第三章 ドラゴンを打ち倒す武器④
第三章 ドラゴンを打ち倒す武器④
俺たちはオーガ・ロードの住処がある九十三階に来ていた。
さすがにこの階になると、地図を広げて歩かなければならない。なので、雑魚モンスターたちを退けながらここまで来るのは大変だった。
体力を消耗しないように戦おうとすると、逆に焦りで無駄な動きが多くなるからな。でも、傷を負わされるようなことはなかった。
オーガ・ロードとはできるだけ万全の状態で戦いたいと思っていたし、それには絶対に怪我をするわけにはいかない。
ま、ハンスの回復魔法の出番はなかったってことだ。
ちなみに、現れたモンスターの中にリザードマンの姿は全くなかった。たぶん、俺たちが親玉であるリザードマン・ロードを倒して置いたおかげだろう。
この様子だとリザードマンたちが普通に現れるようになるには、もう少し時間が掛かるはずだ。
俺は疲労感を漂わせつつ、地図に記されているオーガ・ロードが住処としている部屋に足を踏み入れた。
すると、ムッとする血臭と共に金属でできた金棒のような物を持った鬼がゆっくりと立ち上がる。
その背丈は普通のオーガよりも一回り大きかったし、体付きもよりがっしりした印象を受ける。
強敵だと思わせるには十分な巨躯だった。
こいつがオーガ・ロードか。
「さてと、今回はミノタウロスと戦うための前哨戦だし、絶対に負けて帰るわけにはいかないぞ」
ハンスがそう気丈に言うと、俺は頬から汗を垂らしながら剣を構えた。
すると、オーガ・ロードは人間の腕力では到底、持ち上げられないような大きな金棒を軽々と振り上げる。
あんな金棒で殴られたら肉は押し潰され、骨は砕けるだろう。
例え武器で受けとめても、相当な衝撃を覚悟しなければならない。下手したら武器が壊れてしまう。
俺もオーガ・ロードの特徴を聞いて、盾は持ってこなかった。スピードと敏捷性を重視した方が良いと判断したからだ。
「一撃も食らうわけにはいかない相手だな」
そう言うと、俺は迂闊な攻めは危険だと判断し、剣を構えたままじっくりと相手の出方を窺った。
すると、オーガ・ロードは足の筋肉を盛り上がらせ、脚力を見せ付けるように走り出す。十メートルはあった間合いが、グングンと縮まっていく。
それから目の前まで肉薄してきたオーガ・ロードは予備動作なしに金棒を振り下ろした。
「早い!」
俺はバックステップでその一撃を避けた。が、俺のいた場所は金棒が激突し、火花を散らしながら大きな穴が空いた。
石の破片が宙を舞い散る。
あんな一撃を食らったら、今頃、肉塊になっていたところだ。
「こんなに破壊力がある一撃を繰り出せるなんて。まともに受けとめなかったのは正解だったな」
俺は舌打ちすると一陣の風になったような動きで、オーガ・ロードに接近する。それから、早さを重視した斬撃を繰り出した。
その斬撃はオーガ・ロードの二の腕に切り傷を付ける。
だが、その傷は浅く、刃がまるでゴムのような弾力性のある筋肉によって押し返されてしまった。
ちゃんと力の練り込んだ斬撃を繰り出さないとオーガ・ロードにはダメージを与えられないな。
俺が間合いを取ると、そのタイミングに合わせるように神速の矢が何本も飛来する。それはオーガ・ロードの体のあらゆる部位に突き刺さった。
が、オーガ・ロードの顔に苦痛の色はない。
蚊に刺された程度の痛みしか感じてないのか、オーガ・ロードは体に突き刺さった矢を無造作に引き抜いた。
「普通に矢を当てたんじゃ、まるで効果がないってことか。狙う場所をちゃんと考えなきゃならないな」
ハンスは鷹のような目をしながら言った。
それを受け、カイルもオーガ・ロードの動きを鈍らせようと、その足に槍の穂先を抉り込ませようとする。
が、オーガ・ロードは激しく金棒を振り回して、カイルの槍を木の棒きれのように吹き飛ばしてしまった。
槍は空中でクルクルと回転しながら床に落ちる。
「俺の手から武器がもぎ取られるなんて、こんなことは初めてだぜ。でも、面白くなってきやがった」
カイルは口元を歪めながらも不敵さを感じさせるように言った。
すると、オーガ・ロードは金棒を高々と振り上げて、カイルのいる方に走り出す。武器を失ったカイルに狙いを定めたのだ。
そうはさせまいと俺もオーガ・ロードに真横から斬りかかった。だが、今度も浅い切り傷しか付けられない。
「なんて、硬い体をしているんだ。まるで鋼のような筋肉だな」
俺は歯を噛み締めた。
ハンスの矢も彗星のように飛来し、オーガ・ロードの体に何本も突き刺さるが、猛進を止めることは全くできない。
額に矢が当たっても、オーガ・ロードは普通のオーガのように倒れてはくれなかったし。
そして、オーガ・ロードはカイルの前に辿り着くと、丸腰のカイルめがけて金棒を振るった。
カイルはその一撃を華麗なステップで避ける。だが、オーガ・ロードの金棒は驟雨のようにカイルへと叩きつけられた。
俺もカイルを守りたかったが入り込める隙がない。
そして、バランスを崩したカイルを見て避けきれないと俺が思った瞬間、オーガ・ロードの腕にチェルシーの放った短刀が突き刺さった。
だが、オーガ・ロードは僅かに動きを鈍らせただけだし、チェルシーもオーガ・ロードの眼光に射抜かれてビクッと震えてしまう。
