第四章 魔剣に取り込まれし者⑤
第四章 魔剣に取り込まれし者⑤
ホームを手に入れたパーティーをしてから、更に五日が過ぎた。
俺は財宝を売ったお金で、みんなの武器をアダマンタイト製の物に変えた。おかげで財宝を売ったお金は全てなくなってしまったが。
でも、これでドラゴンに挑むことができる。
ドラゴンを倒せば、みんなの自信も否応なしに高まるだろうし、また新たな財宝も手に入れられるだろう。
そうなれば、相当、余裕のある生活を送ることができるようになる。
ま、今のところは全てが順調に進んでいると言えるな。
それと、俺はガルバンテス先生がアルゴルウスと戦いに行く時は、同行させ貰おうと思っていた。
魔王を倒した英雄と、豪傑の魔将の戦いを見逃すわけにはいかないからな。
俺はいつガルバンテス先生が動き出すか気を揉みながら、【アビシニアン】のホームとなった部室でコーヒーを飲みながらパンを食べていた。
ちなみにカロリーヌも焜炉が設置されてからは、それでお湯を沸かし、コーヒーや紅茶などを入れてくれる。
でも、その味はアリスの入れてくれたものには到底、適わない。カロリーヌにはもう少し精進して貰いたいな。
「さてと、朝食も食べたし、そろそろ行こう」
俺はカロリーヌの入れてくれたコーヒーを飲み干すと、椅子から立ち上がる。
これから、ドラゴンを倒しに行くことは、みんなにも伝えてあるので、俺も自分が立ち上がったことで部室の空気が変わるのを感じた。
「ドラゴンと戦うなんて、武者震いがするぜ。昨日は良く眠れなかったし、今も心臓がバクバク鳴ってらぁ」
リードはカロリーヌが焼いてくれたマフィンを頬張りながら言葉を続ける。
「ま、竜王ガンティアラスを倒したディンになら、俺も心置きなく命を預けることができるってもんだが」
リードは俺を見てニィと笑った。
「アタシも同じよ。少し前なら、アタシだってドラゴンと戦うなんて正気の沙汰じゃないって思ったでしょうね」
セティも俺がドラゴンと戦うと言った時は、面倒くさいとは言わなかった。セティは何を基準にして、物事を面倒くさいと決めているんだろうな。
「でも、今は負ける気がしないわ」
そう言うとセティは小洒落たティーカップをテーブルの上に置いた。
「私はやっぱり怖いかな。でも、この日のために、アムネイアス様から厳しく魔法を教えて貰ったし、今は何とかなるって信じるよ」
カロリーヌはお湯の入ったポットを手にしながら言った。
「まあ、ドラゴンと言ってもピンからキリまであるからな。竜王ガンティアラスよりも弱ければ勝てるという考え方は危険だろう」
イルザは慎重な姿勢を崩さない。
「とはいえ、財宝を守るドラゴンは学院の生徒たちを殺しているし、私も放置しておくつもりはない」
イルザはアダマンタイト製に代えたバスターソードの柄にそっと手を置いた。
「なら、殺された生徒たちのカタキは俺たちが取ってやらないと。ま、逆に俺たちが殺されちまったら本末転倒だけどな」
リードは冗談でも笑えないことを言った。
「ああ。とにかく、俺も今の【アビシニアン】の総合力なら負けることはないっていう自信がある」
それでも、【ラグドール】には及ばないけどな。
「でも、ちょっとした判断ミスで俺たちの誰かが命を落とすことはありえるんだ。だから気を引き締めていこう」
そう言うと、俺は椅子から立ち上がったみんなと共に部室を出る。
それから、校舎の地下にある転移の魔方陣を使って、第三階層の町に行くと、そのまま迷宮へと足を踏み入れた。
そして、迷宮の中を歩いていると、武器を手にしたリザードマンたちと出会ったが、彼らが襲ってくることはなかった。
今まで、刈り尽くすようにして殺してきたリザードマンだけに、平然と俺たちの横を通り過ぎていくのを見ると不思議な気持ちになる。
やっぱり、人間にせよモンスターにせよ、知性というものは大事だ。
俺は物足りないものを感じながらもわざわざお金を出して買った地図を広げながら、ドラゴンのいる部屋を目指した。
そして、三十分ほど歩くと、目的の部屋へと辿り着く。
