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第三章 ドラゴンを打ち倒す武器① 

 第三章 ドラゴンを打ち倒す武器①

 

 俺は頭がクラクラするのを感じながら、目を覚ます。それから、寝袋から出て立ち上がろうとしたが、足下がふらついてしまった。

 なので、俺は両頬をパンッと叩いて意識をはっきりさせる。すると、駆け抜けるような痛みが脳へと伝わり、ようやく視線も安定した。

 

 現在、水時計の示す時刻は朝の十一時だ。

 

 なのに、ベッドではハンスたちがまだ眠っている。しかも、彼らからは強い酒の匂いが漂ってくるのだ。

 

 昨日はみんなもしこたまワインを飲んでしまったからな。そう簡単に起きることができなくても無理はない。

 

 まあ、このサンクリウム王国では十五歳になれば普通に酒が飲めるようになるみたいだからな。

 

 だから、俺も昨日は堅いことは言わなかった。

 

 ワインの味も文句なしに良いものだったし。

 

 ただ、同じくらいワインを飲んでいたはずのフィズは部室にはいなかった。ドラゴンは酒にも強いのだろうか。

 

 俺は外の空気を吸いたいと思い、部室の窓から顔を出した。

 

 すると、校門の近くに人だかりができていて、何やら騒がしくなっているのが見えた。

 

 動悸が強くなるのを感じた俺は何かあったんだろうかと思い、部室を出ると駆け足で校門へと向かった。

 

 そして、いざ、校門の前に辿り着くと、そこにはたくさんの生徒たちがいて、暗い顔をしていた。

 

 彼らの視線の先には傷だらけになっていたり、血を流してぐったりと倒れている生徒たちがいる。

 たぶん、迷宮に潜り、怪我をして帰ってきたのだろう。しかも、怪我をしている生徒は八人もいたのだ。

 

 特に血だらけの生徒は何とも痛々しく見えて、医療班という腕章を付けている生徒たちから治癒の魔法をかけて貰っていた。

 

「どうしたんだ?」


 俺は近くにいた男子生徒を捕まえて尋ねた。

 

「ギルド、【ホワイト・ナイツ】の第二パーティーがゲートを守るドラゴン、竜王ガンティアラスの討伐に行っていたんだ。でも、こうして負けて帰ってきた」


 男子生徒は痛切な目で、治療を受けている生徒たちを見ている。

 

 その近くにいるだけで重く沈み込みそうな空気を吸い込み、俺も無意識の内に胸に手を当てていた。

 

「そうか」


 やはり、ガンティアラスの力は尋常ならざるものみたいだな。

 

「幾らエリオルド会長のいない第二パーティーでも、その実力はトップクラス。それが、こんな酷い状態で逃げ帰ってきたんだぜ」


 男子生徒はやるせない顔で言葉を続ける。

 

「がっかりさせられるよ」


 男子生徒は肩を落とした。

 

「それで、そのエリオルド会長とやらはどこにいるんだ?仲間たちが傷つき、倒れてるって言うのに」


 俺もエリオルド会長には会いたいと思っていたんだけど。

 

 でも、この場にいないことには俺も苛立つものを感じていたし、エリオルド会長は本当に聞いていた通りの人格者なのだろうか。

 

「会長はギルドの本部で待機しているはずだよ。あの人はこの学院を支えている大黒柱だからね。本人の意思がどうあれ、ガンティアラスの討伐になんて参加できないさ」


「なるほど」


「しかも、今回の討伐作戦じゃ、学院でも指折りの冒険者が二人も殺されたんだ。その損失は計りしれないよ」


 また犠牲者が出てしまったか。人事とは言え心が痛むな。

 

「へー」


 俺が消沈したような顔をしていると、澄んだ声が発せられる。

 

「大丈夫ですか?」


 校門に近づいてきたのは、腰まで伸ばした麗しき金髪を靡かせた少女だった。

 

 あのアリスよりも美しい容姿をしていたので俺も思わず目を奪われてしまった。と、同時にこの美しさは人間の持つものではないと察してもいた。

 

 その上、少女は神聖さを感じさせる白を基調とした神官服のようなものを着ていて、何とも神々しいオーラを発している。

 

 一目でただ者ではないと分かった。

 

「サンクナート様」


 生徒たちが、救いの神で見たような声を発する。

 

「そこをどいてください。あなたたちの力では荷が重すぎる怪我ですし、治癒の魔法ならこの私がかけます」


 少女は泰然とした表情で言い放った。

 

 その言葉には普通の人間にはない威厳があった。それから、少女は怪我をしている生徒たちに近寄るわけでもなく、手を翳す。

 