「カイル、離れて!」
アリスがそう叫ぶと、スパークする特大の光りの球が放たれる。
俺たちがオーガ・ロードを引き付けていたおかげで、アリスもじっくりとエネルギーを注ぎ込むことができたようだ。
カイルも巻き込まれないよう、即座にバックステップで距離を取っていたし、この辺の動きはさすがだ。
それから、光りの球は電光石火の早さでオーガの体にぶつかった。その瞬間、空間が歪んだように見えるほどの凄まじいエネルギーが放出される。
これにはたまらずオーガ・ロードも吹き飛ばされた。
「相当なエネルギーを込めて放ったから、絶対に効いたはずだよ」
アリスの言う通り、金棒を支えにして立ち上がったオーガは左腕が消失していた。さすがにあの強力無比な魔法を食らってはたたでは済まなかったか。
でも、アリスはエネルギーを使いすぎたのか、青い顔で息を荒げている。
ここまで辿り着くのにも、何度も魔法を使ったからな。
さすがに体力の限界が近いか。
一方、オーガ・ロードは全く戦意を鈍らせることなく、片手で金棒を振り上げると、俺たちの方に向かってくる。
手負いの相手とはいえ、油断はできそうにない。
「来い、俺が相手だ!」
俺はみんなを庇うようにオーガ・ロードの前に立つと、金棒による攻撃をヒラヒラと舞い落ちる木の葉のような動きで避ける。
もし、少しでも動き方を間違えれば金棒の餌食だ。
それから、オーガ・ロードに隙が出ると、まるで雷神が繰り出すような斬撃を放った。その一撃は、オーガ・ロードの脇腹を切り裂く。
だが、まだ致命傷とは言えない。
そのまま俺の剣は翻るような軌跡を見せると、再びオーガ・ロードの体を今度は縦に切り裂いて見せた。
体に十字の傷が刻み込まれると、オーガ・ロードも体を仰け反らせる。
「さすがに爺さん直伝の十字切りは効いたみたいだな」
俺の得意とする技だし、これが効かなかったらショックで立ち直れなかっただろう。
そこへ槍を拾い上げていたカイルの熾烈な突きが、何度も浴びせられる。オーガ・ロードの体に穴が何個も空いた。
「俺もやられてばっかりじゃないぜ。ここからが俺の見せ場だってことを教えてやるよ」
カイルはまるで常に戦いを求める軍神のように笑う。
と、同時にオーガ・ロードの顔面にもハンスの矢継ぎ早に放った矢が何本も突き刺さった。その内の一本は鍛えようのないオーガ・ロードの眼球を潰す。
「矢による攻撃には無沈着なようだったが、当たりどころによっては十分、致命傷になるぞ」
ハンスが満身創痍のオーガ・ロードにそう言い放った。
そして、さすがのオーガ・ロードも俺たちの猛攻に二の足を踏む。だが、まだ倒れてはくれず、それどころか足掻くように反撃をしてきた。
が、当たれば必殺の金棒も片目を失ったせいで狙いが定まらず、何度も空振りする。
俺は振り下ろされる金棒の下をかいくぐると、潰れた眼球の方向に回り込む。それから、オーガ・ロードの太股を凄烈に切り裂く。
筋肉の繊維が断ち切れる感触が伝わってきたし、手応えは十分あった。
そして、オーガ・ロードがバランスを失って倒れると、俺はすかさずその頭に粉骨砕身とも言える斬撃を叩き込む。
その一撃でオーガ・ロードの頭蓋骨は砕かれ、派手に脳漿が溢れ出すと、その体はようやく動かなくなった。
「やっと勝てたな」
俺はそう言って息を絞り出す。何とも冷や冷やさせられた戦いだったが、得られた経験値は多いだろう。
「武器を飛ばされた時は俺もさすがに胆が冷えたぜ」
カイルは息を弾ませながら言葉を続ける。
「もし、ディンがいなかったら、こんな手強いモンスターと戦おうとは思わなかったかもしれねぇな」
カイルは強張った顔で笑った。
「そうだね。私もエネルギーを使いすぎたし、ディン君がいなかったらたぶんオーガ・ロードには勝てなかったよ」
でも、アリスの果たした役割は大きい。
「僕の矢も段々、通じなくなってきたし、更なる攻撃力のアップを図らなきゃならないな。みんなの足手まといになるわけにはいかないし」
聡明なハンスなら、その方法も見つけ出せるだろう。
「アタシはほとんど出番がなかったから、ちょっとへこむよ」
短刀を投げた後は、ただ見ていることしかできなかったチェルシーはがっくりと肩を落とした。
その後、俺たちは疲れた足取りで学院に戻ると、六十万ルビィという大金を受け取るために冒険者の館へと向かった。
そして、オーガ・ロードの討伐が完遂したことが掲示板の貼り紙に書き込まれると、また周囲の生徒たちがどよめく。
俺が耳を澄ますと「オーガ・ロードまで倒してしたって言うのか」「でも、あいつらはリザードマン・ロードを倒したばっかりだぞ」「【ラグドール】に加入した冒険者はそんなに強いのか」「誰か先を越される前に、あの冒険者を勧誘した方が良いんじゃないのか」「俺、ちょっとギルドのリーダーに報告してくるわ」などと言う話し声が聞こえてきた。
俺は有名になってきたことを実感しながら、このまま順調にいけば良いんだけど、と焦慮を感じながら思った。
ちなみに今回の仕事でパーティーの冒険者ランクはBに上がった。俺個人の冒険者ランクもBになったし。
一方、パーティーの冒険者ランキングは十九位、止まりだった。
まだまだ戦わなければならないということだな。
《第三章④ 終了》




