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第三章 ドラゴンを打ち倒す武器⑩

 第三章 ドラゴンを打ち倒す武器⑩


 大勢の生徒たちに見送られるようにして、冒険者の館を出た俺たちは院長室にいた。


 院長室には何ともピリピリとした空気が漂っていて、俺も頬から一滴の汗が流れ落ちるのを感じた。

 

 そして、俺たちの視線を傲然と受けとめているウルベリウス院長は、ハンスの報告を聞くと大きな溜息を吐いた。

 

「まさか、こんな短期間で、冒険者ランキングを九位にまで上げるとはな。見事だとしか言いようがない」


 ウルベリウス院長はティーカップを持ち上げると、相好を崩した。

 

「世辞は良いですから、オリハルコンの原石をください。あなたは約束を破るような人間ではないはずだ」


 そう流行るように言ったのはやはり俺だ。この人が院長室でノンビリしている間に俺たちは死ぬ思いで迷宮に潜っていたのだ。

 

 なので、さっさと石を渡してくれないと、怒りに火が付きそうだ。


「良かろう。君たちなら、オリハルコンの原石もしっかりと役立ててくれそうだ。だが、くれぐれも加工する際には注意を払って欲しい」


 そう言って、ウルベリウス院長は一番、前にいたハンスにオリハルコンの原石を渡すと、言葉を続ける。

 

「この石ほど価値のあるものは、もうこの部屋にはないのでな」


 ウルベリウス院長はそう念を押すように言った。

 

「大切に使わせて貰います」


 ハンスが頭を下げた。

 

「それで、君たちは本当に竜王ガンティアラスと戦うつもりなのか。奴は君たちが想像している以上に手強い相手だぞ」


 ウルベリウス院長は透徹した眼差しを俺たちに向ける。

 

「それは重々、承知しています。ですが、ガンティアラスの討伐は誰かがやらなければならないことですから」


 ハンスは僅かな怯みも見せない。

 

 こういうところを見せてくれるからこそ、俺もハンスをリーダーとして認めることができるのだ。

 

「そうか。この私では君たちを引き止めることはできないようだな。私ももう少し若ければ、君たちと共に戦うこともできるのだが」


 ウルベリウス院長は引き出しからパイプを取り出すと、それに火を付けた。


「でも、戦う力はあるんでしょ。大賢者ウルベリウスの名前は伊達じゃないだろうし」


 そう揚げ足を取るように尋ねたのはチェルシーだ。

 

「ある。が、その力は己の寿命すら縮ませかねないものだ。私が力を振るうのは闇の魔導師ラムセスと対決する時だけだと決めている」


 ウルベリウス院長は火を付けたパイプの煙を燻らせた。

 

「奴に引導を渡してやるのが、私の最後の務めだからな」


 ウルベリウス院長の声はどこか寂しげだった。

 

「そうですか。なら、その時は頼りにさせて貰いますよ。もっとも、それにはまずガンティアラスを倒さなければなりませんけどね」


 ハンスがそう言うと、俺たちは用は済んだとばかりに院長室を出る。それから、軽い足取りで廊下を歩いて行く。

 

「やっと、オリハルコンの原石を手に入れることができたね。これでアタシたちの苦労もようやく報われたよ」


 チェルシーは頭の後ろのリボンを触った。

 

「そうだな。もし、ここが地上の王都だったら、この石を売って家の一軒でも建てたいところだ」


 俺の口にした冗談にみんなも笑った。

 

 もっとも、みんなは地上の王都に帰るべき家があると聞いている。

 

 なので、ホームシックを誘うようなことは口にするべきではなかったな、と俺はすぐに反省した。

 

「それも良いかもしれないな。オリハルコンの原石なんて売ったら、買い取り金額は数百万シュケムどころじゃ済まないだろうし、ウルベリウス院長が出し渋るのも当然だよ」


 ハンスの言うことが確かなら、ウルベリウス院長には悪いことをしたな。

 

「にしても、この石は本当に神秘的な輝きを放っているね。見ているだけで、心が吸い込まれそうだよ」


 チェルシーは廊下を歩きながら、ハンスの手の中にあるオリハルコンの原石をまじまじと見詰める。

 その横からカイルもヒョイッと顔を出して、オリハルコンの原石を覗き込んだ。

 

「さすが伝説の金属だとか言われるだけのことはあるな。俺もどんな武器ができるのか、何だかワクワクしてきたぜ」


 カイルは「オリハルコンのアクセサリーも良いよな」と冗談めかしたように言った。

 

「ボルブさんならちゃんと加工できるよね。もし、加工に失敗したりしたら、今までの苦労が水の泡になるし」


 浮かれる俺たちを見て、懸念を示したのはアリスだ。

 

「分かってる。でも、今回ばかりはボルブさんだけに任せるつもりはない。確実を期すためにも錬金術の先生にも声をかけて手伝って貰うさ」


 ハンスの言葉にカイルが口の端を吊り上げた。

 

「錬金術の教師になんて頼ったら、ボルブのオヤジは良い顔はしねぇだろうけどな。ま、今回ばかりはしょうがねぇ」


 カイルの言う通り、ボルブさんの技術を疑うことにもなるけど、物が物だからそれも仕方がない。

 

「だろうな。ま、そこは僕が上手く言いくるめて見せるよ。少なくとも、僕はあの人から信頼されているからね」


 ハンスは揺るぎない声で言葉を続ける。

 

「とにかく、今日はみんなも疲れているだろし、部室でゆっくりしよう。オリハルコンの原石を加工するのは明日の朝だ」


 ハンスがそう言うと、俺たちはお菓子や飲み物などを買い込み、そのまま【ラグドール】の部室へと戻った。


《第三章⑩ 終了 第四章に続く》


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