 すると、掌から白くて眩いオーラが溢れ出した。しかも、そのオーラに包み込まれた生徒たちの傷口がどんどん塞がっていく。

 

 それを見た俺も尋常ではない力を感じた。

 

「あれがサンクナートなのか?」


 俺は女神のような少女、いや、サンクナートを見て瞠目した。

 

「ああ。彼女こそこの学園の秩序を守っている善神サンクナート様だよ。見かけは可憐な少女だけど、その力は本物さ」


 男子生徒はおどけたように肩を竦めた。

 

「肩に乗っているのはドラゴンだよな」


 サンクナートの肩には手乗りサイズの純白のドラゴンがいた。

 

 そのしなやかさを感じさせる体付きと首の曲線美には魅入られるものがある。優美という言葉がこれほど似合うドラゴンもいないだろう。

 

 あの刺々しく、荒々しいジャハナッグとは対極に位置するような雰囲気を漂わせているな。

 

「あれは善竜エリュミナスだよ。学院じゃ、悪竜ジャハナッグがけっこう好き勝手やってるから、それに睨みを効かせている」


「ジャハナッグ は俺も好きじゃないな」


 ジャハナッグの横暴ぶりは俺も目の当たりにしたからな。

 

「だろ。あの悪神ゼラムナートの勢力を押さえ込んでいられるのも、全てはサンクナート様のおかげなんだよ」


 男子生徒は熱を帯びた声で言葉を続ける。

 

「もし、サンクナート様がいなかったら、学院は健全性を保つことができない無法地帯になっていただろうな」


「そっか」


 ゼラムナートはともかく、サンクナートはこの状況を楽しんでいるというわけではなさそうだな。

 

 色々な噂が飛び交っているせいで、生徒たちには事実もねじ曲げられて伝えられているのだろう。

 

 中には敢えて悪質な噂やデマを流す輩もいるみたいだからな。

 

 やっぱり、何事も人からの言葉に頼らず、自分の目と耳で確かめないと。でないと、判断を見誤る。

 

「ところで君は誰なんだい?この学院の状況には随分と疎いようだけど、良かったら名前を聞かせてくれないかな」


 男子生徒はようやく俺のことに興味を持ったように尋ねてきた。

 

「俺は冒険者のディン・ディルオールだよ」


 色々、教えてくれた人間に対する礼儀として、俺はなるべく気さくに見えるように自己紹介をした。

 

「もしかして、君が地上から飛ばされてきた冒険者なのか?」


 男子生徒は目を大きく見開いた。

 

「ああ」


「あのリザードマン・ロードも倒したって言うし、こうして会えるのは光栄だね。ちなみに僕はギルド、【ファイアー・ブレス】に所属しているペドロ・ロムリアーノだ」


 ペドロは俺に向かって手を差し出してきた。


「よろしく」


 そう言って、俺はペドロの手を握る。その瞬間、新たな友情が生まれるのを感じた。

 

「うん。僕の冒険者ランクはDだけど知識じゃ誰にも負けないつもりだし、知りたいことがあったらどんどん聞いてくれよ」


「情報料は取るのか?」


 俺はからかうように言った。

 

「まさか。大事な情報は損得抜きにして全て公開するべきだというのが僕のモットーだ。よほどのことがない限り、情報料なんて取りはしないよ」


 ペドロは愛想良く笑う。

 

「そいつは助かるな。俺のパーティーのメンバーはけっこうアクが強いから、俺もペドロみたいに普通に話せるような奴が欲しかったんだ」


 普通の友達がいると、ほっとさせられる。

 

「確か【ラグドール】はそうだったね。僕の所属しているギルドはなんて言っても女の子が一人もいないんだ」


 男だらけのギルドって言うのも何か嫌だな。

 

「だから、学院でも指折りの美少女のアリスと同じパーティーにいられる君が羨ましいよ」


 ペドロがそう言うと、怪我をしていた生徒たちが揃って立ち上がった。その足付きはしっかりとしているし、怪我は完全に治ったみたいだな。

 

 さすが、本物の善神の力か。

 

 でも、その生徒たちの顔は憔悴しきったようにげっそりしている。体の傷は治っても、心の傷はそう簡単には治りそうにないな。

 

「さてと。僕はギルドのホームの掃除があるし、これで帰らせてもらうよ。できることなら、君とは近い内にまた会いたいな」


 そう言うとペドロは踵を返して、俺の前から去って行く。その場にいた野次馬のような生徒たちも、解散し始めた。

 

 一方、俺はみんなの後ろ姿を見送りながら、本当に迷宮を制覇することなどできるのだろうかと一人、不安に駆られた。

 

 《第三章① 終了》

 



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