そこには緑色の体をしたドラゴンが、貫禄を見せるように鎮座していた。
ガンティアラスよりは一回り小さいが、それでもその迫力は他のモンスターたちとは桁が違うし、絶対に甘く見られる相手ではない。
俺は鞘から剣を引き抜くと、みんなの方を見る。
「みんな、ドラゴン相手に無理をするなとは言わないけど、自分の命を守ることを最優先にして戦ってくれ」
俺は腰を浮かせたドラゴンの動きを牽制しながら言った。
「分かってるよ。指導し、育成しなきゃならない俺たちを死なせたりしたら、ディンの今までの苦労が水の泡になるからな」
リードの言う通り、みんなにはそれだけのお金と時間をかけてきたのだ。こんなところで死んで貰っては困る。
「そんなことはあっちゃならないぜ」
リードの言うことに何ら間違いはない。
「そうね。ディンはいつだって、アタシたちのことを第一に考えて行動してくれたからね。なら、今回の戦いでも素直にディンの言うことに従うわよ」
セティは抜き放った細剣の刀身を光り輝かせる。
「私も同じだよ」
カロリーヌも追従するように頷く。
「ま、本当に私たちの命を大切にしてくれるなら、ドラゴンとなんて戦わせないと思うけど、ディンにも色々と思うところがあるんだよね」
カロリーヌは俺の顔を見て、小動物のように笑った。
「私は既に自分の持つ剣の力をディンに預けている。だが、これからは心も預けて戦おうと思っているから、せいぜい的確な指示をして貰いたいな」
イルザは前足を踏み出そうとしているドラゴンを見ながらも悠々とした態度で言った。
そして、俺たちが武器を手にジリジリと前へと進み出ると、ドラゴンは耳を劈くような咆哮を上げた。
それを受け、俺は放たれた矢の如き早さでドラゴンへと駆ける。
すると、ドラゴンは様子を見ることなく、いきなり尋常ではない量の炎を吐き出してきた。
だが、炎が到達するよりも早く、俺の体は薄い光りの膜に包まれる。
カロリーヌがバリアを張ってくれたのだ。
「私の張ったバリアはそう簡単には破れないよ。何せ、あのアムネイアス様、仕込みの魔法だからね」
そう豪語するカロリーヌの言葉を信じ、俺は炎に突っ込む。そして、猛威を振るう炎を突き破ると、ドラゴンの前に躍り出た。
そして、俺はドラゴンの体に斬りかかる。ドラゴンの胸が一文字に切り裂かれた。
だが、ドラゴンの方も負けてはおらず、俺に牛すらバラバラにできそうな鋭利な爪を振り下ろしてきた。
だが、俺はそれを俊敏な動きでかわす。
すると、俺の横からセティが飛び出し、細剣で閃光のような突きを放った。それはドラゴンの顎の辺りを貫く。
「さすがアダマンタイト製で、できているだけのことはあるわ。こんなに易々とドラゴンの体を貫いて見せるなんて」
セティは剣を引き抜きながら笑った。
が、その瞬間、ドラゴンは竜巻のように体を回転させて、尻尾で接近していた俺とセティを薙ぎ払おうとした。
だが、俺はそれを余裕を持って避け、セティはかいくぐるようにしてドラゴンの懐に飛び込んで見せる。
そして、ドラゴンの胸に無数の残映を生み出す突きを浴びせた。
ドラゴンは胸に何個も穴を開けられ後退する。
が、そんなドラゴンの側面からはイルザが迫っていて、ドラゴンの野太い後ろ足にバスターソードを叩きつけた。
それに対し、ドラゴンは足を斬られながらも、横に飛んで足が切断されるのを防いだ。
「ふむ、踏み込みが足りなかったか。アダマンタイト製のバスターソードは重さが増しているから、それも計算して扱わないとな」
イルザはバスターソードの振り心地を確認するように言った。
と、同時にドラゴンへと特大の火球が飛来する。それはドラゴンの体に激突すると、空間が爆ぜ割れたかのように大爆発した。
かまいたちのような風が、部屋の中を吹き荒れる。
だが、爆煙の中から現れたドラゴンは火傷一つなかった。これにはカロリーヌも小さく舌打ちする。
「やっぱり、ドラゴンに炎の魔法が効くわけがないか。なら、次はどんな魔法を試そうかな」
カロリーヌは戦いの最中だというのに考え込むような顔をする。
