、フィズは特に迷うことなく廊下を進んでいくので、よほど自分の鼻には自信があるのだろう。

 

 そして、部室棟を出ると、そのまま校舎の西館に入り、【ファイアー・ブレス 】というネームプレートが貼り出された教室の前にまでやって来た。

 

 俺は【ファイアー・ブレス】という名前を見て、ここはあのペドロが所属しているギルドだと言うことを思い出す。

 

 と、同時に嫌な予感もした。

 

 オリハルコンの原石が盗まれたことには、あのペドロも関わっているのではないかという予感が。

 

「オリハルコンの原石は間違いなく、この教室の中にある。でも、何だか不穏な空気も感じるから気を付けろよ」


 そう言うとフィズは脇に退くようにして、俺の肩に止まった。それを受け、リーダーのハンスが前に進み出る。

 

「失礼するよ」


 そう言って、ハンスは教室の扉を開ける。

 

 すると、中は山賊のアジトのようになっていた。

 

 広い教室だというのにそこら中に物が乱雑に置かれているし、見るからに汚い。汗臭さも漂ってくるし。

 

 これじゃあ、リザードマンのアジトと大差はないな。

 

 しかも、中にいた十二人の生徒たちは、まるで俺たちがここに来るのが分かっていたかのような態勢で、武器を手にしている。

 

 もちろん、その中には強張った顔をしているペドロもいた。

 

「何だ、お前らは?」


 背の高い巨漢のような生徒が勘に障るような笑みを浮かべた。


 誰に教えて貰わなくても、こいつがリーダーだと言うことは発せられる雰囲気ですぐに分かった。

 

 一方、ペドロは俺と視線を合わせると、ビックと肩を震わせて俯いてしまった。それを見て、俺もペドロは何かを知っているなと確信した。

 

「オリハルコンの原石を返して貰いたい。ここにあることは分かっているんだからな、ラダック」


 ハンスは怯むことなく強気に言った。

 

「何を言っているのか分からねぇな。俺たちを盗人、扱いするなんて、眼鏡のレンズが曇ってるんじゃねぇのか、ハンス」


 ラダックと呼ばれた男子生徒はおどけたように肩を竦める。周りにいた生徒たちもゲラゲラと下卑た笑い方をした。

 こいつらは、まるで町の不良だな。しかも、ハンスとラダックは知り合いみたいだ。仲は良くなさそうだけど。

 

 ペドロも何だって、こんなガラの悪い奴らがいるギルドに所属してるんだか。

 

「惚けても無駄だ。この教室を調べればオリハルコンの原石は必ず出て来る。そうなれば言い逃れはできないぞ」


 ハンスの眼光はいつになく鋭かった。

 

「俺たちが簡単にホームになっている教室を調べさせてやるとでも思うのか。だとしたら、甘いってもんだぜ、ハンス」


 そう言って、ラダックは腰から肉厚のサーベルを引き抜いた。それを見て、今度はハンスの代わりに俺が口を開く。

 

「なら、力尽くでも調べさせて貰う。あれはお前たちのようなクズ共に託せるような代物じゃないからな」


 俺は剣の柄に手を置くとそう言い放った。

 

「お前が地上から飛ばされてきた冒険者のディンか。お前の噂は色々と聞いてるぜ。あのミノタウロスを倒せたのもお前のおかげだって言うからな」


 ラダックはサーベルの切っ先を俺の方に向けた。

 

「それが分かっているなら痛い目を見ない内にオリハルコンの原石を返した方が賢明ってもんだぞ」


 俺は怯むことなく挑発してやった。これには涼しい顔をしていたラダックも、青筋を蠢かせた。

 

「調子に乗るなよ、ルーキー」


 ラダックの口の端を歪めた。

 

「調子に乗っているのはお前の方だろ。盗人のくせに態度かでかいんだよ。それとも憎まれ口を叩くだけしか能がないのか?」


 そう言うと俺はチラッとペドロの方を見たが、やはり視線は合わせてくれなかった。

 

「そこまで言うなら、俺と勝負しようぜ、ディン。ミノタウロスを倒した実力は是非とも拝見させて貰いたいからな」


 ラダックが汚らしい笑みを浮かべる。

 

「勝負だと?」


 俺は思わず眉を顰めた。

 

「俺はこの学院じゃ、五本の指に入るほど剣の腕が立つ冒険者だ」


 ラダックは腕を曲げて力こぶを作る。

 

「しかも、個人の冒険者ランクはSだし、そんな俺と一対一の剣の勝負をして勝ったら、この教室を好きなだけ調べさせてやっても良い」


 ラダックの提案に俺も望むところだと思った。

 

「もし、俺が負けたらどうする?」


 俺は斬りかかるような声で尋ねた。

 

「その時はお前らが持っている有り金を全部、よこせ。ついでにお前らがホームとしている部室も明け渡して貰う」


 ラダックはニィッと笑った。

 

「冗談だろ」


 俺は思わず言葉を失った。

 

 俺たちだけが一方的に高いリスクを負っている。なので、もしこれが賭だったら成立しないぞと言いたくなった。

 

「人を疑うには、それ相応の覚悟がいるってことだ。そいつがないって言うなら、さっさとここから出て行くんだな」


 ラダックは教室の入り口にサーベルの切っ先を向ける。

 

 その尊大な態度には俺も本気で腹が立ったが、ここで頭に血が上ってしまうのは未熟な奴だけだ。

 

 俺はラダックの提示した条件と、自分の剣の腕を秤にかけるように頭を巡らせた。

 

「良いだろう。その勝負、受けて立つ」


 そう敢然と言い放ったのは俺ではなくハンスだった。

 

「ハンス!」


 俺は横からハンスの肩を掴む。

 

 俺の力を信頼してくれているからこその言葉だとは思うが、だとしても、こんな勝負は簡単には受けられない。

 

「君の力なら負けやしない。もし、こんな奴に負けるようなら、竜王ガンティアラスに打ち勝つことなんて夢のまた夢だ」


 ハンスは厳しい眼差しで言った。

 

 それは重々、分かっているんだけど、だからといって、いつもその理屈で押し切れるわけじゃない。

 

「そうだぜ。良い機会だし、こういう鼻持ちならない野郎は完膚なきまでに叩きのめしてやってくれよ」


 カイルも俺が負けるとは露ほども思っていないようだった。

 

「私は生徒、同士で争うなんて良くないと思うけど、ここは退けないよ。応援してるから、絶対に負けないでね、ディン君」


 アリスの言葉が俺の背中を押す。

 

「でも、油断は禁物だからね、ディン。ラダックの剣の腕は本物だから、甘く見ると痛い目に遭うよ」


 チェルシーの言葉に俺も掌が汗ばむのを感じた。

 

 でも、こういう話の流れになってしまったら俺も退くに退けない。ここは意地を見せなければ。

 

「大丈夫だ」


 俺はみんなを安心させるような笑みを浮かべて見せる。

 

 確かにこんなところで負けるようなら、みんなを死地にも等しい竜王ガンティアラスのいるところまで引っ張っていく資格はないからな。

 

 だからこそ、絶対に勝つ。

 

「よーし、そうと決まればギャラリーも集められる中庭に行こうぜ。調子に乗ってるルーキーに迷宮で鍛え上げたこの俺の力、目にもの見せてやる」


 ラダックがそう猛々しく言うと、俺たちは教室を出て中庭へと向かった。

 

《第四章② 終了》



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