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第四章 魔剣に取り込まれし者④

 第四章 魔剣に取り込まれし者④

 

 俺たちは運んできた財宝と共に学院に戻ってくる。

 

 それから、東館で古美術を扱っている店に、金でできたネックレスや指輪、アクセサリーなどを売った。

 

 すると、すぐに百万ルビィ以上のお金が手に入る。

 

 これで一本、五十万ルビィの七十年物のワインが買えるし、豪華な料理を買い込んでもお釣りが来るな。

 

 それに持ち帰った財宝はまだまだいっぱいあるのだ。残っている財宝は町で売った方が高値が付くかもしれない。

 

 俺はさっそく七十年物のワインを買うと、リードとジャハナッグとポーカーをしながら夕方になるのを待つ。

 

 今日の夕方の六時にホームを手に入れたことを記念するパーティーを開くことになっているのだ。

 

 俺は六時、近くになるとテイクアウトができる料理をどっさり買って、【アビシニアン】のホームの部室へとやって来た。

 

 そして、足を踏み入れた部室は殺風景な雰囲気は跡形もなく消え失せ、すっかり様変わりしていた。

 

 部室の中央には二台のテーブルが置かれ、横手には二段ベッドがある。

 

 三人は座れそうな大きなソファーもあったし、皿やカップなどを収める茶箪笥なども置かれていた。

 

 窓の横には俺が買った大きな本棚もあるし。

 

 他にも一週間は設置に時間がかかると思われた焜炉も部室の隅にあったし、壁には時計が取り付けられ、ベッドの傍には全身を映せるような鏡もある。

 

 そんな部室はどこか女の子の部屋のような雰囲気を漂わせていた。でも、男の俺にとっても悪い雰囲気ではない。

 

 俺は料理をテーブルに並べ、ワイングラスなども用意する。それから、まだ姿の見えないセティたちが来るのを待った。

 

 そして、六時ピッタリになるとセティとカロリーヌ、イルザが揃ってやって来た。三人とも、食べる物を手にしている。

 

「みんなも色々と買ってきてくれたみたいだな」


 俺はセティたちが手にしている袋を見ながら言った。


「当たり前でしょ。ディンが一本、数十万ルビィもするワインを買ってきてくれるって言うんだから、こっちも負けてられないわよ」


 セティもそのために俺がミノタウロス・ロードと死闘を演じたことは知らないだろう。


「そうだよ。私も家庭科室でクッキーやマフィンを焼いてきたんだからね。お菓子がワインに合うかどうかは分からないけど」


 カロリーヌが袋を持ち上げるとたちまちバターの良い匂いが漂ってきた。


「私はちゃんとワインとの相性を考えて料理を選んで買ってきたぞ。このスペアリブなら、ワインの味を最高に引き立たせてくれる」


 イルザが自信を持って言うんだから、間違いはないだろう。


「俺とジャハナッグは自分の好きな物を買っちまったな。大体、俺はワインよりも葡萄ジュースの方が好きなんだ」


 リードは身も蓋もないような言葉を口にする。ま、変な見栄を張らずに、こういう素朴な意見を口にできるのがリードの良いところだが。


「子供だからよ」


 リードはヘッと笑った。


「私もワインの味が分かるとは言えないかな。だから、一応、オレンジジュースなんかも持って来たんだけど」


 カロリーヌはオレンジジュースが入った大きなボトルをテーブルの上に置いた。


「そいつはありがたいぜ」


 リードは目をキラキラと輝かせた。


「やっぱり、子供は背伸びしてまで酒を飲む必要はないって。自分が旨いと思うものを素直に食べたり飲んだりすれば良いんだ」


 リードは子供の特権のような持論を口にする。


 ま、子供にとってはその言葉が正解だな。でも、大人になると、もう少し違う形で食べ物の味を楽しめるようになる。

 