それから、完全に激昂したドラゴンは俺たちを寄せ付けないように、何度も灼熱の炎を吐いてきた。
だが、バリアに包まれた俺たちには通用しない。
そして、視界を遮る炎が、カロリーヌの使った風の魔法で掻き消されると、ドラゴンがギャーッと絶叫する。
良く見ればドラゴンの尻尾が血飛沫を上げながら切断されているではないか。
そんなドラゴンの後ろにはいつの間にかリードがいて、会心の笑みを浮かべていた。リードも気配を殺してドラゴンの背後に回るとはなかなかやるな。
「ヘヘッ、俺だってその気になれば戦えるってことを教えてやったぜ」
リードはそう言って笑ったが、ドラゴンが自分の方を向くと、ビクッと体を震わせる。
だが、注意を逸らしてしまったドラゴンには、イルザが勇猛さを見せるように斬りかかっていた。
「この私を前にしながら、後ろを振り向くとは良い度胸だ。すぐにでも、その迂闊さを後悔させてやろう」
そう言うと、イルザはバスターソードを轟雷の如き勢いで叩きつける。その一撃で、ドラゴンの腕は切断され、宙を舞った。
ドラゴンは苦痛に呻きながらも、イルザにもう片方の腕の爪を何度も振り下ろした。
だが、大きな剣を手にしているとは思えないほどの身のこなしを見せるイルザの体は捉えられない。
そして、セティもドラゴンの動きを止めるために、後ろ足へと細剣を突き刺す。これにはさすがのドラゴンも動きを鈍らせる。
イルザも腕を失っている方から、ドラゴンの側面に回り込むとバスターソードを力強い踏み込みで叩きつける。
結果、イルザはドラゴンの後ろ足を完全に切断してのけた。ドラゴンも体のバランスを保てなくなり、倒れる。
それを受け、セティは最後の足掻きとばかりに口から炎を漏らしていたドラゴンの額にすかさず細剣を突き刺す。
すると、ドラゴンは耳の鼓膜が破れそうになるほどの声を上げて、力尽きたように動かなくなった。
その目にはもう光りはない。
「ドラゴンにトドメを刺せるなんて、アタシもやればできるじゃない。もちろん、みんなの力があったからこそだけど」
セティは小躍りするような声で言った。
「なかなかの強敵だったが、誰も怪我をすることなく打ち倒せて良かったよ。ま、自分が死ぬかもしれないようなスリルを味わえなかったのは、私としては残念だがね」
イルザはバスターソードを振るってこびりついた血を落とす。
「私はもっと色々な魔法を試しみたかったんだけどね。でも、みんなが凄い戦いぶりを見せてくれたから、そんな暇はなかったよ」
カロリーヌは掌に作りだしていた光りの球を消した。
「みんな、何でそんなに余裕なんだよ」
リードは自分の胸に手を当てながら言葉を続ける。
「俺なんか、今になって恐怖がぶり返してきやがったし、自分でも良くドラゴンの尻尾なんて切り落とせたなって思うよ」
でも、そういう経験を積んでいけば、どんな相手でも平常心を持って戦える。
「やっぱり、このパーティーで一番、役に立たないのは俺だよな。しかも、女子に負けるなんてこんなに悔しいことはないぜ」
リードはナイフを鞘に収めると、自嘲するように笑った。
「気にするなよ、リード。全てはこれからなんだから」
俺はリードに慰めるような言葉を投げかける。
「とにかく、ドラゴンが守っていた宝箱を開けてみよう。今度は何が入っているか、俺も楽しみだからな」
俺たちは部屋の一番奥にあった、宝箱に歩み寄ると、その中を開けた。すると、そこにはまたもや金、銀、宝石でできた財宝が入っていた。
しかも、前に手に入れた財宝よりも明らかに、質の良いものだと言うことが分かる。
これを全部、売れば一千万ルビィを超えるんじゃないのか。もちろん、学院にある古美術の店じゃ、そんなお金は払えない。
なので、この財宝は全てガナートス王の収める町にある店で売ることになるだろう。でも、こんなに素晴らしい財宝を買い取らせたら、その店も潰れてしまうかもしれないな。
俺は何だか家でも建てたい気分になりながら、眩い光を放つ財宝を見た。
《第四章⑤ 終了》




