第三章 ドラゴンを打ち倒す武器⑤
第三章 ドラゴンを打ち倒す武器⑤
次の日、俺は朝食を食べると、少し浮ついた気分で、みんなと冒険者の館に向かった。
そして、いざ冒険者の館に入ると、中にいた生徒たちの視線が一斉に注がれる。みんな明らかに俺たちに注目している。
いや、違うな。
生徒たちは俺に注目しているのだ。【ラグドール】の中で唯一、学院の生徒ではない本業の冒険者の俺に。
たぶん、【ラグドール】の躍進には俺が一枚、噛んでいると思っているのだろう。つまり、それだけ【ラグドール】はノーマークなパーティーだったと言うことだ。
俺だって実力を認められるのは素直に嬉しい。みんなに希望を与えられたのかと思うと誇らしくもなる。
だが、注目を浴びることが果たして良いことなのかどうかは分からない。
普通に学院で良い生活をしようと思っているだけでも、今の冒険者の館のシステムでは注目されてしまうからな。
俺のいた国でやっていた長者番付のような物だ。
そして、そういう形で有名になると、他者には得てして妬みや嫉みといった感情を掻き立てさせてしまうものだ。
それだけに浮かれすぎには気を付けなければならない。
とはいえ、これでミノタウロスを討伐する仕事は引き受けられるようになったわけだから、今は前向きになろう。
「じゃあ、今からミノタウロスを討伐する仕事を引き受けるぞ。もし、怖いなら、今回ばかりは抜けても良いからな」
ハンスがそんな奴はいないと分かっている笑みを浮かべながら俺たちの反応を見た。
「何、言ってるのよ。ここまで一緒に頑張ってきたんだよ。それを途中で裏切れるわけがないでしょ」
チェルシーは一指し指をハンスの鼻先に突きつける。
これにはハンスも思わず目をパチクリしたし、チェルシーにしてはやけに強気な態度を見せたな。
チェルシーのみんなの役に立てないもどかしさは俺たちが思っている以上に大きいものだったのかもしれない。
「戦うことには一番、自信が持てていないチェルシーがそう言ってるんだ。まさか、抜けたいなんて言い出す奴はいねぇよな」
カイルはみんなの心に全幅の信頼を置いているようだった。
「そうだよ。まあ、怖くないっていったら、嘘になるけどね。でも、私たちって、元の生活に戻りたいっていう気持ちが欠けてたのかもしれない」
アリスはシェリーが死んだ時と同じような顔を見せる。
「このままずっとこんな時間が続けば良いなって思っちゃったし」
アリスは視線を泳がせながら言った。
「だよね。今の生活ってそれほど悪いとは思えないもん。むしろ、充実してるって思わされる時もあるし」
チェルシーが天井を見上げた。
「でも、一生、続けるってわけにはいかねぇだろう。どんな形であれ、確実に終わりは来るからな」
カイルは甘い幻想をバッサリと切って捨てるように言った。
「それを教えてくれたのがディン君なんだよね。ディン君は本物の冒険者だから、現実を見ることも忘れないし」
アリスは芯の通った目で俺を見詰めた。
「俺は…」
俺は言い淀んでしまった。でも、俺だってみんなと同じ環境で生きていたら、たぶん同じ状態に陥っていたと思う。
俺とみんなの意識の差は環境の違いに過ぎない。
「そういうことだな。ディン君はここでの生活に良い意味でも悪い意味で慣れてしまった僕たちに新しい風を吹き込んでくれた」
ハンスが晴れ晴れとした顔で笑う。
「それに対しては本当に感謝しているよ」
ハンスは真っ正面から俺の肩を触った。
「俺もディンとの出会いには何だか運命を感じちまうよ。もしかしたら、ディンは迷宮を制覇する以上の偉業を成し遂げてくれるかもしれねぇな」
カイルの言葉に俺は胸が透くような気持ちになった。
「うんうん」
チェルシーも喜色を浮かべながら頷く。
「それは買い被りすぎだ。とにかく、立ち止まることなく前に進もう。俺も最後まで、みんなと共に戦い抜きたい。そして、必ず生きて地上に戻って見せる」
俺がそう力を込めて言うと、みんなは実に良い顔で笑ってくれた。
《第三章⑤ 終了》