「でも、大人になっても酒の味が分からないようじゃ、人生を損するとことになるぞ。ま、俺もワインは好きだが、一番、飲むのはやっぱりウイスキーだ」


 ジャハナッグが豪快にウイスキーのボトルに口を付けるところが俺の目に浮かぶ。


「あれこそ、まさに酒の中の酒だ」


 ウイスキーは俺も一度しか飲んだことがないんだよな。その時は、子供のくせに酒を飲むなと母さんにこっぴどく叱られたけど。


「ウイスキーも悪くはないな。だが、それでもパーティーと来ればやっぱり王道の赤ワインに勝る酒はないだろう」


 イルザの言葉はどこまでも自信に満ち溢れている。イルザはどうやって酒の味を覚えたんだろうな。


「俺も一応、スパークリング・ワインも買ってきたんだ。赤ワインが口に合わないって言うなら、こっちを飲んで欲しい」


 年代物が必ずしも美味しいとは限らないのがワインという飲み物だ。だから、当たり外れのないスパークリング・ワインも買っておいた。


「スパークリング・ワインなら私でも美味しく飲めるかな。私もシャンパンなんかはけっこう好きだし」


 カロリーヌの言う通り、シャンパンもスパークリング・ワインの一つだ。


「ま、とりあえず食べ物を全部、並べてしまおう。記念のためのパーティーなんだし、俺も乾杯の音頭を取ってから食べ始めたい」


 俺は話が長くなりそうだったので、そう言った。


「そうだな。買ってきた料理が冷たくなっちまわない内に、とっとと並べようぜ。ディンもワインのコルクを抜いてくれよ」


 リードが急かしてきた。


「ああ」


 俺は手が滑らないように慎重にワインボトルのコルクを抜く。それから、既にテーブルに人数分、並べて置いたワイングラスにワインを注いだ。


 そして、みんなが席に着くと、俺はグラスを高く掲げて乾杯と言った。みんなも声を揃えて乾杯と言ってくれたし、これには俺も心が高揚するものを感じた。


「みんな。七十年物のワインの味はどうかな。俺は舌が痺れそうになるような旨味を感じたんだけど」


 ワインを口に含み、舌の上で転がした俺はみんなにそう尋ねる。


 ちなみに俺にワインの本当の味を教えてくれたのはハンスだ。なので、俺もこの場にハンスがいてくれれば良いのにと思った。

 

「文句のない味だ」


 真っ先に口を開いたのはイルザだ。


「ワインはただ味を楽しむのではなく、作られた年代も楽しむ物だと言うが、このワインはどちらも合格点を叩き出している」


 こんなことがはっきりと言えるイルザは相当なワイン通だ。


「アタシも本当に美味しいと思うわ」


 次にそう言ったのは意外にもセティだった。

 

「アタシの家って実はお金持ちだから、家でパーティーとか開かれた時にはワインとかけっこう飲まされてたのよね」


 それは初耳だ。まあ、セティは服装などに頓着しなければ、血筋の良さを感じさせる女の子だからな。


「だから、その時に出されたワインより、今、飲んだワインの方が明らかに味が良いのが分かるわ」


 セティの飾らない言葉は真っ直ぐに俺の心に伝わった。


「私はやっぱりシャンパンの方が好きかな。あっちの方がジュースに近い感じで飲むことができるから」


 カロリーヌは何とも曖昧な表情でそう言った。セティと違い、カロリーヌは庶民の女の子だと言い切れる。


「はっきり言って、俺は酒の味は良く分からない人間だ。でも、このワインは素人でも分かるような、味の深みを感じたよ」


 リードの言葉も嘘ではないだろう。深みがあるとい感想は、俺も同じだったからな。


「俺の言いたいことは、大体、みんなに言われちまったな。まあ、本当に旨いワインだと思うよ、実際」


 ジャハナッグはワインの香りを楽しんでいるのか、グラスを揺らして薄く目を閉じていた。


「そうか。そういう反応を返してくれると、俺も高いお金を出して、このワインを買った甲斐があったって思えるよ」


 俺もお金を惜しんで安いワインを買わなくて良かったと思える。特にイルザはワインにうるさいし、安物を出したら俺の器が疑われていた。


「ま、とにかく食べよう。ここにある料理は残されても困るからな」


 俺がそう言うと、リードが腕をぐるりと回した。


「よっしゃ、今日はバリバリ食うぜ。肉やソーセージはわざわざ高いやつを選んで買ってきたからな。食い切らなきゃ損だ」


 リードは太くて大きい粗挽きのソーセージに齧り付いた。その瞬間、肉汁が飛び散る。


「心配するな。このジャハナッグ様がいるんだから、ここにある料理が残ることはない。もちろん酒も」


 ジャハナッグは胃袋が異次元にでも繋がっていると思うくらい、物が食べれるのだ。


「っていうか、何でジャハナッグがここにいるのよ。あんたは【アビシニアン】のメンバーじゃないでしょうが」


 セティは不満げな顔でその事実を指摘した。


「そう固いことを言うなよ。このパーティーが結成できたのも俺の助言があったからこそなんだから」


 ジャハナッグはにんまりと笑うと言葉を続ける。


「だよな、ディン」


 俺に同意を求められても困るんだが。


「ああ。俺とセティたちの出会いを紡いでくれたのは間違いなくジャハナッグだ。だから、みなもあんまり邪険にしないでやってくれ」


 まあ、俺の言ったことに間違いはないので、後ろ暗さのようなものはなかった。


 実際、ジャハナッグの助言は、様々な面で俺を的確に動かしてくれたからな。今後もそれが続くようなら、食べ物にかけたお金などすぐに元が取れるだろう

 

「やっぱり、ディンは分かっているよな。さすがワインの味が分かる男だし、俺も感心しちまったぜ」


 ジャハナッグはワインをスーッと口の中に注ぎ込むとまた笑った。


「なら、アタシも何も言わないわよ。でも、アタシが買ってきたラムチョップを全部、食べたら怒るからね」


 セティは目を吊り上げながら言った。


「分かってるよ。俺が食べたいのは、ローストビーフだからな。今日のローストビーフはまた見事なロゼ色なんだ」


 このローストビーフは俺が買ったんだけど、これがまた高かった。


「なら、そのローストビーフは私も頂こう。ワインの味をノンビリ楽しんでいたら、食べたい物がなくなりそうだからな」


 イルザは肉食獣に見えるような目をしながら言葉を続ける。


「それに今回のパーティーは畏まるようなものじゃない。なら、私も遠慮なくガツガツと食べさせて貰うから、みんなも覚悟してくれよ」


 そう言いつつも、イルザはテーブルマナーを忘れない。

 

