第三章 ドラゴンを打ち倒す武器⑧
第三章 ドラゴンを打ち倒す武器⑧
次の日、俺たちはまた迷宮に潜っていた。
そこで、俺たちは目撃情報のあった通路で鉢合わせしたバジリスクを行き止まりになっている部屋へと追い詰めていた。
バジリスクの外見は一口に言ってしまえば大きなトカゲだ。だが、その体の色は毒々しい紫色で気持ち悪い斑点もある。
教えられずとも、危険な毒を持っていると言うことは容易に見て取れる。
しかも、バジリスクは驚くほど俊敏な動きができて、壁や天井に張り付いて走ることもできるのだ。
なので、剣や槍による攻撃はなかなか届かない。
不用意に近づけば毒の唾液を吐き出してくるし、それを避けるのは大変だ。
その上、血液にも毒が含まれていると言うから、返り血も浴びないようにしなければならない。
とにかく、必殺の一撃を繰り出せるタイミングが訪れるまで接近するのは避けた方が無難だな。
そして、そんな状況を打破するべくハンスは矢を放つ。
「こういう時こそ僕の出番だな。矢の鏃はより殺傷力のあるものに変えたし、こいつを食らえばただでは済まないぞ」
ハンスの声はいつになく自信に溢れていた。
そして、その自信を裏切ることなく、神域にも達したような狙いの正確さで、矢は天井に張り付いていたバジリスクの背中に命中した。
ここはハンスの真骨頂だな。
それから、バジリスクが天井から落ちてくると、アリスがすかさず炎の玉を何個も放つ。が、それは全てかわされてしまった。
「さすがにすばしっこいね。浅い階にいるモンスターなのに、誰にも仕留められなかったのが分かる気がするよ」
アリスは舌を巻く。
だが、燃え広がった炎はその触手を伸ばし、バジリスクを円を描くようにして取り囲んだ。
ネズミ一匹とて逃げる隙間はない。
俺はどうする?と思ったが、バジリスクは大きく前にジャンプして、炎の中から抜け出した。
たいした跳躍力だと俺も唸ってしまう。
それから、バジリスクは俺たちに向かって毒の唾液を盛大に吐き出した。前衛に出ていた俺はみんなに毒の唾液がかからないように盾で防いだ。
その瞬間、鋼でできた盾がジューッと言う音を立てる。
「こんな唾液を食らったら、肉どころか骨まで腐りそうだな。やっぱり、バジリスクの毒は危険なんてものじゃないないぞ」
何せ、鋼の盾を腐食させるくらいだからな。
ハンスたちは毒消しを持って来たけど、それが効くかどうかは疑わしい。
そして、それを見たアリスは光りの刃を乱れ討ちする。無数の光りの刃が乱舞するようにバジリスク迫った。
その内の一本は見事バジリスクの尻尾を切り飛ばした。切り飛ばされた尻尾は床に落ち、飛び散った紫色の血は床の石をジューッと溶かす。
やはり、バジリスクは血も危険か。
俺が舌打ちしていると、バジリスクの尻尾がどんどん再生していく。
アンデットと言うほどではないが、バジリスクも再生力には秀でていると聞いている。
だから、完全に仕留めるには、返り血を覚悟で接近しなければならない。
何とも戦いづらい相手だな。
一方、バジリスクはゲェーと奇声を上げた後、また逃げようとしたが背中にハンスの矢を何本も食らう。
さすがのバジリスクも血を吐きながら動きを鈍らせる。
そこへ的確な位置に移動していたカイルが、まるで風穴でも開けるように槍の穂先を突き出した。
「随分と嫌な動きをしてくれたが、ここまでだぜ。いい加減、血反吐を吐いてくたばりやがれ」
カイルは猛る。
が、バジリスクはニュルリと軟体動物のように体を動かして、その一撃を紙一重のところで避けた。
だが、避けた先には俺がいて、抜群のタイミングで剣を振り抜いていた。
今度ばかりはバジリスクも避けきれず、その体は真っ二つになり、毒が含まれた血を盛大に吹き上がらせながら床を転がった。
俺も瞬時に盾を構えて、返り血を遮る。
すると、バジリスクはしばらく床をのたうち回ったが、やがて動かなくなった。さすがに体を真っ二つにされては傷を癒しきれなかったか。
俺は盾に付いた返り血を見ながら、けっこう手こずってしまったなと思った。ま、一度も毒を食らわなかったのは僥倖だ。
「終わったな。とにかく、毒を食らわなくて良かったし、さすがこの浅い階で五十万ルビィも報酬がかけられていたモンスターだけのことはあったな」
俺はこの盾はボルブさんに鍛え直して貰った方が良いなと思いながら息を吐く。
「でも、これで間違いなく、ランキングは十位以内に入るだろうな。みんなの驚く顔が目に浮かぶぜ」
カイルもウキウキした顔をしている。
「そうだね。だけど、急に何もかも上手くいったから、その反動が来ないか心配だよ」
アリスの心配は良く分かる。
「同感だな。こういう時こそ気を付けなきゃならない。どうやら、敵はモンスターだけじゃなさそうだからな」
ハンスは感触を確かめるように何度も弓弦を弾く。
「うん。何だか、ディンを引き抜こうとする動きもあるみたいだからね。アタシもちょっと心配だな」
チェルシーに言われなくても、そういった動きがあるのは俺も知っている。でも、俺はずっと【ラグドール】で頑張っていくつもりだ。
みんなの気持ちを裏切るようなことは絶対にしない。
俺は上手い話に乗らないよう気を付けなければならないなと思いながら、学院へと戻ることにした。
《第三章⑧ 終了》