 それから、俺たちはテーブルに並べられた料理を食べながら世間話に花を咲かせる。本当に心が和むような時間が続いた。

 

「財宝なんて手に入れてたんだ」


 リードの話を聞いたセティは、俺の目を伺うように見る。財宝の話は余り持ち出して欲しくなかったんだが。


「アタシも宝箱に入った財宝は見てみたかったわね。まあ、ミノタウロス・ロードと戦うのはマジ勘弁だったけど」


 セティならそう言うと思っていたが、もし、俺が一緒に戦ってくれと頼んでいたら、きっと応じてくれていたことだろう。


「俺は財宝を売ったお金で、みんなの装備を買い替えたいと思うんだ。次の相手はドラゴンにしたいし、その時はみんなも一緒に戦って欲しい」


 俺の言葉に、みんなはそれぞれ違う反応をした。


「ドラゴンは今のアタシたちじゃ、ちょっと荷が勝ちすぎてるんじゃないの。ドラゴンって炎とか平気で吐いてくるんでしょ」


 セティはソースがたっぷりとかかったラムチョップを口に運びながら言った。


「そうだよ」


 俺は真顔で答える。ドラゴンの吐く炎の怖さを、みんながどれくらい知悉しているかは分からないけど。


「大丈夫。こんなこともあろうかと思って、私、アムネイアス様の元でブレス系の攻撃を防ぐ魔法を教えて貰ったから」


 カロリーヌもこの三日間は、遊んでいたわけじゃないってことか。


「そいつは助かるよ」


 てっきり、俺が頼まなきゃ魔法の習得はしてくれないものだと思っていた。


「私、攻撃魔法ばっかり覚えてたから、補助系の魔法もちゃんと覚えておかなきゃ、って思ったんだ」


 その言葉を聞くにカロリーヌの向上心も確実に高まっているようだな。浮かべている表情も内面の変化を感じさせられるし。

 

「アムネイアス仕込みの魔法なら、ドラゴンが吐いてくる炎は問題ないな。となれば、次はドラゴンの鱗を切り裂ける武器が必要になる」


 平静さを崩さないイルザは大きな肉の塊を手品のようにナイフで切り分けていく。


「分かってる。だからこそ、みんなの武器をアダマンタイト製の物に代えるつもりだ。そうすれば、ドラゴンにも対抗できる」


 俺はそう断言した。


「もちろん、そのお金は俺が出させて貰う」


 アダマンタイト製の武器は安くはないからな。でも、手に入れた財宝を惜しまず売れば何とかなるだろう。


「それは願ったり叶ったりだ」


 イルザは見惚れるような上品さで、スペアリブの肉を口に運びながら言葉を続ける。


「私のバスターソードもだいぶ痛んできたし、アダマンタイト製の物にしてくれれば、折れる心配をせずにモンスターの肉を叩き切れる」


 新しい剣を手にした、イルザはきっと欠かすことのできない戦力になってくれるだろう。


「それもそうね。アタシの細剣は常に折れる不安と隣り合わせだから、アダマンタイト製にして貰うと安心できるし」


 セティは頬に突いたラムチョップのソースを用意してあったナプキンで拭き取る。


「私の鞭は無理やりアダマンタイト製に変えて貰う必要はないかな。今のところ、壊れる心配はないし、手にも良く馴染んでるから」


 カロリーヌがそう言うなら、鞭は変えないことにしよう。使い込んだ武器の方が、力を発揮してくれることは良くあるし。


「俺のナイフはアダマンタイト製にして貰っても、あんまり活躍できないと思うぜ。どんなに丈夫になっても、所詮はナイフからな。その攻撃力はたかがしれてる」


 リードは口に肉を詰め込みながら言葉を続ける。


「やっぱり、みんなのお荷物にならないためにも、好き嫌いを言わずに肉の切り分けと、地図の作成は覚えなきゃならないな」


 リードはフーッと息を吐きながら言った。


「そうしてくれると助かるよ。ま、パーティーを機能させる上で大切なのは、それぞれの役割に徹することだと思う」


 俺は今までの経験を反芻しながら言葉を続ける。


「何でもできるようになろうとすると、結局、途中で挫折してしまうものさ」


 そう言うと、俺は芳醇な香りを放つ、ワインを口の中に流し込んだ。


「さすがリーダーだな。ま、俺はディンを信じてどこまでもついて行くだけだ。その結果、死んだとしても恨みはせんよ」


 そう、どこまで本気か分からないことを言うと、リードはシャンパンを溢れるくらいグラスに注ぎ込む。


 その後、俺たちは気が済むまで料理を食べると、酒の酔いを感じさせるような顔で夜遅くまで歓談した。


《第四章④ 終了》



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